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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部13章『大宇宙はどこまでも広がっているから』ペルセウス腕-胎動の宇宙
385/473

#9

>>Alyssa


 再会したヒナが申し訳なさそうに伝えてきた出頭命令。

 おそらく……いえ、このタイミングで命令という強い言葉をわざわざ使ったということはメラニーは確実に放浪機とスターゲートの一件を把握していますね。

 なんとか婉曲な表現で件の出来事を報告し、大事にならないようにしようと画策していたところでしたが、先手を打たれたようです。私は状況を正確に把握するためヒナに確認を行います。


「ヒナ、その出頭命令は私とアイリスさんだけが対象ですか?」

「はい。トワ様達の事は特に何も……」


 なら、メラニーは意図的にトワ様とマリエッタを出頭命令から外している可能性があります。

 この状況から考えればおそらく出頭した時点で私とアイリスさんの責任問題が発生する可能性が高いと考えた方が良いでしょう。場合によっては拘留されることも視野に入れておいた方がいいかもしれません。


 そうなると……これまでにもアルカンシェルと共に単独活動されていたトワ様はともかく、未成年で後ろ盾もないマリエッタを一人で放り出すわけにもいきません。

 私は少し思案した後、アイリスさんに耳打ちしました。


「アイリスさん、トワ様とマリエッタの件ですが」

「うん。私達は捕まる可能性あるよね。トワとマリエッタの安全を確保しておきたい」

「はい。トワ様は独立したシンガーですからアルカンシェルに乗っていれば問題ありませんが、マリエッタはアイリスさんの専属秘書官である以上は長期の単独行動は立場上難しいでしょう。しかし私達が彼女を帯同していると共同正犯として扱われる可能性があります」

「……可能性は否定できないね。じゃあヒナは?」

「ヒナは特命監察官ですから、トワ様同様独立して行動することが可能です。なので……マリエッタをヒナの補佐として、当面の間ヒナに同行させるというのはどうですか?」

「私達から一時的に距離を取らせるって事だね。ベストな方法じゃないけど、不測の事態を考えると……それしかない、か」


 アイリスさんの合意も得られたので、私はヒナとマリエッタに向き直って言いました。


「マリエッタ、私達がオラクルへ出向いている間にあなたは『宿題』を片づけてきてくれますか?」

「宿題、ですか……?えっと……もしかしてっ、孤児院(ホーム)の件、ですよねっ?」


 さすがマリエッタ、状況把握が早くて助かります。私が彼女に課す宿題とは、マリエッタがかつて保護されていた孤児院における児童の搾取問題について。

 子供をモノ扱いした上に本来負担する必要の無い奨学金を背負わせるという悪どい孤児院院長の断罪です。案件的にはまだ未成年であるマリエッタ独りでは少し荷が重いのですが……。


「ヒナ。この一件、監察権の行使が必要になると私は考えています。貴女には私の秘書官として、そして特命監察官として、マリエッタの力になることを求めます」

「はい……でも、アリサ様、一つだけいいですか?」

「なんですか?」

「ワタシ、移動はオンブルなのですが……単座なのでマリエッタちゃんを乗せて移動できません。それにオンブルを置いて普通の船で移動するのも、機密保護の観点から難しいかと……」


 ヒナの懸念はもっともです。ヒナが超光速航艇を与えられた特命監察官であるということは、彼女は即応性が求められる案件を担当するケースが多くなるのでしょう。

 そんなヒナに普通の亜光速船でちんたら移動するという選択肢はないでしょうし、オンブルは1人乗りですからマリエッタは同乗できません。ですが私達には切り札があります。

 ヒナの言葉にアイリスさんが少し悪い笑顔を浮かべて言いました。


「ヒナ、それは心配いらないよ。マリエッタ?『宿題』の間、リュミエールはあなたに任せておくから、ブリギッタと一緒に行っておいで」

「はいっ、ありがとうございますっ!」

「リュミエール……?」


 耳慣れない言葉に小首をかしげているヒナに、私はアルカンシェルの船首にドッキングしている白い小型艇を指さしました。ヒナはその時初めてアルカンシェルの船首に小型艇がある事に気付き……そしてその形状に目を見張りました。


「白い、オンブル!?」

「ヒナ、それは正しくありません。貴女が乗っているものが……黒いリュミエールなのですよ」


 ええ、オリジナルは白く美しいリュミエールの方で――ヒナには悪いですが――黒くて邪悪なオンブルはあくまでもモンキーモデルのデッドコピーです。

 そこは間違いのないように伝えておかないといけませんからね。


「いや、どっちでもいいけどさ。ともかく、マリエッタにもヒナとほぼ同じ性能の超光速艇があるんだよ。だから……私の『娘』を任せてもいい?」

「ええ、それなら……」

「ヒナさん、よろしくお願いしますっ!」

「秘書コンビ結成?」

「……ですね」


 状況は不透明ですが、トワ様の言葉に私は少しだけ明るい兆しを感じました。


 その後、マリエッタが当面必要とする私物と、トワ様がリュックラセで購入してきたフルーツ豆乳のパックをリュミエールに積み替え、私達はヒナとマリエッタを送りだしました。

 白黒で色違いながら同型の小型艇二艘が仲良くダンディライアンを離れて行く姿を見送った私の胸中に一抹の寂しさがよぎります。


「マリエッタがいないとアルカンシェルの中が少し寂しくなりますね」

「すぐに帰ってくるよ。荷物だって殆どアルカンシェルの私室に置いたままだしね」


 アイリスさんとそんな事を言い合いながら、私達もアルカンシェルに乗ってオラクルへと向かうことになりました。



 オラクル近傍へ到着した私達は一計を案じました。出頭命令が出ているのは私とアイリスさんだけですから、アルカンシェルとトワ様にはオラクルから少し離れた宙域で待機して頂き、私とアイリスさんだけがブリーズで向かうことにしたのです。

 メラニーが何を考えているかわからない以上、アルカンシェルとトワ様をメラニーの近くへ置くのは不安要素にしかなりませんからね。


「アリサ、捕まるの?」

「大丈夫ですよ、トワ様。私達は何も悪い事はしていませんから」

「局長にとって都合の悪いことならしてるけどね」

「大丈夫?」


 私はトワ様の不安を和らげようとしたのですが、アイリスさんの茶々でそれも無駄になってしまいまし

 。まぁメラニーが立腹していることは間違い無いでしょう。彼女が隠したかったであろう出来事を私達が目の当たりにした訳ですから。

 ただそれはあくまでもメラニーにとって都合の悪いことであって、ギルド憲章に定められた何らかの法に違反しているものではありません。

 ですから……メラニーの側もあまり強固な処分は行えないのではないかと私は考えています。


 理由は簡単。

 不合理な処分が行われた場合、私達はギルド法廷に不服を申し立てる事が出来るからです。不服の申し立てには、処分内容と不服の詳細を明らかにする必要があります。

 それはつまり、メラニーが隠したいであろう事柄が衆目に晒される事になる訳ですから、あのメラニーがその程度のことを予想していないとも思いません。

 ですから、おそらくは……私達が不服の申し立てをしないギリギリの線で攻めてくるのではないでようか。


「アリサ、そろそろブリーズを発進させようか」

「……わかりました。サクヤ、アルカンシェル。トワ様の事を頼みますよ」

『まっかせてー』


[Yes, Lady.]


 私の言葉にサクヤとアルカンシェルが応えます。まぁこのふたり(・・・)が付いていれば滅多なことにはならないでしょう。そんな私達のやり取りを見ていたトワ様が口を開かれました。


「アイリス、アリサ。お土産、待ってるから」

「はいはい。何がいい?」

「なんでもいい」

「わかったよ」

「私も、賜りました」


 トワ様は本当にお土産が欲しいわけではなく……私達に無事に帰ってきて欲しいと言ってくださっているのでしょう。

 ご自身が不安に思っている事を伝えると、私達が心配すると思って、あえてそう言う言い方をされている。

 そう思いました。


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