#7
>>Iris
ナミの「静養」も終わり、私達はリュックラセを離れることにした。旅立ちにあたり、私はギルド支部に立ち寄りプローブからのデータ観測の引き継ぎを依頼した。
ただ、詳しい状況は説明せず、何かデータに異常が出たらオラクル経由で私達に伝達して欲しいとだけ伝えて。まさかスターゲートの彼方から生命を抹殺することを目的とした敵が出てくるかもしれないなんて事は口が裂けても言えないし、仮に言ったとしても信じて貰えないからね。
依頼した監視期間はプローブのエネルギーが切れるであろう3年後まで。本来プローブ単体ならもっと長持ちするらしいんだけど、長距離のデータリレーをさせているせいでエネルギーの消耗が激しいとマリエッタが言ってたっけ。
監視対象は動体反応と重力波……つまり、放浪機の出現とブラックホールの復活に関するものに絞っておいた。
私達が監視していた半月間、まったくデータに変動は見られなかったからブラックホールが再発生する可能性は無いとは思う。
だから本当に念には念を入れての処置だけど……。私がアルカンシェルのブリッジでそんな事を考えているとトワが声を掛けてきた。
「アイリス、行こう」
「わかった、アルカンシェル、FTL航法起動。目標ダンディライアン」
『ちょっと!アーちゃんに言うんじゃ無くてアタシに言ってよね!?』
「いや、サクヤ口答えするし、生意気だし。アルカンシェルの方が素直で可愛いし」
『なにそれ!アンタのほうがよっぽど可愛くないよ!このチンチクリン!』
ヨモツヒラサカからの撤退戦でサクヤとは一時的に和解できたけど、平時に戻るとこんな感じだ。
まぁ、サクヤは憎まれ口を叩きながらも仕事はちゃんとするみたいだけどね。
「サクヤ。アイリスは可愛い。そして美人」
『マスター!アタシ、アタシは!?』
「サクヤも美人?」
『今、疑問形だったよね!?』
そんな賑やかな空気のまま、私達は――恐怖と絶望を嫌という程感じさせられた、辺境星域を後にした。
ダンディライアンへ到着した私達――いやナミは、モルガン達機族から崇拝に近い熱烈な歓迎を受けた。
なんでもこの星域にいる機族達の直接の産みの親はナミではなく、別のリューヌらしいけど、それでも長い間音沙汰のしれなかったリューヌの訪問に機族達は歓喜しているのだとか。
「ナミ、叔母さん?」
「こやつらはアリア……アリアンロッドの子らじゃな。なら妾は伯母にあたると言っても良いじゃろ」
言葉の響き的にトワが言ってる「叔母」とナミが言う「伯母」は少し違うように聞こえたけど、どちらにせよナミ――聞くところによるとナミというのは愛称で、本名はイザナミと言うらしい――はモルガン達にとって「母の姉妹」と認識される存在なのだそうだ。
ナミとしても姉妹が「産んだ」子であるモルガン達に対する慈愛の心は強いようで、タケハヤの輪廻が終わった後もしばらくはダンディライアンへ滞在し、機族達の魂を延命、再生するメンテナンスを行うと言っていた。
「じゃあ、ここでお別れかな?」
「うむ。世話になったな」
「私達は何もしてないよ。それに、色んな事を教えて貰ったから、私達の方がお礼を言わないといけないぐらいだよ」
「なら、お互い様ということじゃな」
「ナミ、また会える?」
「うむ。セレスティエルは引かれあう定めじゃ。そう遠くない未来にまた相まみえようぞ」
私とトワはそう言ってナミと別れの挨拶を交わした。
アリサは軽く微笑んで、ただ一言「いつかまた、大宇宙のどこかで」と告げた。
おそらくその言葉は……今生の別れではなく、本当に再会することを確信した言葉だったんだと思う。なにせ私達の寿命は長いからね。そしてマリエッタは……。
「ナミさんっ!また機族の人のお話聞かせて欲しいですっ!私の連絡先、これなんでっ!」
「うむ、また技術談義で盛り上がろうぞ。壮健でな、マリエッタ」
再会がどうとか言う以前に普通に連絡先交換してるね。まぁマリエッタとナミは機族やドローンの話題を通じて互いにリスペクトし合っているらしいし、そういう関係もありなんだと思う。
ただ、普通の人間であるマリエッタの寿命は私達と比べると短い。だから、マリエッタがナミと再会できるかどうかは……いや、それは今考えるべき事じゃないね。
早速ダンディライアンの機族達の状況確認に取りかかるというナミと別れた私達は、アルカンシェルを停泊していたドックへと帰還した。
今回は特に改修作業を依頼している訳じゃないから、このままダンディライアンを離れて……と思ったのだけど。
アルカンシェルの搭乗口の前に誰かが立っているのが目に入った。
褐色の肌をしたエキゾチックな美人。年の頃なら17、8歳……っていうか、あれミラジュミナで出会ったギルド職員のヒナだよね?
どうしてあの子がこんな所に?私が不審に思っていると、ヒナの方もアルカンシェルに近づいていた私達に気が付いたようだ。
それまで少し難しい表情をしていたヒナだったけど、私達――主にアリサ――を見て、表情が一気に明るくなった。
「アリサ様っ!」
「……えっ?」
「あのっ、お忘れかもしれませんが、ワタシ、ミラジュミナでお世話になったヒナ、ヒナ・カイラニです!」
アリサが一瞬怪訝げな表情を浮かべたことでヒナはアリサが自分の事を忘れていると思ったのか、姿勢を正して自己紹介をしだした。
いや、ヒナの感覚だと私達の出会いは随分と前なのかもしれないけど、私達にとってはせいぜい2・3ヶ月前の事だからね。記憶力の良いアリサが忘れているはずはないんだけど。
「いえ、貴女がヒナなのはもちろん判っていますが、どうしてここへ?正式な監察官にはなれたのですか?」
「監察官?アリサ、どういうこと?」
私の疑問にアリサが答えたところによると、なんでもミラジュミナでのギルド支部の不正を追求するためにアリサはヒナに監察官補の身分を与えていたそうだ。
そして支部長達の不正を暴いた後、ヒナは正規の監察官になるために研修施設のある支部へ向かっていた所まではアリサが把握していたそうだけど……。
「はいっ、ちゃんと研修を受けました!最終試験も合格判定頂いて、今は1人前の監察官です!それで、アリサ様が監察記録をご所望だと聞いたのでワタシが直接お届けに上がりました!」
そう言うとヒナはアリサに書類を差し出した。
監察記録というのは……たしかカルデクスで支部長代理が断罪されたという話をトワがしてたので、それにまつわる顛末だろうか?
しかし、記録を直接持参したということは……この子もしかして。
書類を確認しているアリサの横で、まるで課題を確認されている生徒のように緊張した面持ちで待機しているヒナに私は声を掛けた。
「ね、ヒナ?もしかしてあなた……特命監察官なの?」
「はい、そうです」
にっこり微笑むヒナ。アリサがダンディライアンにいる事を知った上で待っていたから、おそらくそうではないかと思ったけど。
やはり彼女は超光速艇オンブルを支給された特命監察官の1人なのか。ミラジュミナで出会った時のヒナはギルドの使いっ走りをさせられながら、同時にギルド支部の不正を暴く内部通報者という役割をこなしていた。
ある程度は有能なんだろうとは思っていたけど、どうやら私の想像以上に優秀だったみたいだね。




