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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部13章『大宇宙はどこまでも広がっているから』ペルセウス腕-胎動の宇宙
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#6

 その夜、ナミが私達――と言うより、主に私に話があるといって全員をラウンジへ呼び集めた。

 そこでナミが話したのはペルセウス腕(こちら)オリオン腕(向こう)のC3の違いについてだった。


 私達にとってC3はモノトーンの水晶であり、歌う事で色を与える事が出来るというのが常識だったけど、ナミにとってのC3とは虹色で不変の存在なのだとか。

 アイリスが補足してくれたところによると、私達の使っているC3は天然のもので、ナミの言う虹水晶は人造のものらしい。

 どうりで私が全ての色を混合(ブレンド)しても虹色にならなかったはずだ。


「それで、じゃ。元々エトワールはC3を調律するために産み出されたのじゃが……その前にセレスティエルについてのおさらいをしておいた方がよいかの?」

「うん。ナミの事も知りたい」

「妾個人の話ではないぞ?セレスティエルという種についての話じゃ」


 そう前置きしてナミはセレスティエルに与えられた役割について語ってくれた。


 最初に産み出されたのは『勇気』を司るセレスティエルであるソレイユ(太陽)

 ソレイユは男性型のセレスティエルで、放浪機の侵食を受けない物質であるC3――私達の知っている黒水晶(輝彩水晶核)ではなく虹水晶(複合認知回路)――を生成する能力を持っているらしい。

 エレメントの副次効果として戦闘指揮能力が高いから、人類軍では指揮を担っていたそうだ。


 次に産み出されたのは『生命』を司る、ナミ達リューヌ()

 C3は物質としては放浪機に守られていたけど、そのままでは弾頭ぐらいにしか使えなかったらしい。そんなC3が大量の情報を蓄積できることに気付いた人類は、そこに擬似的な「魂」を宿すことで、機族を放浪機から守る手立てとする事を思いついたんだそうだ。


 そして、その魂を産み出すのがリューヌの役割。神産みの神というのはナミ個人の二つ名ではなく、リューヌという種全員に対する称号だったらしい。

 ソレイユ、そしてリューヌは千人単位で産み出され、結果として両者が総力を結集したことで人類は第二世代の機族という対放浪機用の軍隊を確保することができたとナミは言った。


 そして最後にC3をより汎用的な用途で使えるように調整する能力を持たせたセレスティエルの開発が行われることになった。


 様々なエレメントからセレスティエルが産み出されたけど、どのセレスティエルもC3を自在に扱うことは出来なかったらしい。

 そんな中、偶然にも『歌』のエレメントがC3に反応することがわかり、産み出されたのがエトワール……つまり、私達だったそうだ。

 何でも人心が乱れた戦時下では『歌』のエレメントの抽出は困難らしくて、ナミが知る限りではエトワールは全部で34人しか産み出されなかったそうだ。


 エトワールを得た人類はC3の活用方法を研究し始めたけど戦局は悪化の一途を辿り、ソレイユ達を中心とした軍部が汎用な技術革新よりも決戦兵器の開発を優先するよう求めたそうだ。そして……その拙速な決戦兵器開発に失敗し、貴重なエトワールは全滅したとナミは言った。


「開発失敗で全滅?それ、どういうこと?」

「ソレイユ共は小惑星サイズのC3を産み出したんじゃよ。そしてそれをエトワールに調整……主らの言葉じゃと調律か?ともあれ、そうさせようとしたのじゃ」

「それ、たぶん死ぬやつ」


 ナミの言葉に思わず私はそう口にしていた。アキラの星で大量の採掘済みC3を遭遇したときにも思ったけど、私は大量のC3に接近するだけで魂を持って行かれそうな感覚を覚えた。

 これがもし小惑星まるごとC3で、それを歌うなんて事をしたら間違い無く「全部持って行かれる」に違いない。私の言葉にアイリスもアリサも、私が調律によって消耗することを知っているから、青い顔をしていた。


「そんな訳でな、オリオン腕ではC3を使った技術は砲弾と魂の器ぐらいしか存在しておらん。じゃが……何人かのエトワールががペルセウス腕へ渡って行ったという話は聞いておった」

「でも、ペルセウス腕(こっち)にもエトワールはトワしかいないよ?それに、エトワールやセレスティエルという存在自体が知られてなかったし」

「アイリスさん、もしかしたら……シンガーの始祖がエトワールなのでは?シンガーの資質は遺伝します。エトワールの子孫が私達シンガーなら、人間にも調律が出来る理由になります」


 さらにアリサは続けた。

 シンガーが、そしておそらくその血統を保護管理しているギルドが、エトワールに源流を持っている可能性がある、と。

 もしシンガー能力が自然発生的なものならオリオン腕にもシンガーに類する存在がいる筈だけど、ナミはそんな存在は聞いたことも無いという。

 アリサの言葉はまだ仮説にすぎないけど、私達はそれが事実であるように感じた。


「この件、スゥ局長は事実を知ってるかな?」

「おそらく知っていると思います。そして、その事実を隠蔽したのもメラニー自身でしょう」

「まぁセレスティエルの存在が知れ渡ったら、何のためにセレスティエルが産み出されたのかっていう話になるだろうからね。なし崩し的に放浪機の話も出てくるから……」

「ペルセウス腕側を放浪機の脅威から切り離す意図があるなら、セレスティエルの話も、それにオリジンスターの話も隠蔽せざるを得ない、と言うことでしょうね」


 それにしても私以外のエトワールがいたなんて、考えた事もなかった。ずっと前の話だろうし、オリオン腕側の話を聞いた感じだと私の「姉妹」達はもうみんな死んでしまっているんだろうけど。

 いや、姉妹?そもそも私って34人のうちの何番目なんだろうか。ナミ、知ってるかな?

 ダメ元で聞いてみよう。


「私、何人目?」

「おそらくじゃが、年齢的にみて行方不明になっておる最後に産み出された34番目の可能性が高いの」


 私の問いにナミはそう答えた。

 なんでも産まれたばかりだった34番目のエトワールと、研究用に停滞フィールドを使って捕獲した放浪機の末端ユニットを乗せた航宙船がスターゲートを航行中に事故にあったらしい。

 船は超空間チューブを逸れて行方不明になったことまでは判明したけど、その行方はようとして知れず、事故を調査団はチューブ外の亜空間に巻き込まれて時間と空間の彼方へ漂着した可能性が高いと結論づけたそうだ。


 その話を聞いたアイリスは、結果として亜空間からはじき出された航宙船は私達の故郷の星の遠い過去へ落着したんじゃないかと言った。

 うん、34人しかいないはずのエトワールと、放浪機がセットになってるなんてそのケースしかないからね。


 パパ、私の出自って思ったよりもずっとドラマチックだったよ?

 この話を聞いたらパパはどんな顔をしたんだろうか。


 それにしても私、34人姉妹の末っ子だったのか。どうりで妹体質なわけだよ。


「いや、トワ?エトワールは姉妹って訳じゃないし、トワのお姉ちゃんは私だからね!?」

「アイリスさん、ずるいです!私だってトワ様の姉ですからね!?」

「わたしは義理の姪ですけど、妹分ですっ!」

「……賑やかな姉妹じゃな」


 ナミは呆れたような口調でそういったけど、その目は笑っていた。

 そっか、私はエトワールの「姉妹」達だけじゃなくて、今の宇宙にも姉や妹分がいる。うん、いつかミリシャに再会することがあったら自慢してやろう。

 私にはこんなにも沢山姉妹がいるんだって。


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