#5
>>Towa
アリサとナミが話していたツクヨミと魂の話は難しくて良くわからなかったけど、とにかくツクヨミが正式にアリサのものになったということは理解出来た。
アリサ、オンブルとかツクヨミとか、黒いのは全体的に嫌だと言ってた気がするけど、黒い神剣の正当後継者になって良かったんだろうか。
私がそう聞くと、アリサは少し嫌そうな顔をした。
「……ナミ、ツクヨミの色を変えられませんか?白とか、蒼とか。なんなら妥協して赤でもかまいません」
「ヒヒイロカネの色はそれが体現するものに応じて自然に決まるでな。ツクヨミが月神である以上、黒以外にはならぬ」
「うう、蒼い光の刃が恋しいです……」
さっきまで神妙な顔でツクヨミを見ていたアリサが、いつも通りジト目でツクヨミを見てる。
あれ?もしかして私、余計なこと言ったかな?いや、それより私もナミに聞きたいことがあったんだ。
「ナミ、神剣以外も作った?」
「どういう意味じゃ?」
うーん、言葉だと伝えにくいね。私はナミに少し待ってと告げて私室からローヴの剣を取ってきた。もしかしたらこれもナミが作った剣かもしれないからね。
「これ。ナミの剣?」
「ほう……これもヒヒイロカネじゃな。じゃが、これは知らぬ。どこで手に入れた?」
「ローヴに貰った」
私が口にしたローヴという名前にナミは不思議そうな顔をした。私が説明しようとしたけど、旨く伝わらない気がしたので隣に座っていたアイリスに視線で助けを求める。
「これ、トワが亜空間で迷い込んだ星で貰ってきたらしいんだけど、来歴も何もかも全く不明なんだよ。ただ失われた神話にね、トワが出会ったローヴっていう名前と、この剣のことが記されてて……」
うん、お姉ちゃんなら理路整然と説明してくれると信じてた。アイリスの話をナミは興味深げに聞いていたけど、やっぱり最後に返ってきたのは知らぬ、という答えだった。
「しかし『悖理の剣』とは、なんとも面妖な名じゃな。何を思うてこんな名を付けたのやら」
「直せる?」
「見たところこのヒヒイロカネの分子構造は根幹が崩れておる。これは満願成就の証……すなわち、このヒヒイロカネは役目を終えておる。故に修復は無理じゃな」
「残念」
剣が直せればいつかローヴに再会した時に返してあげられると思ったんだけど。神剣を作れるナミが無理だというなら、無理なんだろうな。
それにこの剣が願いを叶えたというなら、ローヴにはもう剣は必要ないって事でもあるからね。
その日の話はそれでお開きになり、次の朝。
翌朝にはこの星を発つ予定になっているので実質今日がリュックラセ滞在の最終日だ。この所ずっと衛星軌道上のアルカンシェルに籠もって機械いじりをしてたから、私もたまには地表に降りてみようと思った。
ナミは今日一日アルカンシェルで休むらしいので、私とアイリス、アリサとマリエッタでペアを組んで買い出しだ。
「アイリス、この星はダメな星」
「え?なんで急に星にダメ出ししたの!?っていうかこの星の人達に睨まれてるよ!?リュックラセは歴史のある立派な星だからね!?」
「だってフルーツ牛乳売ってない」
確かこの前ここへ来たときにもフルーツ牛乳が売ってないことが判って、マリエッタが近くの星へ回出しに行ってくれたんだよね。
歴史のある惑星なのに畜産業が発展してないのはちょっと問題があるんじゃないかな。私たちがそんなやりとりをしていると、その言葉が聞こえたのか近くの建物から人相の悪い男が出てきて私たちの前に立ちはだかった。
「おう嬢ちゃん、その言葉聞き捨てならねぇな!」
「なに?」
「牛乳がないからこの星がダメだって?その台詞、俺が後悔させてやるぜぇ?」
なんだろう、これ。地元のチンピラに絡まれる展開なんだろうか。
周りにいた街の人達も何事かと思って私たちの方を見ているけど、興味津々という様子でどこかへ通報したり、チンピラを静止しようとする人もいない。
私が周囲の様子を観察しながらそんな事を考えていると、アイリスが私と男の間に立ちふさがった。
「この子が言ったことは確かにこの惑星の方々に対して失礼でした。非礼を詫びます。ですが、危害を加えるというのであれば……」
「んん?誰が危害を加えるっていったよ。俺は牛乳がないからダメっていう嬢ちゃんの言葉を後悔させてやるって言っただけだぜぇ?ほら、こいつを試飲して後悔しな!」
男はそういうと私たちに紙パックを二つ差し出してきた。
「なに、これ」
「そいつはこのリュックラセで愛飲されてるフルーツ豆乳だぜ!牛乳よりコクがあってヘルシー!しかも乳製品よりも長持ちするって代物さっ!」
「おじさん、誰?」
「俺か?俺はそこの食料品店のオーナーでマルキっていう者さ!」
チンピラかと思ったけど、人相が悪いただの善良な商店主らしい。どうりで周りの人達が平然としてた訳だ。
近くにいた通りすがりのおばさんも笑顔で頷いている所を見ると、たぶんおかしなものではなくて、本当に美味しいんだろう。
マルキさんが言うには豆乳というのは大豆を水で煮てから絞って得られる植物性のミルクの事らしい。
植物が牛乳になるというのは想像がつかなかったけど、とにかく飲めば判ると言われたので私は勧められるままフルーツ豆乳を試飲する。
……なんだろう、これ。牛乳とは違ったコクがあって味わい深い。風味は少し牛乳と違うけど、でも美味しい。
マルキさんが言うには未開封のパックだと瓶牛乳よりも保存が利くらしいし、これはありなんじゃないだろうか。
アイリスも試飲して頷いている。
「アイリス、これ買って帰ろう」
「保存期間は……常温で1年?いいじゃない、これ。でも、トワ?発注の前に先にマルキさんに言う事があるよね?」
「うん。さっきの発言、後悔した」
「あはははっ、面白いな、嬢ちゃん!」
人相は悪いけと良い人のようだね、マルキさん。でも私は豆乳の仕入れをするために彼の店へ入ってさらに後悔した。
豆乳の種類が多すぎて、どれを買ったらいいのか選ぶに苦労したから。
どうしてフレーバー豆乳が40種類以上あるんだろう。こんなに数が多いと試飲して決める事もできやしないじゃない。
結局私はマルキさんに聞いた人気上位のものを幾つかと、あえて一番不人気だというカレー豆乳を選ぶことにした。
「カレー豆乳って……それ、トワが責任もって全部飲むんだよね?」
「アイリスも飲んで。健康カレー」
「想像しただけで胸焼けしてきたよ……」
その後、私たちはついでなのでマルキさんの店で他の食料品もまとめて仕入れる事にした。
マルキさんの店は惑星の人向けで航宙船用の保存食なんかは取り扱ってなかったけど、アルカンシェルなら普通の生鮮食品でも問題無いからね。
購入した食料は軌道エレベーターへ運んで航宙船へ積んで欲しいと伝えるとマルキさんは不思議そうな顔をしたけど、私がギルドのシンガーだと名乗ると納得したのかそれ以上は何も聞いてこなかった。
「アイリス、シンガーって変な人だと思われてる?」
「変というか得体がしれないとか、下手に口答えすると面倒とか思われてる可能性は否定できないかな?」
「解せない。私はこんなに普通なのに」
「いや、トワはいろんな意味で規格外だよね?でも、シンガーのイメージ改善とかも検討した方が良いのかな」
「親しみやすいシンガー。頼られるシンガー」
「まるで選挙にでも出るみたいじゃない、それ」
そんな事を言いながら、私たちはアルカンシェルへと戻った。




