#3
>>Alyssa
アイリスさんがナミのリハビリ……と称した観光にお目付役として付き添うことになったので、私とトワ様、マリエッタは別行動ということになりました。
地表に降りていても良かったのですが、トワ様とマリエッタがそれぞれの作業をしたいとの事でしたので、2人に付き合って私もアルカンシェルへ戻る事になりました。
トワ様は私室で何やら機械いじりをしておられますが、マリエッタは時折出かけてはブリギッタの改修用パーツを仕入れ来ているようです。
私は特に行きたい所も買いたいものも無かったのでギルドネットで情報収集を行うことにしました。6年間の不在でギルドや惑星間の情勢が変わっている可能性があると思ったからです。
ギルドの体制には変化なし。相変わらずメラニーが君臨しているようです。
ただオンブルの配備がギルド外にも正式に告知さているようで、各所で夢の超光速船が誕生したと話題になっていたようでした。
もっともオンブルの建造コストは相変わらず馬鹿高いらしく、ギルドの財力を持ってしても量産とは名ばかりの少数配備しか実現できていないようで、メラニーが言っていたように特命監察官に限定して配備運用が開始されているレベルだとか。
これまでは亜光速航行によるタイムラグで見過ごしてしまっていた不正も多かったですから、単座とは言え超光速艇があれば迅速に悪事や不正に対応できるのは格段の進歩と言えるでしょう。
次に確認した私の故郷であるペレジスの動向については……特に問題なしで、個人的に連絡を取ったテレジアも壮健だそうです。
ただテレジア曰く、私が不在で目を光らせるものがいなくなったせいか裏社会の連中が良からぬ事を企み始めたとかなんとか……機会を見て、1度ペレジスへ戻った方が良いのかもしれませんね。
私がそんなことを考えていると、トワ様がラウンジへ出てこられました。そういえばもうすぐお昼の時間でしたね。
トワ様は私が開いていたホロディスプレイを覗き込み、私が惑星の情報を確認している事に気付いたようです。
「アリサ、アキラは?元気にしてる?」
トワ様が気にされるのはかつて訪問した惑星の政情や経済ではなく、そこで出会った友人達のことです。ええ、トワ様らしくて良いと思います。
トワ様が言われたアキラの個人情報はギルドネットにはありませんが、彼女がいるタカマガハラについてはいくつか報告が上がっていましたので、私はその内容を確認しトワ様に伝えます。
「タカマガハラは……ぼちぼち、というところですね。アキラが指導者として頑張っているようですが、ヨーコ達派遣アドバイザーが到着するまでにはあと2年は掛かりそうですから大きな変化はまだ出ていないようです」
「そっか。ミリシャは?もうイゼルドと結婚した?」
次にトワ様が気にされたのは工業惑星カルデクスで出会ったお二人ですね。さすがに6年も経てば結婚していると思いますが……いくらなんでも一般市民の個人情報はギルドネットには掲載されていません。
イゼルドが管理している農業プラントの件に関連づけてカルデクス支部に確認して貰おうかと思ったのですが、支部の情報にアクセスした際に気がかりな記録を見つけました。
私達が訪問した際に支部長を勤めていたグレイン支部長が2年前に病死し、その後を継いだウィルフレッドが内政干渉の罪により……0号処分!?
いえ、確かに馬の骨はまた何かやらかすだろうとは思っていましたが、一体何があったのでしょうか。
内政干渉による処分はギルドの醜聞にあたるものですし、処分の決定自体もつい先頃の出来事のようなのでギルドネットにも詳細はまだ記載されていません。
担当監察官の報告書を取り寄せて確認するか、それともギルド法廷の裁判記録を閲覧するか……どちらにせよ、状況の把握には少し時間が掛かりそうです。
「トワ様、ミリシャ達とは直接関係はなさそうですが、カルデクスで少し問題が起きていたようです。あとで詳細を調べておきますので、そのときにミリシャ達のことも確認しておきますね」
「わかった」
その後もトワ様とかつて訪れた星々の状況を確認しましたが、幸いカルデクスほど大きな情勢変化があった星はありませんでした。
もっとも小さな変化……例えば私達と敵対した企業や組織が壊滅した話だとか、木工ギルドの輸出が好調だとか、そういうものはありましたが、いずれも予想していた範疇の出来事です。
そして、レイラは……元気に星々を回ってコンサートを続けているようですね。元気にしているようでほっとしました。
一通り状況確認を済ませた私はカルデクスに関する記録の取り寄せを統括局に依頼しましたが、なんでも局長……つまりメラニーの決裁が必要だとかで、取り寄せには数日かかると言われました。
一瞬タヌキババアお得意の隠蔽かと思いましたが、単純に事務処理が追いついていないだけなようで、拍子抜けしたのは内緒です。
記録の取り寄せに関連して現在位置と今後の行動予定を随時報告するよう要請されたのは少し不可解でしたが、秘匿回線ででも送ってくるつもりなのでしょうか?
そんなこんなでリュックラセの滞在予定もあと2日。ようやくナミとアイリスさんがアルカンシェルへと戻ってきました。
今後の行動について相談した結果、この星を離れた後はナミをダンディライアンへ送り届け、そこで彼女と別れることになりました。
彼女の「子供」であるタケハヤの輪廻を行うためには同じ機族の手を借りるのが一番だという事になったからです。
となるとナミに話を聞けるのもダンディライアンまでのあと数日間のみ。私はその日の夜、いつかナミに聞こうと思ったまま先延ばしにしていた事を聞くことにしました。
「――神剣じゃと?」
「はい、ヒヒイロカネで打たれた神剣『ツクヨミ』です」
私がナミにそう言ってナミに示したのはカレンから譲り受けた神剣ツクヨミ。
元はといえば、この剣に刻まれた銘が私達をヨモツヒラサカへ誘う切っ掛けだったのですから、ナミがヒヒイロカネや神剣について何か知っているのではないかと思ったのです。
ですがナミの答えは私の予想を超えたものでした。
「ツクヨミとはまた随分と懐かしい名じゃな。どれ……ほう、確かにこれはツクヨミじゃな」
「知っているのですか?」
「うむ。知っておる。というより、これは妾が打った刀じゃ」
さらりと凄いことを言われましたよ?放浪機をも切り裂く不滅の刃、意思のある神剣を作ったのがナミ本人?
いえ、確かに予感めいたものはありました。ナミの二つ名は神産みの神。そしてこの刀の銘であるツクヨミはオリジンスターに語り継がれる月神の名。
つまり……ナミがツクヨミの産みの親である可能性について、私も考えたことがなかった訳ではありませんが……。
「アリサよ。もう一振りはどうした?」
「アマテラスですか?アマテラスは砕けました」
「そうか、あれは満願成就を迎えたのじゃな」
さすがにナミが神剣を産み出したと言うだけあって、ヒヒイロカネの特性である「持ち手の願いを叶えると崩壊する」ことももちろん承知していたようです。
私は手短にカレンとのいきさつを語り、ツクヨミを託された事を話すとナミは静かに頷きました。




