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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部12章『歪な三日月』ヨモツヒラサカ-永獄の惑星
372/499

#16

>>Towa


 マリエッタの作戦で私達は追跡してくる放浪機を撒くことに成功した……はずだった。だけど、周囲宙域をスキャンしたマリエッタが口にしたのは追跡を振り切った喜びの報告ではなく、悲鳴のような声だった。


「うひゃ!?な、なんで放浪機がいるんですかっ!?」

「どういうこと!?サクヤ!」

『空間振動波は感知してないしっ!追ってきた相手じゃないしっ!』

「ア、アイリスさん、放浪機らしき反応の位置っ、10光時離れた地点で……スターゲートに向かってますっ!」


 どういうことだろう?私達を追って来るんじゃなくてスターゲートに向かってる?先回りしたってこと?


「10光時離れてるって事はさっきのとは別の放浪機だね。……アルカンシェル、スターゲートに向けて全速前進。サクヤ、あの放浪機の予想現在位置出してくれる?」

『はいはい』

「サクヤ、『はい』は一度じゃ」


 アイリスの予想現在位置っていう言葉を聞いて、ようやく私は理解した。そうだ、センサーの情報はリアルタイムじゃなくて過去の情報だった。

 ということは……10光時離れたところにいる放浪機は最低でも10時間以上前からこの宙域にいたってことになる。つまり、私達を追ってきていた個体とは別の個体で、それがスターゲートに向かってる?


「待ち伏せ?先回り?」

「私達がスターゲートを通ってきたことがバレてたなら待ち伏せの可能性もあるけど……それにしては少し移動タイミングが早い気がするね?」

「ですね。タイミング的に、遠距離からスターゲートが作動したことを観測した放浪機が確認に来たというところではないでしょうか。タイミングの悪いことです……」

『予想位置出たよ。距離はあるし軌道ベクトルもずれてるけど概ねアタシらと併走する位置関係でスターゲートへ接近中。アタシらのほうが30分ぐらい先に現着かな?』

「30分か……それでもマシな方かな」

「ええ、先にゲートへ入ることが出来ますが……でもこのタイミングだと確実に放浪機をペルセウス腕に招き入れる事になりますね」

「そこは……なんとか方法を考えるよ。ううん、何としてでも侵攻は止めるよ」


 放浪機がスターゲートを超えて私達の宇宙へやって来る。私はアリサの言葉が怖くてたまらなかった。

 だけど、アイリスなら……お姉ちゃんならきっとなんとかしてくれるはず。そう信じたかった。


 現在位置からスターゲートまでは亜光速で30分ほど掛かるとサクヤが告げ、併走する放浪機も距離があるため攻撃してくる可能性は低いことがわかった。

 いつもならこういうちょっとした待機時間には雑談するところだけど、今回ばかりは……誰も、何も、言わなかった。



 そしてスターゲートを光学センサーで捉えた頃、アイリスがアルカンシェルに指示を出した。


「アルカンシェル、リュミエール……と、ブリーズのコンディションチェック。いつでも出せるように準備しておいてくれる?」

「アイリスさん、船を捨てるつもりですか?」

「万が一のための確認だよ、アリサ」


 アイリスは優しい声でそう言った。でも、その横顔を見ていた私はたまらなく不安になり、思わずアイリスの手を握っていた。

 アイリスが……どこか遠くへ行ってしまう気がして。


「トワ?」

「お姉ちゃん。どこにも行かないで」

「……大丈夫だよ」


 アイリスはそう応えたけど、一瞬だけ言葉に詰まった気がした。

 それがどういう意味なのかはわからなかったけど……私の心を覆う不安は一向に晴れなかった。


『併走してる放浪機の艦種特定できたよ。よりによってアイツか……』

「面倒な相手なの?」

『ハンター型Fタイプ。前方に可動式の荷電粒子砲を9門装備してるヤツ。ショットガンみたいに攻撃をばらまいて、機動力の高い小型艇を専門的に狩るタイプだよ』

「なにそれ、相性悪すぎじゃない」


 サクヤの報告してきた敵の情報は私の不安を加速させた。私達のペルセウス腕には大型の戦闘艦なんて存在していない。

 まるでそれを見越したように、小型の船を狩る放浪機がむこうを目指しているなんて。


『あー、でも良いこともあるよ?あいつ、射程距離短いし、拡散させるから威力も低いし。アーちゃんのフィールドなら撃たれても平気だし、30分も先行してたらそもそも攻撃届かないしっ』

「まぁ、気休め程度の安心材料だね」

「あのっ、安心できない材料がっ……!」


 サクヤの報告に少しだけ安心していた私の耳に、申し訳無さそうなマリエッタの声が聞こえてきた。なんだろう、安心できない材料って。


「ここを発ったときに置いていったプローブからの反応がありませんっ……」

「どういうこと?ゲートの中に吸い込まれた?

「いえっ、あの時完全に静止してたのを確認してますぅ」

「なら、可能性は……破壊された?でも放浪機は接近してる最中だよね?」

『……じゃ、もう1つ不安材料追加。ゲート前のデブリ分布計測したけど、直線的にデブリが薄いエリアがあるよ。おかげでアタシ達は通りやすいけど』


 マリエッタとサクヤの言葉は何を意味してるんだろう?

 私がEVAで置いてきたプローブはスターゲートが見える位置だったよね。アルカンシェルの底面から少し離れた所だけど……場所的にはスターゲートの正面といっても良い場所だ。

 そのプローブが無くなってる?


「アイリスさん、それって」

「うん。何かが既にスターゲートへ侵入してる可能性があるね」


 それって、既に放浪機がペルセウス腕側に入り込んでる可能性があるって事!?

 私が隣にいるアイリスに視線でそう問うと、お姉ちゃんは悲痛な表情で頷いた。


「私達……とんでもない事をしてしまったかもしれない」

「……まぁ、何が入り込んでおるにせよ、出口前で対面することになるじゃろ」

「どういうこと?」

「少なくとも妾が知る限り、こちら側にゲートの『鍵』を持つ船は残存しておらぬはすじゃ。なら閉じた出口の前で主らが来るのを待つしかあるまいて」


 ナミは何を言ってるんだろう。スターゲートは一度開放すると半年は開きっぱなしだとG17は言っていた。現に目の前にどんどん大きく見えてくるスターゲートの中心には黒い虚無の穴が開いたままになっている。

 なのに、出口が閉まってるの?


「ナミ、それどういうこと?」

「主らはゲートを通り抜けて来たのじゃろ?なら、主らが入ってきた側はもう閉じておるぞ」

「通り抜けるとゲートが閉まるの?」

「うむ」


 私はアイリスと目を見合わせた。

 G17から聞いたゲートの話と矛盾するような気がするけど、ナミは通過してきたゲートの入口が閉まるのは当然だという顔をしている。

 G17とナミ、どちらが正しいのかはわからないけど……。


「……今は議論してる場合じゃない、か。ナミ、詳しい話は後で聞かせてね。とりあえず、ゲート突入に備えて……サクヤ、このまま 直進して大丈夫?」

『デブリがちょっと残ってるけどフィールドで何とかなるんじゃね?』

「じゃあ、そのまま突っ込んで!」

『はーい』

「サクヤ、その返事は……まぁ良いじゃろ。アイリス、サクヤの躾げはおおむね出来たようじゃから妾は一度下がらせてもらうぞ」


 そういえばさっきからナミ、ちょくちょくサクヤにダメ出ししてたけど、なにげにサクヤもちょっとずつ返事を修正してるよね。これが教育効果ってやつなんだろうか。

 ラウンジへ降りるナミの後ろ姿を見送りながら私がそんなどうでも良いことを考えているうちにアルカンシェルはスターゲートを真正面に捉え、少し減速してからスターゲートの中へと突入した。



 前回は初めてのスターゲート突入だったから突入後に一旦停船して周辺調査を慎重に行ったけど、今回は後ろから放浪機が追ってくる可能性が高いから悠長な事をしていられない。

 でも、後続の放浪機の情報は欲しいから入口を入ってすぐ、私達の通った航路上にプローブを置いて先に進むことにした。


 超空間チューブ内の観測情報そのものはあてにならないけど、ある程度の距離であればプローブからのデータそのものは受信できる。

 つまり、データを受信し続けている間は侵入者がいなくて、プローブからの連絡が途絶えたら後続の放浪機にぶつかったと判断できるってことだ。


 私は少なくとも30分はプローブがデータを送り続けてくる……つまり、放浪機がゲートを抜けてくるまでに30分の余裕があると思ってた。けど、私達が超空間チューブを進み始めて1分もしなういちに、プローブからの観測データが途絶えた。


「アイリスさんっ!プローブとのデータリンク途絶っ!」

「早すぎる!?……そうか、ショートジャンプで距離を詰めてきた!?」

『……はぁ?いや、まぁいいけど』

「サクヤ、ナミがいなくなった途端に態度悪くなった」

『マスター、お小言やめてよ……』


 後方を追ってくる放浪機の様子を確認したいところだけど、超空間チューブ内では光学センサー以外の情報は殆ど信用できないし、その光学センサーも白い靄が掛かっているせいで遠くまで観測することができない。

 だから私達はすぐ後ろを放浪機が追ってきていることを把握しながらも、その存在を直接確認できない不安な状態のまま超空間チューブを飛び続ける事になった。


 前回スターゲート使った時に掛かった時間は3時間ぐらいだったから、おそらく今回も同じぐらい時間の時間でペルセウス腕側へ抜けることが出来るはず。

 それまでに私達は先行しているであろう放浪機と、後を追ってきている放浪機の2つに対処する方法を考えないといけない。


 しばらく様子を見ても後続の放浪機が攻撃を仕掛けてこないところを見ると、向こうも私達を確認出来ていないんだろう。そう判断した私達は、超空間チューブ通行中の猶予時間を使って対策を考えることになった。

 けど、いつもなら真っ先にプランを述べるアイリスが黙り込んでいる。私は心配になってアイリスに声を掛けた。


「アイリス?」

「うん。……トワ、ごめんね」

「どうしたの?」

「私、責任を取るよ」

「どういうこと?」

「アリサ、トワのこと……頼める?」

「どういうことですか?」

「……私が、リュミエールで後続の放浪機に体当たりする。アリサはトワ達をブリーズ乗せておいて、ゲートを出た所に放浪機がいたらそいつにアルカンシェルを自動操縦で突っ込ませて倒して欲しい」


 アイリスが何を言っているのかわからなかった。

 アイリスが、お姉ちゃんが特攻?

 どうして?

 なんでそんな事をするの?


「何を馬鹿なことを言ってるんですか!」

「でも!私達……ううん、私がスターゲートを開いたせいでこうなった!青臭い理想論を偉そうに語って、武器も積まずにこんなところへのこのこと来たせいで、敵を倒す術も無くて!なら、私が責任を取らないといけないんだ!ペルセウス腕に暮らしているみんなのためにも!」


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