表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部12章『歪な三日月』ヨモツヒラサカ-永獄の惑星
371/507

#15

>>Alyssa


 お風呂を頂いた後、トワ様の要望にお応えすべく軽食を提供することになりました。

 ですが……まだ左手が思うように動きません。調理が出来ない訳ではないですが、どうしても手際が悪くなってしまいます。

 どうしたものかと思案しているとマリエッタが手伝いを申し出てくれました。


「アリサさん、ここはマリエッタにお任せをっ!でもっ、味付けのアドバイスはお任せしますねっ!」

「助かります、マリエッタ。では、あまり時間がありませんから簡単にパスタでも……」

「はいっ!」


 マリエッタはアドバイスをと言いましたが、彼女の調理の手際は既にかなり良くなっているので私が口出しするところは殆どありませんでした。

 学習能力が高いだけあって料理の腕前もどんどん上がっていますね、この子。そのうちキッチンを明け渡せと言われそうで少し脅威を感じました。

 ですがそれはなしです。トワ様の食事はあくまで私が作る。それがこの船のルールなのですから。


 ともあれ出来た料理をラウンジへ運び、ナミも含めた5人で頂きました。


「おお……これぞヒトの食事じゃ……まともな飯は何千年ぶりじゃろうか」


 パスタを前にナミが大げさなことを言っているのかと一瞬だけ思いましたが、彼女の置かれていた環境を考えればその言葉は誇張でも何でもなく、単なる事実を述べているのだということに思い当たりました。

 しかし気になるのは多くの時間を冷凍睡眠でやり過ごしていたとはいえ、そもそも住民が死滅した惑星でどのような生活をしていたのかと言うことです。

 セレスティエルには仙人のように霞を食べて生き延びる機能は付いていないはずですが……。


「ナミ、ヨモツヒラサカではどういう食生活だったのですか?」

「保存食じゃ。1000年保存できるという触れ込みのな。正確な歳月はわからんが……おそらく製造から2000年は経っておると思うが、まぁ食べれんこともなかったぞ」


 1000年間保存が効く食べ物ということ、そしてその話をするナミの微妙な表情から察するに、おそらく私達の所にもあるグリット(カチコチ)と同じタイプの……味はまったく期待できない保存食だったのでしょう。

 そんなものが賞味期限を1000年も超過しているとか――物理的な意味で――口にするのも憚られますが、遠い昔に滅びた星の上ではそんなものでも残っていただけマシということでしょうか。


「ナミ、この船には永久保存食品が積んである」

「ほう、それは興味深いの……今度試食させてもらおうかの?」

「いや、あれ食べられないからね?永久保存過ぎて体内で消化できないからね?」


 トワ様は悪食の――いえ、食に対する好奇心が強い傾向がありますが、もしかするとナミもなのでしょうか。

 そんな事を思いながら楽しい一時を過ごしていた私達でしたが、予定していた2時間の小休止が終わる10分前……アルカンシェルがラウンジに警告表示をポップアップさせたことで、そんな時間は終わりを告げました


「アイリスさん!」

「恒星系内に航宙船を確認、か。……来たね」

「作戦開始?」

「ええ。じゃあ手はず通りに!」


 今回は荷電粒子砲への対策として回避機動についてはサクヤとアルカンシェルに一任し、マリエッタは敵船の動向把握を担当。

 私は緊急事態に備え手動操縦へ切り替えられるようパイロットシートで待機です。

 アイリスさんは全体指揮、トワ様はアイリスさんの補佐……というか癒やし要因ですね。ナミは特に役割を割り当てていませんでしたが、ブリッジでサクヤのお目付役をしてくれるそうです。


「作戦開始」


 全員が配置に付いたことを確認し、アイリスさんが作戦の開始を宣言しました。


 まずは大気圏を離脱し、ショートジャンプが可能な位置までヨモツヒラサカから離れる必要があります。

 心情的には一気に加速して逃げ出したいのですが、あまり高速で離脱すると相手がショートジャンプを使って前方へ回り込んでくる可能性がありますし、相手の出方を確認する必要もありますから、最初は微速での上昇。

 ランダムな回避軌道で航行しながら速度を上げつつヨモツヒラサカの重力圏外へ抜けるという戦法です。


 作戦的にはこのフェーズが最も危険です。なぜなら、至近距離から敵の攻撃を受ける可能性が極めて高いのですから。


「敵艦、こちらを補足した模様っ!転進してますっ!」

『艦影確認、艦種……ハンター型Cタイプに酷似。通常仕様なら艦首に荷電粒子砲2門搭載してるやつ!』

「サクヤ、じゃあ手はず通りに……」

『わかってるよ!艦尾方向を掠める軌道で離脱っしょ!』

「サクヤ、そこは了解のみで良いところじゃぞ?」

『はーい!』


 サクヤはアイリスさんに対して当たりが強いですが、指示には大人しく従っているようです。敵艦の回頭軌道を予測し、フェイントを交えながら船尾側から抜ける航路を的確に選択しています。

 対する放浪機側も、惑星から離脱する私達をすれ違いざまに一撃する事は難しいと判断したのか、離脱軌道に対して水平になるよう回頭を始めました。

 やはり放浪機は単なる狂戦士ではなく、戦略的な動きが出来る面倒な敵のようです。


「あと10秒で敵艦の横を抜けます……抜けましたっ!敵の回頭完了予想まであと18秒!」

「サクヤ、フィールド展開タイミング任せていい?」

『もちろんっ!展開はギリギリにするよ。あいつ、こっちが小型艇だから一射で破壊出来ると思ってるだろうからね。命中直前にフィールド展開して防いでやったら驚いて射撃の手が止まるよ!』


 機械生命体に驚くという概念があるのかどうかはわかりませんが、放浪機との戦闘経験豊富なサクヤがそう言うのであれば、そういう感情の揺らぎか、もしくは状況判断のためのタイムラグ的なものが放浪機にもあるのでしょう。


『そろそろ敵の攻撃来るよ!』

「総員、耐衝撃防御!」


 サクヤの警告にアイリスさんが指示を飛ばします。

 ですが、衝撃があるほど船殻にダメージを受けてしまえば私達の負けは確定ですから……。


「敵砲撃着弾!フィールド負荷、瞬間的に80%台まで上がりましたけど……持ちこたえましたっ!次弾……来ませんっ!」

「加速開始!サクヤ、ランダム回避任せたからね!」

『うーっす!』

「サクヤ、そこは了解だと言うたじゃろうが」


 どうやらサクヤの読みがあたったようです。

 オリオン腕側の艦艇には防御フィールドが搭載されていないようですから、放浪機の認識では直撃弾を与えた時点でアルカンシェルは撃墜、最悪でも損傷して航行速度が落ちるはず。

 なのに私達はダメージを受けるどころかレゾナンスフィールドの共鳴波……相手からみれは生命の証を派手に纏って加速、宙域を離脱しています。

 ……おそらく放浪機からすれば「撃ったら元気になって加速した」という訳がわからない状態なのでしょう。いえ、そういう心理状態があるのかどうかはわかりませんが。



 ともあれ相手が戦略的に判断できる存在であるなら、攻撃が無効化された時点で一旦攻め手を止めて何が起こったか分析を行うのは当然の判断です。

 おそらく放浪機は私達が防御フィールドを持っていることは即座に認識したと思いますが、荷電粒子砲でそれを破れなかったことも理解したはずです。

 なら、次に打つ手は連射によるフィールド崩壊狙いで来るか、それとも調査のための捕獲か……。今頃そんな検討を行っているのだろうと私は勝手な想像を巡らせました。


「停止していた放浪機、こちらに向かって追尾開始しましたっ!」


 どうやら、放浪機も作戦を決定したようです。ですがその逡巡で稼いだ貴重な時間を使い、私達はまもなくヨモツヒラサカの重力圏を抜けることが出来ます。


「アルカンシェル、3段ジャンプ準備!大変だけどがんばってね!?」


[Okay, Lady. No Problem.]


『ちょっ、アーちゃんじゃなくてアタシに言ってよ!』

「はいはい、サクヤもがんばってね」

『ワタシの扱い雑すぎじゃね!?』

「サクヤ、言葉遣いが荒いぞえ?」



 戦闘中とは思えない賑やかなブリッジの喧噪を背中で聞きながら、私は万が一の事態が発生してマニュアル操船が必要になった時に備え、操縦桿を握りしめました。

 鎮痛剤の追加で左腕の痛みは僅かばかりとはいえましになっていますが、鈍い痛みの影響で指先の感覚があまりありません。ですが……今は多少無理をしてでも腕を動かさないと。


「まもなく1度目のジャンプタイミングです!ジャンプドライブ起動確認っ!ジャンプまで……5,4,3,2,1……ジャンプインっ!」


 ジャンプインを告げるマリエッタの声と同時に船窓が一瞬暗転……したかと思う間もなく私達は2光日離れた宙域へと初めてのショートジャンプを成功させました。

 通常のジャンプ航法も概ね一瞬と言って良いタイミングで目的地に到着しますが、短距離ジャンプはそれよりもさらに短い時間で移動が完了するようで、私の感覚ではジャンプインと同時にジャンプアウトしたようにも思えました。

 アルカンシェルはそのまま全力で加速を開始し、ジャンプアウト位置から距離を取ります。


「追ってくる兆候は?」

『空間振動波、出てるよ。後方……アタシ達が出てきたところと同じ!あと5秒……ううん、来た!』

「敵艦のジャンプアウト確認っ!アルカンシェルさんっ、2度目のジャンプお願いしますっ!」

『だからアーちゃんじゃなくて……!』


 1度目のジャンプアウトが完了した直後に2度目のジャンプを行わなかった理由は2つ。


 まず1つ目は相手が付いてきているかどうかを確認する必要があったからです。相手が追尾していないのに元の座標へ戻るのは自殺行為ですからね。


 そしてもう1つの理由は……放浪機に私達のジャンプ能力を過小評価させるためです。アルカンシェルは即座に連続ジャンプすることが出来ますが、あえてそれをしない事で相手にジャンプにはクールダウンが必要だと誤認させ、追撃時の判断を少しでも誤らせようという作戦です。


 もちろんこれはマリエッタの提案によるもので……ほんと、あの子の戦術センスは驚くべきものです。


「ジャンプアウトっ!続けて最後のジャンプですっ!」


 一つ一つの策は大きな効果が得られるものではないですが、それを複数積み上げることで劇的な効果を生み出す手腕。

 大局的なものの見方はまだ苦手なようですが、やがて成長して戦略にも秀でれば、宇宙でも有数の軍師になりそうですよね、マリエッタ。



 3度目にして最後のジャンプである長距離ジャンプを敢行した私達は、無事に追跡してきていた放浪機を振り切る事に成功しました。


 ですが、私達は依然として放浪機の脅威に晒されていたのです――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ