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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部12章『歪な三日月』ヨモツヒラサカ-永獄の惑星
369/538

#13

>>Towa


 ナミはサクヤのC3をペルソナとして組みこむ前にサクヤがどのような状態にあるかを確認したいと言った。

 うん、それは正論だ。

 私はキャメル060の航路データを何の確認もなしに読み込ませて後で慌てたけど、ナミはそんな手抜かりはしないってことだね。


 で、どうするのかと聞いた私はちょっと後悔した。確認のための準備作業しながらナミが説明してくれた内容が高度すぎて理解出来なかったからだ。


「――というような感じじゃ。ま、わかり易く言えばこの船の処理系の中に『魂の器』を擬似的に構築するんじゃよ」

「すごいですっ!機族の人の機体が完璧にエミュレートされてますっ!特にここ、動力系だけじゃなくて神経系の部分とか、触覚フィードバック機構も再現されてますよねっ!」

「ほう、マリエッタ……お主、なかなか見所があるの」

「あの、マリエッタもドローンのエミュレートならした事があってっ!」

「ペルセウス腕側のC3による制御系か……それは興味深いの。落ち着いたら見せて貰えぬか?」

「はいっ!あの、機族の人のエミュレートも……出来る範囲でいいので、教えてくださいっ!」


 私には良くわからなかったけど、マリエッタは目を輝かせてナミの話を聞いていた。

 そしてナミと技術的な会話が出来ている。うん、つまりこれは私の専門範囲外ということだね。


 その後、機族のエミュレートというのが出来るようになったらしいので、ようやくアルカンシェルにサクヤのC3を読み込ませることになった。

 まずは魂がどれぐらい残っているかを確認するらしい。魂の量っていうのはどういう意味かは良く判らないけど、ともかくアルカンシェルのスロットにC3を挿入し、読み込むことしばし。


 完了表示が出たところでナミがホロディスプレイに描き出された仮想サクヤに声を掛けた。


「サクヤ、目覚めよ」

『ん……ん?あれ、母様?アタシ、確か機能停止して……』


 思ったよりあっさりとサクヤは目を覚ました。

 アルカンシェルの船内音響設備を介して聞こえる声は、ナミの呼びかけにちゃんと応えてるみたいだけど……これってサクヤは機族として輪廻できるってことなのかな?

 ホロディスプレイに表示された色んな数字を見ていたナミは眉をしかめて言った。


「サクヤ。管理者権限によるコマンドモードへ移行じゃ。メモリおよび機体コントロールに関するセルフチェック。管理コード『ヤタノカガミ』実行せよ」

『コードカクニン。セルフチェックジッシ』


 ナミの指示に応えたサクヤの声は急に平坦で機械的なものに変わっていた。

 第一声は普通の女の子っぽかったから落差の大きさに驚いたけど、機族がヒトに作られたものである以上はこういう機械的な部分もあるんだろうね。


 アイリスやアリサも興味深げにみているけど、やっぱり一番目を輝かせてるのはマリエッタだ。「神産みの神」なんていう遠い存在だと思っていたナミが、実は自分の同類だと知って興味津々なんだろうね。


「セルフチェックには少々掛かるのでな。少し休ませてもうろて構わぬか?」


 マリエッタはナミに話を聞きたそうだったけど、ナミは疲れているらしい。なら詳しい話よりもまず先におもてなしだ。

 私も経験あるけど、冷凍睡眠は「睡眠」の名前とは裏腹に代謝が止まるから疲れの類いは抜けないからね。こういうときに一番効くリラクゼーションといえばやっぱり……。


「お風呂入る?」

「何?風呂じゃと?」

「檜風呂あるよ」

「なんと、それはしたり!」

「……しなかったり?」

「いや、そういう意味じゃないと思うよ、トワ?」


 アイリスが「したり」というのは思ってもみなかったと言う意味だと教えてくれた。

 ならそう言ってくれればいいのに……ナミの言葉遣いはちょっと難しいよ。でも、お風呂を喜んでくれてるなら、もう一つおすすめするものがある。


「ナミ、フルーツ牛乳もある」

「なんじゃと?」

「あっ、コーヒー牛乳といちご牛乳、バナナミルクに抹茶ミルクもありますよ!」

「青汁牛乳もある」

「……主らは牛乳の移動販売を生業としておるのかえ?」


 私がフルーツ牛乳を、マリエッタが残りのフレーバー牛乳について説明したけど……確かに今のアルカンシェルに積まれている牛乳の種類の豊富さを見たら、そう言われてもおかしくないよね。

 でも大事だよ、フルーツ牛乳は。



 しばらくして風呂上がりのナミが青汁牛乳の瓶を片手にブリッジに戻ってきた。服装はアリサがキモノと呼んでいたものから、私が貸したTシャツ一枚になっている。

 どうやらナミもあまり服にこだわりはないらしく、なんなら全裸でも問題無いと言っていた。やっぱり私達セレスティエルに服は必要ないんだとアイリスに言ったら激しくため息をつかれたけど。

 そして青汁牛乳を飲み干したナミは仮想サクヤに向かって声を掛けた。


「サクヤ、セルフチェックの結果を報告せい」

『母様、ごめん。アタシ……ダメみたい。人格モジュールの損傷率11.7%。学習データ喪失率46.1%。機体制御系の機能は完全喪失。詳細データ、出力するね』


 ナミに応えたサクヤの声は寂しそうだった。データが意味するところは良くわからないけど、機体制御系の機能が完全喪失してるとってことは……ボディが手に入っても輪廻できないってことだろうか。

 ナミはサクヤが表示たレポートを深刻な表情で見つめている。


「ふむ……機体制御は難しいと諦めておったが、人格を成長させたデータ部分も破損しておるな。どうりで口調が幼い訳じゃ」

「口調、違うの?」

「うむ。今のサクヤは産まれてすぐの頃の若い状態……いうならば赤子に近い状態に巻き戻っておるの。本来のサクヤはもっと成熟した人格だったんじゃが」

「ほほう」

「じゃが良いこともある。戦闘経験の部分は破損が少ない」

「なら……」

「アイリスよ、済まぬが……その話は妾にさせてもらえぬか?母としてのけじめじゃ」

「……わかったよ」


 アイリスはペルソナモードの事を口に出そうとしたようだったけど、ナミはそれを止めた。

 そうか、ペルソナモードの前に輪廻が難しいって事をサクヤに伝えないといけないんだね。


「サクヤよ。セルフチェックの結果を見てわかると思うが、主はもう輪廻できぬ」

『うん、わかってる。ごめんね、母様。最後まで守れなくて』

「何を言う。主も、タケハヤも最後まで妾を守りきってくれたではないか。この通り妾は救出されておる」

『そっか、なら良かった。じゃあ寂しいけど、これでお別れ?』


 サクヤの口調と言葉は軽いけど、自分が母親を守り切ったという誇りにようなものが感じられた。そしてその言葉を聞いたナミは頭を振って続けた。


「サクヤ。提案があるのじゃ。主の力を……ここにおる妾の同胞に貸してやってくれぬか?」

『同胞?誰?』

「トワじゃ。エトワールの、な」

『エトワール!それ、もしかして!……でも、どうやって手を貸すの?アタシもう機体を動かせないよ』

「うむ。今主がおるのは航宙船の制御系の中じゃ。そこに駐在して船体との中継ぎ役や戦略アドバイザーを務めて欲しいのじゃ。頼めるか?」

『このままだとアタシ、遠からず消えるよね。ここに残れば消滅せずに済む?』

「おそらくはな」

『なら、確認するまでもないよ!』


 機族が同種の新しいボディへ魂を移し替えることを「輪廻」と呼ぶなら、機族からアルカンシェルの一部へ魂の拠り所を変えたサクヤは……「転生」とでも呼べばいいんだろうか。

 ともあれサクヤの同意が得られたことで、アルカンシェルのペルソナモードが起動した。


『データリンク確認……よろしくね、アっちゃん』


[Don't Call Me "acchan"! My Nmae is "Arc-En-Ciel"!]


『堅いこと言いっこなしにしよ?ね?』


 アルカンシェルの知性体とサクヤのデータリンクが確立したらしく、やり取りがはじまった。

 でもアルカンシェルって時々冗談言うけど基本的には真面目な子だからね。ちょっとフランクでギャルっぽい感じのサクヤと旨く折り合いが付けばいいんだけど。


「アルカンシェルの知性体と置き換わったり融合したりする訳ではないのですね」

「みたいだね。これまでのアルカンシェルとは別にサクヤが存在してる感じなのかな?」


 アリサとアイリスがそんな事を言っていると、前触れ無くブリッジに立体映像が投影された。

 私達と同じぐらいの年頃で黒髪の少女を模した映像だ。服装はナミが最初に着ていたキモノによく似てるけど、もっと派手な感じの衣装だね。


 アリサはキモノがフォーマルウェアだと言ってたけど、サクヤのキモノはもっとカジュアルな……ううん、遊び人みたいな感じに見える気がする。

 地表で見た元々サクヤが使っていた機体の外見とは印象が違うから、サクヤそのものを映像化したっていうよりサクヤのイメージビジュアルなのかな?私がそんな事を考えていると、立体映像のサクヤが口を開いた。


『乗員データ確認。プロフィール解析完了。アタシ、サクヤ!銀髪のキュートガールがマスターで、眼鏡の子がマリエッタちゃん。そっちの美人がアリサさん?で、こっちのちんちくりんがアイリス?』

「……ね、どうして私、いきなりディスられてるの?」

『なんか気に入らないから』

「何それ、もしかして私喧嘩売られてる?」

「まぁまぁアイリスさん……今はそれよりも放浪機の行動パターンですよ」


 アリサがアイリスをなだめてるけど、確かにいきなりアイリスに喧嘩を売るのは解せないし、許せない。


「サクヤ。お姉ちゃんをディスるのダメ」

『はーい』

「サクヤよ、主を育てている時に何度も言うたじゃろ?人と仲良くせい、友となれと」

『マスターと、マリエッタちゃんと、アリサさんなら仲良くできそうだよ?』

「うわ、ムカつく……何これ。人格モジュールが壊れて人格破綻者になったってこと?」

「いや、育成データが消えただけじゃから性格は元のままじゃぞ?」


 アイリスの言葉も辛辣だけど、これがサクヤの素ってこと?アイリスだけ目の敵にする理由がわからないけど……いきなり仲違いしてて大丈夫なんだろうか。

 ちょっと前途多難な気がするよ……。


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