#12
ともあれ私はレゾナンスフィールドの特性である、エネルギー兵器や物理攻撃に対する防御効果と、その限界について手短に説明した。
そして、カルティアから聞いた情報であるレゾナンスフィールドがあれば放浪機による侵食を防ぐことが出来るという情報も。
「なんと、では主らは放浪機から身を守る術をもっておるのか!?何という事じゃ……もしその技術が1000年……いや2000年早く、もたらされておれば……」
「アルカンシェルは人類の希望。G15はそう言ってた」
口惜しそうにいうナミの言葉を聞いていたトワが、独り言のように呟いた。
そういえばアルカンシェルはレゾナンスドライブの実験船だけど、完成形であるレゾナンスドライブの開発に至ることが出来ず、途中段階のレゾナンスフィールドを搭載するに留まっている。
そしてアルカンシェルの船首にドッキングしているリュミエールもC3を使った超光速航行を模索して作られた船だ。
つまり私達が今保有している技術は、本来このオリオン腕の人達が放浪機と戦うための切り札として作っていた……まさに人類の希望だったんだ。
「ならっ、今からでもこの技術をこっちの人達に伝えないとっ!」
「……マリエッタというたか?気持ちは嬉しいがの、じゃが……2000年遅かったんじゃ」
「ど、どういうことですか……?」
「妾がヨモツヒラサカに取り残されてから……正確な年月はもはやわからぬが、少なくとも既に2000年以上が経過しておる。そんな長期間、人類が持ちこたえられておるとは到底思えぬ」
「でもっ!」
「それにの、この2000年もの間……狼煙に反応して星を訪れたのは主らだけじゃ。その意味はわかるの?」
これまで黙って話を聞いていたマリエッタが勢い込んで技術移転を提案したが、ナミはその提案を手遅れだと否定した。
私の脳裏に生命の痕跡すら感じられなかったヨモツヒラサカの地表と、スターゲートの周囲に散らばっていた航宙船の残骸がフラッシュバックする。
……つまり、オリオン腕側の人類は放浪機との戦争に敗北し、既に滅亡している。
ナミは婉曲な表現でそう告げているのだろう。
「なら、放浪機が単艦で巡回を行っているのは……」
「他にもここと同じように狼煙を、おそらく自動で上げておる星があるんじゃろうて。じゃが、人類はそこにはおらん。それ故に大艦隊ではなく単艦で見回りしておるんじゃろう」
アリサの指摘に応えたナミの言葉は、やはり既にオリオン腕側の人類が滅亡したという前提に基づくものだった。
こちら側の人類が滅亡しているなんて事は考えたくなかったけど、ナミの言葉を否定するだけの材料は今の私達にはない。
そして状況証拠から考えれば……オリオン腕の壊滅は、疑いようのない事実であるように思えた。
オリオン腕側の人類が滅亡している可能性が高いという絶望的な話を聞き、私達はペルセウス腕――故郷へ戻ることを決意した。
だけど、放浪機を連れて戻る訳にはいかないし、そもそも振り切れなければこの宙域が私達の旅が終わる場所となる。
「荷電粒子砲というのはブラスターと違って亜光速で飛来するようですから、目視で回避するのは無理ですね」
「だね。狙われたらフィールドの耐久力で凌ぎきるしかないけど、さすがに自分達が乗った船で耐久試験をする気にはならないよ」
「アルカンシェルさんの機動パターンを確認しましたけど、戦闘機動に関するデータはほとんどありませんでした……」
「この子は実験船だからね。実戦にも参加したことがない新兵みたいなものだから」
「それを言うなら私達だってそうですよ。個人戦はともかく、航宙船での戦闘なんて経験ありませし、放浪機の行動パターンもわかりません」
状況的に私達は敵の攻撃を回避する術が無く、撃たれながらフィールドの耐久力が持つことを祈りつつ逃げ回ることしか出来ない状況だ。
割と手詰まりなんじゃないだろうか。私達がどんより空気で状況分析と対策を検討していると、黙っていたトワがふと何かを思いついたような様子で口を開いた。
「古参兵を雇おう」
「……どういうこと?」
「ナミ、さっき回収したC3の人達、古参兵?」
「うむ。タケハヤもサクヤも長年放浪機と戦い続けた古参兵じゃ。タケハヤは一騎当千の武人じゃし、サクヤは個人戦に加えて船艦の戦術オペレータも担当しておった」
「なら、サクヤをアルカンシェルに組みこむ」
唐突なことを言い出すトワに確認すると、どうやらアルカンシェルには人間との対話インターフェイスを追加するペルソナシステムというものが用意されているらしいことがわかった。
アルカンシェルはトワに合わせて最適化された事で音声対話の機能を失ったが、そのような事態を想定して代替機能として用意されているものなのだとか。
そのペルソナシステムにサクヤのC3を組みこめば、サクヤがアルカンシェルと私達の仲介を行う形になり、結果としてアルカンシェル本来の知性体に対するアドバイザー的な動作が期待できるのではないかとトワは言った。
もしその構想通りに動作するのであればアルカンシェルはサクヤの持つデータに従って自動で放浪機の行動パターンを読んだ回避起動を行うことができるようになるかもしれない。
でも、アルカンシェルにC3を組みこんでしまったら……サクヤという機族は輪廻できなくなってしまうんじゃないだろうか?
私がそう懸念を口にすると、ナミは頭を振って言った。
「いや、既にサクヤの魂はすり切れる寸前じゃ。どの程度魂に力が残っておるかも定かではない。もとより魂の器をあてがっても輪廻は叶わぬ」
「なら……ダメ元でアルカンシェルに組みこんでみるの?」
「死にかけた我が子を延命する手段じゃろう?拒否する理由はあるまいて」
「タケハヤは?」
「タケハヤはまだ輪廻できる可能性があるでな。この場をしのげれば、またいずれ考えようぞ」
機族の母であるナミの同意が得られたことで、私達はペルソナシステムに脱出の望みを託すことになった。




