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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部12章『歪な三日月』ヨモツヒラサカ-永獄の惑星
367/541

#11

>>Iris


 ナミはショートジャンプという耳慣れない言葉を口にした。

 言葉の意味的に短距離のジャンプだと言うことはわかるけど、先ほどのニュアンスは単なる短距離跳躍と言う意味ではなさそうだった。私はナミにショートジャンプについての説明を求めた。


「なんじゃ、主らはそんな事も知らずに……いや、まぁよい。そもそもショートジャンプはじゃな――」


 ナミの説明を簡単にまとめると、ショートジャンプとは、航宙船のセンサーで把握できる範囲内に限定して行う短距離ジャンプのことらしい。

 通常のジャンプ航法では、あらかじめ目的地の座標を設定して長距離を跳躍するけど、ショートジャンプは「今見えている範囲内で、安全そうな地点を選んで即座に跳ぶ」という点が大きく異なるそうだ。


 例えば、アルカンシェルのパッシブセンサーの有効範囲は約2光日、アクティブセンサーを併用すれば5光日先までの状況なら詳細に把握できる。

 この範囲内にある航宙船や流星群などの障害物を確認し、衝突の危険が少ないポイントを選んで瞬時に跳躍する、というのがショートジャンプの仕組みだ。


 ただし、この方法にはリスクもある。

 センサーで捉えた情報は過去のもの、つまり数日前のデータに基づいているため、ジャンプ先が本当に安全かどうかは予測の精度次第ということになる。

 そのため、航宙船が密集する恒星系内や、人類が入植している惑星の近くではほとんど使われることがない。


 しかしナミはショートジャンプを、一見するとリスクが高いが、戦闘からの撤退や星系内での緊急移動には非常に有効な手段だと語った。そして……。


「人間であれば無謀なショートジャンプは行わんがな、彼奴等は平気でショートジャンプを使いよる。もっとも、ヨモツヒラサカの周辺には航宙船なぞ飛んでおらんから、ぶつかる相手もおらんがな」

「ぶつかっても相手を侵食して自分自身を補修するんじゃない?」

「ほう……それは新説じゃが、確かに一理あるの」


 私の言葉にナミは心底面白く無さそうな顔でそう言った。

 私達人類にとってはショートジャンプは損傷リスクのある行為だけど、放浪機は仮に衝突で損傷しても相手を取り込んで補強できるのなら、そりゃ積極的に使ってくるだろう。


「なら、あのシーカーの母船はすでにこの星系内に戻ってきてるってこと?」

「うむ。あれが母船とのリンクが切れた野良端末なら良いがの、そんな幸運を当てにするのがいかに無謀かは言うまでもあるまい?」


 放浪機の本体が戻ってきていない可能性に賭けて、急いでここを離れるべきだろうか?

 いや、それはあまりにも危険だ。だけどここにいても危険なのは変わりないか……?


「もし放浪機が戻ってきているのなら、どうして私達は攻撃されていないのですか?」

「彼奴等の本体は航宙船じゃ。地上侵攻に末端ユニットを使うのは単に連中が大気圏内に降りられんからじゃよ」

「大気圏内に降りて来ない……?どうしてですか?」

「理由はわからんがな、おそらく降りる必要が無いんじゃろ。彼奴等は占領などと言う面倒な事はせん。ただ星を滅ぼすだけなら軌道上から末端ユニットを落とすだけで事足りるからの」


 アリサの言葉に淡々と応えるナミの言葉を聞いて、私は放浪機が侵略者ではなく殲滅者であることを改めて理解した。

 そして航宙船と地上ユニットで構成されている放浪機に対して、唯一の安全圏となりうるのが、惑星上空と言うことも。


「なら、ここにいれば安全?」

「わからぬ。妾の知る限りでは、上空に拠点を設けてそこで避難生活を試みた星もあったようじゃが……どうなったことやら」

「連中、戦いに負けると融合して強化していましたよね。しかもコアを偽装したりしていましたし。適応進化する知恵と能力があるなら、その星を攻撃していた放浪機が航空戦力を産み出していてもおかしくないでしょうね」

「うむ、妾も同意見じゃ」


 ということは短期的に惑星上空(ここ)が安全だったとしても、遠からずここにも放浪機は来る。

 なら、滅びた星の上空で逃げ回るよりは宇宙へ出た方がマシだろうか。


「連中の武装は?私達、まだ本体とは遭遇したことがないからどう対処したらいいかわからないんだけど」

「彼奴等の元々の攻撃手段は単調なビーム攻撃じゃ。荷電粒子砲と言えばわかるかの?」

「重金属の粒子を発射する……ってやつ?空想兵器じゃなくて?」

「主らの宙域ではどうか知らぬが、妾達にとっては標準的な兵装じゃ。人類軍も使っておったからな」


 どうやらオリオン腕(こちら)ではブラスターとは異なる兵器が主流らしい。

 ナミが妾は技術者ではないから良くはわからぬが、と前置きして説明してくれた話から、動作原理はともかくとして基本はエネルギー兵器であることがわかった。

 ただし重金属をイオン化して射出する性質上、純粋なエネルギーではなく若干の物理的な質量を伴う粒子を撃ち出す攻撃になるようだけど。


 破壊力については直撃すれば航宙船の装甲――これは私達と同じジュラナイトだった――を打ち破ることが出来るレベルらしいけど、光学兵器でないならレゾナンスフィールドで阻止できる可能性が高い。


「その荷電粒子砲っていうのはフィールドで防げないの?」

「フィールド?防御フィールドの類いかえ?それこそ空想兵器じゃろう」


 ナミが不思議そうな顔でそう言った。私達がショートジャンプや荷電粒子砲の話を聞いたときに、こんな顔をしていたのかもしれないね。

 でも、今の話……もしかして、こちら側ではC3の利用技術が発達していないことと関係があるんじゃないだろうか。そう思いながら私はナミに確認する。


「C3を使ったレゾナンスフィールドだけど」

「C3で防御フィールド、じゃと?」


 どうやらナミはC3を使った技術には疎いようだ。

 確かG17の星で見た古代文明……いや、オリオン腕に由来する技術にはC3を使ったものは少なかった。


 となると、C3を使った技術はオリオン腕側ではなく、私達のペルセウス腕側で発展したもの……つまり、情報や人の流れが分断されたことで異なる技術体系が発達したということだろうか……?


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