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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部12章『歪な三日月』ヨモツヒラサカ-永獄の惑星
364/553

#8

 その人影はアイリス達より10倍以上大きい。背丈は10……いや、15mぐらいあるんじゃないだろうか。

 ずんぐりとしたボディはさっき戦った融合放浪機と似た印象があるけど、あれよりももっとおぞましい異形だ。


 おそらくさっきの小動物型放浪機がコアになって、無数の残骸を融合捕食して造り出したんだろう。

 まるで機械作りの屍肉(フレッシュ)の固まりのように見えるそれは……。


「フレッシュゴーレム?」

「全然フレッシュ(新鮮)じゃないですぅ!」


 マリエッタはそんな事を言いながらも、携帯端末を取り出して何か分析を始めた。

 私も改めて敵を見る。フレッシュゴーレムの動きは巨体に似合わず思ったよりも素早い。巨大な腕を振り回し、アリサとアイリスに攻撃を繰り返している。

 勢い余って殴りつけた地面が陥没している所をみると攻撃力もかなり高そうだ。さすがにアレの直撃を喰らったら……私達でも一発でアウトだろうね。


 2人は左右に別れてヒットアンドアウェイで攻撃してるけど、正直攻撃が効いているようには見えなかった。

 フェイザーなら、と思ったけど……たしかフェイザーは直径5m程度しか破壊の効果が及ばないから、あのサイズだと一撃で全体を消滅させられない。

 つまり、コアの場所がわからない限りフェイザーは使えないってことだ。


 そして私はフレッシュゴーレムを観察していてある事に気が付いた。巨体の下部から触手が伸びてる?

 後方の、機族のボディが散乱していた場所へ。あれって、もしかして!?


「アイリス!まだ侵食続いてる!」

「嘘っ!?」


 私が声を掛けたことでアイリスとアリサも触手に気が付いたようだ。そして引き戻された触手の一本がフレッシュゴーレムのボディに新たな「肉」を追加する。

 これてつまり、戦いが長引くとアレはどんどん大きく、強くなるってことじゃない!


 撤退を呼びかけようとしたけど、あの速度だとアルカンシェルへ乗船するまでに追いつかれてしまうだろう。

 それに仮に乗船できても船体に取り付かれる可能性だってある。ここでなんとかしないと……。


 私がどうしたらいいか考えを巡らせている間にも触手は一つ、また一つと「肉」を本体に取り込み、フレッシュゴーレムは強化されていく。


「――今の装甲強度と障壁の予想値に、保険のために1.3倍の係数を掛けて、完全消滅じゃなくて粉砕レベルで……100GJ必要だから800g相当?これなら、75……ううん、100mあれば……。もう一度検算して――」


 マリエッタが何事かを呟きながら携帯端末をもの凄い勢いで操作している。

 やがて計算を追えたマリエッタが顔を上げた。


「100mですっ!」

「何が?」

「退避距離ですっ!」


 マリエッタが何を言ってるのかわからない。けど、マリエッタは自信ありげに大きな声でアイリス達に告げた。


「アイリスさんっ!アリサさんっ!そいつから100m以上距離を取ってくださいっ!」

「何っ!?なんで!?」

「マリエッタを、信じてっ!」


 その言葉に一瞬こちらを向いたアイリスは大きな声で答えた。


「わかった!アリサ、いける?」

「少し厄介ですが……朱の次に蒼、それでいかがですか?」

「いいね、じゃあそれでいこう。マリエッタ、なんとかしてみる!」

「はいっ!トワさん、私達は先に下がりましょうっ」


 アイリスはマリエッタの言葉に納得したみたいだけど、私はマリエッタが何をしようとしているかわからなかった。

 けどお姉ちゃんがマリエッタを信じたなら、私も信じる。だって私のお姉ちゃんはこういうときに間違えたりしないからね。


 私達の中で一番足が遅いマリエッタの手を引いてフレッシュゴーレムからさらに距離を取る。

 100mと言われたけど、不意の接近に備えて150……ううん、200mぐらい離れておいた方がいいだろう。


「スタンバイっ!」


 マリエッタが声を張り上げる。

 その声に反応して、まずアイリスがフレッシュゴーレムの足下に朱のイグナイトを投擲するが見えた。5秒後、足下の地面と片足を爆砕されてバランスを崩すフレッシュゴーレム。

 アイリスはイグナイトの効果を確認せず、投擲の直後にまま私達の方へ走り出している。

 続けてアリサが蒼のイグナイトを残った軸足に向けて投擲し、アイリスの後を追うように走り出した。


 5秒後、バランスを崩したままのフレッシュゴーレムは軸足を停滞(ステイシス)フィールドに絡め取られ、文字通り足止め(・・・)された。


「マリエッタ、2人とも100m離れた!」

「わかりましたっ!……グラビティマーカーセット!パラメータ転送!」


 左手を天高く掲げてそう言ったマリエッタは、次にその手をステイシスフィールドに囚われたフレッシュゴーレムへと向けて、叫んだ。


「ブリギッタ、オンステージ!」



 ――マリエッタのボイスコマンドを受信し上空3000mに待機していたアルカンシェル――その船首部分にドッキングしていた航宙艇「リュミエール」はグラビティスリングを使ってエクソギア「ブリギッタ」を射出する。重力制御によって大気を切り裂きながら、光速の1/600という空間戦闘用ユニットとしては鈍足極まりない勢いで、巨大で鈍重な守護者は少女の元へと馳せ参じる――



 マリエッタの声が響いた次の瞬間、まるでその場に瞬間移動したかのように巨大なエクソギアが私たちの200m手前に出現していた。


 遅れてフレッシュゴーレムの巨体と周辺の地面が爆砕された音が遅れて響きわたる。

 猛烈な爆風が吹き荒れ、走っていたアイリスとアリサがたたらを踏む。私は慌ててレゾナンスシールドを展開し、こちらに駆け込んできた2人とマリエッタを飛来する瓦礫から守った。



 ――マリエッタが召喚したブリギッタによる質量弾攻撃は、威力を低減させてなおその落下軌道上に位置していた惰弱な巨大放浪機(・・・・・・・・)を粉砕するには十二分な勢いがあるものだった――



 爆風と瓦礫の雨が収まったあと、私達はフレッシュゴーレムが立っていた場所へと向かう。

 そこには直径15mほどの巨大なクレーターが出来ていた。そして、その中心で手持ち無沙汰に佇んでいるブリギッタの姿。あんなに派手に降下してきたのに、損傷している気配は全くない。

 そっか、フールドを纏って降りてきたんだね。


「ブリギッタ、お疲れ様っ!」


[No Problem.]


 マリエッタは笑顔でそう言うけど……でも、まだだ。

 クレーターの中に散乱するフレッシュゴーレムの残骸の中で、触手がうごめいているのが見えたから。ダメージを受けているのか触手の動きはさっきよりずっと弱々しい。

 でも、あれが残骸を取り込むとまた再生してしまう。


「あそこ!」

「応っ!」


 私の声に反応したのはアリサだった。

 抜き身のツクヨミを手にしていたアリサは躊躇無く跳躍し、クレーターの中でうごめくかつて小動物型だった、今はただうごめく触手の固まりと化した放浪機のコアを……神剣による下突きで一撃した。


 触手は一瞬ビクンと跳ねたけど、アリサがツクヨミを引き抜くとそのまま力なく地に落ちた。



「なんとか倒せたね……っていうか、マリエッタ?これ、どういう原理なの?」

「えっと、グラビティスリングで撃ち出したブリギッタを質量弾として使ってみましたっ!」

「ちょっと待ってください、ブリギッタって300Kg以上ありましたよね?グラビティスリングの射出速度は秒速500Kmだったと聞いていますけど」

「はいっ!」

「そのエネルギー量って、小型の融合兵器と同レベルの破壊力じゃないですか!この都市まるごと消えるレベルですよ!?」

「はいっ!さすがアリサさんですっ!」


 良くわからないけど、どうやら本来ブリギッタの攻撃は私達を巻き込んでこの都市全体を破壊するぐらいの威力があるものだったらしい。

 あ、そうか。だからマリエッタは計算してたんだね。


「手加減の計算してた」

「えへへ……トワさんには気付かれましたっ!ブリギッタの重力制御を使って、見かけ上の質量を800gぐらいに軽減したんですっ!」

「あの短時間にそんな計算したの?」

「えっと、前にブリギッタを呼んだときにこういう使い方出来るかなって思って、シミュレーション用のプログラムを組んでおきましたっ!」

「ブリギッタ、恐ろしい子」


[No Problem.]


「トワさん、そこはマリエッタを褒めてくださいっ!あとブリギッタもっ!」


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