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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部12章『歪な三日月』ヨモツヒラサカ-永獄の惑星
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#7

>>Towa


 アイリスが中央棟と呼んでいた大きな建物は、所々崩壊しながらも原形を保っていた。

 周辺の小さな建物にくらべると壁や柱の構造が頑強なのかもしれないね。と言っても所々壁に大穴が空いてたりするけど……。


 入ろうと思えば壁の穴からでも中には入れそうだったからアリサは壁の穴から入ることを提案してきたけど、私はそれに反対した。

 だって私達は無断侵入だからね。せめてここの人達へのリスペクトとして正面玄関から入るべきだと思ったんだ。


 正面玄関は建物の正面に突き出した構造になっていた。

 建物の横手からきた私達は突出した部分へ回り込み、玄関から中を覗き込んで……びっくりした。

 だってそこにはバラバラ死体が散乱していたから。


「な、なんですか、これっ!?」

「バラバラ死体」

「……いや、死体じゃないからね?これ、機族の残骸だからね?」

「アイリスさん、その発言は機族差別ですよ。彼らのボディも殆どの星では法的に遺体扱いされてますから。厳密に言えばこれはバラバラ死体です」

「いや、今法律関係ないよね?」


 アイリスとアリサが言うように、よく見るとそれはバラバラになった機族の残骸だった。

 元々の部位が判別できる程度に原形を留めたものもあれば、もはや元が何だったのかすらわからない程に破壊されたものもある。

 パーツから総数を想像するのは難しいけど……ざっとみても30体以上がここで破壊されてるんじゃないだろうか。


「同士討ちかと思いましたが、機族の中に侵食されたとおぼしき機体が混じっていますね……」

「ここで戦闘があったんだろうね。勝ったのは……機族」

「ですね」


 2人がそう言って視線を向けたのは建物の奥に繋がる通路らしきところで機能を停止している2体の機族。

 片膝を付いた姿勢の男性型と、倒れ伏しているのは女性型だろうか。どちらもボディに損傷はあるけど、原型を留めている。

 たぶん、原型を留めている彼らがこの戦闘の勝者で……そして、勝った後に力尽きたということなんだろう。

 周囲に散らばる残骸の中には風化して崩れ落ちているものも混じっているみたいだけど、その2体は比較的状態がいい。

 よく見ると残骸もものによって痛み具合が違うようだし、もしかすると何度もここで戦闘が行われたのかもしれないね。


「でもこれ、よく見たら全部第2世代じゃないですか?」

「言われてみればそうだね……って!さっき戦ったのも、侵食されてたけど元は第2世代みたいじゃなかった?」

「カルティアぁ……!第2世代は侵食されないって言ってたのは何だったんですか!」


 アイリス達はそんなことを言って騒いでいるけど、私は別のことが気になった。

 これ……機族としての原型を留めている方にはC3の残骸らしきものが入っているのを感じるけど、放浪機になってる方にはC3を全く感じない。

 C3が放浪機のコアと置き換わったんだろうか?

 それともそもそもC3が入って無かった?


 C3の入っていない機族のボディというイメージに思い当たった私の脳裏に、ある光景が蘇ってきた。

 機族達が再生を果たす約束の地、アヴァローン。

 『再生の湖』と呼ばれていた区画にあった、機族のボディを保管している施設。


 あそこにあったボディはC3をインストールすることで機族の輪廻を行っていた。そして保管状態にあるボディ(魂の抜け殻)にはC3は組みこまれていない。

 もしこの星で「神産み」によって産み出される「神」が、セレスティエルではなく機族だったら?

 もしそうだとしたら、ここには沢山の魂の抜け殻があったはずだ。そこを放浪機に侵食されたら……?


 私はその考えが正しいのか確認しようと思って口を開いた。


「アリサ、ここアヴァローン?」

「え?アヴァローン……ですか?ここはヨモツヒラサカですが……」

「違う。アヴァローンと同じ『再生の泉』だったら」


 ああ、考えが正しく言葉にならないことがもどかしい。

 小首をかしげるアリサにさらに別の言葉で言いたいことを伝えようとしたときだった。


「あっ!今、あそこで何か動きましたっ!」


 マリエッタが指さしたのは残骸が最も多く散らばってい箇所。瓦礫の山の上に……何かいる。


 薄紫色に光る目でこちらを見ている、グロテスクな形状のそれは……まるで動物を初めて見た誰かが、金属と機械で動物を再現しようと試みて失敗したかのような、不気味な存在だった。


 明らかに生物ではない。

 でも生物を真似て、その不出来さに故に生物を憎んでいる様な……そんな印象を与える物体。

 それは、かつて故郷の星で遭遇した鋼の獣(メタルビースト)と同種の存在だと言うことが一目でわかった。


 ただあの時遭遇したのは巨大な爪を持った猛獣型で、今私達の眼前にいるのはネズミぐらいの大きさの小動物型だという違いはあったけど。そうか、さっき私が外で見たのはこいつか……!

 頭の中では色々な事を考えていたけど、私の口はマリエッタの声に反応して即座にアイリス達に警戒を呼びかけていた。


「アイリス!アリサ!」

「あれは……放浪機!?」


 アイリスは腰からブラスターを抜き放ち、アリサはツクヨミの柄に手を掛ける。

 だけど、2人が攻撃を加える前に小動物型の放浪機は瓦礫の奥へと飛び降りて姿を消した。


「小動物型……偵察機だったのでしょうか?」

「戦闘用には見えなかったね。マリエッタ、映像記録撮れてる?」

「はいっ!」

「しかし、あれが現れるまで何も物音がしませんでしたね……」


 アリサはそう訝しんでいる。

 そういえば故郷の星で出会った猛獣型の放浪機も恐るべき静音性で足音一つ聞こえなかった。私がそう説明すると、アリサは小動物型が音を立てなかったことを納得したようだった。

 いや、物音?でも今、物音が聞こえている。


「音、聞こえる」

「……確かに、何かを引きずってるような音がしますね……」

「アリサっ!あそこっ!」


 アイリスがブラスターを構えた先、瓦礫の影になっている箇所に動くものが見える。

 あれはさっきの小動物型?いや、違う……破壊された機族のパーツが物陰に引きずり込まれてる?


「侵食!?」

「まさか……さっきの小動物型が!?」

「トワ、マリエッタを連れて外へ!アリサ、行くよ!」

「はい、融合される前に倒します……!」


 そう言うと2人は物陰に向かって飛び込んでいった。私はマリエッタを抱き抱えて建物の外へと走る出た。

 手近な建物の影にマリエッタを下ろし、私は周囲を警戒する。小動物型が1体とは限らないからね。


「うう、さすがにあのサイズだとプローブでも見つけられません……」

「小さすぎ?」

「はい……もう少し大きければ見つけられるんですけどぉ……」


 マリエッタはしょんぼりしながらそう言うけど、確かに物陰でこそこそ移動しているあのサイズの物体を長距離から見つけるのは無理があるよね。

 そんな事を思っていると、アイリスとアリサが建物から飛び出してきた。あれ?もう倒したのかな?と思ったけど、2人の様子を見るとそうじゃないことはすぐにわかった。


「トワ、マリエッタ、もっと下がって!」

「クソっ!なんですか、アレは!」


 いつも冷静なアイリスは少し慌てているように見えるし、アリサはちょっと下品な言葉遣いになっている。

 何があったのかと思いながらも、マリエッタの手を引いてその場を離れようとした私は、すぐにその答えを目撃する事になった。


 中央棟の玄関を破壊しながら飛び出してきた巨大なそれは、ローヒーで対峙した動く石像であるゴーレムや、ローヴと一緒に戦った石造りの巨神のような、巨大な人影だった。

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