#6
>>Iris
私達は何とか2体の放浪機を倒す事ができた。
しかしアリサは負傷し、レゾナンスブレードを失ったしら私は無傷だけどブラスターもフェイザーもエネルギーは空。
トワは無傷だけど、あの子が用意してくれたイグナイトも朱蒼一つずつしか残っていない。3対2だったけど、これ……総力戦でギリギリの勝利だよね。
「もう一戦、って言われたら……無理だよね」
「さすがにちょっと厳しいですね。特に融合されるのはごめんです」
「どうして倒せなかったの?」
トワの発した疑問にアリサが冷や汗を流している。
うん、私は見てたよ。アリサが打ち漏らした心臓部分から再生してたのは。確かにあの状況だと普通は心臓部の光点はフェイクだと思うよね。
というか、私が最初に倒したガンナーはフェイクだったし。フェイクの上にさらにフェイクを重ねてきた?
いや、違うな……きっと私がフェイクを見ぬいた事を察知して、コアを移動させたんだろうな。どちらにせよ、一筋縄ではいかない相手のようだ。
しかし、半端に破壊するだけでは再生してくる敵か……。そもそも防御フィールドを纏っているから生半可な攻撃は通らないし、かなり厄介だよね、放浪機。
私が最初に倒した方は再生するような動きはなかったから、コアを破壊すればいいんだろうとは思う。けど、問題は放浪機側も弱点であるコアを人間が狙ってくることを把握している点だ。
これ見よがしな光点による攻撃の誘導。
一度フェイクを見抜かれたら即時にコアの位置を変えてくる柔軟性。
俊敏性や防御力、侵食による復活と言ったフィジカル面の脅威も大きいけど、私としては人間心理を巧みに突いてくる頭脳戦の方が恐ろしく感じた。
なにせこの対応力は……単純な攻略法なんてものが確立できない訳だから。
そして私は戦闘中に剣士型が取った不可解な行動の意味を考え、さらに恐ろしくなった。
「ね、アリサ。剣士型のほうってさ……レゾナンスブレードを取り込もうとしてたよね?」
「そういえば手から触手、出てましたね。……って、もしかしてC3を使う武器でなければ、通常のフォトンブレードなら取り込まれていたということですか!?」
手持ちで使う場合と融合した場合で武器の挙動にどう違いが出るのかまではわからないけど、あえて最初に融合を試みたことを思えば、きっと手持ちよりも放浪機にとって有利な状況になっていたのかもしれない。
「だとしたら、ブラスターやレゾナンスシールドは侵食されないって事だけど、問題はこれだね……」
私は握ったままだったフェイザーに目を落とした。この銃は古代文明の技術で作られたもので、C3は内蔵されていない。
つまり、私がこの銃を握ったまま放浪機に敗北するような事があれば……次は人類に向かってフェイザーが放たれる事になるということだ。
迂闊に使えないとは思っていたけど、侵食される可能性があるとさらに使いづらくなるね、フェイザー。
「でも、ツクヨミは侵食されませんでしたね。もしかして……意思が宿っているからでしょうか?」
「え、その剣って意思があるの?」
何気なくアリサが言い放った言葉に私は驚いた。
確かにアリサは時々ツクヨミに話しかけてはいたけど、あれはきっと前の持ち主であるカレンに対して語りかけている独り言だと思っていたんだけど。
「ええ、不本意ながらこの腐れ神剣には何らかの意思が宿っています。しかも、言葉も理解していますし」
「神剣の名は伊達じゃないって事か。トワ、悖理の剣もそうなの?」
「ローヴの剣?ううん、あれは折れたままだし」
さすがにヒヒイロカネ製の武器全てに意思が宿っている訳ではないようだ。
だけど剣に意思が宿っている?それは……一体誰の意思なんだろうか。そう考えた私はこの星を訪れる切っ掛けとなったアルカンシェルのデータを思い出した。
ツクヨミとはオリジンスターの伝承で語られる神の名で、この星、ヨモツヒラサカは伝承でツクヨミを産んだとされる「神産みの神」がいると記されていた星だ。
もしかしたらツクヨミはこの星で作られた「神」の剣……すなわち、放浪機に対抗する武器ということなのだろうか?
このあと、研究施設らしきところを探索して、何か手がかりが得られればいいんだけど。
ともあれ、しばらく様子を見たけど消滅した放浪機が再生する気配はなかった。まぁフェイザーによる原子分解からすら再生してくるようなら、それはもう絶対倒せないって事と同義だからね。
目先の脅威は去ったと判断しても良さそうだし、これならマリエッタを呼んでも大丈夫だろう。
「マリエッタ、聞こえる?もう出てきても大丈夫だよ。エアロック前に置いてあるメディカルマシンから鎮痛剤持ってきてくれる?」
『わかりましたっ!あ、アルカンシェルさんの防衛指示どうしますかっ?』
「無人になると守りが弱くなるからね……。じゃあ、マリエッタが降りたら浮上して上空3000mで待機させておいてくれる?」
『了解しましたっ!』
合流したマリエッタから鎮痛剤のスプレーを受け取り、アリサに応急処置を施した。
本人は軽い打撲で腕が痺れただけだと言っていたけど、内出血している腕の状態からそれが強がりであることは一目でわかった。幸いにも骨は折れてないみたいだから、テロマーの回復力であればすぐにでも治るとは思うけど……。
一時的にアリサの戦闘力が低下しているのは少し心配だ。
処置をしている間、マリエッタがアルカンシェルとプローブのセンサーを駆使して集めた情報と、その解析結果を報告してくれた。
私が初手で撃破したガンナーの方はエネルギー反応が完全に消えていたらしい。
つまりフェイザーで完全消滅させなくてもコアを破壊すれば一応は倒すことができたということだ。一発しか撃てないフェイザーの仕様を思えば良い知らせと言えるだろう。
だけど……複数体が同時に現れた場合は侵食による復活素材にされることをふまえると「倒した」のではなく「一時的にダウンさせた」程度に思っておいた方がいいかもしれないね。
そういえば故郷で出会った獣型の放浪機も、おそらくは偶然にも私がコアを撃ち抜いたことで機能を停止させる事が出来ていた。
あの個体は単体だったから侵食による復活はなかったけど、もし複数体が同時に現れていたら……たぶんブラスターしか持っていなかった当時の私達は――ううん。
私達だけじゃない。故郷の人達全員が、放浪機の餌食になっていただろう。
『放浪機の本体は航宙船。末端ユニットは地上侵攻のための尖兵にすぎません』
そう言っていたカルティアの言葉が脳裏に浮かぶ。
タイプは違えど、今回の放浪機もおそらくは地上侵攻用の末端ユニットの一種だろう。
末端でこれなら……あの2光日先を飛んでいた本体は一体どれだけ手強いんだろうか。武器を持たない今のアルカンシェルでは……いや、武器を装備したとしても、私達では到底対抗できない気がした。
「アイリス、予備のフェイザーとカートリッジ」
「ありがと、トワ。でもこれ……慎重に使わないとだね」
トワがアルカンシェル内に残していた予備のフェイザーとブラスター用のカートリッジを取ってきてくれた。
ついでに先ほど撃ったフェイザーはチャージスロットへ戻しておいてもらったけど、チャージが完了するまでには3時間が必要だ。
つまり、私達の手持ちリソースでは放浪機との連戦は最大でも2回まで。それも、少数の個体としか戦えないときた。
まぁ、私達の本業は戦闘じゃないから継戦能力が低いのは仕方ないけど……。
ともあれ、今できるだけの準備は全て行い、再度の襲撃がないことを祈りながら、私達は研究施設らしき建物へ向かった。
衛星軌道上から見たこの施設は複数の小さな建物と中央棟らしき大きな建物で構成されていた。
私達は重要なものは中央棟にあるだろうと考え、一番大きな建物を目指す。
というより途中で横を通り過ぎた小さな建造物は完全に倒壊していたり、土台しか残っていなかったりでとても中を探索出来る状況ではなかったのだけど。
放浪機と戦いやすい場所へのアクセスを重視してアルカンシェルを駐機した事もあって、中央棟までは少しだけ距離があった。
プローブやアルカンシェルの索敵サポートがあるとはいえ、念のため周囲を伺いながら進む。
「うう、静かすぎて不気味ですぅ……。風の音がお化けの声みたいですぅ……」
風の音と、私達が時折瓦礫を踏み潰す音ぐらいしか聞こえない中、マリエッタが弱音を吐いた。
まぁ、確かに不気味だよね。これが草原の真っ只中とかなら静寂が心地よいんだろうけど、何せ周囲はあきらかにかつて人の営みがあった場所だ。
ここが放棄……もしくは全滅してどれだけの時間が経っているのかはわからないけど、既に人の痕跡は何も残っていない。
そんな事を思うからか、風の音が誰かが嘆き悲しむような声に聞こえるのも致し方ないだろう。
「人がいなくなって随分と時間が経っているようですね」
「だね。1000年か2000年か……どれぐらいか想像も付かないよ」
マリエッタが聞いていることを意識して婉曲な表現を使うアリサに合わせ、私もそう答えておいた。
いなくなって、か。おそらくこの星の住民達は放浪機によって……。
「でも放浪機はいた」
私達のやり取りを聞いていたトワが不思議そうに言葉を発した。
この子が口にする何げない言葉はいつも私の凝り固まった思考をほぐしてくれる。今もそうだ。
確かにトワが言うように、放浪機がこの惑星上にいた。
宇宙空間にいた放浪機の本体は巡回中という説明が付くけど、地上にいた末端ユニットは何をしていたんだろうか?
通常であれば残敵の掃討任務なんだろうけど、ここに人がいなくなってかなりの時が経っているはずで、掃討すべき相手など残っているようには思えない。
末端ユニットというのが宇宙へ帰還する方法を持たない使い捨ての存在なのか、それともまだなにか地上ですべき事があると考えているのか……。
情報が少なすぎ、わからないことが多すぎる。実際に放浪機と遭遇して謎が余計に強まった感じすらあるのは頭が痛いところだ。
私がそんなことを考えていると、あたりの様子を眺めていたトワが口を開いた。
「何かいた」
「何か?もしかして、放浪機?」
「わからない。小動物……ネズミ?」
ネズミと聞いてアリサが露骨に嫌そうな表情をする。そういえばこの子、昔牢屋で監禁されていた時にネズミに悩まされていたって言ってたっけ。
でも、ネズミ?
こんな残骸しかない星で?
私は周りを見回したが、雑草のような植物も、昆虫の類いも見当たらない。食べ物になりそうなモノがないのに、その小動物はどうやって生き延びているんだろうか。
いや、それ以前に放浪機は生命の敵なんだから、たとえ相手が小さなネズミであったとしても容赦なく抹殺対象としていても不思議はない。
それなのにネズミは生存している。それって放浪機が探し求めている残敵がネズミだと言うことに……?
いや、まさか。
トワが小動物を見たという方向に目をこらしてみるが、何も見えず、何も聞こえなかった。
これが放浪機を見たという話なら、気配がなくとも警戒する必要があるけど、相手がネズミなら……気のせいだと考えても問題はないだろう。
私はそう判断して再び歩みを進める。
そしてようやくたどり着いた中央棟へ足を踏み入れ……絶句した。




