↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部12章『歪な三日月』ヨモツヒラサカ-永獄の惑星
361/561

#5

>>Alyssa


 不覚を取りました。

 刺突で放浪機の頭部……光っていた左目を正確に破壊したつもりでしたが、手痛い反撃を喰らった上に武器まで失ってしまいました。

 おのれ、あの光は攻撃を誘うフェイクでしたか……。ええ、それは当然です、実戦でわざわざ弱点を晒すなんてあり得ない事ですからね。


 私はかつてARゲーム(ローヒー)で戦った、コアをこれ見よがしに輝かせていたゴーレムのことを思い出しながら、少し反省しました。

 あの時は、弱点を晒していることを疑問に思ったのですが……もしかしたら、ゲーム脳になりかけていますか、私?


 そんなどうでも良いことを考えているのは、左腕の痛みを紛らわせようとしているからです。折れてはいませんが、しばらく両腕で戦うのは難しそうな感じです。

 カバーに入ってくれたトワ様に礼を言い、私はもう一つの武器にして奥の手である神剣ツクヨミを抜き放ちます。

 左手に激痛が走り、鞘を落としてしまいましたが……鞘を捨てて戦うなんて、まるで玉砕覚悟ではないですか、縁起の悪いっ!


「アリサ、大丈夫?撤退する?」

「いえ、まだいけます。ですよね、ツクヨミ?」


 私の言葉に、ツクヨミの柄から喜びのような感情が伝わってきます。

 そして、若干の非難のような感情も。トワ様に下がって頂き、私はツクヨミに向かって独りごちます。


「次は最初からあなたを使います。ですが……ちゃんと斬りなさいよ?」


 私の言葉と、アイリスさんが放った光条が放浪機の腰部を撃ち抜いたのは同時でした。

 ですが先ほど横目で見たガンナータイプの最後とは異なり、目の前の剣士型は腰を撃ち抜かれても平然としています。

 よく見ると剣士型は先ほど私が潰した左目以外にも右脇腹、左足の太股と右足の膝部分が光っていますね。……あと、白々しい感じで人間でいえば心臓にあたる場所も。


「……ごめん、アリサっ!」

「大丈夫です!それに、これは私の獲物です!」


 撃破出来なかったことを詫びるアイリスさんに向かって返事をしながら、私はツクヨミを構え、再度放浪機へ挑みます。

 敵は生意気にも頭部から抜き取った私のレゾナンスブレードを手にしています。お気に入りなのに!


 放浪機が雑に振り下ろしたレゾナンスブレードを、私はツクヨミで受け止めます。

 常識的に考えれば実体剣ではエネルギー武器を受け止めることはできません。先ほど、この放浪機がそうであったように。


 ですが……不滅の金属たるヒヒイロカネで打たれたこの神剣ツクヨミがレゾナンスブレードを受け止めることができる……いえ、それだけではなく、刃ごと破壊出来ることを私は身をもって知っています。

 実際にカレンとの戦いで破壊されましたからね。



 放浪機に感情があるのかどうかはわかりませんが、私が受けの姿勢を取った時点で勝ちを確信したことは間違いないでしょう。

 ええ、私もツクヨミを持ったカレンと対峙したときにそう思いましたから、放浪機(あなた)の気持ちは良くわかります。そして、あえて私の持つツクヨミを狙ってきた所を思えば、先ほどの意趣返し的な意味もあるかもしれません。

 ですが……その判断は命取りです!


 私はあえてツクヨミでレゾナンスブレードを受け、そのまま鍔迫り合いの体勢に持ち込みました。放浪機の膂力は確かに強いですが、実体を持たないエネルギー剣であるがゆえに押し込む力自体はそう強くありません。

 片手でもなんとか対抗できるレベルで助かりました。私が両手戦闘ができない不利な状況であえて鍔迫り合いを演じるのは……レゾナンスブレードとツクヨミが接する時間を稼ぎ、ブレードを弱体化、そして破壊するためです。


 1秒、2秒、3秒……徐々にブレードの輝きが揺らぎ始め、7秒を数えたところでC3が砕ける音と共に蒼い光の刃は霧散しました。


 ――また壊したと知られたらメラニーに文句を言われそうですし、さすがに今回は初期不良と強弁することは出来ないですよね――。


 そんなどうでもいいことを思いながら、私は再度武器を失った放浪機に神剣ツクヨミを振るいました。


 脇腹を狙った横殴りの一撃は先ほどまでの堅い手応えが嘘のように放浪機の胴を切り裂きます。

 返す刀を左足太股の光点めがけて斬り下ろし、最後に地面から掬い上げる形で右足の膝を切断します。

 眼前で爆発されるのはごめんですから、剣を振り上げた剣の勢いを乗せ、宙を舞うように後方宙返り蹴り(サマーソルトキック)を叩き込み、放浪機の機体を蹴り飛ばします。


 どうですか、トワ様。アリサの華麗なフィニッシュムーブは!

 着地と同時に残心を決めた私は内心でトワ様に語りかけました。いえ言葉に出してもよかったのですが、先ほどしくじって抱きとめられた身ですからあまり格好を付けるのもはしたないと思ったのです。


 蹴り飛ばした放浪機は空中でバラバラに分解し、アイリスさんが倒した放浪機の近くへ落着しました。

 一撃は食らいましたが、出血はしてない……よかった、トワ様に頂いた血を流すことは回避出来たようです。

 私は安堵しながら残心を解きました。……が。


「アリサ!まだ終わってない!」


 不意にトワ様の声が響きました。残心の姿勢から目を上げると……なんですか、アレは……!?


「うそっ、融合してる?ううん、あれは捕食?」

「いえ……あれこそが『侵食』なのでは……」


 あまりの光景に目を疑いました。

 私が蹴り飛ばした放浪機の上半身……心臓部分の発光する部分から触手のようなものが伸び、アイリスさんが倒した放浪機と、私が斬り飛ばした自身のパーツをまるで捕食でもするように取り込んでいるのです。


 あまりにも異様な光景にただ茫然とすることしか出来ない私達の前で、放浪機は二対の腕と二つの頭を持つ、元よりもさらに歪んだフォルムの屈強な、融合放浪機とでも呼ぶべきものが再生を果たしました。


「……倒せない、の?」


 トワ様のかすれた声が聞こえます。これは少し不味い状況です。

 おそらく私がフェイクだと思って破壊しなかった心臓部分が本当のコアで、剣士型の放浪機は完全に機能停止していなかったのでしょう。


 そして失われたボディを再生するために、もう一体の残骸を融合捕食……いえ「侵食」し、ボディを復元すると同時に強敵に相対するために強化を施した。

 さらに不味いことに侵食によって二つのボディが融合し、コアが見えなくなっています。これではアイリスさんの狙撃でコアを撃ち抜くことが出来ませんし、私が攻撃するにしてもどこを切るべきかがわかりません。


「……撤退しますか?」

「もう一手だけ試させて。それがダメなら逃げよう」

「わかりました」


 アイリスさんが言う「もう一手」とは、おそらく対放浪機用に開発されたというフェイザーの事でしょう。

 私は再度ツクヨミを構えて前に出ようとしましたが、私の前にレゾナンスシールドを展開したトワ様が立たれました。


「アリサ、下がって。時間は私が稼ぐ」

「イグナイトを使うという手もあります」

「あいつは素早い。私が隙を作るから、その後でイグナイトを」


 機族がベースになっている放浪機はおそらく私達の言葉を理解している。

 そう思った私達は今まさに立ち上がろうとしている融合放浪機を見据えながら、あえて具体的な言葉を声に出さずに作戦を立てました。


「ね、あれ……全部同じ素材だよね?」

「髪は明らかに違う材質に見えますが」

「ということはどこでもいいから捉えればいいわけじゃないのか……」


 フェイザーはサーチした物質を破壊する事はできますが、複合素材の場合はどうなるのか試したことはなかったと思います。

 ですが対象物を分析した上でその物質や防御フィールドを破壊するというフェイザーの性質上……おそらくあの無駄にサラサラした放浪機の頭髪をサーチしてしまうと、頭髪だけを破壊するという――たぶん、私達と放浪機本人の双方にとって――悲劇的な結果になりかねません。


 先ほどの戦闘時もそうでしたが放浪機は長い髪を振り回して襲いかかってきますから、サーチ時に髪が掛からないようにしないといけないというのは……もしかしてあの髪、フェイザー避けの防御機構ですか?

 いえ、そんなまさか。


 そんな事を考えているうちにも融合放浪機がこちらに向かって突進してきました。目標は……さっきほどベースになった剣士型を破壊した私ですね。

 やはり連中、意趣返しや報復のような概念、意思があるように思いました。

 トワ様がガードしてくださるとは言え、緊急事態に対応できるようにツクヨミを地面に突き刺したうえで、イグナイトの投擲準備を整えます。


「やらせない」


 トワ様はそう言い放つと私と融合放浪機の間に立ちはだかり……右側の2本の腕から同時に放たれたパンチを受け止め、いえ受け流されました。

 体ごと盾を半身ずらしたトワ様に、打撃の勢いをいなされ体勢を崩す融合放浪機。その胴体をめがけ、アイリスさんが構えたフェイザーからレーザーサイトのようなガイドビームが照射されました。


「トワ様っ!」

「ロックオン、サーチ完了!」


 イグナイトを放った私がトワ様に声を掛けるのと、アイリスさんがサーチを完了したのは同時でした。


 攻撃を受け流した勢いで半回転したトワ様が地面を蹴って融合放浪機の元を離脱。

 トワ様がいた空間をかすめるようにして私が投げ込んだイグナイトは飛び、そして融合放浪機の眼前で蒼い光が炸裂しました。


 全身を停滞(ステイシス)フィールドに覆われ、動きを完全に止める融合放浪機。


「――アナライズ、完了」


 イグナイトが形成したステイシスフィールドが稼いだ貴重な時間を使い、フェイザーは放浪機の解析を完了しました。

 そしてアイリスさんが躊躇なく放った虹色の光条は……ステイシスフィールドに接触した時点で一瞬停滞し、フィールドの消滅と同時に融合放浪機のボディに着弾します。


 音もなく、衝撃もなく。


 ただ、虹色の光がもたらす静かな破壊によって放浪機の姿は消滅しました。


 後に残されたのは放浪機2体分の頭髪のみ。さすがにそこからは再生しないと思いますが……アイリスさんは念のため、朱のイグナイトを投じて残った頭髪を焼き払われました。


「今度こそ、勝った?」

「……たぶんね。マリエッタ?増援は来てない?」

『はいっ!周辺に動体反応ありませんっ!っていうか何ですか、今の!キモいし、強いしっ!しぶといしっ!』

「あれが『放浪機』。全ての生命の敵、だよ」


 アイリスさんが呟いた言葉が、私達に重くのしかかりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。