#4
>>Iris
地表へは時間最優先のパワーダイブで降下しつつプローブを射出。地表直前で重力制御を行い着陸することにした。
こうすれば放浪機がアルカンシェルへ接近するまでの時間を稼ぐことが出来るし、その時間で私達が降機しアルカンシェルから距離を取れば機体をレゾナンスフィールドで守る事もできるからね。
負傷に備えてエアロック近くにメディカルマシンもスタンバイさせておいた。これのお世話になるような事態は避けたいけど、念のためだ。
放浪機を確認した方向と着陸位置、ハッチを開放する方向を元に戦闘区域の想定も行った。今の私達に出来る準備はこれで全てだろう。
覚悟を決めて、私はマリエッタにミッション開始を伝えた。
エアロックには窓が設置されていないから船外の様子は見えないけど、おそらく急降下する船体の周囲は赤熱していることだろう。
そして放浪機がそんな派手な着陸をする航宙船を見逃すはずはない。つまり、この方法で降下した時点で戦闘は確定ということだ。
「……良かったのかな」
思わず、弱気な言葉が口から出た。
放浪機の注意を引かないように、こっそりと降下をするという選択肢もなかったわけじゃない。
でも、巡回している放浪機の本体がいつこの星域に現れるかわからない状況を考えると、あまり時間的な余裕はなかった。でも……そんな後悔にも似たことを考えていると、私の言葉を聞きとがめたのかアリサが微笑みながら声を掛けてきた。
「良いに決まってるじゃないですか。こっそり降りて、いつ襲われるか怯えながら行動するのは性に合いません。それよりも、敵を呼び寄せて私達の戦いやすい場所で、私達が予定したタイミングで迎え撃つ。戦略的なアドバンデージは大きいですよ?」
『プローブ射出完了っ、地表到達まであと10秒ですっ!』
船内放送を介したマリエッタの声が聞こえる。まぁ、ものは考えようということか。私はアリサに頷くと、ブラスターを握る手に力を込めた。
『着地っ!エアロック開放しますっ!ご武運をっ!』
「じゃ、行ってくるね」
「お土産に放浪機の部品、持って帰る」
『いえ、それはいりませんっ!』
本気かどうか怪しいトワの言葉に思わず笑みを浮かべながら、私達はヨモツヒラサカの大地へ降り立った。
空気は乾燥していて、何の臭いもしない。建物が焼けた臭いでもするかと想像していたけど……ここが壊滅したのは、もうずっと前の出来事なのだろう。
踏み出した足下で、風化しきった建造物の欠片らしきものがあっけなく砕け散ったことで、私はこの星の滅亡が遠い過去の話であることを実感した。
『放浪機、エアロックの正面1.2Kmの位置まで接近っ!なおも高速移動中ですっ!』
「ではお先にっ!」
マリエッタの報告に、アリサが先陣を切った。
短く起動歌を詠唱し、蒼い光の刃を展開しつつアリサが走る。
私達が想定している戦闘区域はアルカンシェルから400m程前方。私達の方には遮蔽物があり、接近してくる放浪機には遮蔽のない空間が広がっている場所だ。
「トワ、行くよ!」
「うん」
「マリエッタ、フィールド展開。私達がいいって言うまでフィールド維持してね?」
『はいっ!』
アリサに遅れないように私達も彼女の後を追う。まだ肉眼で放浪機を捉えていないせいか、私の『絆』は発動していない。
いや、今回はさすがに『絆』が発動してくれないと困るんだけど……。
「会敵っ!」
アリサの声に意識を集中する。トワに遮蔽物の影で待機するよう手で指示し、私は狙撃の姿勢を取り、Xthの……愛銃のチャージを開始する。
……見えた!
逆光になっているので細部までは見えないけど、どちらも頭部に長い髪のようなものが見える。あれは、女性型の放浪機!?
二体のうち、前を走る一体は手に実体剣を、後方のもう一体は銃のようなものを持っている。
剣士とガンナーか……。
こちらと同じ構成とは想定外だった。しかしガンナー型はアリサと相性が悪いだろうから、私の担当だね。
注視するとガンナー型の放浪機には頭部……おそらく片側のカメラアイと、胸部、そして腰部に淡い紫の光が灯っているのが見えた。
「アリサ、ガンナーは貰うよ!」
「承知っ!」
アリサは既に剣士型の放浪機と戦闘を始めている。
後方で停止したガンナー型は遮蔽がない事を意にも介さず、射撃姿勢を取っている。狙いは……やはりアリサだ。
一応、僚機を撃たないよう配慮しているのか、むやみやたらと発砲はしないようだ。
[MAXIMUM CHARGE]
Xthの合成音声がチャージ完了を告げる。
狙いはガンナー。だけど、どこを撃つべきだろう?
相手が人間ならヘッドショット一択だけど、相手は元機族の放浪機。コアが頭部にある保証はない。
灯りが点灯している箇所はおそらく左目、それに胸部、そして腰部。ゲームじゃないんだから、あえて弱点を晒すような事はしないだろうけど……いや、アレはあえて狙わせるための偽装か!?
そう判断した私は、頭部を狙っていた照準を下方にずらし……腰部に灯る紫の光点を狙い撃った。
紅紫の光条が着弾した一瞬、故郷で戦った鋼の獣と同じように放浪機の前方の空間が歪んだ。
やはり放浪機には標準であの防御フィールドが搭載されているようだ。
けど今回もトワが調律してくれたブラスターの収束エネルギーレイは防御フィールドを貫通した。
針のように細い紅紫の光条は、狙い過たず放浪機の腰部に輝く光に吸い込まれゆく。
そして、光点が消えると同時に小規模な爆発が起き、上半身と下半身が分断された放浪機は動きを止めた。
「なんで腰?」
私が撃った部位が、頭でも胸でもなかったことにトワは不思議そうに問うてきた。
「普通、光ってるところを撃ちたくなるからね。それも頭と胸は人体の弱点でしょ?なのにあの放浪機は腰も光ってた。つまり、本当の弱点である腰の光が消せないから、そこを撃たれないようにあえて人間が撃ちそうな……でもあいつにとっては効果の無い所を光らせて攻撃を誘ってると思ったんだよ」
「お姉ちゃん、凄い」
トワがそう褒めてくれている間にも私はチャージを再開していた。アリサの援護をしないといけないからね。
でも、その必要は無かったようだ。アリサの振るうレゾナンスブレードは既に放浪機が持つ実体剣を切断し武装解除に成功していたから。
だけど……その割にはアリサの様子に余裕がない。
「なんですか、これ……本体に刃が通りません……!」
そうか、高出力とは言えブレード状になっているアリサの武器では放浪機の防御フィールドを貫通できないのか……!
だから本体から離れている武器を破壊することしか出来なかったんだ。
「アリサ、そいつ防御フィールドを展開してる!一点突破で!」
「……わかり……ましたっ!」
そう言うとアリサは放浪機を蹴りつけた勢いで後方に飛び退り、距離を取る。
そしてこれまでの斬撃中心の構えから、刺突の構えに切り替え、目にも留まらぬ突進で放浪機の……頭部を突いた!
「違う、アリサ!弱点はそこじゃない……!」
「えっ……?」
アリサが一瞬、呆けたような声を上げ……そして放浪機に殴り飛ばされた。
「アリサっ!」
トワが咄嗟に飛び出し、弾き飛ばされたアリサが私達のいる遮蔽物に叩き付けられないように抱きとめた。
「油断……しましたっ!」
アリサは咄嗟に左手でガードをしたようだが、顔は苦痛に歪んでいる。
しかも手にしていたレゾナンスブレードが……放浪機の顔面に突き刺さったままだ。
放浪機は破壊された実体剣を投げ捨て、自分の頭部から蒼い刃を抜き取ろうとする。一瞬、腕部から触手のようなものが伸びたように見えたけど……ブレードに触れた時点で触手は素早く腕の中へ収納された。
今のはどういうことだろう?
放浪機の行動が何を意味するのかはわからなかったけど、今はそれどころじゃない。
私は倒れたアリサとトワを守るために剣士型を狙撃しようとするが……まて、あいつは腰が光っていない?
一瞬、躊躇したが考えている暇はない。私はそのまま放浪機の腰を狙い撃った。




