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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部11章『彼方へと続く門』スターゲート-還遠の星門
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#10

 アリサが言おうとしていることはわかる。だけど、あれは過去の話で、人類は勝利したんじゃなかったの?

 でも、この光景は到底人類が勝利したように見えない。いや、むしろこれは人類が敗北し、逃走を試み……そして滅ぼされた痕跡にしか見えない。

 そんな事をする相手は……。


「……放浪機(バーサーカー)


 ぽつりと呟くようにこぼしたトワの言葉にアリサも頷いている。マリエッタは……そういえばこの子にはまだ放浪機の事を話していなかったっけ。

 けど、何の事かはわからないまでも、恐ろしい存在がいるという事実は理解したようだ。


「どのタイミングでスターゲートが閉じたのかはわかりませんが、結果的にここへ取り残された船は壊滅。運良くスターゲートを抜けられた船がフロンティアへたどり着き……おそらく、私達の祖先になったのではないかと」

「あのっ、そんな怖い敵が……近くにいるんですかっ!?」


 アリサの言葉にマリエッタが怯えた声を上げる。放浪機がどの程度の戦力かはわからないけど、今の私達がどうこうできる相手じゃない事は間違いないだろうから。

 なにせ残骸の中には本職の戦闘艦も混じってた訳だし、そもそもアルカンシェルは非武装だし。

 でも、私はそこまで悲観的ではなかった。なぜなら、この蹂躙は少なくとも1000年……場合によってはそれ以上前の出来事だと言うことがわかっていたから。


「大丈夫よ、マリエッタ。スターゲートを通って人類がペルセウス腕へ旅立ったのはずいぶんと前のことだよ。ならこの惨劇は1000年以上前のものだろうからね。アリサ、残骸の劣化状況も分析しているでしょ?」

「ええ。ですが……あまり楽観視できませんよ。大多数の残骸は千数百年から三千年ぐらい前のものだと計測されていますけど、中には一部700年前とか、500年前とかのものだと測定されているものもあります」

「それ……大規模な殲滅の後もここを船が訪れて、そのたびに破壊されてるってこと?」


 その状況を考えれば、スターゲートのこちら側にいた人類は千数百年前に滅亡した訳ではなくて、今も放浪機と戦い続けている可能性がある?

 戦況は劣勢で、時折スターゲートを通って脱出を試みる船がここを訪れている。……そして、閉じたゲートの前で、彼らは……。


「最新の残骸はいつ頃のもの?」

「観測範囲内にあるものだと約300年前のものが最新ですね」

「と言うことは……低いとはいえこの周囲に放浪機が徘徊している可能性はある、ってことか……」

「アイリスさん、G17が執拗に武器の搭載を勧めてたのってもしかして……」

「この状況を把握していた可能性がある……ううん、知ってたらきっともっと直接的に警告してたはずだよね。なら……きっと後続の船団が来ないことで、この状況を推測したって所じゃないかな。そして確定情報じゃないから、具体的な事は言えなかった……とか?」

「人工知性体は不確かなことは言えない可能性がありますから、そうかもしれませんね」


 もしかしたら、私はとんでもない失策を犯したのかもしれない。G17が勧めるように武器を積んでいれば、私達は身を守る術を得ることができた。

 ……いや、でもダメだ。複数の戦闘艦を撃沈する相手に、艦隊戦闘の経験が無い私達が単艦で立ち向かって勝てるはずがない。

 この状況下だと武器を持って抗うことよりも、持たないことで臆病に、慎重に逃げ回るほうが生存率は高くなる。私がそう考えていると、マリエッタが何か言いたそうにこちらを見つめていた。


「マリエッタ?どうしたの?何か意見があってら遠慮せずに言ってね?」

「えっと……その……いえ、何でもないですぅ」


 何かを言いかけて、でも決心が付かなかったようにマリエッタは口をつぐんでしまった。

 帰りたい、とでも言おうとしたのだろうか?確かに、この状況では撤退も一つの……それも、かなり有力な選択肢ではある。


「とりあえず放浪機がここを至近距離から監視している兆候は無さそうですね。もし監視しているなら、既に攻撃されていてもおかしくないですから」

「まぁ、後ろにこれだけ派手な重力波反応を放ってるスターゲートが開いてるし、遠目でも異常事態なのは探知できるか」

「さしあたって危険は無さそうですが、スターゲートが注意を引く可能性がありますし、連中が巡回している可能性も捨てきれません。ここへ留まるのは得策ではないと思いますが」


 アリサの言うとおりだ。少なくともこの場を離れる必要はある。問題は進むか、戻るかだけど……。


「アイリス、ゲートは閉じれないの?」

「そういえばG17は開けらると言ったけど、閉じられるとは一言も言ってなかったね。アルカンシェル、『鍵』を使ってゲートを閉じられる?」


[Negative.]

[Open Use Only.]


 アルカンシェルの答えは否定……つまり、「鍵」は開放専用ということだ。

 平時のゲート運用を考えれば「鍵」を持った艦が定期的に通行して開放状態を維持、一般の船は開いたゲートを利用する。

 そして非常事態には……開放コードを持った船がゲートを開かなければ、約半年というタイムラグはあるけど通行制限を自動的に掛けられるという事になる。ある意味、合理的な仕組みだけど……今はこれがネックになる。


「閉じられないってことは、少なくとも約半年間はゲートが開きっぱなしだよね。仮に私達が撤退しても……ゲートは開いたままだし、そこから放浪機が入ってきたら、私達の宙域が危険になる」

「私達の進退に関わらず、ゲートが開いている以上は放浪機侵入のリスクが発生したということですね。もしかしてメラニーがスターゲートの情報を隠蔽していたのは、このリスクを知っていたから……?」


 スゥ局長が情報統制を行っていた理由、確かにそうかもしれない。

 情報を独占することで利益を得ることもあり得なくはないけど、スターゲートの情報は利益に通じるとは思えないし、むしろ開くことによる危険があまりにも大きすぎた。

 もしかして、私達は反抗期の子供のようにスゥ局長の庇護下から勝手に飛び出して、とんでもない危険を招いてしまったんじゃないだろうか………?


「アイリス。何を考えているのかは想像が付きますが……それこそ、今さらですよ。それに私達がスターゲートを超えようとしていることをメラニーは把握していたはずです。本当に止める気があるなら、なんとしてでも手を打ってきたはずです」

「この状況をゲートが開く前に知っていたなら……トワには悪いけど黙って立ち去るべきだったとは思う。けど、でももうゲートは開いちゃってるから……」

「あの、アイリスさんっ。この状況なら進むべきだと思いますっ」


 私とアリサが自分達の決断が招いた危険――いや、これはもはや「罪」だ――について猛省しつつも考えを巡らせていると、マリエッタが再び口を挟んできた。


「どうしてそう思うの?」

「スターゲートを開いた事はもう変えられない事実ですけどっ、せめて、ゲートのこちらがどうなっているかの情報は集めておくべきだと思いますっ!それに、私達がスターゲートを開かなくても、こちらから誰かが開く可能性だってあるんですからっ!」

「そっか……それは、そうだね」

「アイリス。私も進むべきだと思う」

「トワも偵察が必要だと思う?」

「ちょっと違う。私は『神産みの神』に会いたい」


 「神産みの神」はG17が言っていた、ヨモツヒラサカという惑星にいるという存在だ。もしかすると、セレスティエルを産み出した母親の様なもの……トワのお母さんと呼べる存在である可能性がある。

 そうか、トワは思慕の念を感じているのか……そう思ったのだけど。


「そこへ行けば、味方が見つかる。セレスティエルとか、神剣とか」


 そうか、もしそのヨモツヒラサカが健在であれば放浪機に抵抗し続けている可能性がある。

 つまり、私達の宙域が放浪機から身を守る他の手段が得られる可能性があるということだ。正直な所あまり勝算の高い賭けではないけど……それでも、何もせずにたた逃げ帰るよりは余程ましだろう。

 なら、私達は前進すべきだ。


「アリサ、前進で……いい?」

「はい。私はもとよりトワ様の向かうところへ付きそう介添人ですから」

「なら、私もトワと共に進む守護者だから……だね」

「あのっ、マリエッタ……マリエッタもなにか役目が欲しいです!」

「荷物持ち?」

「トワさん、酷いです!荷物持ちはブリギッタのお仕事ですっ!」


 かくして私達は、先へ……ヨモツヒラサカへ進むことを決めた。


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