#9
>>Iris
トワの言葉に私達は前進することを決定した。
だけど、超空間チューブを抜けた先には間違いなく何かがある。
私は撤退も考えたけど、トワの言葉に考えを改めた。危険が無いと思って飛び出して危険な目にあうより、危険があると知った上で慎重に出る方がむしろ安全だ、と。プローブのロストは警報だと考えを切り替えることにしたんだ。
だから私達は可能な限りの準備を整えた。まず、コスモスーツの着用。そして酸素供給フィールド発生装置の装備。気休めだけど、緊急時のサバイバルパックを各自で装備。そして、シートへの着席。
「全員、シートベルトの着用確認。大丈夫?」
「うん」
「はいっ」
「間違い無く」
「じゃ、行くよ。アルカンシェル、微速前進」
私の声にアルカンシェルはゆっくりと前進を開始する。そして……空間の揺らぎに船首部分が接触し、私達の視界と全てのセンサーがブラックアウトする。ここまでは予想通りだ。そして……。
「通常空間へ復帰しま……きゃっ!」
マリエッタの報告が途中で止まる。だけど、誰もそれを気にする余裕がなかった。
なぜなら、アルカンシェルが猛烈な「攻撃」に晒されたからだ。通常空間の星空が船窓に映し出されたと思った瞬間に、猛烈な衝撃が船体を揺らす!
「レゾナンスフィールドの負荷、急上昇!限界値が近いです!」
「衝撃、機体前面に集中してますっ!このパターンは……質量弾!?」
「どこから攻撃されてるの!?」
私は目をこらすが船窓は既に最大出力で展開されたレゾナンスフィールドの輝きで覆われ、周囲の周囲の様子をうかがうことが出来ない。
アルカンシェルが表示したフィールドの負荷状況は船首部分を中心に機体前半部分を広範囲に乱打されている状況だ。
まるで散弾銃を立て続けに撃ち込まれているような……。誰が、何のためにこんな事を!?私がフルスピードで現状宙域を離脱すべくアルカンシェルに指示を出そうとした時だった。
「アルカンシェル、止まって」
「トワっ!?止まったら狙い撃たれる!」
「違う。これ、攻撃じゃない。ほら」
そう言ってトワが指さす先、船窓の向こうは……いつの間にかレゾナンスフィールドの輝きが消えていた。
つまり、船体への攻撃が止まっているということだ。そしてその代わりに見えたのは……宇宙空間に漂う無数の残骸だ。
「もしかして……私達、スペースデブリの真っ只中へ出てきたの?」
「うん。たぶんケーブルもデブリに引っかかって切れた」
トワの言葉に改めて周囲の様子を観察する。
確かに周囲には無数のデブリが浮遊している。殆どは静止しているけど、中には動いているものもあるようだ。なら、射出したプローブのワイヤーが接触によって切断される可能性が無いとは言い切れないだろう。
そして恐ろしいことに気が付いた。
もし私がフルスピードでの離脱を指示していたら……デブリがアルカンシェルに衝突する速度は相対的に高速化し、フィールドと船体が受けるダメージは増加していた。
……つまり、自滅していた可能性がある。私は、危うく全員を死なせてしまうところだった……!トワが先に指示してくれていなかったら、取り返しの付かない結果を招いていた。
「トワ、ありがとう。私……もしかしたら」
「お姉ちゃん。私達は、無事だった」
いつの間にかシートベルトを外したトワが私のところへ歩み寄り、手を取ってくれていた。
突然攻撃された思って。そして、危うく判断ミスで全員を死なせかけて。私は自分の判断ミスに恐怖していた。
「アイリスさん、ごめんなさいっ。マリエッタが質量弾なんて言ったから勘違いさせましたっ」
「私も、フィールドの負荷に焦ってしまいました。申し訳ないです」
私が判断ミスをしかけたことにアリサ達も気が付いていたんだろう。そうフォローしてくれる。
だけど、指揮を執っていたのは私だから……。
「アイリス、この旅を決めたのは私。だから、責任も私のもの」
「……トワ?」
「私は、アイリスのこと信じてる。でも私も、自分の出来ることをしたい。だからね」
「……」
「泣かないで、アイリス」
トワの言葉に、私は自分が涙を流していたことに初めて気が付いた。
これは、恐怖と後悔の涙だ。
「アイリスさんは泣いてからが強いってメラニーも言ってましたよ?」
「嘘っ!?」
「コバヤシマルの時も、泣きべそかきながら最後まで指揮を続けたと聞きましたよ?一度判断ミスをしても、きっと最後まで諦めずに生存の道を探り、最後には勝利する。それがアイリス・ブースタリアでしょう?」
「マリエッタが付いていれば、アイリスさんは無敵ですっ!たとえピンチでも、お助けしますからっ!」
アリサとマリエッタもそう言ってくれる。私は……なんて素敵な仲間に恵まれているんだろうか。
いや、仲間じゃないね。トワも、アリサも、マリエッタも。みんな私の大切な家族だ。家族を守るために、私は最後まで諦めたらダメなんだ。
「ごめん。ありがとう。私……私……」
「アイリス、大丈夫。みんなアイリスの言いたいことわかってる」
言葉に詰まる私をトワが優しく抱きしめてくれた。これじゃ、どっちが姉だかわからないよ……。
その後、私は顔を洗うために一度ブリッジから退出し、気分を切り替えることにした。トワの前で泣くなんて、随分と久しぶりな気がする。子供の頃以来だろうか?
冷たい水で顔を洗い、ブリッジへ戻りながらそんな事を考える。
戻ったブリッジではアリサが中心になって周辺の状況確認が進んでいた。
「ごめん、戻ったよ。どうなってる?」
「お帰りなさい、アイリスさん。周辺宙域の状況わかりました。けど……思ったよりシリアスですよ、これ」
そう言ってアリサが報告してくれた内容は、予想を遙かに超えた状況だった。
私達の周囲を取り囲んでいるデブリは、ほぼ全てが航宙船の残骸。それも一隻や二隻ではなく、大艦隊と呼んで良いレベルの航宙船がこの宙域に沈んでいる、と。
「数はわかる?」
「デブリの数は計測不能。船の数も……計測不能ですね。バラバラになってますから」
「それって……」
「航宙船の墓場?死期を悟った航宙船が集まる?」
「当たらずとも遠からずですね」
アリサの言葉にトワが軽口を叩く。なに、その象の墓場みたいなのは。
私はツッコミを入れようとしたけど、その前にアリサがトワの言葉を肯定した。
「ここの船、破壊されてますよ。外的な攻撃で。ほら、爆発だけじゃなくて、熱線か何かで溶断された形跡が残ってます。この船だけじゃなくて、観測できる近くの船全てが同じ状況です」
そう言ってアリサが拡大表示した船の残骸には破壊の痕跡がありありと刻まれていた。
その攻撃は単に船を撃墜するだけには留まらず、執拗に繰り返されていたことが明白で……この宙域にはどうみても生存者など残ってはいないことが一目でわかる状況だった。
「どういう状況だか……わかる?」
「えっと、推測でよければっ……」
そう言ってマリエッタとアリサが説明したのは、あまり考えたくない事態だった。
まず、船の残骸が多く散らばっているのはスターゲートの正面方向だと言うこと。一部の残骸はスターゲートの周囲や後方にも散らばっているけど、それらは残骸が慣性で飛び散ったレベルで、殆どの残骸は正面に集中しているらしい。
そこから予想できるのは……。
「リテル型のスターゲートは単艦移動用だということですし、残骸の分散パターンを分析した結果だとおそらく一列縦隊でゲートを抜ける順番を待っていたのだと思います。そこへ、後方から何者かが襲いかかり、蹂躙した」
「逃げて来た船団を『敵』が追撃してきた……ってこと?」
「状況証拠的には、そうですね」
「でも、この船団が向かう先って『フロンティア』のはずだから、これは移民船団でしょ?規模はちょっと考えられないぐらい大きいけど」
私の言葉に、アリサは少し考えてから口を開いた。
「移民船団ではないかもしれません」
「どういうこと?」
「マリエッタ、残骸の修復シミュレーションを出して下さい」
「はいっ」
そう言ってアリサが表示させたのは、周囲に散らばる残骸をパズルのピースのように組み立て、元の船舶の形状を――あくまでも推定だけど――修復した結果だった。
表示される船舶のパターンは……現在で137通り。そして、修復シミュレーションは続いているのか、どんどんその数は増えている。
表示されているデータをいくつか見てみたけど、そのサイズも形式もバラバラで移民船らしきものも確かに含まれていはいるけど、大半は輸送艦、観光船、連絡艇で……そして戦闘艦のようなものも混じっている。
これって……。
「見ての通り、これ移民船団と言うより……難民船ですよ」
「色んな星から命からがらスターゲートを通って逃げ出そうとした。でも、追撃されてここで壊滅した……ってこと?」
「ええ。そして、そんな攻撃をしでかすような相手には……心当たり、ありますよね?」




