#6
>>Towa
教授が怖いというマリエッタを再教育するために、スターゲートへ向かう航行中に私とマリエッタは「ホワイトタワーSeason3 ザ・イゼン、愛と旅立ち-魔界編-」を観ることにした。
亜光速航行だとスターゲートまで半日掛かるらしいから、待ち時間にホロムービーを観るのは正しい時間の潰し方だからね。
せっかくだから4人で観ようと思ったのに、アイリスもアリサもブリッジで哨戒に当たるからと言って断ってきた。
お姉ちゃん達は付き合いが悪い、と拗ねてみせたらアリサは一緒に観てくれることになったけど……アイリスが観ないと、ネタバレトークが出来ないじゃない。
「はわぁ……ザ・イゼン教授、魔界でも大活躍ですねっ!」
「閻魔大王の法廷で六法全書を武器に大立ち回り。格好いい」
「法廷バトルって、普通は物理バトルじゃないですよね?それに愛の要素もタワー要素も、皆無でしたよね?一体誰ですか、こんなホロムービー撮った監督は……」
「アサイ・ラム監督?」
マリエッタは気に入ってくれたけど、アリサは納得のいかない顔をしている。これはアイリスも誘って第2回の上映会をしないといけないね。
そんなことを言っているうちに、ブリッジにいたアイリスがスターゲートが見えてきたと教えてくれた。
周囲に星が殆ど見えない、漆黒と表現するのが相応しい宇宙空間にその円環は浮かんでいた。
比較対象になるものがないから大きさは良くわからなかったけど、アルカンシェルが計測したサイズ表示では直径3Kmのリングだと表示されている。
望遠センサーで捉えた映像には円環の表面が拡大表示されているけど……あれは石材?いや金属?硬質なものだという事はわかるけど、何かははっきりしない不思議な材質で出来ているように見える。
そして表面に刻まれている文字とも記号とも言えない文様。周期的なパターンがあるようにも思えるから、ただの飾りというより文字の類いじゃないかと思うけど……まったく読み取れそうな気がしない。
「あれが……スターゲート……」
「人類以外の知的生命体が創造したものだという話だけは流布されていますけど、実物を見るとたしかにそう思えますね」
「詳細は不明なのに、事実が流布してるのもおかしな話だよね……」
アリサとアイリスがそう言っているけど、私は別のおかしな点が気になっていた。
「アイリス。どうしてあれはこっちを向いてるの?」
「向いてる……ってどういうこと?」
「あの輪、アルカンシェルの真正面を向いてる」
「……アルカンシェル、スターゲートの法線ベクトルと、私達から観た視線ベクトルを測定して内積を求めてみてください!」
[Calculation Completed Result: 0.999]
「……アリサ、それって」
「ええ、トワ様が言うように、スターゲートは私達に直交する向きに……つまり、ほぼ真正面でこちらを向いた状態にあります」
「偶然……じゃないよね?」
「宇宙空間に浮いた物体に無作為に接近して、こんな真正面に出る確率は0ではないにせよ、限りなく0に近い……ですね」
やっぱり、私が思ったとおりスターゲートはこっちを向いていた。アリサがアルカンシェルに指示して計算させた結果の意味は良くわからないけど……たぶん、ほぼ真正面ということを示してるんだと思う。
「アルカンシェル、スターゲートを最初に観測した時点から現時点までの間にゲートが移動したり回転したりした形跡はある?」
[Negative.]
「なら、スターゲートが私達の方を向いた訳じゃない……か」
「もしくは私達が探知できる距離よりも遠くから探知されていた、とかですか?」
「でも、あのリングっ、推進装置の類い付いてないですよっ?」
マリエッタが言うように、スターゲートの円環はレリーフこそ施されているけどそれ以外に外部に目立った装置類は付いていない。
アイリス達はスターゲートが私達の方を向いたと考えてるみたいだけど、多分それは違う。きっと……。
「ゲートを出て、真っ直ぐ進んだらフロンティア」
「……!そうか、ここをくぐって出てきた船団がそのまま直進するとフロンティアがある恒星系へ行き着く……だから、フロンティア方面から来た私達は、否応なくゲートの真正面に出るってことだね?」
「たぶん」
「つまり私達は、人類が辿った開拓の道のりを逆に辿ってきた。その証拠が、あのスターゲートの向きだと言うことですね。感慨深いです」
どうやらそういうことらしい。スターゲートをくぐってきた開拓船団はそのまま直進して、最初に見つけた居住可能な惑星に橋頭堡を築いた。そこがフロンティア。
スターゲートが違う方向を向いていたら、きっと今私達が住んでいる星域とは違う方向に文明圏が出来ていたんだろうね。
「マリエッタ、学会発表する?」
「あの、先に拳法を学んでからにしますっ!」
うんうん、ちゃんと「ホワイトスター」を見せた教育効果が出ているね。
その後、さらに接近した私達は肉眼でスターゲートの様子を観測できる場所まで近づいた。アイリスの指示でアルカンシェルが精密探査を行ったけど、材質や動作原理などは一切不明。
だけど不思議な事があった。何故かスターゲートを探査したアルカンシェルが返してきたデータにスターゲートの「名前」が記されていたんだ。
「スターゲート・リテル03……?」
「アルカンシェル、リテルというのはどういう意味ですか?」
["Lytel" Means "Small Size"]
「つまりあれは小型スターゲートの3番ってこと?」
「あれで小型なんですか……。それに3番と言うことは最低でもあと2つ、場合によってはそれ以上スターゲートがあるということですね」
「ギルドの情報ではもう一つだけだったけどね。G17に他のゲートの事も聞いておけば良かったよ」
小型が意味する事が気になった私がアルカンシェルに聞いた所によると、単艦移動用のスターゲートがリテル。小規模な船隊が通過できるものがミデル。大艦隊や機動要塞が通過できるサイスのものがエセルというクラスになるらしい。
残念ながらアルカンシェルのデータには他のスターゲートの位置情報は記録されてなかったけど、アイリスはそんなクラス分けがされていること自体、宇宙のどこかにミデルやエセルのスターゲートが存在している証拠だと言っていた。
「宇宙、すごい」
「うん、これは本当に凄いとしか言いようがないね。機動要塞がそのまま通れるサイズのスターゲートって一体どんなサイズなんだか……」
私達はしばらくスターゲートや宇宙の広大さについて語り合ったが、ここでこうしていても話は始まらない。
なので、意を決してアイリスがアルカンシェルに向かってスターゲートを開く様に指示を行った。
「アルカンシェル、『鍵』を使ってスターゲートを開いてちょうだい!」
[Sorry, Cannot Approve Order, Lady.]
あれ、アルカンシェルがアイリスの指示を拒否してる?
G17は持ってると言ってたけど、実はアルカンシェル、「鍵」を持ってなかったのかな?そう思ったんだけど、よく見ると続きが表示されていた。
[Only Captain Can Give Order.]
「……私?」
[Yes, Mam.]
アルカンシェルは船の所有者である私の指示が無いとスターゲートは開けないと言ってるらしい。私は思わずアイリスの方を見てしまった。
「いくら私達の言うことを聞いてくれるとはいってもこの子的にご主人様はトワだけって事だね。ちょっとだけ嫉妬しちゃうけど」
「なんか、ごめん」
「トワ、アルカンシェルに指示してあげて?」
「わかった。アルカンシェル、『鍵』を開けて。私をスターゲートの向こうへ連れて行って」
[Yes, Mam!]
[Gravity Wave Oscillation.]
[Gate-Open Code Transmission... Completed.]
私の言葉に、アルカンシェルが「鍵」を使ったスターゲート開放手順を進めていく。見た目は何も変わらないけど、たぶん重力波通信というやつでゲートを開けるためのコードを送っているんだろう。
やがてスターゲートの表面に刻まれていたレリーフが仄かに輝きだした。そして……ゲートを構成する円環の中心にも変化が現れる。
「何ですか、アレっ!?」
「……黒い……光?」
マリエッタの疑問に、アリサが茫然とした声で答える。
そう、円環の中に発生したのは本来存在し得ない筈の「黒い光」としか表現できないものだった。円環の向こうは星の無い漆黒の空間なのに、なぜか黒い光に照らされた空間が少しずつ歪んでいくように見える。
「私達……今、とんでもないものを見てるんじゃないかな……」
「ええ、この光景を見れただけでも、来た価値はあったと思えますね」
「動画、撮っておく?」
「接近時から既に撮影してますっ!」
そんな事を言っている間にも黒い光が歪める空間は徐々に大きくなっていく。その後も黒い光がゆっくりと拡大し、20分程掛けて空間の歪みは円環の2/3を覆う虚無の穴へと拡大し、そして安定した。
[Open Confirmation, Passage Possible.]
[Navigable, Mam.]
「トワ、アルカンシェルが航行可能だって言ってるよ?」
「うん。……でも、いいの?」
「トワ様?ここまで来ておいて今さらですよ?」
「そうですよっ!ここで引き返したら、学会発表できませんっ!しませんけどっ!」
「だってさ。行こうか、トワ」
アリサが、マリエッタが、アイリスが。皆が私を後押ししてくれる。
だから、私は皆に頷いて、アルカンシェルへ告げる。
「アルカンシェル、発進。目標、スターゲート。微速前進」
[Yes, Mam!]
ジャンプドライブを起動した時と同じような空間変調を感じながら……私達はゆっくりと虚無の中へと滑り込んでいった。




