#5
>>Alyssa
半日間の観光は大きなトラブルもなく、無事に終わりました。文化も芸術も技術も発達した星なので、時間があればもっとゆっくり滞在してみたいようにも思いましたが……今の私達は未知の世界への旅の途中です。
どうせ帰路もここを通るのですから、さらなる観光は帰りの楽しみということにして、出立準備の最終確認を行います。
プローブユニットの取り付け作業と物資の搬入は予定通り終了しており、それぞれのチェックも終わっています。ですので私達はついにスターゲートへ向かって旅立つ事になりました。
ギルドに秘匿された情報によれば、スターゲートの場所はリュックラセからさらに5.2パーセク離れたところで、私達が暮らすペルセウス腕の外縁に近い宙域です。
そこは星の密度も薄く、ここにスターゲートがある事を知っていなければ訪れる理由すらないような、何も存在しない宙域だと言ってもいい場所といえるでしょう。
スターゲートに関する情報が得られなかったので直接ゲート近辺へジャンプするのはリスクがあると判断した私達は、星図に記載されたスターゲートに最も近い恒星系へとジャンプ。そこから亜光速航行でスターゲートを目指すことにしました。
経由地点の恒星系はただ通り過ぎるだけの場所。そのつもりだったのですが……。
「アイリスさんっ、この恒星系……人類が生存可能な惑星がありますっ!」
「……星図にはそんな惑星、載ってなかったよね?」
「はいっ。でも……アルカンシェルさんの分析によると、入植適合率48.7%だそうですっ!」
「微妙な数字だね、それ」
入植適合率の数値は惑星環境や資源の埋蔵量などを総合的に評価した上で求められるざっくりとした指標です。
85~100%は問題無く入植でき、快適に過ごせる環境。
私の故郷であるペレジスや、リゾート惑星であるミラジュミナ、それに私達が最後に立ち寄ったリュックラセがこのグループに属します。
60~84%のグループは何らかの問題がある惑星。
暑すぎたり、寒すぎたり。あるいは地下資源や水資源、エネルギー供給に難があったり。
技術によって補うことはできますが、他に候補があるなら別の星を開拓した方がコストパフォーマンスが良いとされる惑星群です。
トワ様達の故郷である資源惑星CM41F3Cや、ミリシャの嫁ぎ先である極寒の工業惑星カルデクスがこのグループに入ります。
60%未満の入植適合率となると、基本的には開拓は行われません。
ある程度の惑星改造を施さない限り人類が生活するには不適であったり、外部からの資源輸入が必須になるためで、余程の理由が無い限り開拓に要するコストと得られるベネフィットの釣り合いが取れないケースが殆どだからです。
口の悪い航宙船乗りに言わせれば「墜ちても死に損なう星」だそうで……確かに、適合率0%で即死する星に比べればまだマシですが、人が住む場所とはとてもいえません。
ちなみに潮汐ロックの掛かった過酷極まりない環境のタカマガハラの入植適合率は22.6%でした。
……あの星を立て直そうと頑張っているアキラには悪いのですが、普通の感覚で行けばタカマガハラへの入植は「狂気の沙汰」でしかありません。
ただ、アイリスさんが手を打ったギルドによる支援と住環境の改善、それにC3の発見によっておそらく再評価はされるでしょうから、将来的に数値は改善するとは思いますが……。
ともあれ、入植適合率48.7%であるこの恒星系の惑星が放置されていること自体は特におかしな事ではないのですが、問題は星図に載っていないということです。
データに恒星系が載っているということは遠距離からとはいえこの宙域の観測は行われているはずですが、観測者が惑星を見落とすということは基本的に有り得ません。
「アルカンシェル。あなたに記録されている古代の星図を参照してこの恒星系の情報を出してくれる?」
アイリスさんもこの惑星の不自然さに気付いたようです。そして、アルカンシェルが表示したデータには……惑星「フロンティア」の記載がありました。
「座標情報や観測できる惑星情報を見る限り、あれが『フロンティア』なのは間違いないみたいだね?」
「そうですね。しかもアルカンシェルのデータだとこの星、人類が入植していることになってますね。マリエッタ?」
「えっと……通信波検知できず、航宙船の航行検知できず。惑星上、夜の面に灯りの類いは確認出来ず……軌道ステーションも確認出来ませんっ!」
マリエッタが報告する内容はすなわち、フロンティアと言う惑星に今は人類がいないということを意味しています。つまりこの星は……
「正真正銘のロストプラネットって事か……」
「アイリス、フロンティアってあのフロンティア?」
トワ様が言われるのは惑星名のことですね。
フロンティアとはすなわち開拓の最先端領域を指す言葉です。惑星フロンティアがスターゲートに最も近い恒星系に存在すること、そして近傍宙域に人類最古の入植地であるリュックラセが存在すること。
そして何よりもフロンティアと言う惑星名の由来を考えれば……この星の来歴と、辿った運命はおおよそ想像が付きました。
「そうだね。きっとここはかつてのフロンティアだったんだよ。私達人類がスターゲートを使ってオリオン腕からペルセウス腕へとやってきたときの、ね」
「入植適合率48.7%ですから、環境は良くありませんよね。おそらく、開拓拠点としてまず橋頭堡を築いてはみたものの、近くにもっと条件の良い星が見つかったので全員でそちらへ移住した……というところでしょうか」
「でもっ、これ!人類史に残る大発見じゃないですかっ!オリジンスターがスターゲートの向こうにあって、私達がそれを超えてきたっていう証拠ですよねっ!?」
マリエッタは興奮した口調でそう言いますが、アイリスさんは……おそらく私も冷めた表情を浮かべています。
トワ様は……いつも通り、あまり興味が無いのかぼーっとフロンティアを眺めておられます。ええ、その横顔はとても素敵ですね。
「マリエッタ、これ学会に発表する?学会賞とって教授になれるかもよ?」
「たぶん、ギルド諜報部が放った暗殺者のおまけも付いてくるでしょうけど」
「ひゃぁ、教授は怖いですっ!」
「ザ・イゼン教授は怖くない。格好いい」
怖がる対象が暗殺者ではなく教授の方なのは……きっとトワ様お気に入りのトンデモB級ホロムービーシリーズである「ホワイトタワー」の影響ですね。
それはさておき、古い星図には載っているのに不自然にその痕跡を消された惑星フロンティアの存在。それはあからさまに人々の注意をスターゲートから逸らすための隠蔽工作であると私は考えました。
誰の差し金かは考えるまでもありません。
「やっぱりスゥ局長の差し金……だよね?」
「むしろあのタヌキババア以外に誰がこんなことするんですか?」
「まぁ、今回私達の目的はスゥ局長の陰謀を暴くことじゃなくて、スターゲートを超えてその先へ行くことだからね。フロンティアのことは記憶に留めておいて、先を急ごっか」
「ええ、それが良いかと。トワ様もマリエッタも、それで良いですか?」
「うん」
「はいっ、教授は怖いですから!」




