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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部11章『彼方へと続く門』スターゲート-還遠の星門
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#4

>>Towa


 ようやく安静解除になった!

 3日程とはいえ、自由に歩き回れないのは本当に辛かった。アリサは良く3週間も我慢してたなぁ……。そんな事を思いながら、私はお出かけの準備をする。

 と言っても、いつも通りの服装でポケットに多めにグリット(かちこち)を放り込むだけだけどね。準備を済ませてラウンジに出た私をアイリスが呼び止めてきた。


「トワ、ちょっと待って。今日はちゃんとボトムスを履いてね?」

「どうして?」

「怪我そのものは治ってるかもしれないけど、傷跡はまだ消えてないでしょ?そんな大きな傷を見せびらかしながら歩き回る気?」

「別に見られても困らない」

「私達が困るの!妹を虐待してるみたいに思われるでしょ!?」


 アイリスはおかしな事を言い出した。私のお姉ちゃん達がそんな事をするはずがないのに。

 私はそう抗弁したけど、アイリスは首を縦に振らなかった。ズボンを履くか、長いワンピースを着ない限り地表には降ろさないと宣言された。


 うーん、どっちも面倒だ。私とアイリスがラウンジで押し問答をしていると、よそ行きのドレスに身を包んだアリサが私室から出てきた。いつもバッチリおめかししているアリサだけど、今日はひときわエレガントな感じだ。

 あれ?観光に降りるって聞いてたけど、どこかでパーティにでも参加するんだろうか?


「何の騒ぎですか?」

「トワの足、剥き出しだと傷が見えるから。ズボンを履くかワンピースを着るかどっちかにしろって言ってたんだよ。アリサも言ってやって?」

「トワ様、全裸という選択肢も……」

「アリサっ!」

「……冗談です。でも、傷を保護するためにも衣服は必要ですよ。良ければこのアリサがトワ様の服を見繕いましょうか?」


 アリサはそう言ってくれるけど、前に一度アリサに服を見繕ってもらったとき、フリフリのリボンまみれのやつを選ばれて大変だったからね……ここは遠慮しておこう。

 私がそう決意したとき、マリエッタもラウンジへやってきた。事情を一目で察したらしいマリエッタが言う。


「じゃあ、わたしとお揃いのはどうですかっ!?」

「うん、それはいいかも。トワ?マリエッタが選んでくれた服があったでしょ?」


 リンデールで買った服は、フリフリのやつと、普通目のワンピースと、アクティブな感じのやつ。

 あの三択ならアクティブなのが一番マシだけど……いまマリエッタが着てるのは普通目のワンピースだ。お揃いってことは、これを着るのか……。

 私が少しブルーな気分になっていると、それを察したのかマリエッタが悲しそうな声で言った。


「やっぱりマリエッタの選んだ服じゃ、トワさんには気に入って貰えないですよね……」

「……そんなことない。着る」


 悲しそうな目と声でそんな事を言われたら、着るしかないじゃない。

 私はしぶしぶ私室へ戻って着替える事にした。背後で何故かアリサが「マリエッタ……恐ろしい子……」と呟いてたけど、どういう意味なんだろうか。



「トワ様っ、とても良く似合っておられます!」

「わぁ、マリエッタよりも似合ってますっ!」

「うんうん、さすが私の妹だよね。何着ても可愛いし、天使だし、もう最高」


 着替え終わってラウンジへ出ると、3人揃って私を褒めてくれた。んー、何を着てても私は私で変わらないんだけどな……。そんな事を思いながらも、私達はリュックラセへ向かう。

 ちなみに今回アルカンシェルは直接リュックラセの軌道ステーションに停泊している。

 けどプローブユニットとか言うのを取り付ける作業のために、業者が保有しているドックへ係留しているから通常の駐機場料金が掛からないと聞いて私は一安心した。だって高いからね、駐機料。



 ドックから入星ゲートへ向かう道すがら、マリエッタが私の方をチラチラと見ている事に気が付いた。顔に何か付いているかと思ったけど……視線は足下に向いているから、顔じゃないね。

 スカートがめくれてるかと思ったけど、それも違った。なら、たぶん足の事だろう。


「足、もう平気」

「ひゃぁ、見てたの気付かれてましたっ!?で、でも凄いですね……あんな怪我だったのに。まだ3日しか経ってないのにっ!」


 そういえばマリエッタはセレスティエルやテロマーの治癒力を見るのは初めてだっけ。

 アリサも輸血が必要な重傷を負ったけど、2日ぐらいで目を覚ましてたし。まぁあの時は私が輸血したっていうのもあるのかもしれないけど。

 そんな事を話していると、小首をかしげたマリエッタが言った。


「トワさん達の血液って、特別なんですねっ?」

「そうらしい」

「じゃあ、その血……例えばわたしに輸血したらどうなるんですかっ?」


 人間の血液をテロマーに輸血しても、あんまり効果がないってカルティアもアリサも言っていた。だから、私がアリサに輸血したんだけど……その逆は考えたことがなかった。

 マリエッタの疑問に私も首をかしげていると、前を歩いていたアリサが会話に加わってきた。


「テロマーの血液を輸血すると、大変な事になりますよ」

「ひゃぁ、大変な……爆発とかですかっ!?」

「私の血は化石燃料か何かですか……?いえ、そういう意味ではなくて」


 そう言ってアリサが説明してくれたのは、実体験に基づく話だった。

 なんでもアリサはペレジスにいた頃、専属秘書官のテレジアさんと一緒にいくつもの犯罪組織を武力制圧していたらしい。本人曰く「趣味のお掃除」らしいけど……。

 その中で、アリサも、テレジアさんも結構負傷する事が多くて、入院とか輸血とかは割と日常茶飯事だったらしい。


 で、ある時病院の血液が足りないとかでアリサの血をテレジアさんに輸血したことがあったらしいんだけど、全治3週間だと言われていた傷が5日で完治したんだって。


「それって……テロマーの超回復力じゃないの?」

「ええ、そうです。輸血によって、テロマー程ではないですが、それでもテレジアの回復力は大幅に向上していました」


 いつの間にかアイリスも話に加わっていた。

 内容が内容なので、入星ゲートよりも随分手前の、人気がない通路でひそひそと話をする私達。

 これ、傍目にみたら悪巧みしてるように見えるよね?


 私がそんな事を思っている間にもアリサの話は続いていた。なんでも回復力の強化と若干の身体能力向上の効果は輸血から3ヶ月ぐらい続いたらしいけど、効果は徐々に弱まって、最後には元に戻った、と。


「それ、体内の血液が入れ替わったせいだろうね。なら、アリサの血が能力向上の原因なのはほ間違いないかな」

「ええ。このことは私とテレジアだけの秘密だったのですが……」

「わ、わかってますっ!誰も言いませんっ!」

「マリエッタ、血液型は?」

「わたし、ですかっ?えっと、A型ですけど……」

「あら、それは残念ですね。私はB型なのでマリエッタには輸血できません」


 マリエッタはアリサの言葉にちょっとだけ残念そうな表情を浮かべた。

 まぁ、超回復とか、能力アップとか、格好いいからね。それが出来ないって言われるとちょっと悲しくなるのはわかる。でもマリエッタの血液型はA型、アリサはB型。で、私はO型でアイリスはA型。ということは……。


「アイリス。セレスティエルの血はテロマーに輸血できる」

「そうだね。トワの血は今もアリサの体内を巡ってるね」

「ええ。とても暖かくて、ちょっとエクスタシーを感じてしまいます」

「……それ、変態の発言だよ?」

「なら私達の血はマリエッタに輸血できる?」

「ん……そうだね、『濃さ』はともかくとして成分的には同じだからね。それに、私とマリエッタは同じ血液型だし、トワはO型だから輸血は可能だよ」

「なら、マリエッタも超回復できる?」

「……できるんじゃないかな?試さないとわからないけど」

「た、試すって……もしかして、マリエッタを半殺しにしてっ……!」

「いや、そんな事しないって。でも、今の話は記憶しておいた方がいいね。あったら困るけど、万が一の時のために」


 アイリスが言う通りだ。私とアイリスにはリブート(復活)の力がある。アリサはリブートこそ出来ないけど、強靱な肉体と再生能力がある。

 でも、マリエッタは普通の人間だ。なら、何かあったときにマリエッタを救う手立てがあるのは決して悪いことじゃない。だから、私もその事を心に深く刻み込んだ。


 あれ?でも……もし血そのものじゃなくて、血を作る部分……脊髄だっけ?それとも肝臓?

 良くわからないけど……ともかく、それを移植したらどうなるんだろう。


 私がそんな疑問を口にしようとしたとき、いつまで経っても入星ゲートに近づかない私達をいぶかしんた係官がこちらにやってきた。

 慌ててギルド章を提示して、極秘任務の打ち合わせだといってごまかしたけど……ここで立ち話を続けるのは良くないね。私達は互いに苦笑いしながら、入星ゲートの手続きを済ませた。


 リュックラセの軌道ステーションは最古の入植地というだけあってかなり古びていたけど、手入れは行き届いているしアップデートも施されているから、単に古いというよりもアンティークな雰囲気を纏っていた。

 アイリスとアリサは仕入れや調査で既にここへ来ていたらしいけど、初めて訪れた私とマリエッタはステーションの様子に驚いた。


「わっ、これ……ビンテージモデルの端末ですっ!しかも現役で動いて……ちゃんと中の基盤は最新モデルになってますっ!」

「確かリュックラセはレストアやアップデートの技術にも優れてるって言ってた気がするよ。スターゲートから戻ったら、手持ちの機器類をここでアップデートするのもいいかもね」

「それ、賛成ですっ!でも、お高いかなぁ……」


 目を輝かせて周囲の機器を見ているマリエッタに、アイリスがそう声を掛けている。でも……スターゲートから戻ったら、と言う言葉を聞いて私は少しだけ気が重くなった。


 本当に帰ってこれるんだろうか。

 いや、それ以前に私はここへ帰っくる気になれるんだろうか?


 私の心は「スターゲートの彼方へ帰らないといけない」と思っている。なら、今いるこの宙域は……私にとってアウェイなのかもしれない。

 一度ホームに戻ったら、そこから離れたくないと思うことだってありうる。そうしたら……アイリスは、アリサは、マリエッタは。どうするんだろうか。


 心の奥底から響く帰郷願望……いや強迫観念めいたその衝動は私を捉えて放さない。その衝動は私をスターゲートの彼方から、私の思う故郷であるこの宙域へと戻らせてくれるんだろうか。

 漠然とした不安を抱きながら、私達はリュックラセの地表へと赴いた。



 リュックラセへ入植が始まったのは千数百年前らしい。入植適合率が92.8%と極めて高いこともあって地表の開拓は概ね完了。惑星上の居住に適した土地の殆どに大小様々な都市が建造されている。

 分類的にこの星は工業惑星ということになっているけど、農業も――残念ながら酪農はなかったけど――発展しているし、人口も他の星よりずっと多いそうだ。

 普通の惑星の平均人口が2~3億人なのに、リュックラセはなんと21億人もの人が暮らしているってアリサが言っていた。


 私の故郷なんて同じ辺境にあるのに、2000人ぐらいしか人がいなかったのに。まあうちはギルドの直轄地で資源採掘用の星だから比べるのもおかしいかもしれないけど。

 これだけ人が多いと諍いも多いらしくて、リュックラセは過去に何度も内戦や騒乱が起きたとアイリスが言っていた。

 現在惑星を統治している政府はいくつかのコミュニティの代表者が集まって合議で物事を決めている合衆国制度というのを採用してるってマリエッタが教えてくれたけど……。


「どうしてみんな詳しいの?」

「いや、前にも言ったけど……リュックラセって人類史の教科書に出てる星だからね?」

「わたしもスクールで勉強しました!」

「私は政治家時代に外交の一環として色々と知っておく必要がありましたから。それに、人類史だけでなく政治学の教科書にも合衆国制度の代表例としてリュックラセが紹介されていますよ」


 なんだか、私だけ勉強してなかったみたいだ。

 いや、実際に人類史とか興味なかったから勉強サボってたけど。


 その後、アリサがリュックラセの政治形態とか軍事とか経済とか色々話してくれて、アイリスやマリエッタが意見や感想を述べてたけど……私は興味がなかったので、地表へ降りる軌道エレベータからの光景を独りで眺めていた。

 本当に開発が完了してるんだね、この星。星都であるここは見渡す限り都市が続いている。こんなに沢山の人が一所に住んでいるなんて、想像したこともなかった。

 そして、ふと思った。

 この宇宙全体には……一体どれだけ多くの人が生活しているんだろう。スターゲートの向こうにも、もっと沢山の人が住んでいるんだろうか、って。

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