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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部11章『彼方へと続く門』スターゲート-還遠の星門
343/356

#2

>>Towa


 暇だ。怪我をした日からもう丸2日もベッドから出して貰えない。

 足の傷はもう塞がってるし痛みも無い。だけど、アイリスもアリサも、私を外に出そうとしない。過保護すぎるんだよ、私の姉たちは。そう思ったんだけど。


「私の時は3週間でしたよね?」


 なんてアリサに言われたら、反論のしようもなかった。

 確かにアリサがクレリスで負傷したとき、私はアリサの傷跡が全て消えるまでの3週間、アリサに無理をさせまいと療養することを求めたからね。

 それを考えれば……まぁ、3日ぐらいなら我慢しないといけないかな、と思った。


 けど、暇であることには違いない。話し相手になってくれるマリエッタもお使い中だし、独りでホロムービーを見ても面白くないし。

 なので、私はG17に貰った失敗作の改造でもして遊ぶことにした。歩き回ると怒られるけど、机に座って作業している分には問題無いだろうと思って。


 先日弄っていた「なんとかター」は先端部分だけ取り外して、フレンドリファイヤで撃てるように改造してみた。実際に何かを撃ってみたいけど、船内で撃てる相手はいないので試験が出来ない。だからこれは一旦おあずけ。

 今弄っているのはG17が「ストレージボックス」と呼んでいた、1m四方のコンテナのようなものだ。なんでも設計段階では内部の空間を圧縮して、コンテナの容積の10倍の物資が保管できるようなものを目指していたそうだけど……結果的に空間圧縮の効果は全く発揮できず、単にフォトンが周囲を高密度で循環しているだけの意味のない箱になっているらしい。

 あまりにも失敗作過ぎて展示場にすら置かれていなかったものだけど、私が要求した失敗作を収める普通のコンテナ代わりとして、アルカンシェルに運び込まれていたという代物だ。G17、たぶん邪魔だったんだろうね、コレ。


 でもフォトンエネルギーが高密度で循環してるということは、何かに使えるかもしれない。

 例えばマリエッタが今買いに行ってくれているフルーツ牛乳。あれは良いものだけど、冷蔵庫に入れていてもあまり日持ちがしない。

 冷蔵保存でダメならいっそのこと、リュミエールやアルカンシェルみたいにモスボール処理をすればいいんじゃないかと私は考えたんだ。


 船舶をまるごと停滞(ステイシス)フィールドで覆うモスボール処理は現代技術では不可能だけど、もしそれがフォトンエネルギーの循環機構に問題があるのだとすれば……このストレージボックスを媒体にすれば箱の中の時間を止め続ける事が出来るかもしれない。

 うん、冷蔵庫ならぬ停蔵庫ってやつだ。幸い、停滞(ステイシス)フィールドを生成するトリガーは既に開発しているイグナイトの蒼が流用できる。


 つまり、この箱の内部に蒼のイグナイトをいくつか追加すれば……。そんな事を考えながら、試行錯誤しているといつの間にか夕方になっていて、アイリスとアリサが帰ってきていた。


「アリサ、お腹空いた」

「トワ様っ、私が作ったサンドイッチはご不満でしたか!?」

「ううん。お昼食べるの忘れてた」

「トワ……それはちゃんとアリサに謝りなさいよ?忙しいのに作り置きしていってくれてたんだから」

「ごめん、アリサ。いまから食べる」

「いえ、すぐに夕飯を作りますので!」

「……じゃあ、サンドイッチは夜食に取っておく」


 停蔵庫、もう少し頑張れば形になりそうな気がするからね。今日は徹夜の予定だし、サンドイッチがあると捗るだろう。


 夕食後、アイリス達は地表で情報収集した事を話してくれた。と言っても、情報収集に失敗したという話だったけど。

 そしてギルドネットに接続して、スターゲートに関する情報がことごとくギルド秘……それも最高位の秘匿レベルになっているということを確認していた。


 二人はなにやらメラニー・スゥが隠蔽しているとかなんとか話していたけど、いくら場所を知っていても「鍵」がないとスターゲートは開かないんだから、情報を隠しても意味が無いんじゃないかと私は思った。


「……そういえば『鍵』の話はギルドの情報にも記載されてなかったね?」

「確かに……つまりギルドの持つスターゲートの情報も完璧ではないか、もしくは私達が見れない、統括局長だけが扱える情報に含まれているのか……」

「どちらにしても、ギルドの幹部が情報を手に入れたとしても、スターゲートの先へは辿り着けないって事だね」

「メラニーは『鍵』の事を知っていると思いますか?」

「そりゃ、知ってるんじゃない?ここまで情報統制掛けてる人が、肝心の『鍵』について知らないとは思えないし」

「では、メラニーは私達が『鍵』を持っている事を知っていると思いますか?」

「それは……微妙だね。盗聴は防いでるし、移動航路も可能な限り秘匿するようにはしてるけど……マリエッタがリュミエールに乗って文明圏の惑星へ出かけた時点で、私達がG17と接触したことはバレてるとは思うけど」

「わかっててあの子を使いに出したんですか?」

「リュミエールがあるかぎり、いずれバレる事だからね」

「それ、思いっきりメラニーに挑戦状叩き付けてる感じですよね」

「そんなつもりは無いんだけどなぁ」


 アイリスとアリサは悪い顔をして何か話してるけど、私にはあまり興味の無い話題だったので、二人をラウンジにおいて私は1人檜風呂へ向かった。

 傷はもう塞がってるから、アリサから入浴許可は出てるからね。でもマリエッタが戻ってこないと風呂上がりのフルーツ牛乳は無いのか……。それはちょっと残念かな。



 翌日の午後、マリエッタが戻ってきた。

 思っていたよりも沢山の牛乳を積んで。フルーツ牛乳にコーヒー牛乳、イチゴ牛乳にバナナミルク。抹茶ミルクというものもあった。

 いつもなら午後のティータイムは紅茶かコーヒーか緑茶、時々藻茶だけど、今日は各種牛乳の試飲会になった。


 もちろん、フルーツ牛乳に飢えていた私は試飲の前にまず1本フルーツ牛乳を飲んだけど。

 アイリスはフルーツ牛乳よりもコーヒー牛乳が美味しいと言っていた。解せない。

 アリサもコーヒー牛乳が美味しいと言っていたけど、コーヒー牛乳より抹茶ミルクの方が口に合うらしい。

 マリエッタは私と同じでフルーツ牛乳推しだけど、いちご牛乳にも惹かれているようだった。


 うん、色々あると風呂上がりの楽しみが増えるよね。そしてもう1ケース、抹茶ミルクに似た、緑がかった牛乳が入ったケースもあった。


「マリエッタ、これは?」

「あ、それ試供品ですっ!都会の女子に大人気な健康牛乳らしいですよっ!」


 牛乳を大量仕入れしたからおまけを付けて貰えたのかと思ったら、マリエッタは何やら現地でトラブルを解決してきたらしく、そのお礼で貰ってきたらしい。

 しかもブリギッタが大活躍したとか。いいなぁ、一緒に行ってみたかったなぁ。そんな事を思いながら、私はその試供品を手に取り、開封した。

 少し変わった匂いがするけど……健康牛乳を飲めば早く怪我を治るかもしれないからとにかく飲んでみよう。


 一気飲みした瞬間、口の中になんとも言えない青臭い味が広がった。牛が食べた草が消化されずに牛乳にそのまま濃縮されてる感じ……?

 皆が感想を求めて私の方を見てるけど、なんと表現したらいいんだろうか。とにかく、何か言わないと。

 そう思った私の口から出た言葉は……。


「……まずい。もう1本」


 えっと、まずいはわかるけどどうしてもう1本なのかは……自分でも良くわからなかった。

 けど、「青汁牛乳」というラベルを見たら何故かそう言わないといけないような気がしたんだ。


「えっと……不味いの?」

「不味い」

「でももう1本なの?」

「もう1本」

「えっと、飲む?」

「……今日はパス」

「だよね?」


 私の発した言葉に、アイリスが小首をかしげながらもう1本青汁牛乳を差し出してきたけど、さすがにもう1本は飲めない。

 いや、不味いとか言う以前に、既にフルーツ牛乳と青汁牛乳を1本ずつ飲んでるし、他のも試飲したからね。

 そして試飲の後、アリサが少し困った顔をして切り出した。


「この牛乳、消費期限が長くて10日ぐらいですよね。フルーツ牛乳が2ケース、その他が各1ケースずつで合計すると7ケース。……合わせて168本はさすがに飲みきれませんよ?」

「うう、ごめんなさい……買いすぎましたぁ……」

「まぁ、いいじゃない。いろんな味が楽しめるし。アリサ、冷凍保存できない?」

「冷凍自体はできますけど、牛乳は冷凍すると乳成分が分離しますよ?飲めなくは無いですけど……正直美味しくはないと思います」

「料理に……は使えないよね?」

「普通の牛乳なら使えますけど、フレーバー牛乳は難しいですね……」


 沢山牛乳があって幸せだと思ったけど、消費期限内に全部飲み切るのは難しいらしい。

 何か使い道を考えないと、と皆が悩んでいる。ここは私がばばーんと解決策を提示しよう。


「牛乳風呂?」

「……勿体ないし、糖分入ってるからベタベタするんじゃない?」

「風呂ユニットの濾過機能にも負荷が掛かりそうですね……」


 却下されてしまった。

 牛乳のお風呂、ちょっと入ってみたかったんだけど。私のアイデアはダメだし、廃棄するのは勿体ないということで、アイリスがギルド支部に半分ぐらい寄付しようかという提案をしてきた。

 だけど、せっかくマリエッタが買ってきてくれた牛乳だし、私は全部飲みたいし。そこで私は部屋から切り札を取ってきた。


「こんな事もあろうかと」

「あろうかとっ……!?」

「マリエッタ、あんまり期待しすぎない方がいいんじゃないかな……?」


 牛乳買いすぎで少ししょげていたマリエッタが期待に満ちた目で私の方を見つめている。

 アイリスはあまり期待してないみたいだけど。


「停蔵庫」

「てい……ぞうこっ?冷蔵庫じゃなくて、ですかっ?」

「うん。こんな事もあろうかと思って」

「飲みきれないぐらい買ってくるのがわかってたなら、先に買いすぎないように言っておけば良かったのに」


 アイリスの指摘はもっともだけど、まぁそれはそれだ。

 それに、別に牛乳のために造った訳じゃないけど、たまたま使えるシチュエーションになっただけだからね。

 「こんな事もあろうかと」はお約束の言葉なだけで。


「停滞フィールドでこの中の時間経過を常時1/5にできる。牛乳、5倍長持ち」

「えっ……?」

「トワ、それ……もしかして、常時発動型の停滞(ステイシス)フィールド?しかも、そんな小型の……」

「うん。G17に貰った箱を加工した」

「トワ様、さらっと停蔵庫とか言ってますけど、それ無茶苦茶画期的な発明では……?」

「航宙船の食事事情を劇的に変える発明だよね、これ」


 マリエッタは目を丸くしてるし、アイリスとアリサがえらく褒めてくれている。

 でもこれ、ベースになるG17謹製のストレージボックスが無いと作れないんだけどな。そう告げるとアリサは少し残念そうな顔をした。


「これが複製できれば大きなビジネスになるのですが……遺失技術(ロストテクノロジー)がベースだと生産は難しいですね」

「いや、でもロストテクノロジーを牛乳の消費期限を延ばすのに使うとか、トワらしいよね」

「牛乳、無駄にならないんですねっ……良かったですぅ!」


 ともあれ、これで当面はフルーツ牛乳に困ることは無いだろう。


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