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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部10章『愚者と巨神』???-孤闘の惑星
332/354

#6

>>Alyssa


「ジャンプアウト予定時刻から……900秒経過しました……」

「……アルカンシェル、トワを、見つけて。トワを、助けて。お願いだから……」


[Sorry,Lady. I Can't Do That.]


 アイリスさんの懇願するような指示に、アルカンシェルが申し訳無さそうにメッセージを表示します。

 トワ様の乗るリュミエールを私達が見失ってからすでに15分が経過しました。ジャンプアウトの兆候である空間振動波は未だ検出されず、アルカンシェルのセンサーが及ぶ範囲にもその痕跡は見つけられません。


 鋼の様な理性で取り乱す事だけは自制していますが、アイリスさんの精神は限界に近づきつつあるようです。

 ええ、私だってマリエッタやアイリスさんの手前、平静を装っていますが……本当は泣き叫んで、八つ当たりして、不安をぶちまけたいぐらいです。

 ですが、そんな事をしても何も状況は変わらないから……私は黙ってアイリスさんを抱き寄せました。


「アリサ、お願い……トワを、トワを助けてあげて……」

「ええ、必ず助けます。必ず見つけましょう、私達で」

「……感じられないの……『絆』が、トワを感じないの……」


 史上最年少のギルド管理官にしていくつもの星を救った英雄。アイリス・ブースタリアという少女は強さの象徴のような存在ですが、同時に彼女はまだ16歳の女の子でしかありません。

 自分の命よりも大事だと公言してはばからない、最愛の妹が行方不明になったことで、彼女が崩れそうになっていることを誰が責められるでしょうか。


 それにしても、アイリスさんの根幹である『絆』がトワ様の存在を感知できないというのは……いえ。

 そんな事はあるはずはありません。ジャンプ中に通過する亜空間は既知宇宙とは切り離された場所。だからアイリスさんの『絆』をもってしても、トワ様の存在を感知できない。

 それだけです。

 そうに決まっています。


「マリエッタ。アイリスさんを少し休ませてきます。申し訳ないですが、センサー監視をお願いできますか?」

「はいっ、わたしに出来ることならなんでもしますっ!」

「ありがとう、マリエッタ。アイリスさん、少しだけ休んでください。トワ様が見つかったときに、アイリスさんの助けが必要になるかもしれませんから」

「でも……」

「アイリス。今は休みなさい」

「……わかった。ごめん、マリエッタ……あと、お願い」

「はいっ!」


 私は微かに震えるアイリスさんの体を支えながら、彼女を階下のラウンジへと連れ出しました――



>>Towa


 仄かに光る巨神の両目は明らかにローヴを捉えているが、ローヴはまだその事に気付いていない。

 このままの勢いで巨神の足下まで走りきれる?いや、間に合わない?なら、私が盾で受け止めるしかない。


 私はローヴに向かって走り出した。私が駆け寄ってくる事に気付いたのか、ローヴがこちらに視線を向け、そしてその流れで巨神を見上げた。

 その結果、ローヴは自分が狙われている事に気付き……彼は足を止めてしまった。彼の顔に浮かぶ表情は恐怖や絶望では無く、諦めの表情だった。


 巨神の行動原理は良くわからないけど、もしかしたらヘイトを取った相手を攻撃するような高度な判断力があるわけではなく、単に一番近くにいる動く者を反射的に攻撃するのかもしれない。

 私がローヴと巨神の間に割り込めば……いや、そのまま割り込んでも撃ち下ろされるエネルギー弾の爆発範囲にローヴが巻き込まれてしまう。

 なら、どうする?考えが纏まらないまま、私は走る。

 完全に足を止め、まるで地面に打ち付けられた杭のように棒立ちになってしまったローヴに向かって。


 ……杭?そうか、あれ(ローヴ)が杭なら、踏み台にして上に飛び上がることが出来るかもしれない。

 そして、上空でエネルギー弾を迎撃できれば……爆発の影響は最小限に出来る。冷静に考えればそれは無謀極まりない考えだけど、そのときの私にはそれしか思いつかなかった。

 だから私は駆け寄ったローヴの肩――もちろん、怪我をしていない方――へ飛び乗り、諦めの表情を浮かべる彼の耳許で叫んだ。


「走れっ!」


 そして、レゾナンスシールドを再展開しながら、彼の肩を踏み台に宙へと跳ぶ!


 私の声と肩を蹴られた衝撃にローヴははっとした様子で、宙へ舞った私を見上げ……再び走り出した。

 ローヴが走り出したのと、空中に――より巨神に近いところにいる私に向かって、エネルギー弾が撃ち下ろされたのは同時だった。


 さすがに体勢を自由に変えられない空中では盾の角度を調整して弾くことはできない。私は覚悟を決めて正面から巨神の攻撃を受け止める。


 着弾、そして爆発。


 当然のことながら足場の無い空中では踏ん張ることもできず、爆発の勢いそのままに私は地面に叩き付けられた。

 背中を強く打ち付け、息が詰まる。吹き飛ばされた勢いのまま地面を滑り……瓦礫に足が引っかかってようやく止まった。

 ローヴが無事に巨神の足下にとりついたのが見える。私のミッションはこれで終了だ。

 だけど……ローヴが攻撃範囲から外れたことで、巨神が私の方を注視している事に気が付いた。間違いなく次の攻撃も私に向かって飛んでくるだろう。


 そう思った私は立ち上がってレゾナンスシールドを構えようとしたけど……足に力が入らない。見下ろすと、左足の太股がざっくりと裂けて血が流れ出ている事に気が付いた。

 地面を滑った時に、岩か何かに引っかけたんだろうか……?アドレナリンが出ているのか傷の痛みは感じないけど、踏ん張ることも走ることもできそうにない。

 私が今いる位置は広場の外周に近いけど、この足では遮蔽物のあるところまで走ることは無理そうだ。そして……間の悪いことにレゾナンスシールドの輪郭が揺らぎ始めている。

 長時間展開している上に高威力の爆発を受けたんだ、さすがにエネルギーも尽きかけているんだろう。

 防げてあと1発。

 結構なピンチだよね、これ。


 私の様子に気付いたローヴが心配そうにこちらを見ているけど、今は私のことよりも巨神が先だ。

 だから、私は巨神の注意を引くのも構わずに叫んだ。


「ローヴ!行って!エコーを助けるんでしょ!」

「……!」


 私の言葉にローヴははっとした表情を浮かべ、こちらに軽く一礼をしてから巨神の台座を登り始めた。

 さすがにこれまでに15回も登っただけのことはある。見事な手際でどんどんとローヴは登っていく。そして……見上げた巨神の額に灯ったエネルギー弾の輝きが私に向かって放たれた。

 弾く?

 避ける?

 それとも……そこまで考えた私は、ある事に気付き「笑顔」を浮かべた。


「なんだ、考える事なかった」


 小さく呟き、消えかけたレゾナンスシールドを真正面に構えた私の眼前でエネルギー弾は爆発した。


 最後の一撃は完全に防ぎきれなかったけど、爆風でノックバック(・・・・・・)された私は広場の外……つまり遮蔽物がある場所まで押し戻され、広場から退却することが出来た。

 新たに負った火傷と、思い出したように痛み出した足の感覚に閉口しながら私は物陰に倒れ込む。これで、私も巨神の攻撃範囲から外れる事ができた。


「トワっ!」

「無事っ!」


 聞こえてきたローヴの声に答え、私はメディキットを使って応急処置を始める。まずは足の傷だね……。

 これ、結構大きいし血も出てるし、普通だと致命傷になりかねないやつだよ。

 まぁこのタイプの傷なら傷跡一つ残らずに治癒するだろうし、仮に死んでもリブートできるとは思うけど。いやほんとセレスティエルって便利だよね。火傷の方は……軽傷だし、化膿止めだけ付けておけばいいかな。


 ざっと処置を終えて巨神の様子をうかがうと、ローヴがとりついている事に気付いたのか、しきりに2対の腕を振り回している。

 あのままだとローヴが振り落とされちゃうんじゃない……?そう思った私は足を引きずりながら、一瞬だけ物陰から巨神に姿を晒してみた。


 予想通りに巨神は私の方に注意を向け、エネルギー弾のチャージを開始する。一度に二つの事はできないのか、とりついたローヴを振り払う動作は止まっている。

 やっぱりそうだ。ヘイトを取れなかった時に思ったけど、あの巨神……あんまり頭は良くないみたいで複雑な思考はできないらしい。

 巨神の動きが止まったことを確認し、私は建物の陰に身を隠す。巨神はしばらくこちらの様子をうかがっていた。棒立ちのままで。

 その隙にローヴは登攀を続け……しばらくして私への警戒を解いた巨神は再びローヴを振り払おうとする。それを見計らって私は再び巨神に姿を晒し、巨神は私に注視することで動きを止める。


 ――その繰り返しを3度行ったところで、ローヴが巨神の肩へたどり着いた。


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