#5
彼が登るというのなら、私はそれをサポートするだけなんだけど……でも、ローヴはアレに負けたと言っていた。動けないっぽいから登りやすそうに見えるけど。
いや、その前にアレだと呼びにくいね。名前を聞いておいた方がいいだろう。そう思ったのだけど。
「いや、名前は知らない。ただ巨神と呼んでいた。あれは16番目の巨神だ」
「16番目の巨神だと呼びにくい。名前付けよう」
「……まかせる」
「じゃあ……でかいブリギッタに見えるから、デカギッタ」
「ブリギッタとは?」
「友達の……ペット?」
「友のペットを倒すのか?」
確かにローヴの言うとおり、ブリギッタぽいからと言ってブリギッタっぽい名前を付けて、それを倒すのはちょっと心苦しい。
困った、良い名前が思いつかない。私が思案していると、ローヴは薄く微笑んで言った。
「巨神、でいいだろう?」
「腑に落ちない」
結局名前は巨神のままになった。私的には、倒す相手の事はちゃんと知っておいてあげたいと思ったんだ。番号でしか呼ばれないなんて、ちょっと巨神が可哀相だと思ったから。
名前の話は結局うやむやになったので、話を仕切り直してローヴに巨神の攻略方法について聞いてみた。
攻略方法というより、前回失敗した原因だけど。私の問いにローヴは表情を曇らせながら言った。
「近づけないんだ」
「逃げるの?あれ」
「違う。あの巨神が放つ光が……。いや、実際に見た方が早い」
ローヴはそう言うと、弓を構えた。残り少ない矢筒から矢を抜き取ると、手慣れた様子で弓を引き絞る。
「目を瞑る準備をしておいた方がいい」
「……?わかった」
良くわからないけど、私はいつでも目を瞑れるように心構えをした。
するとローヴは弓を巨神に向けて放つ。まだ距離がかなりあるから、到底届きそうには思えないけど……。跳び行く矢を見ているうちに、巨神の頭部に光が灯ったことに気が付いた。
光はどんどん輝きを増し……そして、ローヴの矢に向かって光が放たれた。空中で矢を捉えた光は大きな爆発を引き起こし、矢は跡形も無く燃え尽きた。
「あれ、ブラスター?」
「神の光、と僕は呼んでいる。愚かな罪人を打つ光だ」
ローヴが自らを愚かな罪人と呼んだことも気になったけど、それ以上に気になるのはさっきの光だ。
ローヴは単に光と呼んでいるけど、私にはあれがブラスターのチャージショットによるエネルギー弾にしか見えなかった。
ローヴはあの光のことを知っているようだから、聞けるだけ話を聞いておいた方がいいだろう。
「巨神は接近した動くものを無差別に光で攻撃してくる。物陰にいれば打たれないけど、見ての通りだ」
ローヴが示すのは巨神の周囲の状況だ。私達がいる岩山の外縁から見ると、巨神がいるのはさらにその奥にある高台の部分だ。
私達と巨神の間には廃墟の様なものがいくつか見えるけど、それはあくまでも途中まで。巨神の足下は開けた広場になっていて遮蔽をとれそうな物陰が全くない。
「物陰、無いね」
「ああ。だから、近づけない」
「さっきみたいに矢を撃ったら?」
「広場を半分ぐらいまで走ったところで、次の光が来る」
「経験者は語る?」
「……」
ローヴは黙って小さく頭を振ったけど、実際に試したらあのエネルギー弾に撃たれて死んじゃうよね。でも結構距離がありそうだから駆け抜けるのも難しそうだって事は判った。
ローヴの言葉を聞いて私は打開策を求めて周囲を見回した。ここから高台へ通じる経路は細い道が一つだけで、高台の周囲は深い霧に包まれている。
霧を通して微かに見える外周は切り立った崖のようで、よじ登るのは難しいだろう。仮に登れたとしても上に到達した時点で巨神の光の餌食になるのは目に見えているしね。
さらに周囲を見回すと……あれ?赤と緑の光が見える。もしかしてリュミエールの航行灯?思ったよりも近いけど……そうか、ぐるっと回り込んできたから、結果的にリュミエールの近くにいるんだ。
帰り道を延々と歩かなくて済むのは助かるけど、帰る前にあの巨神を倒さないと離陸したリュミエールが撃墜される可能性もあるよね。
これは、ローヴのためだけじゃなくて私自身のためにもがんばらないと。
「物陰が終わるところまでなら、近づけるルートがある。その先は、手の打ちようがない」
「私がヘイトを取る。独りだと無理でも、囮がいれば走り抜けられる」
「だが、そうするとトワが光に打たれるぞ?」
「私は盾職。最後まで立ち続けることが仕事」
そう、私は学んだんだ。
囮になって自分の命を投げ出すのは盾職の役目じゃない。仲間を守り、自分の命を守って初めて盾職なんだから。
だから、私は囮になって撃たれるつもりはないし、倒れるつもりもない。
その後、私達は作戦を話し合った。ローヴと併走して盾で光弾をしのぐ方法も考えたけど、自身は盾で身を守りきれるかもしれないけど巨神の光弾は爆裂弾だから、受け止めた時の爆風や破片でローヴがダメージを受けかねない。だからこの方法はまずいという事になった。
なら私がローヴから離れたところで攻撃を引き受けて、その間にローヴが巨神の足下に走り込むようにすればいい。つまり、接近ルートを二手に分けて、先に私が姿を見せ、攻撃が始まったらローヴが走る。
そういう作戦だ。
遮蔽をとりながら巨神へ近づけるルートのうち、最も近くまで物陰伝いにゆけるのが左ルートとローヴが呼んでいる道のりだった。
廃屋の影と崩れかけた柱の間をすり抜け、ローヴは進む、まるで何度も通ったことがあるかのように手慣れた動きだ。
そして彼は最後の遮蔽……崩れた壁の陰に身を潜めた。巨神は時折ローヴを視界に納めていたようだったけど、光弾を放つことはなかった。やっぱりチャージしてるよね、あれ。
次は私の番だ。私が向かうのは巨神の真正面に出るルート。目立つのが目的ではあるけど、さすがに何発も撃たれると耐えられるかどうか判らないからギリギリまで身を隠しながら進む。
背の高い建物が並び建つ通りの間を抜け、最後の遮蔽物は柱の陰だ。ローヴが隠れている壁に比べると結構巨神との距離がある。でも、その方が着弾までの時間が稼げるだろう。
「ローヴ!いくよ!」
「ああ!」
巨神が私達の声を理解しているかどうかは判らないけど、聞かれていたとしてもやることは同じだ。
私は軽く息を吸い込むと……柱の陰から、巨神の右手側――ローヴがいる物陰と反対側――へ走り出した。
近づいたことで初めて判ったけど、巨神が光弾を放つ際にエネルギーをチャージしているような音が微かに聞こえてくる。これは私にとって有利だ。
だって、チャージ音の変化で相手を視界に入れてなくてもある程度撃つタイミングが予測できるからね。音の周波数がどんどん高くなり、そして……途絶えた。来るっ!
私は巨神に向き直りながらレゾナンスシールドを展開し、衝撃に備える。盾を前面に構え、踏みとどまったのと着弾は同時だった。激しい爆音が巻き起こり……予想外のことが起こった。
シールドのおかげでダメージ自体は熱風を浴びた程度で済んだけど、爆風の勢いが思ったより強い。
その場に踏みとどまろうとしたけど、まるで重力が失われたかのように足下のグリップが失われて……私、吹き飛ばされたっ!?
咄嗟にシールドを展開している左手を横殴りに振り抜き、後方の障害物に激突する衝撃をシールドで防ごう試みる。
幸い、吹き飛ばしと背後への激突によるダメージは殆ど受けなかったけど……まずい、広場から離れた所まで飛ばされた!?
「トワっ!」
「大丈夫!でもちょっと遠い、走らないで!」
「わかった!」
ローヴに声を掛け、突進を中止して貰う。困ったな、これ……ノックバックっていうやつだ。
ダメージは殺せても、体重の軽い私と、質量の無いレゾナンスシールドでは爆風の勢いを耐えきることが出来ない。つまり……このままだと私はヘイトを取るどころか、初撃しか引き受けられないってことじゃない。
これ、まずいよね……。
ともかく、私は元の待機場所へ戻り、ローヴに自分が無事であることを改めて伝えた。
でも、どうしたものだろうか。攻撃自体は盾で防げることは判ったけど、ノックバックは防げない。こういうときどうするんだっけ……。
ローヒーでジェイコブとクロエが教えてくれた攻略法を色々と思い出してみる。
そういえばクロエが言ってたっけ。テクニカルな防御方法として、相手の攻撃がヒットする瞬間に防御を決めるとジャストガードが発動してダメージを全部防げるって。
……でもそれ、ゲームの話だから、今の局面で仮に爆風を直前で防いだところでノックバックの影響は無効化できないよね。うん、ゲーム脳じゃダメだ。
他に何かないかと記憶を手繰っていた私はアリサがバーゲストを仕留めた時の様子を思い出した。
あの時、アリサは飛び込んでくるバーゲストをそのまま迎撃するんじゃなくて、横合いから攻撃することで突進の勢いを逸らしていた。
もしかしたら……巨神のエネルギー弾も正面から受け止めるんじゃなくて、方向を逸らしたりできないだろうか?うん、やってみる価値はある。
そう思った私はローヴに向かって声を掛けた。
「ローヴ!試したい事がある。一度、攻撃を受けるけど、私が指示するまで飛び出すの待って」
「わかった!だが、大丈夫か?」
「大丈夫!たぶん!」
確証は無いからたぶん、としか言い様がないけど……でもやってみよう。
私は再度息を吸うと、遮蔽物から飛び出した。先ほどの攻撃で広場に大穴が一つできている。これは何度も攻撃されると足場がどんどん無くなって不利になるやつだね。
そう考えながら、私は穴の空いていない方向へ移動した。
巨神からチャージ音が聞こえる。私は巨神の頭部を見据え、光弾が放たれるタイミングと角度を正確に把握しようと試みる……うん、このタイミングっ!
飛来する光弾に対してレゾナンスシールドを浅い角度で構え……シールド表面でエネルギー弾を受けなが……せたっ!
狙い通り、光弾は盾の表面では爆発せず、軽い擦過音と共に後方へと弾き飛ばされ……そして、背後の建物に着弾し、爆発した。よし、これなら私はダメージを受けないし、ノックバックもされない!
なら、次の攻撃を待つまでもないよね。
「ローヴ!走って!」
「……わかった!」
私が攻撃をしのげることを理解したのか、ローヴは物陰から一気に巨神へと走り出す。
次の攻撃を私がしのげれば、この勝負は私達の勝ちだ。私は巨神のヘイトをとり続けるために、あえて展開したままにしたシールドを大きく振るって巨神の注意をこちらに引きつける。
再び始まったチャージ音に、私が勝利を確信した瞬間だった。巨神の視線が、私ではなくローヴへ向かったのは。
どうして!?これ、ヘイト取れてない!?
ローヴはまだ広場の半分ぐらいまでしか進めてない……このままじゃ撃たれちゃう……!




