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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部10章『愚者と巨神』???-孤闘の惑星
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#4

 ローヴが見つめる先は、岩場から続く坂道の上……たぶん、遠目で見えていた都市遺跡の方向だろう。となると、巨神っていうのは古代のドローンとか、巨大兵器とかなんだろうか?

 でも、そんなものを相手に粗末な弓と短剣でどうにかなるんだろうか?


 もし相手がC3を使っていない機械なら、昨夜弄っていた「インターなんとかター」が役に立ったかもしれないけど……あいにくと今日は持ってきていない。

 だって、午後のお茶の前にリュミエールのテスト航行するだけの予定だったからね。なのでブラスターもイグナイトも持ってきていない私は、巨神を攻撃することは多分できないだろう。

 なら、盾職としての本領を発揮するまでだ。


「しかし、盾……といったか?持っていないようだが」

「これ、盾」


 ローヴは私が盾を使うという事は理解していたようだけど、私がほぼ手ぶらな事に疑念を抱いたらしい。

 私は左手にはめたブレスレットをローヴに示したけど、見せる前よりも怪訝げな表情が強まった。確かに、見た目は盾っぽくないからね、レゾナンスシールド。

 でも現物を見せないと納得してくれなさそうだから、私はローヴから少し離れると、左手を横に伸ばしてシールドを起動する歌を短く歌った。

 緑に輝く光の粒子が左手に収束し、輝く共鳴の盾が形成されてゆく。


「なんだ、それは……。神の武具か?」


 神の武具じゃなくて科学技術の産物だけどね、レゾナンスシールド。でも、見たところローヴはC3を使った技術は持ってないみたいだし、レゾナンス系の技術を説明してもローヴには理解出来ないだろうし。

 どう説明したものだろうか。私が言葉を選んでいる間に、ローヴは何事かを納得したのか小さく頷いた。


「そうか。君も神の力を借りて戦う者なんだな」

「君も?」

「ああ。僕のこの剣も……神の武具だと言われている」


 そう言うとローヴが腰から抜いた短剣を見せてくれた。シンプルな両刃の短剣だけど、柄の部分には精緻な装飾が施されている。

 ローヴが身につけている衣服や弓矢とは明らかに製造技術のレベルが違うことは私にも判った。


悖理(はいり)の剣……と呼ばれている。巨神を殺せる武器だ」


 悖理、という言葉の意味は良くわからなかったけど、それでもその言葉からは何か正しくない事を目的としているようなニュアンスを感じた。

 そんな剣を使っていて大丈夫なんだろうか?それに、そんな剣を司っている神様って一体……?

 そこまで考えて、私はふと気が付いた。そういえばアリサも神剣を持ってるよね。黒くて、アリサ曰く腹黒な神剣ツクヨミ。

 名前の系統は違うけど、剣が纏っている雰囲気は似てるかもしれない。


「それ、神剣?」

「神の武具という意味では、神剣なんだろうな。だが、この剣の本来の持ち主は……邪神だと伝えられている」

「邪神剣。格好いい」

「君の言葉は本当に時々わからなくなる。……そろそろ行こう」

「わかった」


 ローヴは邪神剣……じゃなくて悖理の剣を腰に戻すと、踵を返し坂道を上り始めた。

 ふと振り返ると焚き火の跡が視界に入った。ついさっきまで燃えていたはずなのに、残り火すらない。灰は乾いた砂のように崩れて、薪の残骸も白く朽ち果てているように見えた。

 ローヴが座っていた窪みにもまばらに草が生え始めていた。まるで長年放置された跡を自然がゆっくりと覆い隠そうとしているかのようだ。


 ティンバリスの火災跡でも自然が再生する力を目の当たりにしたけど、この星はあそこに輪を掛けて自然の復元力が高いんだろうか?

 でも、目の前の光景は自然の力というよりも、どこか現実が遠い昔の記憶にすり替わったかのような感覚があった。


「トワ。来ないなら置いていくぞ」

「置いて行かれると、困る」


 ローヴの声に促され、私はその場を足早に去る。背後に違和感を残しながら。



>>Iris


 トワが消えてしまった。リュミエールと共に。どうして?

 リュミエールのジャンプドライブは正常に動いていたはずなのに。冷たい絶望感が心を支配しようとしている。自分でも平静を失いつつある事が判った。

 ダメだ、こんな時に取り乱したら……事態が悪化するだけだ。


「マリエッタ、状況に変化は?」

「ジャンプアウト予定時刻から640秒超過しました……けど、ジャンプアウトの兆候ありません……どうしてっ……?」

「やはり跳躍時の異常発光が影響しているのでしょうか?フォトンエネルギーが過放出されて、予定位置よりも遠くへ跳躍している可能性は……」

「で、でもっ、エネルギー残量は半分ぐらいでしたしっ、ジャンプ可能距離は最大でも3パーセクですっ」


 アリサとマリエッタが原因について話をしているが、私の関心はそこにはない。

 原因なんてどうでもいい。

 トワ、トワがいない事が問題なんだ。

 もしトワを失ってしまったら……一瞬、そんな恐ろしい考えが脳裏に浮かび、私は強く頭を振った。ダメだ、そんな可能性は考えるな、アイリス!

 今、お前が考えるべきなのはトワを見つけ出す方法だ!


 ……でも、どうやって?



>>Towa


「たしかに、アレは巨神」

「ああ。巨神だ」


 遠目に「巨神」を見ながらの私とローヴの会話は成立してるように思えるけど、たぶんちょっと意味がずれてるんじゃないかとも思った。

 巨神は私が想像していた巨大ドローンや巨大兵器とはちょっと……いや、かなり雰囲気が違った。機械的な要素は全くなくて、まるで石像だか彫刻だかのような荘厳な感じだったから。


 確かにアレを巨大ロボと呼ぶのは語弊がある。どちらかというとローヒーのゲーム内で出会ったフロアボス、ゴーレムのような佇まいだ。

 でも大きさは段違いで……やはり巨神と呼ぶしかないのが納得出来た。そして、たぶんアレにはなんとかターは効かないだろうということも一目見て判った。

 プログラムで動いてる風には見えないからね、アレ。


 一方でローヴの方はあれが巨神だと理解しているから、単にあそこにターゲットがいるという確認をしているだけ。なので、言葉に温度差がある。

 そんな現実逃避の様な考察をしたくなるぐらい、眼前の光景はあり得ないものだった。


 まだ距離があるから「巨神」の正確なサイズは判らないけど……小さく見積もっても全長50mぐらい?

 アルカンシェルを縦に立てたぐらいのサイズ感がある。形はヒトに似てるけど、手は両側に2本ずつの合計4本。足下は台座と一体化しているのか歩き回る気配が無いのだけが救いかな?

 形状的にはマリエッタが手に入れたエクソギア、ブリギッタに似ていないこともない。ブリギッタは上半身だけだったけど、あれを台座の上に二段重ねで置いたら巨神みたいなシルエットになりそうだし。


 そして巨神が彫像ではないとはっきり判ったのは、両手や頭部が時々動いてるから。機械的な動きという寄りは、まるで生き物の様に滑らかな動きだけど………どういう原理で動いているんだろう、あれ。

 いやそれ以前に誰が何のために作ったんだろう。疑問は尽きない。


 巨神に興味を持った私はローヴに色々と聞いてみたけど、返ってきた答えは「わからない」ばかりだった。

 誰が作ったものなのか、そもそも作られたものなのか。どうして動いているのか……それら全てに対して、ローヴは判らないと応えた。そして、付け加えた。


「僕に判るのは、エコーのために巨神を倒さないといけないということだけだ」


 判らない相手を、ただ倒すという感覚は私には理解しづらかったけど……でもローヴはそれ以外に方法はないと信じているようだった。

 でも問題はどうやってアレを倒すかだよね。ローヴは既に何体も巨神を倒しているということは、倒し方は知ってるはずだと思うけど。


「どうやって倒すの?」

「巨神には『核』がある。そこを、この剣で破壊する」


 ローヴの言葉に私は目をこらして彼方の巨神を凝視する。

 剣で攻撃できるということは、内部ではなくてどこか外部に……って。

 もしかして、アレかな?いや、まさか。


「肩の上、青い玉がある。あれ?」

「……驚いた、よく見えるな。ああ、そうだ」


 50m近い巨人の肩の上なんて、弓でも届くかどうか怪しいよね?剣なんて……いや、アリサとかなら届くかもしれないけど、普通に考えれば無理だよね?


「剣、届かないよね?」

「届く……?何を言ってる?登るんだ、巨神を」

「何を言ってる?」


 思わずローヴの言葉を繰り返してしまった。

 え、登るの?

 あの巨神を?

 登って……肩の上に乗って、あの核を剣で刺すの?

 飛び上がって斬りつける方がまだ現実味がある気がするんだけど。


「巨神の体表には手がかりとなる部位が多い。そこをよじ登って、核を突く。これまでもそうやって巨神を倒してきた」

「……ほほう」


 いや、他に言う言葉が見つからなかった。ローヴには本当にその方法しかなく、そしてそれで巨神退治をやってのけたという事なんだろう。

 アリサのような超人的な身体能力を使った圧倒的な戦闘能力で敵を制圧するんじゃなくて、地道に努力と忍耐で敵を倒す。それがローヴのやり方なんだ。

 俄には信じられない攻撃方法だったけど、でもなんとなくローヴならそうしそうな気はした。


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