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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部10章『愚者と巨神』???-孤闘の惑星
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#3

 結構歩いた気がしたけど、不思議と日差しは変化せず、陽が落ちる気配も無い。まるで時間が止まってるかのような不思議な感覚だけど、お腹が減ってきているから時間が経っていることは間違い無いだろう。

 うん、私の腹時計の感覚では――たぶん歩き始めて4時間ってところだね。


 いつの間にか草原の端まで歩いてきたようで、目の前には切り立った崖と、都市遺跡らしきものへと続く坂道が見える。

 そして……岩場の影から、一筋の煙が立ち上っているのが見えた。


 ……誰か、いるんだろうか。距離が遠いせいもあってまだ何の気配も感じられないけど、燃えそうなものが無いはずの岩場から煙が上がっているということは、誰かが焚き火でもしている可能性がある。

 でも、人どころか動物もいないこんな場所で?


 私はサバイバルパックからナイフを取り出すか悩んだけど、結局武器は仕舞っておくことにした。武器を持つと戦いたくなるってアイリスが言ってたし、もしかして人がいた場合、手に武器を持ってると友好的に話せるとは思えないからね。

 それにそもそも私、ナイフの使い方なんか判らないから下手に振るって怪我させたり殺したりしたら寝覚めが悪いし。まぁ相手が人間なら素手でもなんとかなるだろうという楽観的な考えがあったのも事実だけど。


 左手にはめたままにしているレゾナンスシールドの存在だけは意識しながら、私は慎重に足を進める。

 やがて、岩場の影から人の息づかいを感じた。向こうも……こっちに気付いて、警戒してる?

 ずいぶんと感覚が鋭い人なんだろうか。狩人かな?そう思った私が足を止めたのと、岩陰岩場の間から人影が姿を現したのは殆ど同時だった。


「何者だ」


 聞こえたのは、青年の声。黒いフードをかぶっていて、顔は見えないけど年齢的には私と同年代ぐらいだろうか?

 その手にはジェイコブが持っていたのと同じような……いや、あれより随分と粗末な弓矢を構えている。現代的な工業製品っていうよりも手作業で作った様な木製の弓だよね、あれ。

 この星の技術レベルは、あまり高くないんだろうか?私が黙って相手を観察していると、向こうもこちらを観察していたのか再び口を開いた。


「人間……?」

「ヒトだよ」


 さすがにセレスティエルである私が人間だと口にするのは憚られたけど、まぁ一応私もヒトの範疇ではある。

 だから、正確に答えたけど……まぁ、ちゃんと意味は伝わってないだろうね。


「何をしている」

「墜落した。食べ物探してる」

「墜落……?」


 同じ言葉を話している筈なのに、その青年には「墜落」という言葉が通じていないように思えた。文明が衰退して空を飛ぶ能力を失ったから、墜落っていう概念が存在しないとか?

 でもまあ相手は弓を降ろしたようだから、攻撃してくるつもりは無いみたいだ。なら、もう少し話をしてみてもいいだろう。

 そうだ、こういうときはまず自己紹介から。


「私、トワ。ギルドのシンガー」

「ギルド……?シンガー……?お前の言葉は、良くわからない」

「言葉、通じてるよね?」

「言葉はわかる。だけどお前の言う語の意味がわからない」


 ギルドやシンガーの存在を知らないということは、やはりここは私達の文明圏とは接触の無い、ロストプラネットか何かなんだろうか。

 タカマガハラの人達はまだ話は通じたけど……あそこよりももっと昔に文明と接触を断った星とか。言葉は通じるけど、私の言っている語の意味がわからないという相手に何を話したらいいんだろう。

 私がそんな事を考えていると、今度は相手から話しかけてきた。フードをとって素顔を晒した彼は、声から受けた印象通りまだ年若い青年だった。


「僕はローヴ。巨神を倒している」

「巨神……?」


 今度は私が彼の……ローヴの言葉が理解できなかった。たぶん意味的には大きな神様っていうことだと思うけど、でも神様を倒している?

 仕事か何かなんだろうか。なるほど、さっき彼が言った言葉はわかるけど語の意味がわからないというのはこういうことかと、不思議な納得感があった。


「どうして倒すの?悪い神様?」

「巨神は……悪くない。でも僕はエコーを救うために、巨神を倒さないといけない」


 そういったローヴの表情には苦悩の様なものが見えた気がした。神様を倒す事への罪悪感?

 そもそも神様って倒せるものなんだろうか?


「神様って倒せるの?」

「ああ。僕は既に15体の巨神を倒した。残りは1体だ」

「ローヴ、すごい」


 倒せるかどうかどころか、既に15体も倒してるって、すごいよね。でもローヴが持ってる武器って、さっきの弓と……腰から下げている短剣ぐらい?

 岩陰に秘密兵器とか戦闘ドローンとかを隠し持ってるようには見えないけど……。


「でも、倒せないんだ。最後の1体が。エコーが待ってるのに」

「エコーって、誰?」

「……僕の……大切な人だ」


 大事な人のことを話しているはずなのにに、ローヴの口調には苦悩の色しか感じられず、きっとそのエコーという人は今、大変な状態なんだろうと思った。

 そしてその人を救うためには悪者ではないと判っている巨神を倒さないといけない。さらにあと1体で目的が達成できるのに、最後の相手が倒せない。

 それ、辛いよね……。私はローヴの事も、巨神の事も何もわからないけど……でも、目の前で苦しんでる人がいるなら、手を差し伸べたいって思った。


「手助け、しようか」

「何……?」

「私、盾職やったことある。ヘイト取れば倒しやすくなる」

「盾職……?ヘイト……?やはりお前の言葉は……良く、わからない」


 まぁ、ゲーム用語だからね、盾職とかヘイト管理とかって。私もジェイコブ達に教わるまで知らなかったし。

 私の言葉に頭を振ったローヴはその場へ座り込んだ。今気付いたけど、よく見ると顔色が真っ青になっている。どうやら体調は良くないようだ。

 見ると、シャツの裾に血がにじんでいる。怪我をしてるんだろうか?いや、巨神に勝てないと言っていたし……戦って、負けて、怪我をしたんだろうな。


「ローヴ、怪我してる?」

「かすり傷だ……しばらくすれば、痛みも引く」

「メディキット持ってる。治す」

「メディ……?」


 メディキットは判らなくても、治すという言葉はわかったのだろう。ローヴは少し怪訝げな表情を浮かべたけど、私が近づく事に警戒した様子は見せなかった。

 私はローヴの横にしゃがみ込み、シャツをめくって傷を確認する……。打撲傷だろうか?かなり酷い傷だ。肩から胸に掛けて変色している。

 骨折こそしてないみたいだけど、これでは戦うどころか腕を上げるのも大変だろう。


 さっき弓をすぐに降ろしたのは警戒を解いたというよりも、痛みで構え続けられなかったのかもしれないね。そんな事を思いながら、私は鎮痛剤と抗炎症剤を傷口へ塗布する準備をすすめた。


「少し、しみる」

「それは……薬草か?」

「薬までは正解。草じゃないけど」


 薬草で回復するとか、そっちの発想の方がゲームっぽいよね……なんて思いながら、私は手当を進める。

 傷口に触れたことでローヴは一瞬体を硬くするが、その口からは苦痛の声は発せられない。ずいぶんと我慢強いんだね、ローヴは。

 そう思いながら、私は傷口を保護するテープを貼り付けた。かなり重い傷だったから完治するには時間が掛かるけど、痛みだけなら15分もすればましになるだろう。

 私はローヴに見立てを告げて、少し休む様に声を掛けた。


「……痛みが引いてきた。ありがとう、トワ」

「もっと褒めて。私は褒められると伸びる子」

「言っている事は相変わらず判らないが……腕の良い薬師なんだな」

「くすし……?」


 やはり言葉は通じるけど、通じない。アイリスかアリサなら、こんな時でもちゃんと意思疎通できるんだろうな。二人の姉の事を思うと、少し胸が切なくなった。

 ……いや、この切なさは……姉のことを思ってじゃない。空腹だね。


「ローヴ、食べ物ある?」

「すまない。僕の食料は……もう何日か前に尽きた」

「お腹、空いてる?」

「……いつものことだ」


 傷の手当てをしている時に気付いたことがある。ローヴの体は鍛えられ引き締まった体だけど、脂肪の類いは一切付いていなかったんだ。普段からあまり恵まれた食生活じゃないんだろうか。

 ここ、動物も植物も乏しそうだし……。私は少し悩んだけど、ローヴにスラリー(どろどろ)を一本差し出した。私も手持ちは少ないけど、さすがに空腹の人を前にして食べ物を独り占めできないからね。


「これは……?」

「食べ物。こうやって、チューブの中を吸う」

「見たこともない不思議な食べ物だな……でも、旨い」

「でしょ。ローヴは立派な航宙船(ふな)乗りになれる」

「船?そういえばずっと昔にエコーと湖で船に乗ったことがある……」


 船という言葉は通じるらしい。ローヴが言っているのはボートか何かで、私が言ってるのは航宙船だから、微妙にずれてるけど。

 でもエコーという人は一緒にボートに乗る仲ということは……奥さんってことはなさそうだし、恋人か妹かな?


 焚き火に当たりながら、しばらくローヴと話した。私は自分が旅をしていること。帰るべき所を探しているということを話した。

 ローヴは言葉少なく、それでも愛おしそうにエコーとの思い出を話してくれた。

 霧のせいか焚き火の炎すら白ぼけて見えるけど、ローヴの思い出は曇ること無く彼の心の中に留まり続けているのが判った。やがて、火の勢が衰えると……ローヴは立ち上がった。


「行かないと。巨神を、倒さないといけない」

「わかった」

「……本当に来るのか?死ぬかも知れない……いや間違い無く、死ぬぞ?」

「私、死んでも復活するから」

「やはり君の言うことは、良くわからない。だが、警告はした」

「うん。だから、自己責任」


 私の言葉にローヴは薄く微笑んで見せた。いつの間にかローヴは私の呼び方をお前から君に変えていた事に気が付いた。

 そしてしかしたら今、初めてローヴの笑顔を見たんじゃないかな。無表情というよりも抑制的な雰囲気だからね、ローヴって。

 でも、私の方は微笑みすら浮かべられないから、表情が出ないのはおあいこなのかもしれないけど。


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