#13
「やっぱりこれ、最初からリュミエールを組みこむことが前提になってる設計だよね。アルカンシェルって就航前の実験船って言ってたし、まだ他にも組みこまれてない機能とかがあるんじゃないかな……」
[Sorry, I Don't Know, Lady.]
私の独り言にアルカンシェルが反応する。いや、アルカンシェルに聞いた訳じゃなかったんだけど……だって、自分に組みこまれていない機能のことを聞かれても、判るわけないからね。
私はアルカンシェルに軽く謝ると、元々の目的であるリュミエールを確認するため、横手のエアロックを開いてみた。
エアロックが開いた先はリュミエール側のハッチに直結していて艇内の様子が見て取れた。
覗き込んだ先の艇内デザインや操縦席の機器レイアウトはアルカンシェルと似た感じだけど、さすがに単座艇だけあって内部は狭い。貨物スペースらしき空間も大きめのトランクを2個ぐらい置けば満杯になりそうだ。
たぶんグラビティスリングが組みこまれているせいで船内空間を圧迫しているんだろうけど……。
と、そこまで考えて気が付いた。そうか、グラビティスリングを使って船外にコンテナでも懸架すればもっと荷物が運べるじゃない。
マリエッタはグラビティスリングにエクソギアを懸架するつもりらしいけど、いざというときは貨物用にも使えるなら意外と当たりじゃないかな、2号機。
私はそこまで確認すると、アルカンシェル側へ戻り、シューターの座席に着いた。見るとアームレストの点灯は赤になっていて、触れても反応はなかった。
どうなっているのかアルカンシェルに確認すると……どうやら、ブリッジ側でハッチの上にトワが立っているらしい。
そうか、急に私が床に転げ落ちた上にハッチは閉まって音沙汰無しだから心配してくれてるんだろうな。
そう思った私はアルカンシェルにブリッジへの通信を繋いで貰った。
「トワ、大丈夫だよ」
『アイリス!私、私も滑りたい!』
「えっと、心配してくれてたんじゃないのかな?」
『アイリスだけ楽しそうでずるい』
「うん……わかったよ。じゃあ戻るからハッチの上から退いてね?」
……まぁ、アルカンシェルの船内だからね。おかしな事にならないと信じているんだろうと思う事にした。
そしてアームレストが緑に点灯し、私はブリッジへと戻った。
その後、交代でリュミエールの確認と移乗シュートの体験を行った私達は、今後の事について話し合うことにした。
「直近で行う必要があるのはリュミエールのテストですね。航行装置の動作についてはG17が問題無いと保証してくれていますが、運用方法を把握するためにも試験航行は必要でしょう」
「うん、それは必須だね。念のため、周囲に星のない深宇宙で試験航行しよう。他には……やっぱり物資の調達かな?」
「フルーツ牛乳は大事」
「いや、フルーツ牛乳もだけど、食料とか水とか他にもあるでしょ?」
「フルーツ牛乳は水分も栄養も摂れる」
「なにそのフルーツ牛乳至高論……」
一瞬、船倉に満載されたフルーツ牛乳を想像してしまったけど、さすがにそれはない。
栄養バランスのためにも、食材はちゃんと揃えないといけないし、スターゲートの先がどうなっているか判らない以上は保存食の類いも可能な限り積んでい置いた方がいいからね。
アリサと二人で調達すべき物資を検討していると、マリエッタが手を挙げた。
「はいっ、ブリギッタの起動試験したいですっ!」
「ブリギッタ?」
「あ……あの、エクソギアにブリギッタって名前を付けたんですけどっ……ダメ、ですか?」
「あれはマリエッタが貰ったものだし、マリエッタが名前を付けるのは問題無いよ?」
「ブリギッタ……ブリキのマリエッタ?」
「違いますぅ!」
いや、さすがにブリキのマリエッタはマリエッタにもブリギッタにも悪いでしょうに。
どうやらマリエッタによると、ブリギッタとは彼女の名前を冠したオペラの歌に関連するキャラクターの名前なのだとか。マリエッタはドローンに親しみを感じていると言っていたし、エクソギアにも何か絆めいたものを感じているんだろうね。
ただブリギッタはソフトウェア的にもう少し調整が必要との事なので、それが終わり次第グラビティスリングの運用試験と合わせて起動試験を行う事になった。
なんでもマリエッタが言うにはエクソギアは遠隔操作だけでなく簡単な自立稼働やマスタースレイブモードでも使えるらしい。あれが自在に扱えるようになれば物資の搬入作業も楽になるだろう。
本来戦闘用として開発されたエクソギアだけど、私はマリエッタに戦闘をさせるつもりはない。だけどそれでも彼女が航行の役に立てるなら、それはマリエッタの自己評価を高めるためにも良いことだろうからね。
話し合いを経て私達は一度深宇宙でリュミエールのテストをした後、スターゲートに近い宙域へ移動して近隣惑星で物資の補給を行うことにした。
リュミエールがスペック通りに使えるなら隣の星系へ誰かをお使いに出すという方法もとれるかもしれない。一つの星で全ての物資を揃えるよりも、二手に分かれて調達できるほうが食材のバリュエーションは増えるだろうしね。
まぁ遺失技術の粋である超光速艇で買い物とか、世の技術者が聞いたら卒倒しかねないけど。
ともあれ、ここですべきこと、聞くべき事は概ねこれで全部済んだと思うけど、念のためにG17に確認しておいたほうが良いだろうか。
「G17、何か積み忘れとか聞き忘れてる事とか、ない?」
『船首脇のコンテナをご覧になりましたか?』
「……ん、そういえば何かあったね。補修部品?」
『いいえ。あれはグラビティカノンのユニットです』
「武器は要らないって……」
『セレスティエル・アイリス。スターゲートの彼方へ向かわれるのであれば、HF-PX00Aに武装を搭載することを再提案します』
「どうしてそんなに武器に拘るの?なにか具体的な脅威に関する情報でもあるの?」
『いいえ。これは私の直感です』
人工知性体が直感と口にしたことに私は戸惑いを感じた。
たしかにG17は人間的な応答をするが、それでも「彼女」は機械的な存在だ。本来であればそんな存在が口にする「直感」は彼女自身が言っていた比喩的表現の一種にすぎないのだろうけど……。
「G17、あなたはグリーフ博士?」
『私はエレオノーラ・グリーフ本人ではありませんが、可能な限り彼女の思考をエミュレートするように作られています』
「なら、その直感はグリーフ博士の直感?」
『おそらくですが、肯定です』
トワがG17に問うたこと。そしてそれに対するG17の答えから察するに、G17が武器を搭載することを強く勧めるのはグリーフ博士という人物の思考をトレースしたが故のもののようだ。
グリーフ博士という人物がどのような性格だったのかを知る術は無いが、その名通りの性格なら……悲観的な人物だったのかもしれない。
「G17、提案と心配してくれている事には感謝するよ。でも、やっぱり武器はいらない。武器を持ってると、戦いたくなるかもしれないからね。私は全員を連れて無事に帰ってくることを最優先にしたいんだ。だから、武器が無ければ……危ないところへは行けないし、行かないでしょ?」
『ですが』
「じゃあG17、必ず戻ってくるから、そのときに改めて武器の要否を話し合いましょ?危ない目にあったら今度戻ってきたときにグラビティカノンなり光子魚雷なりを装備する。それでいい?」
『……指示、受諾』
傍らを見るとアリサは頑固な人工知性体に少し呆れている様子だったけど、マリエッタは何か言いたげな表情をしていた。
だけど、それでもアルカンシェルに武装を施すことは私には受け入れがたかった。なにせ、ここは私達の家なんだ。武装して戦闘艦にしてしまったら、もう家と呼べなくなってしまうような、そんな気がしたから。




