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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部9章『ホーム・リフォーム』第1037技術開発拠点-残技の衛星
314/355

#5

>>Towa


 一隻目の船には何も面白そうなものが無かった。

 なら二隻目だと思ったけど……そっちは酷い有り様だった。物取りに荒らされた……ってこういうことを言うんだろうか?

 破壊しているというよりも、何か隠されていないかを徹底的に家捜しした感じの荒れ方だった。


 ハッチやパネルの類いは全部開けられているし、操縦席のシートも切り裂かれて中身が露出している。

 コクピット周りのコンソール類もパネルが外されて中の記憶装置が抜き取られているように見えた。

 おまけに、操縦席のコンソール中央にはブラスターの弾を撃ち込んだような焼け跡。なんだろう、このホロムービーのスパイがやりそうな荒し方は。


「トワ、考えてること判るけど……これ、スパイがやりそうなことじゃなくてスパイがやったことだからね」

「また心を読まれた。アイリスは心スパイ」

「はいはい。というかこれ、荒らしたというより徹底的に調べ尽くしたって感じだよね?単に荒らすだけならこんな手の込んだことをしないし、情報が無さそうなところには一切手を付けてないし。間違い無くプロの仕業だし、なんならそのプロの船が隣に止まってるし」


 周囲を呆れた様な目で見回しながらアイリスがそう言った。

 そうか、これは無駄の無い荒し方なのか。覚えておこう、私もいつか誰かの船を荒らす日が来るかもしれないし。


「アイリスさん、やはりこの船にも消耗品の類いは残っていませんでした。まぁヨーコが必要な物質を見落としていくとも思いませんけど」

「おそらくこの船が先に来ていて、後から来た諜報部の連中が情報が無いか漁ったんだろうね。この船に乗っていた人の脱出が確認できてなければ焦るところだけど。マリエッタ、この船がいつ頃ここに来たか判る?」

「うーん、船内システムが全部死んでますから、わたしじゃどうにもなりませんっ……」


 さっきの船ではマリエッタが魔法みたいな手際で船の情報を集めてたけど、さすがにシステムが完全に破壊されていると無理なんだね。

 じゃあ、私の方法だとどうだろうか。

 ブリッジを出て居住ブロックへ入った私は家捜しされ尽くした船内でゴミ箱を探す。


 ……あった。当然の様に中のゴミも全部ひっくり返されている。床に散乱したゴミの中に……うん、あるね、食べ物のパックのゴミが。

 消費期限の日付は……230年ぐらい前。このスラリー(どろどろ)はたぶん50年ぐらいは日持ちするタイプだから、この船に人が乗っていたのは280年ぐらい前から230年ぐらい前……かな?

 もしかしたら、消費期限切れてから食べてる可能性もあるけど。とりあえず、私はパックを持ってアイリスに報告しに行った。


「トワ、この前も食べ物のパックで年代測定してたよね……食い意地がこんな形で役に立つなんて」

「280年前……そういえばヨーコは250年ぐらい前にオリジンスターに関する論文発表を行ったと言っていましたっけ。この場所への訪問が発表前だとしたら、ここで何か情報を得たのかも知れませんね」

「なるほどね。なら、諜報部の連中がここへ来たのはヨーコって人の発表が遠因になってる可能性がある、か」

「ええ。そしてこの船の有り様を見るに……おそらく友好的ではない接触をしたのではないかと。ヨーコにも、G17にも」


 アリサは友好的ではない、って言うけど……ここの有り様を見てるとどうみても敵対的だよね。

 どうしてスパイって友好的に親しくして情報を譲って貰わないんだろうか。無理矢理奪う方が効率悪いと思うんだけど。


「友好的にするよう、メラニーに言う?」

「いえ、この件を私達が知ったことはメラニーに伏せておきましょう。知らせないことで優位に立てる可能性があります」

「んー、まぁそのあたりの政治的駆け引きはアリサに任せるよ。じゃあマリエッタも、この件は秘匿情報扱いでいい?」

「はいっ」


 私はメラニーに友好的に情報収集するようアドバイスするつもりだったけど、他の三人はこの件は伏せた方が良いという判断らしい。まぁ、無理にメラニーにアドバイスする必要はないけど……機会があったら一応言ってみてもいいかな。


 施設外に停泊している二隻の船を調べるのはこれぐらいでいいだろう。ともあれ、諜報部のスパイが施設の中に入り込んでいたこと、そして今はもういないということが判っただけでも良しだとアリサは言っていたし。

 私はちょっとスパイの人に会ってみたかった気もするけど。


 ……そんな期待が思わぬ形で叶うことになるとは思ってもみなかった。



>>Alyssa


 航宙船の探索で得た情報から、ヨーコがここを訪れたこと、そして諜報部が……ひいてはメラニーがここから何らかの情報を得た可能性が判りました。

 駆け引きをするにも政治闘争へ持ち込むにしても、手持ちの情報量に差があると不利ですから、私達もこの施設でメラニーと同じかそれ以上の情報を得ておく必要があるでしょう。

 幸いなことに施設を管理する人工知性体G17は私達に友好的ですから、情報収集には有利だとは思いますが……。


 そんな事を考えながら船を出た私達は、離れたところに見える施設の入口へと向かいました。

 荒涼とした小惑星の表面とは違い、施設の建物も発着ポートも数千年前のものとは思えないレベルで機能を維持しています。とは言え同じ古代文明の施設であるアヴァローンに比べると保管状態があまり良くはないようにも思えます。

 そういえばトワ様が以前訪れたG15の星はどうだったのでしょうか?


「トワ様?G15の星もこんな感じだったのですか?」

「ううん。もっと廃墟」


 もっと廃墟という、端的な説明に納得はしましたが……同じ古代文明でも保存状態が違う点はやはり気がかりです。まぁアヴァローンは定期的に機族達が訪れているのでメンテナンスをしっかりしているのかもしれませんが。

 一方でG15の星はトワ様が訪れるまで訪問者も無く、この星もヨーコや招かれざる訪問者である諜報部の連中ぐらいしか来訪者はなかったでしょうし。

 その証拠にほら……施設の外側には堆積したゴミが。


 視界の端、施設の壁際に何か固まりのようなものが見えた私はふと足を止めましたが……あれは、もしかして。


「アイリスさん」

「どうしたの?」

「あそこ、見てください」


 目をこらして私が指さす先を見つめるアイリスさんですが、しばらくして「あれ」が何か気付いたようです。


「見に行くしかない、かな」

「ええ。でもトワ様達には……」

「マリエッタにもあまり見せたくないけど、話だけはしておこうか」

「……わかりました」

「トワ、マリエッタ。ちょっといい?」


 アイリスさんは先を歩いていた二人に声を掛け、施設の横手にある「あれ」について調べに行くという事を伝えました。


「あれって、何?」

「おそらくだけど……諜報部の連中の、遺体」

「ひぃぃ!?」

「マリエッタ、あなたは見なくていいから。トワはマリエッタについててあげて?」

「わかった」


 そう、遠目に見える「あれ」は、黒いコスモスーツを身に纏った人型のように見えました。

 場所が場所ですからマネキンやただの不法投棄ではないことは明らかですし、となると考え得るのはアイリスさんが口にした……G17に敵対した諜報員の遺体である可能性が高いでしょう。

 二人をその場に残して、私はレゾナンスブレードを、アイリスさんはブラスターを抜いて「あれ」に近づきます。


 近づくにつれ、「あれ」は一体ではなく複数……おそらく3人分の遺体である事が判りました。

 施設入口から離れた物陰で一体何をしていたのかと思ったのですが、岩陰になっていた施設の壁面に大型のアクセスパネルが開口していることに気付き、状況が理解できました。


「どうしてこの手の連中は正面玄関から入ろうとしないんでしょうね」

「スパイの作法なんじゃない?」

「そんな無作法は作法とはいいませんよ」

「まあそれもそうか。……この状況、こんな所から侵入しようとしてセキュリティシステムに撃退された感じかな?」

「でしょうね」


 間近でみるとやはりそれは3人の遺体でした。体格から見るに、成人男性。揃いのコスモスーツはギルドで標準的に用いられているものと同型です。

 恒星の光が当たっている部分は風化が進んでいるようですが、物陰になっている部分に倒れている遺体は比較的状況を保っています。……といってもミイラ化はしていますが。


 状況確認をしておきたいところですが……施設脇なので、ここならG17とコンタクトが取れるでしょうか?


「G17、聞こえる?」

『セレスティエル・アイリス。聞こえます』

「これ、状況説明できる?」

『はい。不明勢力による敵対的侵入が試みられました。警告後も敵対行動を中止しないため、防衛システムを作動。12名中5名を殺傷』

「……ここにいない9名は?」

『内部に侵入されました』

「侵入されてちゃダメじゃない……」

『私の任務は殲滅ではありません、セレスティエル』


 やはり想像していた通りのことが起こっていたようです。裏口を勝手に作ろうとして、あまつさえ家人に止められても無視して侵入するとか……G17にモーリオンギルドは敵対勢力、と断じられるのも無理はありません。

 この分だと内部に侵入した残り9名も――うち2名は負傷していたようですが――面倒な事態を引き起こしてしたであろうことは想像に難くありません。


 私が頭痛を感じているとアイリスさんはブラスターを構え、G17に向かって声を掛けました。


「G17。発砲するけど、いい?」

『発砲理由の申告を求めます』

「あなたにとっては敵だけど、一応私にとっては同胞だからね。このまま遺体を放置するのは忍びないから、火葬したい」

『申告内容確認。承認します』

「ありがとう。アリサ、ちょっと下がっててくれる?」

「はい」

「……魂の輝きが、永遠に水晶に宿りますように」


 アイリスさんはギルドに伝わる弔いの言葉を小さく呟くと、ブラスターの引き金を引きました。

 ミイラ化していた遺体はエネルギー弾の直撃によって燃え上がり……そして、塵となって宇宙へと還っていきます。


 彼らがここへ来たのは自分の意思ではなく、おそらくはメラニーの指示によるもの。なら、彼らをギルドの殉職者として送りたいというアイリスさんの気持ちは理解できました。


 火葬を終えた私達は、せめてもの償いにと開放されたままになっていたアクセスパネルを閉じ……トワ様達と合流して正規の入口へと向かいました。


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