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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部8章『土竜の歌』ティンバリス-誤災の惑星
306/355

#32

>>Alyssa


 トワ様のサウンドマスキング実験と、アイリスさんが熱弁を振るったノマド型伐採の提案によってティンバリスの問題に解決の目処が立ちました。

 今夜はそれを祝して盛大な宴会が開かれているようです。


 ……ようです、というのは私は不参加だからです。まだ吐き気が収まらないので、とても宴会に参加出来る気分ではありません。

 ああ、早くこの星を離れて静穏な宇宙空間でトワ様を心ゆくまで吸っていたい。切実にそう思いました。


 遠くから聞こえる宴の喧噪を感じながら、独り町外れで夜空を見上げていると……誰かが近づいてくる気配を感じました。


「少しは気分良くなった?」

「……ほんの少しだけ」

「じゃ、飲み物ぐらいなら飲める?」

「ええ、水分なら……」


 振り向くとそこにいたのはアイリスさんでした。リモンジュースの入ったカップを両手に持っています。


「はい。乾杯しよっか?」

「ありがとうございます。何に乾杯しますか?」

「んー、土竜の歌に?」

「やめてください。思い出しただけで頭が痛くなります……」

「あはは。じゃ、お疲れ様」

「はい、お疲れ様です」


 2人でコップを打ち合わせ、リモンジュースを口に含みます。よく冷えた果汁を喉に流し込むと吐き気が少し収まった気がします。


「宴会の様子はどうでしたか?」

「今回はトワが英雄扱いされてたよ。『英雄トワ』ってまるで哲学的命題みたいな感じになってたけど」

「英雄とは……大安売り、ですね」


 とは言え、私の愛するトワ様が英雄視されるというのは悪い気分ではありません。おかげで吐き気も随分と収まりました。


「では、これで撤収ですか?」

「そうだね。サウンドマスキングの件はもう少し研究する必要があるだろうけど、それはジョイナーギルドの仕事だし。サウンドステークの調整や製造方法はリーヤに教えておけばなんとかなるだろうから」

「どこまでミッションレポートに書くつもりですか?」

「ん?全部書くよ。私、やましいことしてないからね」

「はぁ……わかりました。じゃあ、火災原因の部分は私の方で書いておきます」

「いいの?」

「共犯がいた方が罪は軽くなるでしょう?それに、私も過剰な干渉を黙認したのですから、同罪ですし」

「……ごめんね?」

「いいですよ、水くさいことは言いっこなしで」


 私はそう言って、残ったリモンジュースを一気に飲み干しました。


「気分が良くなりました。まだ、食べ物は残っていましたか?」

「トワが食い荒らしてたけど、マリエッタがアリサの分は確保してくれてたよ」

「優秀な秘書官ですね」

「でしょ?」


 私とアイリスさんは、笑い合いながら宴会場へと向かいました。



 翌日、私達はティンバリスを離れました。出発前にアルカンシェルの船倉に運び込まれる大量の檜材を見て驚きましたが……トワ様曰く「報酬に貰った」そうです。


 そういえば昔、私がトワ様に報酬を渡す側の立場だったとき、トワ様はC3の欠片を要求されたことを思い出しました。あの欠片は私の足を癒やすために使われたもので……結局、トワ様自身のためのものではありませんでした。

 ならこの檜材も、もしかすると誰かのために……。そう思って檜を何に使うのかと聞くと、驚きの答えが返ってきました。


「檜風呂キット。組み立てるとお風呂になる」

「……もしかして、ですけど。アルカンシェルに檜風呂を?」

「うん。でもここでは施工できない」


 もろに私利私欲のための要求でした。いえ、それで良いのです、なにせトワ様はこの星の英雄なのですから。

 英雄とは……何なのか、少し哲学的なことを考えさせられないでもないですが。


 トワ様曰く木工ギルドに船大工の真似事をさせるわけにかないので、しばらくは木材のまま積んでおいて、しかるべきところでお風呂にするのだそうです。

 アイリスさんも呆れていましたが特に反対はされなかったようです。


「だって気持ち良かったじゃない、檜風呂。アルカンシェル(うち)にあれば、いつでも入り放題だよ?」

「まぁ、気に入ったというのは否定しませんが……」


 私達がそんな会話をしている横で、マリエッタがリーヤに熱烈にかき口説かれていました。


「なぁ、マリエッタ!この星に残ってくれよ!オレ、マリエッタのために家を建てるからさ!」

「えっと、リーヤ君……それ、もしかしてプ……プ……」


 プロポース、ですよね。でもリーヤには悪いですが、うちのギルドの有力人材をホイホイと他のギルドへ嫁にやるわけにはいきません。

 アイリスさんに視線を向けると、軽く肩をすくめると彼女は言いました。


「まぁ、クライアントの依頼を断るのも秘書官のお仕事だよ。何事もOJTってことで」

「……あれ、秘書官関係ないですよね?」


 マリエッタはしばらくリーヤを説得していましたが、やがてマリエッタがティンバリスに残る気が無いことを理解したのかリーヤは引き下がりました。

 リーヤ、初恋とは実らないほうが美しい思い出として残るのですよ。


 そんな事を思いながら……私達はティンバリスの地を発ちました。



 そして衛星軌道上にて。私達はブリッジに集まり、次の目的地についてアイリスさん……とアルカンシェルからの説明を受けました。


「第1037技術開発拠点……ですか?」

「そう。アルカンシェルがジャンプする度に周辺の古代文明の施設に通信で接触を試みてたんだって。で、その中で唯一生き残っていたのが第1037技術開発拠点」

「アルカンシェル、いつの間に」


[Sorry for Not Asking You, Mam.]


「別にいい。そこへ行けば治る?」


[Affirmative.]


 アルカンシェルの心臓部である重力推進システムの不調は命取りになりかねませんし、いずれメンテナンスが必要になったときのことを考えるとアルカンシェルを整備出来る拠点を持っておくのは良いことです。

 そういう意味でも私達が次に向かうのはその技術開発拠点しかありえないでしょう。


 問題はそれがどこにあるかと言うことですが……。私はアルカンシェルに指示をして技術開発拠点の位置を座標で表示させました。


「あれ?アリサ……この座標って」

「……ええ、そうですね」

「そうなんですかっ!?」

「さぁ?」


 私とアイリスさんは気付き、マリエッタとトワ様は気付いていませんが……アルカンシェルが示すXYZ軸の空間座標三要素は、ヨーコのメモに記されていた3つの数字と全く同じでした。

 つまり……ヨーコが言っていた答えへの手がかりである「光」というのはこの技術開発拠点を指していたのでしょうか?

 でも、前回この座標を調査した際には星図には何も記載が……。そこまで考えて、私はあることに思い至りました。


「アルカンシェル。この座標を……あなたが建造された当時に保有していた星図でサーチ。対象座標に何があるか表示してください」


[Target Coordinate Search...Find.]

[Applicable Coordinates -the 1037th Technical Development Center-.]


 最新の星図では何も無いとされていた宙域に、しっかりと記載されている「第1037技術開発拠点」の文字。

 つまり、私の聞き方が間違っていたので、アルカンシェルはこのデータを表示できなかった……ということですか。


「まぁ、今の星図に古代文明の施設が載ってる方がおかしいですけど……」

「アリサ、ドンマイ」


 トワ様に励まして頂きましたが、さすがにこれは痛恨のミスです。

 なにせ私がヨーコにこの座標の事を聞いたのは、まさに古代文明やオリジンスターの話をしていた時だったのですから。


「でも良かったじゃない?謎の一つは解決したし。アルカンシェルも修理できるし、一石二鳥だよ」

「もしかしたら、新型アルカンシェルが残ってるかもしれない」


[Don't Leave Me, Mam.]


「捨てない。妹分が出来たら、艦隊を組める」

「いえ、超光速船があったならきっとヨーコが持ち出しているはず……あっ」

「なるほど、そういうこと……か」

「どういうことですかっ!?マリエッタにも判る様に説明してくださいっ!」


 先ほどから私たちが話していたのはマリエッタが合流する前の出来事ですから、彼女には何のことか解らなくて当然です。

 私はマリエッタに惑星ベイカーで出会ったテロマー、ヨーコの事を話しました。彼女は不可解なタイミングで間に合わないはずのタカマガハラ支援船に応募した形跡があり、私とアイリスさんはヨーコがどうやって船に追いつくつもりなのかと疑問に思っていたのですが……。


「超光速船があれば、余裕で支援船に合流できますねっ」

「ええ、そういうことです。つまり、ヨーコの行動からみても彼女がこの技術開発拠点を訪れ、そこで何か……いえ、超光速船を手に入れたと考えるのが妥当でしょうね」


 それがどんな船なのかは判りませんがヨーコの言葉にあった「光」という単語は……アルカンシェルの名である「虹」と似ていますから、もしかするとそういう名の航宙船なのかもしれません。


 ともあれ、私達の次の目的地は決まりました。ただ、該当座標は不調を抱えた現在のアルカンシェルには少し遠い距離のようで、一度どこかを中継する必要があるようです。


「アイリス、この位置だとダンディライアンに寄れる」


 トワ様が示したのは、現在地と技術開発拠点の中心から少し逸れた場所にある、かつて訪れた事のある機動要塞でした。

 あそこにはアルカンシェルを改装できる船大工がいます。つまりトワ様は……先に檜風呂を設置してから修理へ行こうとおっしゃっているのでしょう。


「まぁ、どこかへ寄るなら、知ってるところのほうがトラブルに巻き込まれる可能性は低いかな?じゃ、アリサ。ダンディライアン行きでいい?」

「ええ、かまいません。モルガンに……少し謝りたいですし」


 そういうことで私達は中継地として設定した機動要塞ダンディライアンへ向かうことになりました。


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