#27
>>Towa
アリサと考えた音響モジュールの仕組みは簡単だ。マイクで入力した音をフォトンに変換し、C3を通してスピーカーから出力する。
通信機をバラして内部にC3を組み込むだけだから、すぐに作ることはできるけど……。問題は、何色にするか、だね。
いや音が変わればいいだけだから何色でもいいんだけど、どうせなら格好いい音とか、泣ける音とかの方がいいから。でも、元の音が判らないと何色にしたらいいか判らないんだよね……。
ログタウンの食堂でそんな事を考えながら、晩ご飯の魚ソテーをつついていると、リーヤがやってきた。
「なぁトワ、ドラゴン退治しないってホントか?」
「うん。というかアレ倒せない」
「なんだよ、チクショウ……」
「リーヤ、ドラゴンは悪くない、ご両親も助けようとした」
「でも、やっぱり悔しいよ、オレ」
まぁ、ずっと親の仇だと思っていたんだから、急に実はあれは恩人でしたと言われても納得は行かないだろうね。
でも、それはリーヤが時間をかけてでも受け止めないといけないことだ。そんな事を考えているとマリエッタがC3を持ってきてくれた。
「トワさん、これでいいですか?」
「感謝」
実験用にストックしていたC3の中から、ランクの低いものをいくつか見繕ってきてもらった。
これは……DランクにEランクだね。私の見立てだと、Eだと少し出力が足りないからこっちのDランクを調律しよう。色は……迷ったけど、この星のイメージに合わせて碧にしてみようか。
私は食べかけの定食を横にどけ、マリエッタから受け取ったC3を軽く掲げ、歌を口ずさむ。
「The stars do blink and silent watch, My voice with wind doth fade, to stillness melt....」
(星は瞬き、静かに見守る 声は風に消え、静寂に溶けゆく…)
何も考えずに歌う時はだいたいこの歌だ。ギルドの標準的な調律歌とは違うけど、私としてはこれが標準ってことかな。
歌い終わると手の中のC3が碧に色づいてゆく。うん、Dランクに納められるようにちゃんと調律できた。
まぁ、これぐらいなら朝飯前だ。……いや、今は夕食中だっけ。
調律の済んだC3を脇に置いて、魚のソテーに取りかかろうとした私は、周囲が静かになっていた事に気が付いた。
周りを見回すとお店の人もお客さんも、ついでにリーヤも目を丸くしていた。マリエッタは呆れたような顔をしていたけど。
「トワさん、食事中に調律したらお行儀悪いですよ」
「……むぅ、それは正論」
あまりにもお行儀が悪くて注目の的になっていたのか……これはこの場にいるみんなに口止めしておかないと、あとでアイリスにバレたら姉のお説教1時間コースがやってくる。まずは隣にいるリーヤに口止めだ。
「リーヤ」
「すっげぇ……今の、今のがクリスタルシンガーってやつか!?」
「最初に会った時からずっとクリスタルシンガー」
「いえ、リーヤ君が言いたいのは調律か?って事ですよっ。リーヤ君、今のがシンガーが行う調律ですっ!」
何故かマリエッタが胸を張ってえらそうに説明している。……私と同じく、貧相な胸を。
「すげぇ……な、オレにもできるか?どうやるか教えてくれ!なぁ、マリエッタ!」
「どうしてマリエッタ?解せぬ」
「あはは……リーヤ君、調律はモーリオンギルドの人にしか出来ないんですよっ。あ、でもギルドの人なら誰でも出来る訳じゃ無くて、わたしは苦手なんですけど……」
「なんだよ……でもやり方ぐらい教えてくれよ!」
「仕方ないですね……トワさん、いいですかっ?」
「私はソテーと戦うので忙しい。マリエッタに任せた」
昨日の鳥串も美味しかったけど、今日の魚ソテーもまた美味しかった。なので私はリーヤの相手をマリエッタに任せた。
食べながら見ていると、マリエッタはギルドの標準調律歌をリーヤに教えていた。あの歌、面白みが無いから私は好きじゃないけど、シンガー能力があって、歌さえ歌えればとりあえずは調律できるからね。
何度か練習したリーヤはやや音程が外れながらも歌を覚えたようで、実際にC3を手に持って歌う事になった。
高々とC3を掲げてリーヤは歌歌う。そして……。
――C3が砕けた。
「わっ、壊しちゃった……ごめんなさい!」
「リーヤ君、怪我は無いっ!?でも、どうしてっ?C3が砕けるなんて、聞いたこと無いですっ」
リーヤとマリエッタは訳が分からないという様子で慌てているけど、私は知っている。
その現象はオーバーチューンだ。私がスクールのシンガー能力測定でやったのと同じ。
つまり……リーヤにはシンガーの資質がある?それも、Eランクを砕いたということは……最低でも2ランク上、Cランク以上の資質?
これは、私には対応できない事態だ。
「マリエッタ。アイリスとアリサを呼んできて。大至急」
「え?は、はいっ!」
マリエッタが食堂を飛び出してから、気が付いた。そういえば通信機で二人を呼べば良かったんだ。
私も少し気が動転していたようだ。
「なぁ、トワ……オレ、弁償しないとダメだよな?お小遣いでなんとかなるかな?」
「たぶん、弁償しなくても済む。むしろ、お金が貰えてウハウハ」
「なんでだよ!」
その後、騒ぎになった食堂にはリーヤの里親――母方の叔母だと言っていた――やベルナさん、そしてアイリス達も駆けつけてきた。
私が砕けたC3を示しリーヤに高いシンガー能力がある事を説明すると、アイリスは一瞬唖然とした様子だったがすぐに気を取り直し、リーヤの叔母さんに両親の素性を確認し始めた。
リーヤの母親は先祖代々ジョイナーギルドの所属でモーリオンギルドとの関係は無し。だけど、父親は余所からの流れ者で経歴は不明だということだった。
ベルナさんに確認したところ、言いにくそうに彼女が教えてくれた。リーヤの父親が元は私と同じクリスタルシンガーだったと。
なんでもそのシンガーは任務で訪れた先で出会った女性――つまりリーヤの母――に一目惚れし、ギルドを抜けて駆け落ちする形で結婚したらしい。
うちのギルドは基本的に組織内での結婚推奨だからね。星外任務につけるぐらいのシンガーということは最低でもBランク以上だろうし、そんな資質持ちなら普通はギルド外での結婚なんて統括局が許可するはずがない。
だから駆け落ちになった。そしてベルナさんも、事情を知っていたので私達には黙っていた……ということだろう。
「で、どうするの?」
「どうって……リーヤ、モーリオンギルドに入る?」
「オレはジョイナーギルドの人間だ!」
「だよね。ギルドの掛け持ちって聞いたことないし、野良シンガーってことになるかな?」
私の問いにアイリスがリーヤの意向確認をするが、リーヤの返事はにべもない。
そりゃそうだ。ジョイナーギルドの直轄地にいる子に別のギルドへ入れというのは無理があるのは私にだってわかるし。
「でも、丁度良かったじゃない。リーヤが調律出来るなら、ここで必要なC3をリーヤが調律すれば済む話だし。うちの支部や出張所が無くても、未調律のC3なら通貨代わりに持ち込めるでしょ?」
「それ、かなりグレーですよね?雑貨や器具に装着されているC3をバラして流用するよりは幾分ましですけど……」
アリサとアイリスが言っているのはうちのギルドの商取引上の問題だね。
ギルドはC3の流通を管理する組織だから、支部や出張所の無い惑星は調律済みのC3単体を直接輸入することが出来ない。
今回私達が訪問したように、必要に応じてシンガーを招いて調律依頼を行う必要があるけど、これは時間もコストも掛かるので音響モジュールのような小物を作るための手段としては現実的ではない。
となると、既に調律されたC3が組みこまれて生活雑貨なんかを取り寄せて、それを分解してC3を取り出すという手段ぐらいしかないけど……それ、個人がやるならまだしも別組織であるジョイナーギルドがやってることがうちのギルドにバレたら結構問題になる。
で、折衷案として「通貨代わりに使われているC3」を「たまたまシンガー能力を持っていたリーヤ」が「鼻歌を歌ったら色が変わった」という体でなんとかしようっていうのがアイリスの提案だ。
うん、我が姉ながら無茶なことを言ってるよね。でもアイリスが言うなら大丈夫なんだろう。
「……これ、バレない様に積極的に隠蔽しないとダメなやつですよね」
「ミッションレポートに音響モジュールの事を書かなければいいんじゃないかな」
「メラニーが嗅ぎつけないとでも?」
「DランクのC3数個の話やCランクぐらいの野良シンガー1人で統括局は動かないよ」
「そうだといいんですけど」
ジト目のアリサが不承不承納得したようなので、この話はリーヤの意思とは関係なく、そういう事になったようだ。




