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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部8章『土竜の歌』ティンバリス-誤災の惑星
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#26

ジョイナーギルドの人達も、アリサ達もマリエッタの推理に納得しているのか口を挟まなかった。


 なら残る問題は一つだ。私がもう一つの謎についてもマリエッタに聞こうとしたが、マリエッタはホロディスプレイに表示されたままの土竜の映像を注視していた。


「アイリスさん、あれ……サウンドマップですよね?いつの間に解析したんですか?」

「マリエッタが寝てる間。アルカンシェルに手伝って貰ったんだ」

「酷いですっ!データ分析はわたしのお仕事なのにっ!アルカンシェルさんにも後で厳重に抗議しますっ!」

「いや、アルカンシェルは頼まれた仕事をしただけだからね?それで、あれがどうかしたの?」

「分析結果を見たら何かわかるかとおもって。見てもいいですかっ?」

「ええ、もちろん。じゃあ再生するね」

「……あの、私が苦しんでるシーンはスキップして頂けませんか?見てるだけで思い出して頭が痛くなるんですけど……」


 アリサがげんなりとした様子で言うけど、そこはスキップすると情報が欠落するからね。今回は我慢して貰おう。

 マリエッタは映像に重ねられた音波データの中でも共鳴波の周波数スペクトルをチェックしていた。同時に携帯端末を操作して何かのデータを呼び出して見比べているようだけど……。


「アイリスさん、なんとなく判ったかも知れませんっ!」

「嘘っ、音波データ見てるだけだよね?」

「はい、その音波が鍵だと思いますっ。この子達、おそらく視覚はかなり退化していると思うんですけど、その分音波ソナー的な器官で土の中での生活をエンジョイしてますよねっ?」


 エンジョイしてるかどうかは判らないけど、地中生活が視覚ではなくて音波探査頼みだというのは間違いないと思う。


「で、この子達が使ってる周波数スペクトルが近いんですっ!」

「近いって、何に?」

「ランバージャック型のドローンがチェーンソーを使う際に発生する、稼働音ですっ!」


 ランバージャック型のドローンというのは、この惑星でジョイナーギルドが使っている伐採型ドローンの名称だ。

 つまり……ドローンと土竜の接点が……共鳴波?


「よくそんなことに気付きましたね……?どうしてドローンの稼働音を知っていたのですか?」

「えっと……わたし、あんまりお友達いなかったので。いつもドローンと遊んでたんですっ。なので、ドローンには詳しいですっ!」

「うっ……ごめんなさい、トラウマを抉るような事を聞いて……」

「大丈夫ですっ!だってもう、大事な人が3人もできましたからっ!」


 アリサの発した問いにマリエッタは軽い様子で答える。私も一瞬、ドローンオタクかとツッコミかけたけど、口にしなくて良かった。

 それにしても友達がドローンだけとか寂しすぎるでしょう、マリエッタ。まぁ、年齢より遙かに知能が高いこの子だと、同世代の子供達じゃ遊び相手にならなかったのかもしれないけど。

 しかし大事な人が3人、か。これからその人数をもっと増やせる様に手伝ってあげないとね。保護者として。


「本題に戻るけど、稼働音と音波探査の波長が近いということは互いに影響があるって事?」

「んー、ドローン側は共鳴波を受信してどうこうする機能はないですから、一方的に土竜に影響が出てる感じですっ!あ、土竜からしたら、コンタクトを取ろうとして話しかけてもガン無視するくせに、一方的に何か叫んでる相手に見えるかもしれませんっ!」


 それ、土竜側から見たらもの凄く嫌らしい相手じゃない。人間でそういう存在がいたら……喧嘩っ早い人なら殴りに行っても仕方ないシチュエーションかもしれないね……。


「管理官……それに、マリエッタさん……今のお話は……?」

「仮説ですっ!」

「確かに仮説ですけど、状況証拠的には納得がいくと私は思いました。謎の生物が地底からいきなり現れて敵対し、唐突にドローンを破壊するというミステリーと、秘書官の仮説。どちらが納得できそうですか?」

「まぁ、そう言われると……。ですが、ランバージャックは3年半前の入植開始時から使用しています。それが今になって急に襲われるというのは……」

「あ、それならなんとなく判りますっ!小さい方のトカゲ君達、もの凄く臆病なんです。大きい物音がしたらすぐに逃げ出すぐらいに。だからきっと土竜もHLVが降りてきた音で、この辺りから逃げていったんじゃないかとっ!それに街の建設が始まったら色んな音がしますからねっ」


 なるほど、マリエッタが言う事には一理ある。HLVの着地衝撃はかなり大きな音だし、それを察知した土竜が自分の対抗できる大きさの相手ではないと認識するのは当然だろう。

 一方でランバージャックのサイズは土竜より一回り小さいレベルで、十分戦いになるサイズ感だ。さらにデポに飛来するのは小型のエアロプレーンとランバージャックぐらいのもので、土竜にとっては大きな脅威ではない。

 それが騒音を立て始め、土竜が我慢の限界を超えたのが……ここ数日の火災、と言うことだろうか。


「そんな……じゃあ、私達はどうすれば良いのですか?」

「ベルナさん、私達はあくまでも他ギルドの者です。この星はジョイナーギルドの直轄地ですから、私達がどうこうしろと指示することは越権行為になります」

「……それは、そうですけど」

「でも、お節介な旅人として助言する事ぐらいならできると思いますよ?トワ、アリサ、何か思いついたんでしょ?」


 私がそう声を掛けると、小声で何かを相談していた二人がばつの悪そうな顔でこちらを振り向いた。


「アイリスさん、気付くの早すぎです。まだ確実な方法じゃないので……」

「でも私達はアドバイスするだけだから、確実じゃなくてもいいじゃない。で?」

「まったく……。技術的な部分はトワ様頼みですが、C3を使った小型の音響モジュールをドローンに取り付けることで稼働音の周波数を換えられるのではないかと話していた所です」

「クリスタルオルガンの小さいバージョン」


 アリサの説明に、トワが一言で補足を入れてきた。そうか、確かにC3を使って音を変調させるシステムはクリスタルオルガンとして実用化されている。

 しかもトワは実際にクリスタルオルガンの調律をした事があるから、その構造も理解しているはずだ。なら……それをランバージャックに取り付ければ、土竜の使う周波数と違う音にすることも出来るかもしれない。

 で、問題は……。


「それ、トワにしかできないよね?」

「んー、そうでもない。Dランクぐらいのシンガーならなんとかなる。楽器みたいに特定の音にする訳じゃないから、色も関係ない」


 Dランクというと、ギルドではシンガー未満と見なされる能力だ。Cランクの私でも調律は出来るけど……。


「私の方を見ないで下さい!どうせ私はEランクですよ!」

「うう……わたしも同じくEランクですぅ」

「マリエッタ、今日からあなたは私の親友です!」

「おちこぼれ仲間は嫌ですっ!」

「いや、そういう話じゃなくてね……」


 何やら盛り上がっている二人は置いておいて。

 問題はこの解決策を実行するにはシンガーの……つまりモーリオンギルドの関与が必須だと言うことだ。

 私達がここにいる間に既存のランバージャックに搭載する音響モジュールを作るのは良いとして、今後モジュールの修理が必要になったり、ドローンの増設が行われるようになったら?

 モーリオンギルドの支部が無いティンバリスにとっては手詰まりになる可能性が高い。


 かといって何もしなければおそらく今後もドローンは破壊され続け、火災によってジョイナーギルドはこの惑星から撤退せざるを得なくなるだろう。

 アルカンシェルに積んでいる素材C3はトワがイグナイトを作るためにストックしている僅かな在庫しかないから、音響モジュールを大量に作り置きする事もできないだろうし……って、それ以前に音響モジュールに効果があると決まった訳でもないか。


「じゃあ、トワ。試しに一つ作ってみてくれる?ベルナさん、明日そのモジュールを使って実験をさせて頂いていいですか?……もしかすると、またランバージャック壊しちゃうかもしれませんけど」

「えっと、さすがにこれ以上破壊されると収支的に厳しくて……」

「じゃあ、緊急停止できるようにして、あと何とか防衛するようにしますので」

「まぁ、それなら」


 そういうことで、翌日に対土竜音響モジュール作戦の実験を試みることになった。


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