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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部8章『土竜の歌』ティンバリス-誤災の惑星
299/362

#25

>>Iris


 場の空気が凍っているのはトワのネーミングセンスのせいではなく、駆除不能な巨大生物が地下に存在するせいだと思いたい。

 確かにトワのセンスは時々アレだけど、それでもトワは私の大事な妹だからね。私は考えていたベヒモスと言う呼び名を心の奥底に仕舞って、トワの口にした名前を採用し話を続ける。


「……で、そのモグラ……いえ土竜(ドリュウ)ですが。実は私達に敵対していない可能性が考えられるのです。それで、リーヤ君に話を聞きたかったのですが……」

「嘘だ!あいつは敵だよ!だって、父ちゃんと母ちゃんが……!」

「落ち着いて、リーヤ。私はリーヤの話を疑ってないよ。本当にいたからね、ドラ……土竜。だから、リーヤが見たことを、正確に教えて欲しいんだ」

「……わかったよ」


 そう言ってリーヤが語った言葉を整理するとこうだ。

 まず崩落が発生して、それに両親が巻き込まれた。リーヤが両親を助けようとしたり、両親の荷物に入っていた通信機で助けを呼んでいる間に時間が経過し、その後穴から土竜が姿を現した。

 突然のことにリーヤが茫然としている間に土竜は姿を消した。やがて救助隊が到着し、リーヤと両親の遺体はログタウンへと運ばれた。


「……なるほど。そういえば気になっていたんですが、現場は森の中ですよね?ご両親のご遺体はどうやって回収されたのですか?」

「え?……救助隊の誰かが引き上げたのだと……」

「私も、確認した際にはすでに地上にご遺体がありましたが……」


 私の問いに当時救助隊に加わっていたという人が証言してくれた。つまり、知らない間に遺体が地上に……?


「あいつだよ、あのドラゴンが父ちゃんを咥えてたんだ!あいつ、人間を食べるんだよ!」

「ちょっと待って、リーヤ。それ、想像?それとも見たの?」

「見たよ、あいつ、父ちゃんを咥えて……ちくしょう、なんであいつをやっつけてくれなかったんだよ!」


 土竜の姿を映したままのホロディスプレイを睨み付けながらそういうリーヤ。トワが歩み寄り、優しくリーヤの頭を撫でている。

 だが、今の証言は……私の思っていた仮説を裏付ける重要なものだった。私はトワに合図をしてリーヤを部屋から退出させた。

 これからの話は彼に聞かせるべきではないと思ったから。


「救助隊のお二人、ご両親のご遺体の状態はどうでしたか?」

「ああ、落下による衝撃で……損傷してたよ。親父さんの方は頭から落ちたみたいだったし、奥さんの方も背中に大きな打撲痕があってそれが致命傷になっていた」

「キバのある生物が囓ったような跡は?」

「いや、無かった。だからリーヤがドラゴンだと言っても誰も信じてなかったんだが……」


 ふむ。これは……そうか、そういうことか。私はベルナさんの方を向いて、口を開いた。


「では、私の推測をお話しします。もし誤りがあると思ったら指摘して下さい」

「え、ええ」

「あの土竜は人類には敵対していません。むしろ、友好的と考えられます」

「……根拠を伺っても?」

「リーヤのご両親の遺体を取り巻く状況です。まず、救助隊はご遺体を地下から引き上げていない。いえ、引き上げる事が出来ない状態だった」

「……それは、確かに……結構深い穴だったし、重機無しだと無理だよな」


 救助隊の人がそう頷いている。なら、どうしてその場でどうやって遺体を回収したか確認しなかったのだろう。

 私は呆れながらの話を続けた。


「次にリーヤの証言が正しければ……土竜はご遺体を咥えて姿を現した。つまり、ご遺体を地上に上げたのは土竜」

「……!」

「しかもご遺体には咬傷がなかった。つまり、土竜はご遺体を傷つけるつもりはなく、むしろ結果として『救助』してくれたと考えるべきでしょう。ご遺体の損傷具合を伺う限りでは、あいにくとご両親は落下の時点で亡くなられていたようですが……それが土竜に対する誤解の原因になっている可能性があります」

「まさか……そんな事が?」

「では、反論のある方は他の可能性を提示して頂ければ」


 私はそう発言を締めくくったが、ジョイナーギルドの面々からは何の異論も出なかった。

 つまり、土竜は人類の敵ではない……むしろ、共存可能な生物である可能性がある。その認識が場に広がっていくのが判った。


 ただ、私にはまだ気になることがあった。

 1つ目はドローンが襲われた理由。地中で生活している土竜がわざわざ地表に姿を現してまでドローンを襲う理由が現時点ではまったくわからない。


 2つ目は私達が襲われなかった理由。敵対している訳ではなく「救助」される訳でもなく、ただ見逃されたという理由はなんなのか。

 ご遺体と私達の違いは、動くか動かないか……たけどドローンは動いている。動静が攻撃基準なら私達は襲われていたはずなのに。なら、何が違うんだろうか。

 私がそう考えていると……。


「アイリスさん、酷いですっ!わたしのこと必要って言ってくれたそばから放置プレイってどういうことですかっ!」

「マリエッタ、お願いですからもう少し小さな声で……まだ頭の芯が痛くて」

「アリサ、二日酔い?」

「飲みたい気分ですけど、飲んでませんよ……」


 そんなことを言いながら、トワ達が室内に入ってきた。リーヤの姿が見えないところを見ると、彼は家に帰ったのだろうか。

 マリエッタは私の前に立つと、じっとこちらの顔を見つめてきた。


「……管理官、何かお困りですねっ?どうぞ秘書官に何なりとお申し付けをっ!」

「えっと……じゃあ相談なんだけど。土竜……ああ、あのドラゴンを土竜(ドリュウ)って呼ぶことになったんだけど、ともかくアレが人を襲わないのにドローンを襲う理由がわからなくて」

「ほうほう。人は襲わないんですかっ?」

「私達は襲われなかったでしょ?あと、リーヤのご両親のご遺体を地上に上げたのも土竜らしいことが判ったんだけど」

「なるほどっ!」


 マリエッタはニコニコとしながら話を聞いているけど……さすがに秘書官だからってこんな謎の理由はわからないよね。


「じゃあご説明しますっ!まず2つ目のご遺体の件ですが……たぶん、それ習性ですっ!」

「習性?」

「はい、昨日ドラゴンの話を聞いてこの星のトカゲ君達を調べてたですけど、あの子達って鉱物資源と植物しか食べないじゃないですかっ!」

「うん、そういう話だったね」

「で、ですっ。もし他の爬虫類や鳥類の死骸を見つけたらどうするのかな……って思ったんですけど、あの子達、動物性ものは食べないどころか、住処に放り込まれたものを外へ捨ててたんですよっ。きっと食べない死骸が住処で腐るのが嫌なんだと思いましたっ!」


 ちょっと待って、マリエッタ……いつのまにそんな観察を?

 それに、トカゲが動物の死骸を住処の外に捨てる……?それって、まさか。


「だから……ちょっとリーヤ君には言いづらいですけど、ご両親のご遺体、ドリュウでしたっけ?あの子にとっては住処に落ちてきたゴミみたいに思われてたんじゃないかと……」

「じゃあ、私達が『捨てられなかった』のは?」

「はい、それも判りますっ。生き物を放り込んだら、トカゲ君は様子を見て出て行くのを待ってましたっ!」


 つまり、生きた肉と死んだ肉で対応が違う……って事?じゃあ、マリエッタは最初から土竜に襲われないと知ってたんだろうか?


「マリエッタ?あなた、もしかして土竜が襲ってこないと知ってたの?」

「はへ?トカゲ君の話で……あっ、そういえば、そうですよねっ。あの時はもう訳がわからなくて全然忘れてましたっ!」


 マリエッタのあまりにもあまりな言葉に私は盛大なため息をついたけど……でも、これで一つの謎が解けた。

 優秀じゃない、私の秘書官。

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