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case12・アイレスジャック

洒落にならんほど怖い話集めてみない? その22


846:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 16:21:28 ID:0d8JAUDRBS

なんか最近物騒な事件多くねぇ?


847:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 16:26:12 ID:104rgwkM27

あ~~連続殺人事件起こってるもんな


848:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 16:31:22 ID:LUNvM917Z1

その殺人事件の噂知ってるか?


849:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 16:36:41 ID:q0RWOmgZ60

噂って?


850:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 16:40:44 ID:zVSzqQ8l6B

死体から腎臓が抜き取られてるとかってやつ?


851:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 16:45:07 ID:uVla4d846W

ああ~なんか他の板で見たわ。所詮噂だろ?


852:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 16:49:55 ID:O2MKRE7dnN

俺も二人目くらいの時に週刊誌かなんかに書かれてたの見たわ


853:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 16:55:08 ID:Hv3LCbHtxu

じゃあマジなのか……


854:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 16:59:20 ID:XtaBNyWn7c

……なぁ、腎臓抜き取られた死体ってなんかあれ思い出さねぇ?


855:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 17:03:12 ID:gV16gvzFaY

あれ?……ああ、クリーピーパスタの……


856:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/6 17:08:14 ID:EywzOCGaxT

ただの偶然だって!











 そろそろ店を開くかと家を出た時から雲行きは怪しかった。ああ、怪しかったさ。だからってなにも店を開いてまだ一時間しか経ってないのに、閉める羽目になってしまった。

ここが路上占いの辛いとこだな。仕方ない、雨宿りでもしていこう。

雨が本格的に降る前に、俺は小走りであるところに向かった。


「来ちゃった」


「けほっ……来ちゃったのはいいけど、なんだよその言い方……鳥肌立ったわ……」


 リビングのドアを勢いよく開け放ち、甘えたような声色で来訪を告げる俺にケイは飲んでいた茶で思い切り咽てしまう。咽ながらもツッコミを入れるケイは律儀だな。

結局雨に濡れてしまった俺のためにタオルを持ってきたタカラは、咽るケイを怪訝そうに見ている。あ、よくわかってねぇのにケイの背中擦ってやってるわ。


「まさかそこまで咽るとは思わなかったわ」


「いや、いい歳したおっさんがなにやってんだよ……」


「おいちゃんのお茶目じゃねぇか。なぁタカラ?」


「そうだな……?」


「話が見えてねぇのに返事すんじゃねぇよ。なんで師匠に関しては全肯定なんだてめぇ」


 鬼の形相でタカラを睨むケイは冗談にならないくらいおっかない。美人が怒ると尋常じゃないくらい怖いということを俺はケイと出会ってから知った。

だが、そんな鋭い視線に臆することなくタカラはケイの背中を擦り続けてる。あれかね、慣れなのかね。

俺が髪や上着の水気をある程度拭ったのを確認したタカラはタオルを受け取ってリビングを出ていった。いつの間にかキッチンに行っていたらしいケイが俺愛用のカップをテーブルに置いて、ハーブティーを注ぐ。

カップの正面のソファに座りありがたくハーブティーに口をつける。雨で冷えた体に温かさが染みわたっていくのがわかる。


「あ~生き返るわ……」


「明らかに雨降りそうだったのに店出すからだろ」


「もう少しいけると思ったんだって」


「はいはい……まぁこっちも今日は来客の予定がないからゆっくりしていけばいいんじゃね?」


「ケイ、お茶請けなんだがこの間頂いた羊羹でいいか?」


「いや、たしか和菓子の方が消費期限近いからそっちにしてくれ」


「わかった」


 洗面所から戻ってきたタカラはそのまま対面型キッチンへと向かう。その後ろ姿を幼い子供が追いかけていく。子供はタカラの足元に纏わりついているが、当の本人は気づいていない。


「タカラっておひいさんのこと視えてないだっけか」


「らしいな。なんとなく何かがいるのがわかるくらいらしい」


「視えてない人間にお菓子ねだってないか?」


「『僕はそっちの練り切りがいいなー。ねーねー。ねーってばー』ってうるせぇ」


 俺にはおひいさんの姿は視えるが声は聞こえない。ケイ曰く、チューニングが合っていない状態らしい。まぁ、声を聴く方法がないわけじゃないが……。ちらりと見たキッチンでは、おひいさんが目当ての鶯を模した和菓子を皿に乗っけていた。

おひいさんとばっちり目が合って、満面の笑顔を向けられる。うん、可愛い。

ケイが人形のような美しさなら、おひいさんは天使だな。子供らしい愛らしさもあるし。

うんうんと納得している俺の元におひいさんがやってきて、隣に座った。


「……孫がいたらこんな感じなんだろうな」


「なに爺臭いこと言ってんだよ」


「十分ジジイだって」


「先生はまだまだ現役ですって」


「まぁそりゃあな」


 ハムスターみたいにもぐもぐと和菓子を頬張るおひいさまの頭を撫でながらしみじみと言ってしまう。一応、生涯現役でいようとは思ってるけどな。それでも、普通というものに対する憧れに似た感情を捨てられない。

だから、おひいさんを愛でるくらい許してくれや。


「そういや最近ネット掲示板で流れてる噂知ってっか?」


「どの噂だ?」


「実は……あぁ?」


 その噂とやら話そうと口を開いたケイだったが、柳眉を寄せおひいさんを見下ろした。とうのおひいさまはにこやかに何かをケイに伝えているらしい。どんどんケイの顔に面倒くさいという感情が滲み始めた。どうやら来客を知らされているようだ。


「タカラー誰か来るらしいから出迎えてこい」


「ああ、わかった」


 和菓子をテーブルに置いたタカラは、ケイの指示に一つ頷いてリビングを出ていく。その後ろ姿を見送ったケイは、和菓子をひとつ手に取り齧りついた。華やかな桜の練り切りのはずなのに、ジャンキーなスナックに見えてしまうのはケイの食べ方のせいだろう。

三口で練り切りを食べ切ったケイは、親指を舐めた。


「こら、行儀悪いぞ」


「別にいいだろ」


 なんでこうも粗野なんだろうなぁ。育ちが悪いってわけでもないのに。小さい頃はあんなに愛らしかったのに……今じゃ見る影もない。いや、顔は相変わらず人形みたいにきれいだけどな。

なんて出会ったばかりの頃のケイを思い出していると、じっとりと湿った視線を感じる。視線の元を辿ると、ケイが俺を胡乱気に見ていた。


「今ロクでもないこと考えてるだろ」


「いや、そんなことはないぜ?」


「どうだか……」


 ふんとケイは鼻を鳴らし、そっぽを向いた。その仕草は不貞腐れた子どもそのものだった。客の前では気を張って不遜な態度を取っているが、俺やキョウ、司さんの前では割と素になることが多い。そこがまぁ可愛いところでもあるんだが。

なんてちょっと微笑まし気にケイを見ていたら、階段を上る音と和やかな会話が聞こえてくる。どうやらおひいさんの言う客人が来たらしい。

リビングのドアを開けたタカラに続いて入ってきたのはスーツ姿の男性二人だった。線の細く穏やかそうな雰囲気の40代の男性と精悍そうな顔立ちをした20代くらいの青年だ。40代の方の男性はケイと俺を見て破顔し、軽く会釈をする。その際に肩から下ろした一つ結びの黒髪がさらりと揺れた。


「ケイさん、お師匠お久しぶりです」


「黒柳くん久しぶり。うちに来るなんて珍しいな」


「ええ、『怪異対策室』に新しく配属された者がいるので顔合わせをと思いまして……。後、ちょっと相談事が」


「ああ、なるほど。とりあえず適当に座ってくれ」


 タカラがケイの隣に座り、黒柳くんと青年が空いている三人掛けのソファに座った。その二人の前にタカラがハーブティーを用意する。

ハーブティー入りのカップを両手で包んだ黒柳くんはほっと一息ついた。


「雨の影響で気温が下がってまして……体が冷えました」


「あんたらも大変だな」


「いえ、これも仕事ですから。とりあえず先に彼の紹介をさせてください。この度、警視庁生活安全課特別捜査室……通称『怪異対策室』に配属されました赤嶺巡査です」


「赤嶺郁人です。よろしくお願いします」


 赤嶺と名乗った青年は頭を下げた。茶色の前髪から覗いた瞳には、胡散臭そうな連中だとありありという感情が浮かんでいる。怪異対策室に配属された人間にしては珍しい反応だと思っていると、おひいさまがソファから降りて黒柳くんと赤嶺青年の元へ歩み寄った。

黒柳くんはにこやかに微笑み頭を下げたが、赤嶺青年は見向きもしない。


「赤嶺刑事は視えない人間なのか?」


「ええ、視えない感じない、影響を受けないある意味わが班に必要な人材です」


「あ~そんくらい鈍感な方がいいっちゃいいな」


 俺たちの会話に赤嶺青年は不快そうな顔をして眉間に皺を寄せた。視えない人間からしたら俺たちも怪異対策室も胡散臭く感じてしまうよな。しかも、この移動も傍から見たら左遷にしか思えないだろうし。


「黒柳警部。俺はなんでここに連れてこられたんですか。ここってあれですよね、胡散臭い占いの館なんでしょう」


「ですから、彼らはうちの外部協力者ですよ」


「ああ、わりぃ……自己紹介がまだだったな。俺はここ『Erlosung』の店主で占い師のケイだ。んで、こっちのいかついのが……」


「助手のタカラという」


『視えてないと思うけど僕はケイちゃんの守護者だよ~。皆からはおひいさまって呼ばれてます!』


 片手をあげて元気に自己紹介したおひいさんの言葉を、ケイは俺たちに伝えてくれた。微笑ましげにおひいさんを見つめる黒柳君と対照的に、赤嶺青年の眉間のしわがどんどん濃くなっていく。まぁ、気持ちはわからんでもないが……。


「俺は路上で易者をしてる。周りからは師匠って呼ばれてるんだわ。おっと、ちゃんと許可は取ってるからな?」


「皆さん表向きは著名な占い師ですが、いわゆる祓い屋もやっておられます。赤嶺君、怪異対策室のことを教えましたよね、覚えていますか?」


「……怪異起因の明らかに普通じゃない事件の捜査を担当している組織。表向きでは生活安全課のなんでも屋で、窓際部署って言われてるんでしょう。所属しているのは一色班長を含めて変人奇人ばかり……と」


「黒柳くんのとこそんな風に言われてんの?え、マジで?」


 ケイの目が驚きで見開かれる。確かに、怪異対策室の活躍や仕事ぶりを知ってる側からすると不当な評価にしか思えない。


「ええ、まあ……でも仕方ないことでもあるのですよ。表の方達からしたら私達の仕事は得体の知れないモノでしょうし」


「そういうもんかねぇ……」


『ケイちゃんはそういう人を腕っぷし込みで黙らせてきたもんね~。でも、普通は胡散臭いよ~?ケイちゃんもお師匠も実績があるから受け入れられてるだけだからね?』


 黒柳くんとおひいさまの言葉にケイは肩を竦めてハーブティーに口をつけた。納得はできないが理解はしたらしい。どうしてもケイは外界との繋がりが薄いから、世間とズレてしまっている。特に困らないから俺も何も言わないが。


「いわゆる怪異と呼ばれる現象は視えない者にも大なり小なり影響を与えます。ですが、赤嶺君、君は違う。君は怪異をキャッチするアンテナがそもそもないので影響を全く受けないのです」


「タカラとちょっと似てるな。こいつの場合は祓う力が強すぎて影響を相殺してるようなもんだが」


 穏やかな声色で告げる黒柳くんの言葉に赤嶺青年は不服そうに唇を引き結んだ。急に君は怪異の影響を受けない稀有な人材なので、特別捜査室に引き抜きますって言われても納得はいかねぇよなぁ。

捜査に参加するうちにいやでも思い知ることになると思うけど。

ちなみに視えない感じない赤嶺青年とは違い、黒柳くんは視えるし祓える即戦力タイプだ。怪異対策室が発足した時の初期メンバーでもある。ちなみに、会話に出てきた一色班長というのは、怪異対策室の班長をやっている警部なんだが……なにかと謎が多い男だ。


「とりあえず顔合わせはここまでとして……本題は別にあるんだろ?」


「そういえば相談事があるって言ってたな。俺は席を外したほうがいいか?」


「いえ、お師匠も良ければ聞いてください」


 そういった黒柳くんはテーブルにクリップでとめられた資料を置いた。どうぞご覧下さいと手で示され、資料をパラパラとめくる。ここ数か月で起こっている連続殺人事件についてまとめられていた。


「そういや最近ニュースでやってたな……臓器の一部が抜き取られていたんだったか?」


「ええ、報道では伏せられていますが、惨殺された遺体から腎臓が一つ抜き取られているんです」


「あ、その話さっきちょうど師匠にしようと思ってたんだわ」


「あん?あ~そういや噂がどうとかって言ってたな」


 おひいさまが来客を告げて有耶無耶になったんだったな。ケイが気にしてて、黒柳くんが話を持ってくるってことは怪異関係の事件か。でも、腎臓を抜き取る怪異なんていたか?心当たりが全くない。

首をひねる俺に構わず、黒柳くんは話を進めた。


「ご存じでしたら話が早いです。腎臓が抜き取られているのは表にはなっていませんが、掲示板ではすでに知られてしまっています」


「最初の方にちらっと報道されちまったからな」


「ええ……それで、オカルト板では腎臓が抜き取られていることから『アイレスジャック事件』と呼ばれ始めています」


「アイレスジャック?なんだそれ」


「クリーピーパスタの一つだよ。師匠知らねぇ?」


「あ~……海外の都市伝説だってことは知ってるが」


「そんな師匠と絶対わかってない赤嶺くんのために説明しよう。よろしく黒柳くん」


「はい、お任せください」


 明らかに丸投げされたのにも関わらず、黒柳くんはにこやかに説明を請け負った。いくら何でも人が良すぎないか?

まぁでも、ケイよりは黒柳くんの方が説明には向いてるから適任かもな。ちなみにしれっとディスられた赤嶺青年は隠すことなく不機嫌になっている。


「そもそも、クリーピーパスタというのは海外の掲示板で語られる怪談話のことを指します。主に殺人鬼や怪人、怪奇現象が語られること多いですね。日本のネット怪談は怪異がメインであることを考えるとお国柄が出ていると個人的に思います」


「なるほどな。で、アイレスジャックってのもそのクリーピーパスタなのか?」


「ええ。アイレスジャックとは黒いパーカーを着た人間の姿をしていますが、目があるはずの場所には黒い穴が開いており、黒い液体が滴っているそうです。そして、アイレスジャックは被害者が気付かぬうちに腎臓を抜き取り、その傷口を縫うと言われています」


「……なんで腎臓を抜き取るんですか?」


「一説ではアイレスジャックの食料になるとか……」


 黒柳くんの答えに質問した本人である赤嶺青年は鼻で笑い飛ばした。その顔には馬鹿らしいと書かれていて、仮にも上司にその態度はどうなんだと思ってしまう。

まだまだ反抗期なのかねぇ。俺くらいの歳になると、こういう反抗的な若者も可愛いもんだと思ってしまうけどな。ケイはそうもいかないらしく、先ほどからトントンと指先でテーブルを叩いている。あれはケイがいら立った時の癖なのを付き合いが長いものは知っている。

じわじわとケイから漏れ出る不機嫌オーラを感じ取ったタカラとおひいさんが行動に移った。おひいさんはケイの膝の上によじ登り頭を撫でて、タカラは質問があるとばかりに挙手する。

いや、学校じゃないんだから手上げなくてもだな……。


「タカラさんどうしました?」


「今回の一連の事件の犯人がそのアイレスジャックだと噂されている、ということか?」


「噂だけならいいのですが……それは真実になってしまっているんですよ」


「真実に?」


「タカラ、前に言ったかもしれねぇが怪異ってのは大勢の人間が同じ認識を持つことで具現化するんだよ。その共通認識に大きな役目を持ってるのが『名前』だ。『コトリバコ』しかり『八尺様』しかり名前を聞いただけでどんな怪異か一目瞭然だろ」


「アイレスジャック……目の無いジャック……なるほど」


「そういうこった。しかもクリーピーパスタはご丁寧にも画像付きで紹介されるからなおのこと共通認識化されやすい。んで、ネット文化が発達したことによって、海外の怪異もなじみ深いものになった結果……懼れてたことが現実になっちまった」


 懼れていたことが指す現象は一目瞭然だな。今回で言うところのアイレスジャックの具現化だ。しかも日本古来の怪異と違い、殺人鬼などが多いらしいクリーピーパスタが具現化したとあったら、凄惨なくせに犯人が事件が増えていくということになる。それは警察としても俺たち祓い屋としても避けたい事態だ。


「実は犯行現場近くの監視カメラにアイレスジャックと思しき姿が映っていたんです」


「ああ、それで怪異対策室にお鉢が回ってきたってわけだな」


「その通りですケイさん。……ここからが本題なんですが……今回のアイレスジャック事件、私たち警察では手に負えない可能性が高いです。ですので、ケイさんやタカラさん、お師匠をはじめとした歌舞伎町の皆さんにお力を借りたいのです」


 言い終わるのと同時に黒柳くんはおもむろに頭を下げた。その様子に切羽詰まっていることを感じる。連日連夜アイレスジャック事件が報道されているが、捜査の進展がないことで警察へのバッシングが起きているのが関係しているんだろう。

全く警察側の苦労も知らないでよくもまぁ好き勝手言えるもんだ。正直こんな話を聞いた後だと頼まれなくても、協力するんだがな。

ケイを伺うと、なんで頭下げてんだとでも言いたげな顔をしている。口も態度も悪いが、一度自分の懐に入れた人間にはなんだかんだ言って面倒見がいいんだよな。


「んなことしなくても協力は惜しまねぇけど」


 さらりとケイが告げた言葉に黒柳くんは顔を上げた。あっさりとした返事に黒柳くんは目を丸くしたが、うれし気に破顔する。

だが、テーブルを叩く音がそんな柔らかな空気を壊した。皆一斉に音の出所に注目すると、赤嶺青年が立ち上がって、我慢ならないとばかりにケイを睨んでいる。


「なんでこんな胡散臭いやつに頭下げるんですか!」


「彼らは私が知る中で一番力を持っている外部協力者です。今回の件に彼らの力は必要不可欠なんですよ」


「俺にはこいつがそんなすごい祓い屋になんて見えません!こんなホストみたいな見た目のヤツ!!」


延々とケイのことをこき下ろす赤嶺青年に軽く引いていると、室内の空気がどんどん冷えていくような感じがしだす。冷気を発する方を見るとケイが能面のような真顔で赤嶺青年を見ていた。怒りも何も感じさせない瞳は澄んだ青に爛々と輝いている。

あ、ケイの地雷を思い切り踏んだな。あーあ、ご愁傷様。


「口を慎め赤嶺郁人。てめぇそれでも警察官か?ああ……昔やんちゃしてて、更生させてくれた駐在に憧れて警察になったクチか」


「なっ……」


「ギリギリ犯罪は犯してねぇみたいだが……いつまで経っても粋ってんじゃねぇぞガキ。てめぇの常識なんざこっち側では通用しねぇんだからよ。黒柳くんはてめぇの何倍も死線潜り抜けてきてんだ、先輩の言うこと聞いとかねぇとぽっくり逝っちまうぞ」


「さっきからなんなんだよ!気持ち悪いな!」


「見透かされて気持ちわりぃってか?そらそーだろうな。俺にはてめぇのことは全部視えてんだからよ。……そうだなぁ」


 愉快そうに青を歪めたケイが赤嶺青年の足を指差した。


「赤嶺郁人てめぇに一つ予言をやろう。足元に気をつけろ?思わぬところで痛い目を見るぞ?」


 くつくつと低く笑うケイはそれはそれは楽しそうにしている。ケイ、お前それじゃ悪役みたいだぞ……。

そんなケイの態度に赤嶺青年は気味悪さと怒りを覚えたらしく、顔を真っ赤にして部屋を出ていく。赤嶺青年が出ていったドアを睨んでいたケイだったが、興味を失ったらしくハーブティーを一気に飲み干した。

残された黒柳くんは深々とため息を吐き出し、気が重いとばかりにうなだれる。


「なんだあの駄犬」


「申し訳ない……根は悪い子ではないんですが……」


「黒柳さんも大変だな」


「それはタカラさんもでしょう?」


「はは、もう慣れた」


「タカラ、てめぇ失礼なこと言ってんなおい?」


 ケイに詰め寄られたタカラははて、なんのことやらとばかりに肩を竦め、ティーセットを片付けていく。黒柳くんも手早く荷物をまとめ、赤嶺青年の後を追うために立ち上がった。


「部下が失礼しました……今度謝罪に伺います」


「あの駄犬が謝る気になってからでいいからな」


 しっしと手を振りケイは黒柳くんにさっさと行けと示す。黒柳くんは苦笑を浮かべリビングを出ていった。

緩くなびく黒髪を見送ったケイは苦々し気に舌打ちをして、珍しく室内でタバコを咥える。いつもだったらベランダに出るのに……そこまで苛立ってるってことか。まあ、あんな若者に嘗められてホストみたいだと言われたら、こうなるのも仕方ないな。


「あの野郎、電車の乗り換えにミスる呪いをかけてやろうか……」


「そんなしょうもない呪いを司さんにさせるなよ」


「司くんじゃなくて自力でするわ」


「余計にダメだろ……ケイ落ち着けって」


 いまだに爛々と輝く青い瞳を見かねたタカラが小豆のホットアイマスクをケイの目もとに被せた。強制的に千里眼をキャンセルするのってありかよ。それでもなおケイの苛立ちは収まらないらしく、落ち着かせるためにおひいさんが後ろから抱き着いた。抱え込んだ頭を撫でて落ち着かせる姿に、どっちが子供かわからないなと思う。


「俺もそろそろお暇するわ。結構長居したおかげで雨も止んだしな」


 俺の言葉にケイは片手を軽く振った。お前も早く落ち着けよな。

背中に不機嫌オーラを感じながら俺はErlosugを後にする。












 夕方に激しく降っていた雨も今ではすっかり止んで、夜特有の静かな空気があたりに漂っている。春先といえど夜はまだまだ冷たい。その冷たい空気を大きく吸い込んで、胸いっぱいに取り込んだ。

新鮮の空気を取り込んで、気を引き締める。新宿の外れにある人通りの少ない道は、街灯も少ないこともあって防犯面からしてもあまり良くないことで有名だ。……俺からしたら、防犯的な意味じゃなくて心霊現象的な意味でもあまり通りたくないところでもあるが。

家に帰るにはここを通るしか無いから腹をくくる。いつもはあまり帰る時間が遅くならないようにしているが、今日はそうも言ってられなかった。飲み会に誘われて気付いたらこんな時間になっていた。

目の前に広がる闇に足が竦む。所謂中年と呼ばれる年齢になった今でも、俺は暗闇が苦手だ。正確には暗闇に潜むモノが恐ろしい。

しかし、いつまでもここで立ちすくんでいる訳にもいかない。意を決して一歩足を踏む出した。

いつもはここまで闇を恐ろしく感じないのに……こんなに恐ろしく感じるのはなぜだろう。


「……はぁ、明日も仕事があるから早く帰らないと」


 誰が聞いてるわけでもないのだが、自分に言い聞かせるように大きな独り言を言う。遠くにぼんやりと街頭の明かりが浮かんでいた。その明かりの下に人影が見える。ああそうだ、あそこの街頭の下にいつも俯いて立っている女性がいるんだった。

目を凝らさないと見えなくなりそうな位、存在が希薄な彼女を通り過ぎる時にブツブツと呟く声が聞こえるんだ。何を言っているかはわからないがとてつもなく怖気が走る。

街頭に近づく度に人影がはっきりと見えてくる。闇に浮かぶその人影は街頭に背中を預け手持ち無沙汰なのか、手中でなにかを弄んでいるらしい。どうやら高校生くらいの少年らしく、闇に紛れるような黒いパーカーを着ていた。

どう見ても幽霊ではなさそうな彼に安堵すると同時に、こんな時間に一人で夜道にいることが心配になる。連日報道されている連続殺人事件の犯人も捕まっていないのに……。帰るように一声かけた方が良いだろうか。新宿の外れにいる未成年なんて訳ありなんだろうけど、放っておくなんてできるわけもなく……。


「そこの少年……こんな時間に出歩くと危ないぞ」


 俺の言葉に反応してか少年は顔を上げた。晒されたその顔にぎょっとしてしまう。彼の相貌は青い仮面に覆われており、目があるべき場所にはただただ闇があるばかりだった。

脳裏に以前ネットで見かけた海外の都市伝説が浮かぶ。黒いパーカー、青い仮面……そして目がない少年……。


「アイレスジャック……」


「ああ、おっさん俺のこと知ってんだ?初めてだな、俺の事知ってるヤツに会ったの!今までのヤツら俺のことぜーんぜん知らなくてさぁ、殺り甲斐がないのなんのって」


 ジャックは上機嫌そうに声を上げ、手を叩く。動く度に目があるべき場所から粘度の高い液体が溢れ、あたりに飛び散る。

いやいや……なんで海外の都市伝説に出てくる殺人鬼が日本にいるんだよ……。だが、この世の中には理屈では説明出来ない事柄が多くあることを俺は知ってるじゃないか。いやと言うほど視て来ただろう。

何がそんなに可笑しいのか身体を折り曲げゲラゲラと笑う彼に困惑してしまい、足が竦んだ。さっさと逃げれば良いのに、この一瞬が命取りになってしまうなんて。

ひとしきり笑って満足したらしいジャックはゆらりと直立する。ゆっくりと俺を見た彼の顔は仮面で覆われているのに、嗤っていると本能でわかった。


「ところでさぁ……」


 彼は先ほどまで手中で弄んでいたモノ……バタフライナイフを開いて切っ先を俺に向ける。仮面越しにジャックがニタァと嗤っているのが視えてしまった。


「おっさんの腎臓はどんな味だ?」


 言い終わるやいなや、ジャックは俺に飛びかかってきた。あいつは本気で俺を殺す気だとわかり、無我夢中で手に持った鞄を振り回す。鈍い音と何かを殴った感触が伝わった。視界に映ったのは俺の鞄がジャックの側頭部に当たっている光景。いくら都市伝説に出てくる殺人鬼とは言え、頭を殴られたらダメージを受けるらしい。ジャックの足下が揺らいだ瞬間を見逃さず、俺はその場から逃げ出した。通ってきた道を逆走して、必死に走る。後ろから迫る足音に恐怖心が募っていく。

早く逃げないと……早く早く!

でも、どこに……?人がいるところに逃げたとして、あいつは諦めるのか?わからない、わからないが、みすみす殺されるなんてごめんだ!

日頃の運動不足が祟り、息が上がり、心臓だか肺だかが痛くなる。それでも、足を止めるわけにはいかないと思っていたのに、身体が気持ちに着いていかず足が縺れて無様に転んでしまう。

なんとか体勢を立て直そうとするが、身体が思うように動かず這いつくばるしかできない。俺が足掻いている間に、ジャックは目の前まで迫っていた。

救いを求めるように這って街頭の下に逃げ込む。こんなことしても無駄なのはわかってる。それでも、せめて最期は光の下にいたいと本能が告げたんだ。


「鬼ごっこはもう終わりか?」


 獲物を甚振る快感に満ちた声でジャックは言葉を投げ、ナイフを振り上げた。街頭に明かりがナイフに反射してキラリと光るのがやけに綺麗で目が奪われる。ゆっくりと迫りくる刃に死を覚悟して、反射的に目を閉じた。できれば苦しまずに死にたいなとぼんやりと思う俺の耳に、甲高い金属音のような音とシャランという音が飛び込んでくる。

恐る恐る目を開けると、くたびれたトレンチコートを着た背中が見えた。


「おーよかった間に合ったみたいだな」


 振り返ったその男性は安堵したように笑みを浮かべる。そして、ジャックに視線を戻した男性の雰囲気が一気に変わった。


「アイレスジャック……だったか?まさか本当にいるとはな」


「あ?なんだてめぇ」


「俺は師匠って呼ばれてる。まぁしがない易者だわな……そんでアイレスジャックさんよぉ、ちーとばかしおいたが過ぎるんじゃねえか?」


 またあのシャランという音の後にジャックが吹っ飛ぶ。師匠の身体に隠れて見えなかったが、彼は片手にわっかがいくつか付いた杖を持っているようだ。昔見た西遊記で三蔵法師が持っていたアイテムに似ている。確か錫杖だったか?

吹っ飛ばされたジャックは器用に着地し、すぐさま師匠に向かって駆け出す。その姿を確認した師匠はバトンのように錫杖を回し、飛びかかってきたジャックの額に先端を突き付けた。


「さて……そろそろ悪ガキにはご退場願おうか。ここはお前が暴れていい場所じゃないんだわ」


 師匠が息を吸って、静かに言葉を紡いだ。


「あるべきところへ還れ」


 静かだが力強い声があたりに響いた瞬間、ジャックの身体が靄となって闇に溶けていく。

たった今、自分の身に起こったことが信じられない。まるで悪い夢を見ているみたいだ。恐怖から解放された安堵に体中の力が抜ける。


「あんた大丈夫か?」


「あ、ああ……助けてくれてありがとうございます」


「いや、いいってことよ」


 師匠は立てない俺に手を差し出し、立たせてくれた。向かい合った師匠はじっと俺の目を見た後、口角を上げる。


「あんた、視えるのか」


「え、見え……?」


「いわゆる霊感ってもんがあるだろ?……まぁ見えるだけならそんなに害はないと思うけどな」


 そういって師匠は自分の目元をトントンと叩く。見ただけで俺が霊感を持ってるのがわかるのか……。アイレスジャックを退けたのをこの目で見たのもあって、俺は師匠が本物の霊能者であると無意識のうちに信用し始めていた。


「変なもんが視えても反応しなけりゃ大丈夫だ」


「わかりました」


「あ、そうだ……今日見たことは悪い夢だったと思って忘れるこった」


 朗らかに笑っている師匠の目は真剣そのもので、俺はただただ頷くしかなかった……。












洒落にならんほど怖い話集めてみない? その23


165:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/11 11:55:29 ID:ZMisaDB8ha

アイレスジャック事件の犯人捕まったな


166:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/11 11:59:35 ID:PnMlHllpqp

どこもかしこもその話で盛り上がってるよな


167:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/11 12:03:16 ID:UxooY6OlCO

でも、犯人あれだろ?

自分が殺したのは最後の二人だけ、他の事件は俺じゃない。俺はアイレスジャックになりたかっただけなんだって言ってるらしい


168:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/11 12:07:46 ID:mc6dUAIgKN

まぁ連続殺人犯の言うことに耳貸す必要ねぇだろ


169:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/11 12:13:00 ID:TzBCykcLsP

マジで狂ってるっぽいしな

なんだよ「アイレスジャックになりたかった」って


170:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/11 12:16:02 ID:QBW1xOACST

そのうちジェフザキラーになりたいとか言うやつが出てきたりして


171:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/11 12:21:18 ID:ts2rJuXkzZ

おいフラグ立てるのやめろ!



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