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16/16

case13・サリー

洒落にならんほど怖い話集めてみない? その23


537:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/21 16:01:01 ID:e6Js07z6Lh

なんかこないだ友達が血まみれの幼女と遭遇したって言いだしてさ


538:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/21 16:05:03 ID:a4qz4kYZV9

血まみれ幼女のパワーワード感すげぇ


539:537 2020/4/21 16:10:47 ID:e6Js07z6Lh

サリーって名乗ったらしいんだけど

そういうクリーピーパスタいたよな?


540:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/21 16:16:21 ID:ps1G0R5aid

ウェブサイトに投稿された「WILL YOU PLAY WITH ME?」に出てくる幽霊だな


541:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/21 16:21:04 ID:hgku9J7r1L

でもあれって創作者わかってるじゃん


542:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/21 16:26:13 ID:tgVKrMXWys

スレンダーマンだって創作なのに実際に事件起きたことあるだろ


543:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/21 16:31:19 ID:eCjmAnLuCd

でも今回はサリー本人を見たんだろ?


544:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/21 16:34:48 ID:yOWgWh4Fd8

まぁなんにせよkwsk


545:537 2020/4/21 16:38:34 ID:e6Js07z6Lh

家に血まみれの幼女が現れて「遊びましょう」って誘われたんだと

見るからに生きてる人間じゃないから逃げ出したらしい


546:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/21 16:43:22 ID:4dveWZNSbd

それっぽいこと言ってるだけじゃん


547:537 2020/4/21 16:49:12 ID:e6Js07z6Lh

それがあいつそういう冗談言わない奴だし

憔悴してるのみるとなぁ……











 満開だった桜がすっかり散って、空気もだいぶ初夏に近づいたそんな春の日。ハーブの香りに包まれながら、店内から見る外は清々しい程の快晴だった。


「こんな日は店を閉めて出かけたいわねぇ」


 いくら自由業とは言え、そんなことはしないけれど。ああ、でもケイとか司さんは結構自由に店を閉めてるわね。ちらりと、窓辺で日光浴をさせている石たちを見る。キラキラといい気を纏っていて浄化が上手くいっていることを示す。いい人に買われるといいのだけれど。


「こればっかりは一期一会だものね」


 ハーブティーが入ったマグカップ両手で包んで、一息ついていると来客を告げるドアベルが鳴った。マグカップを置いて入口に向かうと、黒いオーバーサイズのパーカーを着た子が所在なさげに立っていた。重たげな前髪に隠されて見えないけれど、落ち着きなく視線を彷徨わせているんだろうなというのは何となくわかる。真っ黒なその子の足元には、真っ白なお狐様が店内の匂いを嗅いでいた。珍しいモノを連れているのね、この子。……連れているというか、護られているって感じかしら。


「いらっしゃい……あら、どこかで会ったことあるかしら?」


「え?……いえ、はじめましてだと思います……?」


「あらそう?ごめんなさいね、どこかで会ったことがある気がしたのだけれど。いやだわぁ……歳かしら」


「とてもお若く見えますけれど」


「ふふ、君が思うより歳を取ってるかもしれないわよ?」


 私の言葉に首を傾げるお客さんはとてもまっさらな子みたい。ヒナちゃんとはまた違った純粋さというか……。お狐様とか周りの人からとても大事にされているのがよくわかるわ。そして、それが怪異にとってとても魅力的に見えるのも……ね。だからこそのお狐様なんでしょうけど。

それにしても、可笑しいわねぇ……初めて会うはずなのにどこかで会ったことがある気がするのよねこの子。どこだったかしら。

「あのー……」


「ああ、ごめんなさい。私はFATEの店主、キョウよ。以後お見知りおきを」


「えっと、八重です。バンドでボーカルやってます」


「あら、そうなのね。ふふ、ゆっくり見ていって。手にとっても大丈夫だし、気に入ったのがあったら声をかけてね」


「え……あ……」


 一人でゆっくり見たいだろうとその場を離れようとしたら、とても困ったような声がしたと共に、ズボンを軽く引かれた。ちらりと足元を見ると、行くなとばかりにお狐様がズボンを噛んでいた。もしかして、こういうお店に慣れていないのかしらね。私を伺うお狐様に微笑んで、八重さんに目線を向けた。


「よかったら軽く案内しましょうか?」


 私の提案に八重さんは顔をぱあっと輝かせてこくこくと頷く。あら、素直で可愛いわね。思わず手を伸ばして、形のいい八重さんの頭を撫でてしまった。さらさらの髪で幼い頃のケイを思い出してしまう。あの子もサラサラの髪をしていたのよね。まあ、彼は八重さんと違って素直さなんて一ミリもないけど。


「あ、あのぅ……」


「ああ、ごめんなさいね、八重さんが可愛らしいから、ついねぇ」


「えっと、いやじゃないので……」


 撫でられた頭を抑えて八重さんは照れたように笑う。そんな八重さんに頬が緩む。もっと頭を撫でてあげたいけど、そんなことしたらいつまで経っても店内を案内できないから我慢しましょうか。案内と言っても、そこまで広いわけじゃないから手前から順にって形になるわね。


「入ってすぐにはパワーストーンを使ったアクセサリーを置いているわ。見ての通りネックレスとかピアスとかブレスレットが多いかしら」


「綺麗ですね~」


 手に取ったブラックオパールのネックレスに付いた値札を見た八重さんは、ぎょっとした顔をした後に慌てて元の場所に戻した。うちの商品たまにお高いのが混ざってるのよね……。マダムたちが買っていってくれるから置いているけど、確かに若い子からしたらびっくりする値段だわ。明らかに委縮してしまった八重さんに悪いけれど少し微笑ましい。


「全部がそのお値段じゃないのよ?うちのお客さんに学生さんとかもいるし」


 ほら、とうちでは比較的安めのブレスレットを見せると、八重さんは安心したように頬を緩ませた。なんでピンポイントでお高い商品を見ちゃったのかしらね。確かにオパールはきれいだけれど。

一通りアクセサリーを見た八重さんが顔を上げたのを見て、店の奥を手で示す。


「あとは、奥には原石と数珠ブレスレットのパーツになる石が置いてあるの」


「数珠ブレスレット?」


「見たことないかしら……こういうパワーストーンのビーズをつなげたブレスレット」


 適当に水晶のビーズを掌に置いて八重さんに見せる。ほあーと変な声を上げて、八重さんは種類ごとにトレーに置かれたビーズを見つめる。前髪で隠されているけど、明らかに目が輝いているのがわかって微笑ましい。


「数珠ブレスに興味がおあり?」


「ええ、バンドメンバーの一人が黒い石のブレスレット着けていて」


「黒い石ならオブシディアンかしらね」


「オブシディアン?」


「いわゆる、黒曜石のことよ。オブシディアンの石言葉は『潜在能力の開花』『未来を見通す力』というのがあるの。後は、魔除けとしても強い力を持つわ」


「そういえばお守りかわりって言ってました」


「君自身は石に興味はない?」


「興味がないというか……効果とかそういうのはよくわからないですね。綺麗だとは思いますけど」


「あら、そこからはじめたら良いのよ。綺麗なものを身に着けたらテンションが上がるし、自信がつくでしょう?」


 私の言葉に八重さんがぽかんとした後にくすくすと笑う。確かにパワーストーンっていうとハードルが高いけど、アクセサリーの一種でしかないんだからそんなに深く考えなくていいのよ。


「キョウさんのおすすめの石はありますか?」


「そうねぇ……ムーンストーンやアクアマリンとかどうかしら。八重さんに合うと思うわ」


 乳白色のビーズと透き通った青いビーズを八重さんの掌に置く。八重さんはそのビーズをつまんで光に透かしたりした後、首を傾げた。どうやらしっくりこなかったらしい。それは足元のお狐様も一緒らしく、それは違うだろという顔をされた。八重さんは良いけど、お狐様にそういう顔されるとなんだか釈然としないわ。


「いまいちしっくりこないみたいね。こういうのはフィーリングが大事だから、自分の目で見る方がいいわ」


「なんだかすみません……」


「いいのよ、気にしないで」


 ムーンストーンとアクアマリンを元の場所に戻した八重さんは、ビーズを色々と物色し始めた。ピンとくるのがあるといいけれど。

しばらくしてから、八重さんが一つのビーズを手にして私を呼ぶ。


「何かいいのがあった?」


「はい!これ、いいなって思いました」


 八重さんが差し出してきたのは白が混ざった淡い紫色のビーズだった。


「ラベンダーアメジストね。別名藤雲石。効果は色々あるけれど……八重さんには魔除けとストレス軽減が合うのかもしれないわね」


「藤雲石……藤かぁ……僕、藤の花好きなんですよね」


「じゃあピッタリかもしれないわね。どうする?数珠ブレス作っていく?」


「あ、じゃあお言葉に甘えて……」


「じゃあこのトレーに気になった石を入れてあちらで作りましょう」


 木のトレーを八重さんに渡して、私はブレスレットを作るための道具を準備する。作業スペースとちょっとしたカフェスペースを兼ねているテーブルに道具を並べて、ついでにケトルでお湯を沸かしてハーブティーの準備も進める。やっぱりのんびりお茶しながら作るのが一番なのよね。


「キョウさん、石選びました」


「はいはい、じゃあ先にお会計いいかしら?」


「もちろんです」


 会計を済ませた八重さんは道具が置かれた席に座ってもらう。当然のようにその膝にお狐様が飛び乗って丸くなって眠ってる。こう見ると犬みたいね。カモミールベースのハーブティーが入ったマグカップを八重さんの前に置いて、私も正面に座った。


「じゃあ早速作りましょうか……と言っても、好みの順に石を並べてこの透明ゴムに通すだけなんだけど」


 私の説明を聞いた八重さんは真剣な顔で数珠ブレスを作っていく。そんなに真剣な顔で作る人中々いないわよ。もうちょっとみんな和気あいあいというか……楽し気に作ってるけど。


「そういえば、八重さんはよく歌舞伎町に来るの?」


「インディーズ時代は歌舞伎町のライブハウスでよくライブしてましたよ。最近はたまに、知り合いの占い師さんに会いに来るくらいですね」


「占い師?」


 歌舞伎町で占い師って言うとケイと先生が思い浮かぶわね。まあ、他にも人はいると思うけど。


「はい、とても優しくて親身になって相談に乗ってくれるんですよ」


 ……じゃあケイじゃないわね。あの子が親身になってるところをいまいち想像できないもの。

せっせとビーズにゴムを通して、出来上がった数珠ブレスを八重さんは腕に付けた。ラベンダーアメジストとオブシディアンをつなげたブレスレットは八重さんによく似合っている。


「よく似合ってるわよ」


「ありがとうございます」


 ブレスレットを付けた手首を眺める八重さんは嬉しそうに微笑んでいる。うん、お気に召したようで何よりだわ。


「ハーブティーいただきますね」


「どうぞ、お口に合うといいのだけれど」


 ハーブティーを一口飲んだ八重さんが、不思議そうに小首を傾げた。慣れない味で口に合わなかったのかしら。


「……あれ、ケイさんのお店で飲むのと同じ味だ」


「え?今、なんて?」


 ケイさんって言った今?

詳しく聞こうと思った私の言葉を遮ったのは入店を告げるドアベルの音と、良く知った男の声だった。


「姐さん、ハーブ納品しに来たぞー……って来客中だったか?」


『お邪魔しま~す』


「あら、ケイちょうど良いところに」


「あぁ?」


 我が物顔で店内に入ってきたケイが私の言葉に怪訝そうに眉を寄せる。彼の後ろにいるおひいちゃんがふよふよと浮きながら可愛らしく挨拶をした。守護霊であるおひいちゃんの声は普通は聞こえない。でも、私は耳に着けてるピアスにちょっと細工をして聞こえるようにしてるのよね。


「あれ、ケイさん?」


 八重さんがケイの声に反応して振り返った。予想外の子がいたからか、ケイは驚いた表情を浮かべたけれど、すぐに表情を崩す。それが中々見ることがないくらい優しい表情でちょっと面食らう。ケイでもそんな顔するのね。


「八重くん?」


「なんでここに?」


「いや、それはこっちのセリフなんだけどよ」


『わー八重ちゃんと狐ちゃんだ!奇遇だね!』


「えっと、ちょっと新宿での用事が終わって歌舞伎町をぶらぶらしてたらこのお店も見つけまして……。窓からキラキラしたパワーストーンが見えたので気づいたら入店してました」


「まぁ確かに姐さんのとこの石は魅力的だよな。惹かれるのもわかるわ」


 慣れた様子でハーブを戸棚に仕舞いながらケイは答えた。おひいちゃんは八重さんの膝にいるお狐様の頭を撫でている。お狐様もまんざらじゃないみたい。肩を竦めながら世間って狭いなと呟くケイに苦笑いが零れた。


「私からしたら二人がどういう繋がりか気になるのだけれど……はっ……もしかして、ケイにもとうとう春が……!?」


「ちげーわ、なんでそうなる!ただの常連客だわ!」


「ケイがこんな他人に優しい表情するなんてないじゃない。後、いい加減恋人の一人でも作りなさいな」


「余計なお世話だ。俺は好きでおひとり様堪能してんだわ」


「いつになったらケイの結婚式に呼ばれるのかしら……」


「結婚しても式は絶対あげねぇからな」


 私とケイの軽口の応酬を聞いていた八重さんがあわあわとした後に、ばっと頭を下げる。


「ケイさんごめんなさい!ケイさんにはとてもお世話になってますし、尊敬もしていますが、僕将来を約束している人がいまして……!」


 どうやら私の冗談を真に受けてしまったせいでキャパシティオーバーになったらしく、その後のやり取りが聞こえていなかったらしい。とても真摯にお断りをされたケイはぽかんと面食らった顔をした後に、思い切りしかめっ面になる。


「姐さんのせいでそういう気もねぇのにフラれちまったじゃねぇか!」


「え?え?」


「ごめんなさいね、ケイをおちょくってただけなのよ?」


 この子本当にピュアな子なのねぇ……。バンドやってるから少しくらいはスレてると思ったのだけど。眩しいくらいに真っ直ぐだわ。同じ年頃のケイなんてこの世のすべてを恨んでるみたいな目をしてたのに。


「姐さんなんか失礼なこと思ってねぇか?」


 じっとりと見てくるケイを笑顔で交わす。とりあえず、八重さんが『Erlosung』の常連なのはわかったわ。それよりも、気になる発言があったから深堀していいかしら?


「八重さん将来約束してる人がいるの?」


「俺もそれは初耳だわ」


「あーえーっと……はい」


 八重さんの白い顔がぼんっと一気にリンゴみたいに赤くなる。熱くなった頬を両手で包んで照れる八重さんはとても可愛らしい。


「よかったら詳しく聞きたいわ。こういうところに店を出してるとドロドロとした話しか聞かないのよ」


「人の恋愛を娯楽にすんなよ。八重くんも困ってんだろ」


「ケイだって気になってるくせに」


「はぁ?」


 何言ってやがるとばかりに私を睨むケイを空いている席に座らせて、八重さんに先を促す。おひいちゃんも興味があるらしく、八重さんの頭上で目を輝かせながら聞く体勢についている。いろいろと諦めたらしいケイはため息をついて頬杖を着いた。


「詳しくと言っても……えーっと、地元の神社で働いてる方で……その……辛いときとかもずっとそばにいてくれたんです。最初は家族愛に似た感情だったんですが……」


「恋心にかわったのね」


「そんな感じです」


「その神社って、八重くんのバッグに着けてるお守りのところか?」


「あ、はい、そうです」


 荷物カゴに入れていたボディバッグを取り出して、着けていた薄藤色のお守りを見せてくれた。『富藤稲荷神社』という文字と白い狐が刺繍されたお守りは真新しい。


「あれ、新しいのに変えた?」


「はい、年に一回新しいお守りが送られてくるんです。前のは同封された封筒で神社に送っています」


「その人にとても大事にされているのね」


 お守りには強い神気と守護の術が込められているのが視えた。その将来を約束した人はずいぶんと力がある人みたい。私の言葉に八重さんは幸せそうに破顔した。


「藤生さん……あ、その人は藤生さんって言うんですが、とても僕を大事にしてくれます。でも、僕もバンドマンとしてのイメージがあるし、あの人は神に仕える身なのであまり公にはできないですが……」


 そういって八重さんは慈しむようにお守りを撫でる。その表情はとても幸せそうで、八重さんも藤生さんを大事に思っていることが伝わった。


「ケイ、つけ入る隙がないわよ」


「だからそういうのじゃないっての」


「ケイさんは僕の……僕たちのバンドの恩人なんです」


『恩人だってよ~?』


「そんな風に言われるようなことはしてねぇよ。ただ、うちの店に来て話聞いてるだけだ」


「ああ、だからさっきハーブティの味が同じって言っていたのね。うちのハーブはケイのところで育ててるのよ」


「『Erlosung』でですか?」


「ん?そういやまだ見せてないか。裏庭にハーブ畑とビニールハウスがあるんだよ。まぁ世話はもっぱらタカラがやってるけどな」


 いつの間にか勝手にカップを引っ張り出してきたケイはハーブティーを飲んでいた。別にいいけれど、せめて一声かけなさいな。行儀が悪いとケイの手の甲を軽くはたくとケチケチすんなと悪態をつかれた。本当に可愛くない。


「そうなんですね。だからお店で飲むハーブティーはあんなに美味しいんですね」


「ケイがそんなにもてなすなんて珍しいわね」


『八重ちゃんは最近のケイちゃんのお気に入りだからねぇ』


 頭上から降ってきたにやにやとした揶揄を含んだ声に、ケイは額に青筋を浮かべた。私しかいなかったらいくらでも文句を言うんでしょうけど、八重さんの手前飲み込んだらしい。


「あ!そうだ、ちょうどケイさんにお渡ししたいものがあったんです」


「渡したいもの?」


「ええ、今度お店に行くときにと思っていたんですが、ちょうどよかった」


 ニコニコと笑顔を浮かべながら八重さんはショルダーバッグの中に手を突っ込んだ。すぐに取り出されたのは狐のイラストが描かれた縦長のクリアファイル……チケットホルダーというらしい……に挟まれた白い封筒だった。その封筒には柔らかい字で『ケイさんとタカラさん分』と書かれている。


「僕たち、今度初の武道館ライブをやることになりまして」


「ああ、テレビで見たわ。おめでとうさん」



 ケイが取り出したチケットには『Schleier』というバンド名が見えた。そのバンド名には見覚えがある。そうだ、ヒナちゃんが最近ハマっていると言っていたバンドだ。彼女に一通りバンドメンバーの写真も見せてもらったんだったわ。それでなくても、街中には彼らのポスターも貼られているし……それは見覚えがあって当然よね。


「八重さんのバンドってSchleierだったのね」


「へえ、姐さんでも知ってるってすごい有名になったんだな」


「あら、なによその言い方。失礼ね」


「姐さん基本的に流行りの音楽聴かねぇもんよ」


「失礼な。おわんことか知ってるわよ」


「いや、びっくりするほど古いわ。せめてアキバ系を出してくれ。いいかげんアップデートしろって」


愕然とする失礼極まりないケイを丸っと無視して、八重さんに微笑む。


「うちの常連の女の子があなた達のファンなのよ。私もSchleierの曲好きだわ。曲を聴いているととても心が軽くなるの。ボーカルの声もとても透き通っていて……そう、八重さんが歌っているのね。ああ、話の腰を折ってしまってごめんなさいね」


「姐さんマジでマイペース……。いいのか、チケット貰っちまって」


「ええ、さっきも言いましたけどケイさんは僕にとって恩人なので。タカラさんと見に来てください」


 何か言いたそうにしていたケイだったけど、裏の無い八重さんの様子とじっと見てくるお狐様の圧に負けて、見に行く約束をしていた。目的を果たした八重さんは軽い足取りで店を出ていった。手首にラベンダーアメジストのブレスレットをきらめかせながら。


「そんな恩人って言われるようなことした覚えはねぇんだけど」


『八重ちゃんからしたら、メジャーデビューを予言した上に猿夢から救ってくれたし、他にもいろいろ相談乗ってるから恩人なんだよ』


「そういえば、猿夢騒動とかあったわね。気付いたら収束してたけど、あれって八重さんの歌の効果だったのね」


「……姐さんもあのお狐見えただろ?あんまり神に連なる者に深入りしたくねぇんだよ」


「気持ちはわからなくもないけれど……そこまで邪険にしなくてもいいんじゃない?」


 ケイだってあの子に懐かれて満更でもないでしょうに。


「……八重くんだけならいいんだけどよ……あのお狐融通効かなさそうじゃねぇ?絶対俺はあいつに見切られそうでな」


『ケイちゃんは清廉潔白ってわけじゃないもんね。場合によって依頼人を見捨てたりするし』


 よしよしとおひいちゃんはケイの頭を撫でるけど、当の本人は舌打ちしてるわよ。まあ、ケイの考えに私は口出しをするつもりはないけども。

妙に重くなった空気を振り払うために、私はぱんぱんと手を叩く。こんな重くて淀んだ空気、司さんの店だけで十分だわ。


「それで?タカラを寄越すんじゃなくて、ケイが来るってことは何か用事があるんでしょう?」


「さすが姐さんご名答」


 にぃっと笑ったケイはいつもの調子を取り戻したらしい。バッグから紐で閉じられた資料をテーブルに放った。表紙には『怪異対策室資料』と赤いスタンプが押されている。


「そういえばこの間黒柳くんが顔を出しに来たわよ」


「クソ生意気な若造連れて?」


「本当は新入りの紹介をしに来たんだけど、当日にその子が足を怪我して救急車に運ばれたらしいわ。ケイ何かしたの?」


「俺は忠告しかしてねぇ」


 ざまーみろと毒づくケイに、何かあったと察する。せっかくの眼をそういうことに使うんじゃないわよ全く。ほら、頭の上でおひいちゃんも呆れてるわよ。でも、黒柳くんの前なのにそこまでするなんて相当のことをされたってことなんでしようけど。

肩を竦めて、テーブルの上の資料を手に取る。私の様子を見たケイはすぐに祓い屋としての顔になった。


「最近、クリーピーパスタの出現が確認されている。この間は師匠がアイレスジャックを滅したらしい」


「そういえば一時期アイレスジャックがどうのこうのっていう話は聞いたわ。まさか本当に出現するなんてね」


「ネット社会の弊害だな。怪異は国境を越えちまってる」


「それで?」


「他のクリーピーパスタも目撃情報が上がってる。まあ、ピンポイントで出会うことはまずないと思うが、念のため気を付けてくれ」


「この資料は?」


「目撃情報が上がってるクリーピーパスタをまとめてあるから、一応目を通しといてくれ」


 姐さんあんまりネットで情報収集してないだろ、と余計な一言を添えてケイは帰っていった。

ああいう憎まれ口を叩いても、なんだかんだと面倒見がいいんだから。それがケイの良いところで甘いところよねぇ。折角の気遣いだしありがたくいただこうかしら。ケイが置いていっていた資料に目を通す。











 お風呂上がりで火照った身体を冷ますためと言い訳をして、グラスに注いだワインに口をつける。パラパラとケイが置いていった資料に目を通した。あまりにも日本の怪異とはかけ離れたクリーピーパスタ達にため息がでちゃう。こういうところにも国民性が出るモノなのね。まあでも、ネットが発達したからそれだけ海外の怪異も身近になってるってことかしら……。

ため息を吐き出して、ワインで喉を潤す。そんな私の耳に物音が聞こえた。それも、誰もいないはずの店の方から。


「……招かれざる客。かしらね」


 ガウンの上からショールを肩に掛け、階段で一階に降りる。店内の電気を手探りでつけると、窓際に小さい人影が立っていた。その人影はびっくりしたように緑色の瞳を大きく見開く。人影の正体はクマのぬいぐるみを胸に抱いた茶色の巻き毛の少女だった。それだけなら普通の女の子と言ってもいいのかもしれないけど、血まみれの時点で生きてる人間とは思えない。

私に気付いたのか、彼女は小首を傾げる。その姿に敵意を感じらえなくて肩の力を抜いて微笑んだ。


「あらあら……どこから迷い込んだのかしら」

「だぁれ?」

「ふふ……魔女の店へようこそ。私はキョウよ。お嬢ちゃんの名前を教えてくれるかしら?」

「私はサリーって言うの。本物の魔女さんに会ったのは初めて!」


 少女が告げた名に、そういえばそんな名前のクリーピーパスタをさっき資料で見たなと思い出す。危険度は結構高めの怪異だったはずだけど……目の前の女の子からは危険性を感じないわね。むしろ、店内の明かりに照らされた石たちを見て目を輝かせるのは年相応の少女にしか見えない。ああ、血みどろなのを除けばだけど。


「魔女さん、私と遊んでくれる?」

「いいわよ……その前にホットミルクとクッキーはいかが?」


 立ちっぱなしも何だしとサリーを手招いて、カフェスペースに移動する。普段はあまり使うことが無いのに、今日は三人もお客さんを持て成すなんてね。

ミルクパンで温めている牛乳にハーブとはちみつを加えたものをマグカップに入れて、椅子に座ったサリーに手渡す。


「お花の香りがする」

「ハーブを入れてみたの。お口に合うといいけれど」

「……甘くておいしい!」

「それは良かった」


 ホットミルクを飲むサリーを横目にカフェスペースに置かれた戸棚を開ける。確かここに置いてあったはず……。あ、あったわ。

奥に仕舞われたバスケットを取り出しテーブルに置く。バスケットの蓋を開けると中には絵本や積み木代わりとして使える大きなパワーストーンのセットが入っている。たまに来るお子さん連れのお客さん用の遊び道具セット。それをサリーの前に並べた。


「こういうのしかないけど……」

「綺麗な石!」

「小さい子皆それ好きなのよね」


 嬉々としてパワーストーンで遊びだすサリーに微笑ましくなる。しばらくパワーストーンで遊んでいたサリーだったけど、すぐに飽きてしまったみたい。むくれた表情でパワーストーンをつつきながらサリーは私を見た。


「他におもちゃない?」

「そうねぇ……ちょっと待ってて」


 サリーに背を向けてまた戸棚の中を探る。他のと言われても、何かあったかしら……。

ガサゴソと戸棚を漁っている私は気づけなかった。サリーがゆっくりと立ち上がり、刃物のように鋭い爪を月光に光らせ近寄っていることを。


「魔女さん、おもちゃまだ見つからないの?」

「もうちょっと待ってくれる?」

「もう待てない!」

「それは困ったわねぇ」

「だから……魔女さんで遊んじゃう!」


 そういったサリーは私に飛び掛かってくる。振り返った瞬間、視界に入るのは鋭い爪で子供とはいえ、怪異相手に油断したことを後悔した……。


「なんて、ね?」


 迫りくる小さな手を掴み、飛び込んできた勢いを利用して腹に掌底を叩き込む。小さく呻いたサリーは床に膝をついた。倒れ込んだサリーはじゅううと何かが焼ける音がする腹を抱え痛みにのたうち回る。


「いくら子供が好きでも、怪異の前で丸腰になるわけないでしょう?」


 苦しむサリーを見下ろしながら、右手の中指に着けていた指輪をくるくる回し台座に乗った石を見えるようにする。つるりとした真っ黒な石は浄化作用のあるモリオン。ちゃんと効くか不安だったけど、どうやらクリーピーパスタも怪異扱いでいいらしい。


「そういえば先生もいつも通り祓えたって言ってたしそういうものかしらね」

「痛い痛い痛いよぉ……なんでこんなひどいことするの……?」

「あら、先に仕掛けてきたのはそっちじゃない?私だって子供にこんなことしたくないもの」

「うわぁああん!!!!!」

「せめて苦しませずに祓ってあげる」


 癇癪を起した子供のように床で暴れるサリーにため息を吐いて、いつも仕事で使っているムーンストーンのネックレスを取り出す。


―あるべき所に還りなさい。


 掌に巻いたネックレスでサリーの頭を撫でると、私に縋り付いたサリーはぱっと姿を消した。彼女が残った痕跡の無い店内で、窓から見える月を見上げる。


「いくら怪異でも、子供に泣かれるのは心にクるわ……」











洒落にならんほど怖い話集めてみない? その23


819:537 2020/4/26 13:00:05 ID:68amCyS1k0

サリーに会った友達の話したモンだけど


820:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/26 13:05:38 ID:kygY66Xp9N

おお、どうなった?


821:537 2020/4/26 13:08:56 ID:68amCyS1k0

悪夢のせいで眠れないって参ってたから前にここで見かけたパワーストーンの店を紹介したんだよ


822:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/26 13:13:05 ID:oeOXtAwR9N

それって『FATE』か?


823:537 2020/4/26 13:18:35 ID:68amCyS1k0

そうそこ

それで言ってきたらしくて、数珠ブレス作って帰ってきてたわ

店に行ってから悪夢は見てないらしい


824:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/26 13:21:38 ID:zGqvr6EzNm

へえ、やっぱり効くんだ


825:537 2020/4/26 13:25:45 ID:68amCyS1k0

気休めかもしれないけど、本人は救われてるみたいだった

あと、店主がすごい美人だったって喜んでたわ


826:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/26 13:31:27 ID:z6S4dR7DBQ

あそこの店主って魔女って言われてる……?


827:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/26 13:36:08 ID:ktw9GmTBm8

あれ女だっけ?

俺、男って聞いた


828:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/26 13:40:00 ID:ZXZyOXWf1O

え?俺は女って聞いた


829:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/26 13:43:26 ID:tER3jFzT1r

店に行ったことあるけど性別わかんなかったわ……


830:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/26 13:47:58 ID:76Lyr8GKp2

マジで何者なんだろうな?


831:ほんまにあった怖い名無し 2020/4/26 13:53:38 ID:3l5rBnUQXe

……深く考えるのやめようぜ


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