覇道①
俺はギルドのことを何も知らない。
だから尋ねた。
「ギルドのメリットとデメリットは?」
それに対し、レイチェルは右の人差し指を立たせて答える。
「メリットはなんといってもギルド専用のクエストだね。冒険者協会には、ギルド専用の大規模なクエストがあるの。厳密にはギルド専用ってわけじゃないんだけど、ギルド単位で受注するのが通例になっているから、実質的にはギルド専用って感じ」
「なるほど」
「それに、冒険者協会以外からも依頼を受けることがあるよ。例えば今回の大魔王討伐みたいな特殊な依頼は、ギルドに発注されるのが一般的」
「レイチェル達はギルドに入っていないんだろ? なんで依頼されたんだ?」
「ジークには恥ずかしくて言いづらいけど、これでも私達は世間的な基準だとかなり強いから。例外だと思ってくれていいわ」
「分かった」
「一方、デメリットだけど、今回は何もないよ」
「今回は? どういうことだ?」
「多くのギルドには七面倒な規則が存在するの。毎週○曜日には特定の場所で集まって会議をするだとか、○月にはどこそこで催事をするだとか、週に1回はギルドの人間とPTを組みましょうだとか、色々とね。でも、自分達でギルドを立ち上げるなら、そういう規則を設ける必要がない。仮に規則を設けるとしても、自分達が快適に過ごせるような内容にすればいいわけ」
「それでデメリットが何もないってことか」
「そういうこと。ギルドの設立や維持には費用がかかるけど、それは私達が負担するから。そうなると、ジークにはメリットしかないことになる」
「たしかに」
レイチェルの言い分はよく理解できた。
言っていることはもっともだし、二つ返事で承諾したくなる。
だが、承諾する前に、俺には訊いておきたいことがあった。
「どうしてレイチェル達は俺とギルドを立ち上げたいんだ?」
「どうしてって?」
「だって、俺とギルドを作った所で得るものがないだろう。さっきデメリットで挙げていたギルドの七面倒な規則ってのこそ、ギルドの本義みたいなものだ。それを取っ払うのであれば、同じギルドで活動する意味がない。ただの友達でも十分だろう。違うか?」
アイリスが「ですね」と頷く。
レイチェルも「違わないわ」と肯定した。
「それでも私達がギルドに誘うのには、大きな理由が2つあるの」
「ほう」
「最初の理由は、まぁ、ジークには関係ないんだけど」
「というと?」
「元々ね、私達はギルドを作ろうと考えていたの。でも、2人でギルドを立ち上げても、それってPTと変わりないじゃん? だから、気の合う第三の仲間ができたときに、ギルドを作ろうって話をしていたのよ」
「第三の仲間というのが俺なわけか」
「そういうこと」
「じゃあ、もう2つ目の理由は?」
「繋がりを明瞭にしたいなって」
「明瞭に? どういうことだ?」
「同じギルドの人間ってことで、仲間の絆を可視化したいってことよ。たしかに七面倒な規則のないギルドって、そんなのギルドである必要はないよ。一緒に行動するならともかく、今後は別々に行動するのだから尚更ね。でも、同じギルドのメンバーだったらさ、離れていても繋がってるって分かるじゃん?」
「うーん……」
レイチェルの言葉があまり理解できなかった。
俺が首を傾げていると、見かねたアイリスが口を挟んだ。
「レイチェルは、私達が死んだ時に気づいて欲しいと言っているのです」
「死んだ時?」
「はい。同じギルドのメンバーが死んだ場合、冒険者協会やギルド管理協会などでその旨を知らされます。また、同じギルドであれば、各協会を通じて連絡をとることが可能です。レイチェルが言いたいのは、そういうシステムを活用したい、ということなのです」
「なるほど、そういうことだったのか」
アイリスの説明は分かりやすかった。
その理由であれば、レイチェルの言い分も納得できる。
「それならそうとはっきり言えばいいのに。繋がりだとか絆の可視化だとか、意味が分からなかったぜ」
「だって恥ずかしいじゃんかよ」
「へんな奴だ。まぁ、そういうことならギルドを立ち上げよう。ただし、俺の仲間もギルドに加えさせてくれよ」
「もちろん! 良かったら紹介してよ! 私達も仲良くなりたいし!」
俺達はギルド管理協会に行った。
協会に着くと、受付でギルド設立の手続きを始める。
ギルドマスターは俺が担当することになった。
副ギルドマスターは決める必要がないとのことで不在だ。
「ギルドホーム? なんだそれ」
「ギルドの拠点となる場所のこと。そこに依頼が来るの。適当な場所がない場合は、自宅の住所を記載するといいわよ。なんだったら私達の家でもホームに指定しておく?」
「いや、ギルドホームを2人の家にすると、依頼の確認が面倒だ。我が家の住所を書いておくよ」
「りょーかい」
手続きは順調に進んでいき、残すはギルドの名前のみ。
「名前なんてなんでもいいのだが」
と言う俺に対し、
「駄目駄目! 名前はしっかり決めないと!」
とレイチェルは反対した。
アイリスはレイチェルと同意見らしく、「そうですよ」と頷いている。
「だったらレイチェル達が決めてくれよ」
「いいの?」
「かまわないさ」
「オッケー! 任せてよ、完璧な名前にするから!」
そう言うと、レイチェルはアイリスとコソコソ話し合う。
ああでもない、こうでもない、そうでもない……。
しばらく話し合った末、2人は答えを出した。
「ギルド名は〈覇道〉でどうかな!?」
「その心は?」
「なんかカッコイイかなって。アイリスが考えたんだよ!」
「ジークさんの強さはまさに覇王ですから、覇王の歩く道ということで覇道、みたいな……」
アイリスが恥ずかしそうに顔を赤くする。
「まぁいいんじゃないか」
「オッケー! じゃあ〈覇道〉で決まりね!」
かくしてギルド名が決定し、無事にギルドを設立することができた。
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