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大魔王軍の襲来⑨

 城内は閑散としていた。

 給仕担当と思しき魔物がちらほらいるだけだ。

 ここでもまた、俺達はスルーされていた。


「なんだか見えていないかのような反応ですね」


 アイリスは魔物達の対応を気持ち悪がっていた。


「いいじゃないか、ザコを乱獲しても得るものは何もないし」


「たしかにそうですけど……」


 そんなこんなで、俺達は戦闘することもなく城の上層階に進んでいく。

 一つ、また一つと階段を上り、あっという間に最上階までやってきた。


「いるな。分かるか?」


「はい、気配を感じます」


 謁見の間に繋がる巨大な扉の前で話す。


「中に人間の気配もあるぞ」


「それは分かりませんでした」


「アイリスよりも手練れだ」


「本当ですか!? だ、誰なんでしょうか?」


「開ければ分かるさ」


 俺は扉を足で蹴破った。

 強烈な炸裂音と共に、扉が粉々に粉砕される。


「やれやれ、人間の中にも派手な登場を好む者がいるようだ」


 扉の向こう――玉座の傍に立っている大柄の敵が言う。

 深い紫色のローブを纏った真っ黒の骸骨だ。

 五十魔将とは比較にならないオーラを放っている。

 間違いなく、奴が大魔王オンボールだろう。


 そして、オンボールと対峙しているのが――。


「お前は……! ジーク!」


「懐かしいな、魔王を討伐したSSS級の男じゃないか」


「フリックだ」


「知ってるさ」


 ――今は亡き〈白銀の紺碧〉のギルドマスターフリックだ。


「お前のことはしばしば単位に使わせてもらっている」


「単位? 何のことだ」


「気にするな」


 フリックは雰囲気が変わっていた。

 前に俺と戦った時に比べると、幾分か成長している。

 かつての彼を1フリックとした場合、今の彼は1.5フリック程度の強さだ。


「まさかフリックさんがおられるなんて!」


 驚いた様子のアイリス。


「知っているのか、アイリス」


「もちろんですとも! SSS級冒険者の中でも屈指の強さを誇る方ですので」


「これはこれはアイリス殿、お久しゅう。レイチェル殿とは別行動ですか?」


「レイチェルは……色々とありまして……」


「そうですか」


 フリックは剣を握る手に力を込め、オンボールを睨みながら言う。


「ジーク、お前も大魔王を討伐に来たようだが、残念だったな。コイツは俺が倒させてもらう。その後で、お前に挑ませてもらおう。今度は届かせてもらうぞ、我が剣!」


「うーん……」


 俺はなんとも言えない気持ちで唸った。


「どうした? 強くなった俺に怖じ気づいたか?」


「いや、そうじゃなくて……。その、なんというか……」


 言葉に窮する俺。

 そんな俺を見て、オンボールが口角を吊り上げていた。

 どうやら奴も俺と同じことを思っているようだ。


「ところでフリック、お前、どうしてここに居るんだ? お前は消息を絶っていたはず。国王から依頼を受けていないだろう」


「たしかに俺は誰の依頼も受けていない。ここに居るのは、噂で聞いたからだ。俺ほどの冒険者になれば、情報網は王国にも匹敵する。いかに国王が情報統制を行っていたとしても、この耳には筒抜けさ」


「それでわざわざここまでやってきたのか」


「ジーク、お前との戦いに敗れてから、俺は自分自身の弱さに気づいた。そして鍛え直した。ここへ来たのは、最強になった己の力を確認するためのこと。報酬など求めていない。これはそういう戦いではないのだ」


 いよいよ耐えきれなくなったのか、オンボールが笑い出した。

 骨の口をカチカチ鳴らしながら「ハッハッハ」と豪快に笑う。


「何がおかしい、オンボール!」


「いいや、おかしくなどない。ただ思っただけだよ。お主はまごうことなき人間なのだな、と。それも只の人間。言うなれば凡愚である、と」


「なんだと!?」


「さぁ、かかってくるがよい。魔王を倒したというその強さで、余を満足させてみせよ」


「言われなくても!」


 フリックが飛び出す。


「加勢しようか?」


 俺が尋ねる。

 その言葉に対し、フリックは「いらぬ!」と叫んだ。

 一方、オンボールは「加勢されると困る」と答えた。


「人外の境地に至ることで生み出したこのスキル!」


 フリックがオンボールの数メートル手前で止まり、剣を掲げる。


「いでよ! 完全なる分身体! 〈パーフェクトヒューマン〉!」


 フリックの左右に分身体が召喚された。


「これはただの分身体ではない!」


 誰も聞いていないのに解説を始めるフリック。


「質量を持った分身体! 言うなれば第二、第三の本体! 一般的な分身体と違い、この分身の攻撃を食らうとダメージを受ける! つまり戦闘能力が純粋に倍増したようなもの!」


「すごい! すごいです! フリックさん! そんなことができるなんて!」


 興奮するアイリス。

 俺とオンボールは無表情だ。


「うおおおおおおお!」


 フリック本体が真正面から突っ込み、分身体は左右に展開する。

 そして、三方向から同時にオンボールへ斬り込む。


「これが究極の技! トライアン――グハッ!」


 フリックのトライなんとかは、発声途中に終わった。

 オンボールが掌から闇の矢を飛ばして、フリックを貫いたのだ。

 ご丁寧に分身体にも攻撃をしている。


「い、いつの間に攻撃を!?」


 驚くアイリス。

 彼女の目には攻撃を捉えきれていなかった。


「なっ……攻撃を……いつ……!?」


 それはフリックも同じだった。


「これでも手加減してやったのだがなぁ」


 オンボールが指先で頭を掻いている。

 その言葉に真実であると、俺には分かった。


「そん……な……」


 崩落しようとするフリック。

 だが、彼の体は途中で倒れるのを止めた。

 オンボールが距離を詰めて、フリックを受け止めたからだ。


「それでは、いただきます」


 オンボールがフリックを両腕で抱きしめる。

 するとフリックの身体から闇色の光が溢れ出した。


「やめ、やめろ! やめろぉ! やめてくれぇえええええ!」


 そう叫びながら、フリックの身体が光の粒子に変わった。

 光の粒子は、一粒残さずオンボールの体内に消えていく。


「魔王を倒した男ですらこの程度か……」


 落胆するオンボール。

 アイリスは「そんな……」と絶望に打ちひしがれている。


「お前、思っていたより強そうだな」


 俺はオンボールを見て笑みを浮かべた。

 20フリック程と思われた奴の強さが、実際には300フリック程あるのだ。


「たしかに余は強いが、そなた程ではない」


 オンボールも余裕の表情で答える。

 自分が俺に劣っていることを把握していた。


「強い奴と戦いたいんだろ? だったら俺が相手をしてやるよ」


「余が戦いたいのは、余より弱い者の中での強者だ。余より遥かに強い者とは戦いたくないのだよ。それにしても、まさか余よりも強い人間がこの世界に居るとはな。あまりにも話にならないザコしか居ないから、てっきりハズレを引いたと思っていたよ。もっとも、そなたの強さは、それはそれでハズレなのだがね」


「その口ぶり、やはりお前は異世界からの来訪者か。数多の世界を転々としては、エネルギーを吸収する類の魔物だな」


「いかにも。そこまで分かっているならば話が早い。余は即座に軍を引き上げよう。だからそなたとの対決はしない方向で手を打ってもらえぬか? 必要ならば、余の死骸を模した者も残していこう」


「すごい……! フリックさんを瞬殺した大魔王が、ジークさんに怖じ気づいている……! 流石です、ジークさん!」


 感動するアイリス。

 俺はその言葉を無視し、魔王に言った。


「すまんがそれはできん相談だな。俺は戦いたくてうずうずしているんだ」


「こちらとしては出来る限り戦いたくないのだがね」


 好戦的な俺に対して、オンボールは消極的だ。

 彼我の実力差が分かっているからこそ、勝てない戦いを避ける。

 俺には遥かに劣るものの、真の強者の才覚が感じられた。


「嫌なら逃げてくれていいぜ。追いかけてぶち殺すだけだからさ」


「やれやれ。ならば仕方ない。この体で出せる全力をもってお相手しよう」


「話の分かる大魔王様だ。そうでなくちゃな」


 俺は振り返り、アイリスに言う。


「アイリス、周囲の警戒を絶やすな。俺のことは気にしなくていい。自分の身を守ることに徹しろ。もしも防御系の魔法やスキルを使えるなら、自分に重ねがけしておけ」


「わ、分かりました!」


 アイリスは数歩後ずさり、杖をもって様々な魔法やスキルを発動する。


「では始めようか、オンボール」


「よかろう」


 大魔王オンボールとの戦闘が始まった。

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