大魔王軍の襲来④
「まさか私達が誰かに助けてもらうなんてね」
「ジークさん、本当にありがとうございました」
「気にしないでくれ、俺が勝手にやったことだから」
俺は2人組の女冒険者と軽く話した。
金色のショートヘアが特徴的な剣士はレイチェル。
丈の短い白のワンピースの上に、プラチナの防具を纏っている。
脚は黒のニーハイソックスで、靴は革のハイブーツだ。
もう1人の丁寧な口調で話すのはアイリス。
髪型は紫のロングストレートで、深い茶色のローブを纏っている。
武器はクリスタル製の長い杖で、戦闘スタイルは総合支援とのこと。
どちらも年齢はクリアラスと同じくらいだ。
つまり20代半ばである。
俺はこの2人から、簡単なことを教わった。
まずは俺達の現在地。
俺達が居るのは、公国の領内だ。
国境を越えてから最初に到着する大都市の近く。
次に、先ほど倒した魔物。
案の定、あの3体は五十魔将だった。
五十魔将にはそれぞれ数字が割り振られているという。
数字が若いほど階級が上、つまりは強いということ。
先ほどの3体は強い奴から順に8位、13位、41位だった。
ちなみに、ライトが倒したのは30位以下のザコばかりらしい。
それなのに粋がっていたのか、と悲しい気持ちになった。
最後に、俺達の目的地。
現在、俺達は前方に見える大きな城郭都市に向かっている。
街の中は平和で、以前と変わらず住民達が生活しているそうだ。
オンボール軍は基本的に人畜無害らしい。
戦闘能力が高い者のみ、例外として狙われるとのこと。
だから、領内の冒険者は他国へ退避していた。
どうして一般市民に手を出さないのかは不明だ。
「ねぇ、さっきの黒い炎ってスキルなの? 初めて見たけど」
レイチェルが尋ねてくる。
「いや、スキルじゃないよ」
「すると魔法なんですか?」とアイリス。
「それも違う」
「魔法でもスキルでもないってどういうこと!?」
「俺の能力だよ。自分の魔力を炎に変えて敵を食わせただけ」
「それって魔法じゃん!」
レイチェルが手の甲でビシッと俺の胸を叩く。
「「いや」」
俺とアイリスの言葉が被った。
アイリスが「すみません」と恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「謝ることじゃないさ。言ってやってくれ」
「分かりました」
アイリスがレイチェルに言う。
「たしかに魔力を変えるという点では魔法と同じです。ただし、魔法を使うには、術式または詠唱、もしくはその両方が必要になります。しかし、ジークさんはそのどちらも使わずに黒い炎を使いました。ですので、魔法の定義から外れるのです」
「満点の回答だ。まさにその通り」
「じゃあ、ジークは魔法っぽい別の何かを使ったってこと?」
「そういうことだ。術式や詠唱を必要とせずに発動できるという点ではスキルと似ている。スキルも発動するのに何かしらの作業を伴うことはないだろ?」
「たしかに」
「ただし、魔力を弄るという点では魔法に近い。要するに俺が使う能力は、スキルと魔法の間に位置するものなんだ」
「そんなものがあるの!?」
「あるから使えるわけで。ただ、正式な名称は決まっていない。だから俺は『能力』と言っている。魔法でも、スキルでもない」
ほへぇ、と感心するレイチェル。
「ジークさんの能力は、独学で身につけられたのですか?」
「まぁね。2000年くらい修行してコツを掴んだ」
「2000年!? ど、どういうことですか!?」
「実は俺、不老不死なんだよね」
「「えっ」」
固まるレイチェルとアイリス。
やっぱりそういう反応になるよな。
俺は苦笑いで「冗談だよ」と流した。
「ジークの冗談ってよく分からないよ」
「本当のことなのかと思って驚きました」
「ハハハ。なんにしろ、独学で身に着けたわけだ」
「なるほど……すごいですね」
話していると、次第に街が近づいてきた。
「ジークも国王陛下からオンボールの討伐を依頼されたんだよね?」
「そうだよ」
「だったらさ、一緒に行動しない?」
「一緒に? 悪いが2人は足手まといにしかならないと思うが」
「はっきり言うなぁ……」
レイチェルが苦笑いを浮かべる。
「たしかに戦闘能力じゃ劣るけどさ、公国のことは詳しいよ。これまで話した感じだと、ジークは地理に疎いでしょ?」
「たしかに」
「私達は知り尽くしているから。必要な場所に案内できると思うよ」
「なるほど。それが俺に対するメリットなわけだ」
「そういうこと!」
「じゃあ、2人はどういうメリットがあるんだ?」
「私達は、自分よりも圧倒的に強い稀有な存在を近くで見れることが大きいよ。見学って言葉がある通り、見ることで学べることもある。ジークの戦いを傍で見ることが出来れば、自分達の成長に繋がる気がするんだよね。それに、このまま王国に戻っても、国王陛下に合わせる顔がないからね」
「そういうことか」
リムノーレが俺の仲間になりたがったのと似た理由だ。
だから彼女の言い分には理解の余地がある。
「まぁいいだろう」
俺は快諾した。
「それじゃ、大魔王を倒すまでの間、よろしくね!」
レイチェルが手を差し出してくる。
「おう、よろしくな」
俺はその手に応じて握手を交わした。
◇
前方にあった城郭都市〈カサンドラ〉に入った。
軍が全滅したとの情報は正しいらしく、衛兵の姿は見当たらない。
代わりに魔物がいるかと思いきや、魔物の姿も見当たらなかった。
なので、誰に憚られることもなく、普通に入ることができた。
都市の中は事前の情報を裏付けるように平和だ。
多くの人間が、和気藹々と過ごしている。
適当な人間を調べてみたが、洗脳されている気配はなかった。
記憶の改竄も行われていない。
「まるで大魔王軍による支配がされていないかのようだな」
「でしょ。だから私達も、最初に来た時は驚いたのよ」
「これだけ魔王軍が受け入れられていると、討伐が躊躇われますよね」
「たしかに」
人間が必ずしも正しくて、魔物が必ずしも悪いとは限らない。
魔物の中には、人間よりも正義の心を持った善良なる者も存在する。
かつて、そういった魔物と共に、悪に染まった神々を倒したこともある。
「これでよし!」
街に入ってすぐの宿屋で部屋を確保する。
レイチェルが手続きを行ってくれた。
「それじゃ、今日の夜までは自由行動ってことでいいかな?」
宿屋を出たところでレイチェルが言った。
俺は「いいぜ」と二つ返事で承諾。
「街の中を色々とぶらつきたいと思っていたからな」
「食事はどうする? 一緒に食べる?」
「いや、適当な店で済ませるよ。金はある」
「了解! じゃ、夜に宿屋で。道に迷うなよー」
「はいよ」
レイチェルとアイリスが、宿屋の扉から見て右手の道を進む。
だから俺は、反対側である左手の道に向かって歩き出す。
――この判断は誤りだった。
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