五年前の出来事
五年前。初めてターベイを訪れた水月は、同じように〈影〉を祓ったことがあった。
そのときは何も起こらなかったが、翌日、水月は決闘を申し込まれた。相手は、ターベイの〈影祓い〉、サヴィルであった。
理由は、旅烏の、しかも女の水月が、手際よく〈影〉を祓ったのが、気に入らないからというものだった。
水月からすれば、迷惑きわまりない話だ。彼女は〈影祓い〉としてやるべきことをやっただけである。
しかし自分でも言ったように、売られた喧嘩は買う主義の水月は、決闘を受けた。水月には付き添いとなる人間がいなかったため、村の男が一人、付き添いとなった。年配の、鋭い目の男だった。
サヴィルはアルフを連れて来ていた。
結果は、水月が勝った。そのとき、サヴィルは立ち去る彼女に向かってこう吐き捨てた。
――今回は負けたが、お前のことは忘れない。何年先でも、お前がターベイに現れる度に、決闘を申込む。
恨みのこもった言葉に対し、水月は一言、「勝手にすれば」と告げた。
五年前のことを思い出し、水月は笑みを消して、ため息を一つ、ついた。
「それで、サヴィルさん……だったっけ? あの人はどうしたの?」
「一昨年、死んだ」
「ああ、だから、貴方が決闘を申し込んで来た訳ね。本当によく覚えてたこと。……そういえば、ここの〈影祓い〉って、あの人だったはずだけど、今は誰が〈影祓い〉をしてるの?」
アルフは自分を指した。
水月の返答は、一拍遅れた。
「…………貴方が?」
「俺と、ニルス」
「ニルス?」
「五年前、あんたの付き添いをした男だ」
そう言われれば、そんな名前の男だった、と水月は、記憶の底から男の顔を探り出した。
「ちゃんと〈影祓い〉がいるんなら、貴方はやめたほうがいいと思うわよ」
アルフが水月を睨んだ。フィレイが首をかしげて聞いた。
「どうして? 〈影祓い〉って一人じゃなきゃいけないの?」
「別に何人でもいいけどね。決闘棒の使い方も知らないような人に、まともに〈影〉を祓えるとは思えないのよね」
アルフが顔を真っ赤にして立ち上がった。
「そんなに怒るなら、今から私が聞くことに答えて頂戴な。〈影祓い〉なら、知ってるはずよ」
水月はいくつも質問した。アルフが答えられたのは、そのうち数個だった。
予想外の結果に水月は絶句した。聞いたことは全て、〈影祓い〉ならば知っていなくてはならない。つまり〈影祓い〉の常識である。
それを答えられなかったということは、ロクな知識もなく〈影祓い〉をしていたということだ。
少し思い知らせようと思い、自分が昔聞かされた〈影祓い〉の悲惨な最期を語って聞かせた。
話すうちに、アルフは顔面蒼白となり、傍で一緒に聞いていたフィレイの顔も青ざめていた。
「まあ、その中途半端ですらない知識で〈影祓い〉を続けるのかどうかは、勝手にすればいいけど。このまま続けるなら、無事ではすまないわよ」
アルフは黙っていた。
しばらく経って、彼はゆっくりと立ち上がり、部屋を出て行った。




