五年ぶりの再会
ベッドに入ったものの、結局、眠れずにいた水月は、寝不足のまま朝を迎えた。
逆にフィレイは朝まで一度も目を覚ますことはなかった。そのために、水月は彼女を少しうらやましく思った。
女中に頼んで、冷たい水を持って来てもらい、それで顔を洗うと、だいぶマシになった。朝食を取るために、食堂に向かう。
「どうしたの? 目、真っ赤だよ?」
「ベッドだと、眠れないのよね。めったに使わないから……」
水月は軽くあくびをした。夜中のことは話さない。フィレイが信じられなさそうに水月を見た。
「それじゃ、いつもどうやって寝てるの?」
「え? いつも布一枚体に巻いて寝てるけど。……待って。そんな驚くこと? カラじゃ普通よ」
そこで注文した料理がきたので、二人は一旦話をやめた。
フィレイはフレンチトーストを頬張り、水月はロールパンをちぎっては口に運ぶ。
「村長の娘を助けた〈影祓い〉ってのは、あんたたちか?」
急に話しかけて来たのは、若い男だった。
「水月、誰かが用事みたいよ」
フィレイの声に、水月はちらと男を見た。金髪に碧眼。この辺りでは、珍しくない容姿だ。
パンの最後のひとかけらを飲み込んでから、水月は口を開いた。
「何か、用?」
男は懐に手を入れ、小さな木の棒を取り出した。それを水月に向けて投げ付ける。
顔に当たる寸前で受け止め、水月はそれを眺めた。
「ふうん。夕刻に、裏庭で、ね……」
水月が考えている間に、男は立ち去っていた。
「それ、決闘棒?」
「そうね。本当なら、私の返事を聞くまで待ってなきゃいけないんだけど……どっかに行っちゃったわね。それより、私、決闘を申し込まれる覚え、ないんだけどな」
手の中の棒を弄びつつ、水月は少し呆れた声で答えた。
夕方。裏庭には、四人の人間の姿があった。
水月、フィレイ、若い男、村長。フィレイと村長は、二人の付き添いである。
水月が、決闘棒を取り出し、男に投げ返した。
「受けるのか」
「あら、受けてほしくなかった? だったら悪いけど、売られた喧嘩は買う主義なのよね」
水月が言い終わる前に、男が拳を付きだした。とっさに後ろに飛びのく水月。
間髪を入れず、男が踏み込んだ。しかしその拳は、水月の腹に叩き込まれる前に止まる。
水月の手が、男の拳を包み込むようにして止めていた。そのまま、男の腹に膝蹴りを決める。
ぐ、と男が妙な声を上げてうずくまった。がら空きの首筋を、水月は手刀で打った。
男は声も上げずに倒れた。男を見下ろし、水月は一つため息をついた。
「この人は……とりあえず、部屋に連れて行こうか。いろいろ、聞きたいこと、あるしね」
水月が男に活を入れた。男は、ぼんやりした顔で辺りを見回した。
状況が理解出来ていないらしい男に、「ついて来て」と声をかけた。
「さて、と。説明してもらえる? どうして決闘を申し込んで来たの?」
男は少し経ってから、むっとした口調で水月に聞いてきた。
「五年前のこと、覚えていないのか」
「五年前? ……ああ! 貴方、ひょっとして、アルフ?」
アルフはうなずいた。
「まさか、覚えてたとはねえ」
水月は、喉の奥でくつくつと笑った。




