夜中の祓い
ターベイの村は、文字通りパニック状態になっていた。
子どもが戻らない。どこに行った。
森の奥に迷いこんだのか。それとも誘拐か。
そんな声があちこちで聞こえていた。
一人の中年女が、水月たちを見て、声をあげた。フィレイが、手を引いていた少女たちを、それぞれの親の元へと連れて行った。
水月が背負う子どもは、村長の一人娘らしく、使用人らしい男と、恰幅の良い男が娘を引き取りに来た。
聞くと、恰幅の良い男は、少女の父親、つまりはターベイの村長だという。
村長の、家に泊まっていかないか、という申し出を丁寧に断り、二人は宿に向かった。
夕食をとり、風呂をすませた二人は、旅の疲れもあって、ベッドに横たわると、すぐに眠った。
何かが壊れる音や数人の叫び声に、水月は目を覚ました。フィレイを起こさないようにベッドから滑り出る。
静かに部屋を出て、音の方に向かう。
騒ぎは食堂で起きていた。床には割れた食器が散乱し、椅子やテーブルが倒れている。
宿の主人や奉公人が何人か、誰かを遠巻きに見ていた。水月は、人の間を通り抜けて中心に行った。
そこには年配の男が、呆けたような顔で立っていた。顔は呆けているが、男の目はぎらぎらと光っている。
(〈影憑き〉……)
目の前のテーブルをひょい、と乗り越え、水月は男の前に立った。男の瞳が水月を捉える。
男が近くの椅子を掴んで振り上げた。そのまま降り下ろした椅子の脚を、水月は左手でしっかりと支えた。
空いた右手で懐から札を一枚取り出し、男に貼った。
左手を離し、一歩飛びすさる。直後、水月のいた場所に椅子が降り下ろされた。
水月が手を叩いた。男が倒れる。
既に男の息は絶えていた。
後のことは宿の人間に任せ、水月は部屋に戻った。
フィレイは相変わらず眠り続けている。水月は、その姿を何か含むところがあるような目で見て、ベッドに潜り込んだ。




