<影祓い>水月
夕暮れの森の中。水月とフィレイは地図を見ながら歩き回っていた。
「水月、本当にこの道であってるの?」
「あってる……と思うけど。まあ、最悪、野宿でもすれば大丈夫よ」
それを聞いてげんなりしたフィレイとは逆に、水月は楽しそうに、紅を塗ったように赤い唇を微笑ませた。
ぺたぺたと歩いていた水月の草履をはいた足が、不意に止まった。後ろにいたフィレイは、危うくぶつかりそうになる。
「わっ……と。いきなり止まらないでよ」
水月はフィレイの文句を聞き流し、顔だけを彼女に向けた。
黒い瞳には、怪訝そうな光が浮かんでいる。
「さっき、何か聞こえなかった?」
「え、別に――水月? どこ行くの?」
突然走り出した水月の後を、被っている帽子を押さえながら、フィレイが慌てて追いかけた。
水月が辿り着いた場所には、小さな沼があった。
そして、二人の少女が怯えた表情で岸に立っていた。少女たちは悲鳴を上げ、両手を振り回してもがくが、それでも抗えず、じりじりと沼へと近付いて行く。
沼の中には、別の少女が立っていた。彼女はすでに腰辺りまで泥と水に浸かっているのに、それを気にする様子はない。
「フィレイ。あっちの二人をお願いね」
言うが早いか、水月は沼の中に足を踏み入れた。
出来る限りの速さで少女の元まで進み、
「はい、そこまで」
と、肩をつかんだ。
少女が首を水月の方に振り向けた。子どもとは思えない様子で眉をひそめる。
「だ、レ……?」
「そんなこと、どうだっていいでしょう」
言いながら、懐から取り出した札を少女の額に貼る。一拍置いてから、パン、と手を叩いた。
少女がくずおれる。水月は慌てて抱き抱え、岸に上った。
フィレイの方を見ると、にこにこしながら、少女二人と何やら話していた。
「この子たち、三人ともターベイの子なんだって」
「そう。それじゃ、家まで送ってあげるから、その帽子のお姉さんとはぐれないように、手をつないでおいで」
水月は泥だらけの少女を背負い、フィレイは他の二人の手を引いて歩き出した。




