義兄の弁明
水月が発った翌々日、フィレイは朝から父の傍にいた。横たわる父の様子は変わらない。
(水月……間に合って)
母が死んでから義母と再婚するまで、父は彼女を男手一つで育ててくれた。
だからこそ、何もできないのが歯がゆい。
ドアの開く音。ちらと見ると、入って来たのはアルフだった。
「親父さん、どうだ?」
「分からない。変わらないもの」
「なあ、フィレイ――」
アルフが何か言いかけたとき、乱暴にドアが開いて、黒革の鎧を着けた男が飛び込んで来た。
手に白刃を下げ、殺気のこもる瞳で二人を見る。
「な、何ですか!」
「逃げるぞ、フィレイ!」
アルフは手近の椅子を掴むと、男たちに向かって投げつけた。男が避けた隙をついてフィレイの手を引いて部屋を飛び出す。
「どう行けば出られるんだ?」
「こっちだ!」
聞こえた声に、アルフは迷わずその方向へと足を向けた。
小さな物置部屋。そこに声の主が青ざめた顔で立っていた。
「二人とも、無事なようだね。良かった」
「そんなこと言って、俺たちを引き渡すつもりか?」
アルフは言いながら、目の前にいるウォルドを睨みつけた。
「俺はあんたを信用してない」
「……そうだろうね。だけど、信じて欲しい」
「俺たちを殺そうとしている奴を、信用できるわけないだろ?」
「兄さんが、私たちを殺す? どういうこと? 何がどうなってるの?」
「今から説明するよ、フィレイ」
信じてもらわなければならないから、とウォルドは付け加えた。
「何度でも言うけど、俺はあんたを信じられない」
フィレイの前に立ち、アルフはきっぱりと言い切った。
「その気持ちは分かっている。だけど、聞いてくれないか。頼む」
「アルフ、とにかく聞くだけ聞こうよ。信じるかどうかはその後で決めてもいいじゃない」
「…………分かったよ」
「ありがとう。フィレイ、君には辛い話になると思うけど、聞いて欲しい。実は、母は――リリー・ソリスは、結婚したときからこの家の財産を欲しがっていたんだ。私に全ての財産がわたるようにしろと、義父をせっついていた。けれど、義父は首を縦に振らなかった。当たり前だろうね、実の娘がいるんだから。そして、とうとう母は実力行使に出た。義父に死苺を食べさせるという、ね」
「そんな……」
フィレイの声は抑えられていたが、震えまでは抑えられていなかった。
「それで、邪魔になるフィレイとついでに俺たちも殺しちまおうってか」
「そういうことだ。だけど、いくらなんでもやりすぎだ。たぶん今頃、水月さんも危ないだろう。とにかく、ここから動かない方がいい。隠れる場所はいくらでもあるし、それに下手に動き回ると危険だ」
ウォルドの言葉が終わるか終わらないうちに、ドアが勢いよく開き、抜き身を引っさげた男が躍り込んで来た。
とっさにフィレイをかばったアルフの左腕に、熱が走る。
「アルフ!?」
男はじりじりと近付いて来る。その男に向けて、ウォルドが足元のランプを投げた。鈍い音がして男がうずくまる。
そのまま三人は部屋を飛び出した。後ろから追ってくる足音。
どうにか庭に出たものの、それも見越されていたらしく、黒い装束に身を固め、白刃を手にした四人の男が、フィレイら三人を取り囲んだ。
そこへ、家の中から美しく着飾った一人の女が現れた。言うまでもない、フィレイの義母でありウォルドの実母、リリー・ソリスである。
「ウォルド、邪魔をする気なの。それなら、もう息子とは思わない。一緒に斬られて死ぬといいわ」
言下に男たちがその手に持つ刃を構えた。




