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<影祓い>  作者: 文月 郁
ミトスラ編
34/36

義兄の弁明

 水月が発った翌々日、フィレイは朝から父の傍にいた。横たわる父の様子は変わらない。

(水月……間に合って)

 母が死んでから義母と再婚するまで、父は彼女を男手一つで育ててくれた。

 だからこそ、何もできないのが歯がゆい。

 ドアの開く音。ちらと見ると、入って来たのはアルフだった。

「親父さん、どうだ?」

「分からない。変わらないもの」

「なあ、フィレイ――」

 アルフが何か言いかけたとき、乱暴にドアが開いて、黒革の鎧を着けた男が飛び込んで来た。

 手に白刃を下げ、殺気のこもる瞳で二人を見る。

「な、何ですか!」

「逃げるぞ、フィレイ!」

 アルフは手近の椅子を掴むと、男たちに向かって投げつけた。男が避けた隙をついてフィレイの手を引いて部屋を飛び出す。

「どう行けば出られるんだ?」

「こっちだ!」

 聞こえた声に、アルフは迷わずその方向へと足を向けた。

 小さな物置部屋。そこに声の主が青ざめた顔で立っていた。

「二人とも、無事なようだね。良かった」

「そんなこと言って、俺たちを引き渡すつもりか?」

 アルフは言いながら、目の前にいるウォルドを睨みつけた。

「俺はあんたを信用してない」

「……そうだろうね。だけど、信じて欲しい」

「俺たちを殺そうとしている奴を、信用できるわけないだろ?」

「兄さんが、私たちを殺す? どういうこと? 何がどうなってるの?」

「今から説明するよ、フィレイ」

 信じてもらわなければならないから、とウォルドは付け加えた。

「何度でも言うけど、俺はあんたを信じられない」

 フィレイの前に立ち、アルフはきっぱりと言い切った。

「その気持ちは分かっている。だけど、聞いてくれないか。頼む」

「アルフ、とにかく聞くだけ聞こうよ。信じるかどうかはその後で決めてもいいじゃない」

「…………分かったよ」

「ありがとう。フィレイ、君には辛い話になると思うけど、聞いて欲しい。実は、母は――リリー・ソリスは、結婚したときからこの家の財産を欲しがっていたんだ。私に全ての財産がわたるようにしろと、義父をせっついていた。けれど、義父は首を縦に振らなかった。当たり前だろうね、実の娘がいるんだから。そして、とうとう母は実力行使に出た。義父に死苺を食べさせるという、ね」

「そんな……」

 フィレイの声は抑えられていたが、震えまでは抑えられていなかった。

「それで、邪魔になるフィレイとついでに俺たちも殺しちまおうってか」

「そういうことだ。だけど、いくらなんでもやりすぎだ。たぶん今頃、水月さんも危ないだろう。とにかく、ここから動かない方がいい。隠れる場所はいくらでもあるし、それに下手に動き回ると危険だ」

 ウォルドの言葉が終わるか終わらないうちに、ドアが勢いよく開き、抜き身を引っさげた男が躍り込んで来た。

 とっさにフィレイをかばったアルフの左腕に、熱が走る。

「アルフ!?」

 男はじりじりと近付いて来る。その男に向けて、ウォルドが足元のランプを投げた。鈍い音がして男がうずくまる。

 そのまま三人は部屋を飛び出した。後ろから追ってくる足音。

 どうにか庭に出たものの、それも見越されていたらしく、黒い装束に身を固め、白刃を手にした四人の男が、フィレイら三人を取り囲んだ。

 そこへ、家の中から美しく着飾った一人の女が現れた。言うまでもない、フィレイの義母でありウォルドの実母、リリー・ソリスである。

「ウォルド、邪魔をする気なの。それなら、もう息子とは思わない。一緒に斬られて死ぬといいわ」

 言下に男たちがその手に持つ刃を構えた。

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