死眼と水月
「フィレイさん、死眼の話は水月から聞いたのか? それとも俺が知らないだけで、大陸にもそんな話があるのか?」
フィレイの言葉にしばらく石像のようになっていた冬也が、先に我に返った夏乃に思い切り背中をどやしつけられ、しかめ面で背中をさすりながらフィレイに尋ねた。
「カラに来る船の中で、<影>が出たとき、<影>が水月を<死眼持ち>だと言っていました。それと、以前に、ラルグラードの商人の屋敷で、水月が止めたにも関わらず、水月の目を見た人がおかしなことになったのも、死眼と関係があるのですか?」
「水月の目を見た奴、ひどく怯えて、そのあと抜け殻みたいになっていなかったか?」
「なっていました」
「なら間違いない、死眼のせいだ。ラルグラードで死眼を使ったと言ってたが、よりによって人前でか……」
一つため息をついて、冬也は説明を始めた。
カラにはこんな昔話がある。
その昔、一人の男がいた。若い男で、村の娘たちの憧れの的だった。しかしある日、男は突然死んでしまった。翌日、葬式の最中にその男は生き返った。家族は大喜びでそれを祝い、村中がお祭り騒ぎになった。
しかしその内、村人たちはあることに気付き始めた。蘇った男の眼を見ると、言い知れぬ恐怖に襲われるのだ。
男は一度死んでいる。そのときに見た死の光景が、目に焼き付いているのだ。
このため、男を、死の眼――死眼を持つからと<死眼持ち>と呼ぶようになった。
「この話が本当かどうかは分からんが、一つ言えるのは、死眼も<死眼持ち>も確かに存在する、ということだ。水月だが、あいつは生まれてすぐに死んで、幸運なことに生き返ったんだ。だけどそのせいで、あいつは<死眼持ち>になっちまった」
「<死眼持ち>だと、札を使わなくても<影>を祓えるのですか?」
「私は分からないけれど、<影>も元はと言えば人の負の感情なのだから、人が死を恐れるように、<影>も死眼を恐れるのではないか? と、お爺様が言っていたのを聞いたことがあるわ」
今度は夏乃が答えた。
「本当なら、<影>を直に見ることはしてはならない。そんなことをしたら、すぐに<影>に憑かれてしまうから。だから私たちは<影憑き>が現れるまで、<影>を祓うことができない。だけど、<死眼持ち>なら、その目で見るだけで、たとえ<影祓い>でなくても、<影>を祓うことができる」
夏乃の話は続く。
「でも、<死眼持ち>は良いことばかりじゃない。使うたびに心はむしばまれていくから。死眼を使いすぎて、発狂したあげく、<影>に食われた人もいると聞いたこともあるし」
「なら、水月も……?」
「もしあいつが使い続けるならば、いずれはそうなるかもしれないな」
震える声で聞いたフィレイに、冬也が暗い顔で答えた。




