一つの約束
祓いの日、まだ薄暗いうちに起きた水月は、一人で庭を歩いていた。空を見ると、まだ星が見える。一つ一つ、星を目で追う。
星が七つ並んで作る柄杓の形。柄の先を五倍したところにある星は、ひときわ強く光っている。
あの星は、決して動くことはない。いつも同じ場所で光っている。
その星の名を、水月は知らない。しかし星の中で、その星は最も好きな星だった。
「水月、こんなところにいた」
「夏乃。どうかした?」
「うん、ちょっと手出して」
夏乃は水月の左手首に、何かをしっかりと結びつけた。結ばれた、赤、青、黄、緑、白、黒の五色の糸が組み合わされた紐を見て、水月は首を傾げた。
「これは?」
「お守り。無事に帰って来られるように」
水月は顔に笑みを浮かべ、
「ありがとう。絶対、帰って来るから」
きっぱりと言い切った。
朝食を終え、風穴へと向かう水月を、フィレイやアルフも含めた全員が見送った。
「行って参ります」
まるで、ちょっと買い物なんかに出かけるような気楽な口調で言った後、水月は深々と頭を下げた。最後ににっこりと笑って、しっかりとした足取りで家を出て行った。
緊張がふと緩み、そのまま日常の家事や自分のことをするために去る者と、玄関に残る者に自然に分かれた。
残ったのは冬也、夏乃、フィレイ、そしてアルフ。夏乃を除いた三人は、度合こそ違えど、不安そうな表情を見せている。
「お前、ずいぶん平然としてるな、夏乃」
「約束したもの。『絶対帰って来る』って。水月、昔から約束は絶対守るから」
「それにしたって、今回は厳しいだろ。どうなるか分からんぞ。ただでさえ、あいつは<影>に狙われやすいのに」
冬也の言葉で、兄妹が揃って沈痛な面持ちになった。
「水月が<影>に狙われやすいって? <影祓い>だからか?」
アルフの言葉に、冬也と夏乃は互いに顔を見合わせ、冬也が言いづらそうに口を開いた。
「あー、そのことか。あいつがいないからな、話して良いものか……」
「でも、二人ともこれからも水月といるんでしょう? だったら簡単な事情くらいは知っていたほうがいいんじゃない?」
「それもそうだがな」
しばらく冬也は考え込み、ようやく三人を連れて近くの部屋へ入った。
「これから話すこと、俺が言ったって言わないでくれよ。ばれたら俺が殺されかねんからな。水月が<影>に狙われやすいのは、あいつが<影祓い>だということもあるが、もう一つ別の理由がある。十七年前、水月は家族を亡くしてるんだ。父親が<影憑き>になって、あいつが出かけてる間に家族を襲った。水月自身も襲われて、大怪我したんだ。それからずっと、水月の胸の中には家族を亡くした悲しみが残ってる。だから、負の感情を喰らう<影>にとっては、水月は格好の獲物なのさ」
「家族の話だったのか? 俺は親戚の話だと水月から聞いたぞ。だから誰にも言うなって言われた。フィレイは、何か聞いたことあるか?」
「私は今初めて聞いたわ。水月、一度もそんな話したことなかったもの。……たぶん、知られたくなかったんじゃないかな。どういう理由でアルフに話したのか知らないけど、それでも親戚のことだって嘘ついたのは、同情されたくなかったんだと思う」
「そうだろうな。俺は水月をガキの頃から知ってるが、そういう奴だ」
「そういえば、ずっと気になっていたんですけど、死眼というのは何なんですか?」
フィレイの言葉に、冬也が目を見開いて固まり、夏乃はぽかんと口を開けた。




