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<影祓い>  作者: 文月 郁
カラ編
24/36

冬也の家で

 真夜中の甲板。時々見回りの船員が来る程度で、それ以外の人影ほとんどない。いるのは水月と冬也だけだ。

「二年前から今日までに、お前、何度死眼を使った?」

 冬也の低い声。ゆっくりとした口調だが、怒りが込められている。

「二度よ。ラルグラードで一度、今日もう一度」

「本当にそれだけだろうな?」

「私が嘘をつくとでも?」

 少しの間、沈黙。

「お前、爺様から死眼を使うなと言われてたろう」

「別に使うなとは言われてない。できるだけ使わないようにしろとは言われたけれど」

「だからってほいほい使っていいわけじゃないだろう」

 がっくりと冬也は腕の間に顔をうずめた。この年下の従妹は、時折無鉄砲な行動をとる。

「だいたい、<影>が出たんなら、どうして札で祓わなかったんだよ」

 部屋の中で何があったかは既に聞いていた。二人の無事にほっとする反面、だからこそ向こう見ずな真似をした水月に冬也は腹を立てていた。

「人に憑く前に祓うには、死眼を使うしかなかったもの」

 唇を尖らせて答える水月。冬也はそんな水月を見て内心で深くため息をついた。




 翌朝、船はカラに着いた。港からつながる小さな市場は、商人でにぎわっている。そこでいくつか買い物をしてから、四人は低い山を一つ越えた先の集落に向かった。

 数人とすれ違い、誰もが珍しそうに彼らを――特にフィレイとアルフを――見た。その視線が水月に向かうと、ほとんどがふいと目をそらせた。

 やがて四人は一軒の、他の家よりも大きな家の前に来た。

「帰ったか、冬也、水月」

 白髪の老人に声をかけられる。

「帰りました、爺様」

「お久しぶりです、刀也師。連れがあるのですが、一緒に泊まっても構いませんか?」

「ああ。構わぬよ。何もないが、ゆっくりしていくと良い」

 刀也翁と別れ、四人は家に入った。廊下の奥から、黒髪を結い上げた着物姿の若い女が歩いて来た。水月を見て顔を輝かせる。

「水月! 久しぶり! それとお帰り、兄さん」

「ええ、久しぶりね、夏乃。この二人も泊まるのだけど、部屋をどうしたらいい?」

「それじゃ、私が案内するわ」

 客室にフィレイとアルフをそれぞれ案内し、水月もフィレイの隣の自分が昔使っていた部屋へと入った。

 そして夕食時。計ったように同じ時間に、全員が奥座敷に現れた。上座から、刀也老人、冬也と夏乃の父の董乃、母の咲、冬也、夏乃、水月、フィレイ、アルフ。食事はそれぞれの目の前に置かれた膳に並べられている。米飯と焼き魚、葉野菜の和え物だ。

 静かな夕食が終わると、刀也翁がゆっくりと口を開いた。

「さて、わしももう年だ。長の仕事は董乃に任せているが、そろそろ<影祓い>の後継ぎも決めねばならん」

 刀也はここで口を切り、座を見回した。気まずそうなフィレイとアルフを覗いて全員が、緊張のあまりこわばった顔で刀也翁に注意を向けていた。

「<影祓い>は夏乃、お前に任せる」

「私、ですか? お爺様」

「そうだ。引き受けてくれるか?」

 夏乃は居住まいを正し、頭を下げた。

「至らぬ点もあるかと思いますが、精一杯務めさせて頂きます」

「うむ、頼むぞ。それともう一つ。近いうちに誰かを風穴にやらねばならぬ」

 水月と夏乃、咲の顔が青ざめ、冬也と董乃も目を見開いた。

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