冬也の家で
真夜中の甲板。時々見回りの船員が来る程度で、それ以外の人影ほとんどない。いるのは水月と冬也だけだ。
「二年前から今日までに、お前、何度死眼を使った?」
冬也の低い声。ゆっくりとした口調だが、怒りが込められている。
「二度よ。ラルグラードで一度、今日もう一度」
「本当にそれだけだろうな?」
「私が嘘をつくとでも?」
少しの間、沈黙。
「お前、爺様から死眼を使うなと言われてたろう」
「別に使うなとは言われてない。できるだけ使わないようにしろとは言われたけれど」
「だからってほいほい使っていいわけじゃないだろう」
がっくりと冬也は腕の間に顔をうずめた。この年下の従妹は、時折無鉄砲な行動をとる。
「だいたい、<影>が出たんなら、どうして札で祓わなかったんだよ」
部屋の中で何があったかは既に聞いていた。二人の無事にほっとする反面、だからこそ向こう見ずな真似をした水月に冬也は腹を立てていた。
「人に憑く前に祓うには、死眼を使うしかなかったもの」
唇を尖らせて答える水月。冬也はそんな水月を見て内心で深くため息をついた。
翌朝、船はカラに着いた。港からつながる小さな市場は、商人でにぎわっている。そこでいくつか買い物をしてから、四人は低い山を一つ越えた先の集落に向かった。
数人とすれ違い、誰もが珍しそうに彼らを――特にフィレイとアルフを――見た。その視線が水月に向かうと、ほとんどがふいと目をそらせた。
やがて四人は一軒の、他の家よりも大きな家の前に来た。
「帰ったか、冬也、水月」
白髪の老人に声をかけられる。
「帰りました、爺様」
「お久しぶりです、刀也師。連れがあるのですが、一緒に泊まっても構いませんか?」
「ああ。構わぬよ。何もないが、ゆっくりしていくと良い」
刀也翁と別れ、四人は家に入った。廊下の奥から、黒髪を結い上げた着物姿の若い女が歩いて来た。水月を見て顔を輝かせる。
「水月! 久しぶり! それとお帰り、兄さん」
「ええ、久しぶりね、夏乃。この二人も泊まるのだけど、部屋をどうしたらいい?」
「それじゃ、私が案内するわ」
客室にフィレイとアルフをそれぞれ案内し、水月もフィレイの隣の自分が昔使っていた部屋へと入った。
そして夕食時。計ったように同じ時間に、全員が奥座敷に現れた。上座から、刀也老人、冬也と夏乃の父の董乃、母の咲、冬也、夏乃、水月、フィレイ、アルフ。食事はそれぞれの目の前に置かれた膳に並べられている。米飯と焼き魚、葉野菜の和え物だ。
静かな夕食が終わると、刀也翁がゆっくりと口を開いた。
「さて、わしももう年だ。長の仕事は董乃に任せているが、そろそろ<影祓い>の後継ぎも決めねばならん」
刀也はここで口を切り、座を見回した。気まずそうなフィレイとアルフを覗いて全員が、緊張のあまりこわばった顔で刀也翁に注意を向けていた。
「<影祓い>は夏乃、お前に任せる」
「私、ですか? お爺様」
「そうだ。引き受けてくれるか?」
夏乃は居住まいを正し、頭を下げた。
「至らぬ点もあるかと思いますが、精一杯務めさせて頂きます」
「うむ、頼むぞ。それともう一つ。近いうちに誰かを風穴にやらねばならぬ」
水月と夏乃、咲の顔が青ざめ、冬也と董乃も目を見開いた。




