決闘
「さて、それじゃ始めましょうか。武器はどうする?」
決闘を申し込んだとは思えない、気楽な口調の水月。フランツは鼻を鳴らした。
「たかが女一人に武器などいらん」
「あら、そう」
水月はぼそっと呟き、持っていた短剣を床に置いた。
「なら私も、武器は持たずに相手をしましょう」
水月の顔が引き締まる。彼女が構えを取る前にフランツが踏み込み、拳を突き出した。水月は身体をひねって難なく拳をかわし、横からフランツに蹴りを入れた。肉を打つ鈍い音。
間髪を入れず、水月の正拳がフランツの身体に叩き込まれる。流れるような動作で三発、四発。
「こ、の、アマぁっ!」
フランツがどこからか出したナイフで、水月に切りかかった。ぎりぎりでかわす水月。しかし完全にはかわしきれず、甚平の左肩の部分とその下の皮膚を切られた。
水月は一旦距離を取り、軽蔑した目でフランツを見た。すぐに距離を詰め、振るわれるナイフをかいくぐり、素早くフランツの懐へ飛び込む。
「鋭!」
とても女とは思えぬ気合い声と同時に、水月はナイフを持つフランツの腕に手刀を振り下ろした。
骨が折れる感触が手に伝わる。フランツが獣のような叫び声を上げ、ナイフを落とした。すかさずナイフを蹴飛ばすと、水月は手刀を拳へと変え、腹をニ、三発強く殴った。続いて足の甲を全体重をかけて踏みつけ、さらにすねを思い切り蹴る。
奇声を上げながら、フランツがよろめいた。すかさず気合いと共に前蹴りを放つ水月。蹴りは吸い込まれるようにフランツのみぞおちに当たった。
うめいて崩れ落ちるフランツをよそに、水月はアルフに駆け寄った。短剣で縄を切る。
「ごめんなさい。私のせいで巻き込んじゃって……。動ける?」
「たぶん、大丈夫」
簡単に傷を止血し、アルフを支えながら部屋を出ると、息を切らした冬也が立っていた。
「何してるの?」
「……それは俺が聞きたいんだが。お前、何したんだ?」
「話は後で。手、貸して」
三人で空き屋敷を出て、「流」に戻る。アルフをベッドに寝かせ、冬也が医者を呼びに行った。
幸い、アルフの怪我は大したことはなかった。
「で、何したんだ?」
夜、宿を閉めてから冬也は水月の傷を手当しつつ聞いた。
「何って……。決闘」
むっつりと答える水月に、冬也はため息をついた。
「お前、無茶し過ぎ。無事だったからいいようなものの、死んだらどうすんだよ!」
「それならそれでいいわよ、別に」
水月がそっぽを向いてぼそりとつぶやいた言葉に、冬也がしまった、と言いたげな顔をした。
「とにかく、あんまり心配かけるなよ。俺や夏乃からすりゃ、お前は一人っきりの従妹なんだしさ」
水月は押し黙り、手当が終わるとぷいと背を向けて部屋へと戻って行った。




