厄介な男
夜、先に風呂に入った水月たちは、少し人が少なくなった食堂で夕食を取っていた。白米と黒、赤、青、黄の豆を混ぜて炊いた五色飯。魚の煮付け、細切りの野菜が入った澄まし汁。きゅうりとわかめの酢の物。
水月は黙々とそれらを口に運び、アルフとフィレイは珍しい味に目を丸くしていた。
そのとき、近くのテーブルで酒を飲んでいた、がっしりとした体つきの坊主頭の男が三人に近付いて来た。
「よお、あんた、見ない顔だな。どこから来たんだ?」
男は親しげに水月に声をかけた。水月は横目でちらりと男を見て、何も言わずに食事を続けた。
男は少しばかりむっとしたようだった。
「無視かい? ちょっと答えてくれたっていいじゃないか。あんた、どこの人なんだい?」
なあ、なあ、としつこく絡む男に、水月は眉間にしわを寄せ、男の方を見ずに答えた。
「私は今食事をしているの。何か話があるんだったら、食事の後にして頂戴」
「フランツ、俺から忠告だ。そいつに構うな」
水月と冬也の言葉に男は大げさに肩をすくめ、座っていたテーブルに戻った。
水月が煮付けの最後の一切れを口に運びかけたとき、ドアが慌ただしく開いて髪を振り乱した女が駈け込んで来た。女は真っ直ぐにフランツに駆け寄り、何かを訴える。
「分かった、すぐ行ってやるよ」
二人が出て行くと、食堂の空気が少し緩んだようだった。
「何があったんだ?」
「<影>が出たんだろう。あれでもフランツはここの<影祓い>だからな」
アルフの疑問に冬也が答えた。やがて食事を終えた三人の所に、厨房に立っていた冬也がやって来た。近くの椅子を引き寄せて座る。
「しっかし、厄介な奴に目をつけられたもんだな、水月」
「厄介な……って、さっきの?」
「おう。大きい声じゃ言えないが、フランツって奴はやくざ者さ。自分がここの町長の弟で、しかも<影祓い>だっていうのを傘に着て、子分を集めて好き勝手やってるのさ。とにかく素行は悪いし、好みの女を見れば声をかけるし。<影祓い>ったってロクに祓いもしねえ」
「だったら、町長さんに訴えればいいのではないですか?」
フィレイの言葉に、冬也は首を振った。
「それが出来れば苦労はしないが。なんせ子分が大勢いる上に、あいつ自身も腕っぷしが強いからな。滅多なことは出来ないよ」
そういう冬也の顔は悔しそうだった。
やがて夜が更け、従業員たちはそれぞれ家に帰り、ドアには鍵がかけられた。フィレイとアルフも先に部屋に戻り、残っているのは水月と冬也だけになった。
「それで冬也、話って何?」
「え、ああ、あれか。この間、爺様から手紙が来たんだよ。それに、用が出来たから、帰って来い、出来たら水月も連れて来いって書いてあったんだ」
水月はそれを聞いて顔をしかめた。
「なぜ私まで?」
「俺に聞くなよ。それで、お前にどうするのか聞こうと思ってな」
「どうするもこうするも、行くより仕方がないでしょう。それで、いつ行くの?」
「すぐには行かない。俺も仕事があるんでな。早くても二週間は先だと思っててくれ」
水月は不機嫌そうに頷いた。




