誘拐
「アルフが連れて行かれた?」
どうにか落ち着いたフィレイから、開口一番この言葉を聞いて、水月は眉を吊り上げた。
フィレイは小さく頷いて、涙を浮かべながら事の次第を話し始めた。
二人で薪を拾い、十分な量になったので戻ろうとしたとき、三人の人間がやって来た。一人は恰幅のいい中年男、一人は黒色のフード付きマントを身に着けた、三十代くらいの男、残る一人は魂が抜けたように立っている若い男。
「おや、こんなところでソリス家のお嬢様に会うとは、思いもしませんでしたな」
中年男がにやにやと笑いながら、体にまとわりつくような声で言った。マントの男が緑の目を丸くした。
「そちらの方は、ご兄弟ですかな?」
「え、俺? いや、俺はただの連れだけど……」
ここで初めて、マントの男が口を開いた。
「なら、いなくなっても構いませんね」
その言葉にアルフが何か言い返そうとしたとき、マントの男がアルフの目をじっと見て低い声で「黙って、ついて来い」と言った。
するとアルフは、一瞬固まり、ふらふらと三人に近づいて行った。
「アルフ!」
フィレイが叫ぶと、マントの男はフィレイと目を合わせた。
「あなたには、少し大人しくしていてもらいましょうか」
その言葉を聞いて、なぜかフィレイは凍りついたように動けなくなった。フィレイの目を見たまま、マントの男は、両手を彼女に向けて押し出した。離れていたから、普通に考えれば届くはずはないのに、なぜかフィレイはよろけて尻餅をついた。
動けないフィレイを尻目に、四人はラルグラードの方へと向かって行った。
話を聞き終え、水月はじっと考え込んだ。
「手も触れないのに、人を突き飛ばすなんて……。それより、その中年男って貴方の知り合いなの?」
「たぶん、父の取引相手の人だと思う。名前は確か……センドル、って言ってたかな」
フィレイの父、ロベルト・ソリスは大陸でも有名な商家の当主だ。あちこちの豪商や金持ちと付き合いがある。
「そういえば、ラルグラードにいたわね。そんな名前の金持ち。まったく、人の連れを勝手に連れて行くなんて。信じられない」
笑みを消し、吐き捨てる水月。それを見て、フィレイがびくりと体を震わせた。
「それとマントの人、たぶん武術気功家だと思う」
「武術気功家? 気功……って確か、東の地方の民間療法よね。でも武術気功って聞いたことないけど」
「何年か前に、家に旅芸人の一座が来たことがあって、そのときに見たの。やっぱり手を振るだけで人を吹き飛ばしてた」
フィレイの話を聞きながら、ラルグラードでは厄介事が起こりそうだと水月は思った。




