第7章 ― 嵐の前の友情?
翌朝。
いや、正確には──私はすでに日の出より前に目を覚ましていた。
なぜなら私はニワトリだからだ。
そしてニワトリには、「あと五分」という概念は存在しない。
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訓練場に到着すると、ルシアンはすでにそこにいた。
腕を組み、表情は硬い。
いつも通りだ。
私は大きくあくびをした。
— ルシアンさん……本当に朝六時から始める必要あります?
— ああ。
— 理由は?
— 騎士は早起きするものだ。
— でも僕、騎士じゃないんだけど。
— 昨日から騎士だ。
— もう昇格を後悔してる。
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そのとき、背後から明るい声が響いた。
— おはようございます、二人とも!
振り向くと、キックが立っていた。
いつも通り穏やかな笑み。
いつも通りの眼鏡。
そしていつも通り──今日が平穏に終わる気がしない雰囲気。
— ルシアンから魔力の問題について聞きましたよ。
— 僕に魔力の問題なんてないんだけど。
— 訓練場を一つ焼き払いましたよね。
— 事故です。
— 兵士を十五メートル吹き飛ばしましたね。
— 彼、楽しそうでしたよ。
— そして私の屋根を破壊しました。
— …
— では私の部屋へ来てください。
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数分後。
私たちはキックの書斎にいた。
壁一面に本棚が並び、古い魔導書が山のように積まれている。
見慣れない魔道具が整然と配置されており、空間全体が異様なほど整っていた。
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キックは黒板の前に立つと、白いチョークを手に取った。
そして七つの紋章を描く。
— 魔法を学ぶ前に、その起源を理解する必要があります。
私は少し身を乗り出した。
こういう話は嫌いじゃない。
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— 一説によれば、この世界は「七つの聖獣」によって創造されたとされています。
黒板を指す。
— 火のフェニックス。
— 大地のブル。
— 風の蛇。
— 雷の鼠。
— 水の魚。
— 光の狼。
— そして──闇の狼。
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目が輝いた。
— すごい……
— ただの伝承ですよ。
— 夢くらい見させてくれ。
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キックは小さく笑った。
— 真実は誰にも分かりません。
— 世界を創ったという説もあれば、最初の人類を導いた存在だという説もある。
— ですが一つだけ確かなことがあります。
チョークを置く。
— 彼らは“実在した”。
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私は静かに頷いた。
そしてふと、疑問が浮かぶ。
— 七つの大罪は?
その瞬間、キックの表情がわずかに変わった。
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— それもまた……実在します。
空気が沈む。
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— 彼らは元々“魔物”ではありませんでした。
— 欲望に呑まれただけの存在です。
— 力は膨れ上がり。
— 人としての心は消え。
— そして怪物となった。
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私は顔をしかめた。
— それ、かなり嫌な話ですね。
— その通りです。
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キックは続ける。
— 彼らが最後に現れたとき、一人の男が全てを止めました。
— 一人で?
— はい。
— その者は「雄牛の加護」を持っていました。
胸が跳ねる。
— まさか……
— テツヤですね?
— その通りです。
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ルシアンが淡々と続ける。
— 全盛期の彼の戦闘力は五万を超えていた。
— 五万!?
— ええ。
— 規格外だな……
— 伝説級の存在です。
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私は勢いよく立ち上がった。
— 僕も五万になりたい!
— 座れ。
— はい。
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キックが手を叩いた。
— では実践に入りましょう。
嫌な予感がした。
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— まずは簡単な炎を。
— 簡単ですね。
私は翼を掲げ、集中する。
小さな火花が生まれた。
さらにもう一つ。
そして──
BOOOOOOOOM!!
天井を貫く巨大な炎柱が発生した。
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沈黙。
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私はゆっくり上を見た。
屋根は消えていた。
空が見える。
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— …
— …
— …
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警報が鳴り響く。
— 火災発生!!
— 火災だ!!
— 水魔法班を呼べ!!
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私は小さく呟いた。
— すみません。
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ルシアンは額を押さえた。
— 今日は火曜日だぞ。
— はい?
— もう三回目だ。
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その後、鎮火作業が行われた。
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次は治癒魔法の検証。
兵士が一歩前に出る。
— 準備できています。
— ……ご冥福を。
ルシアンが小さく呟いた。
— 今の何?
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私は彼の手に翼を置いた。
緑の光が広がる。
傷が瞬時に消えた。
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— 成功だ!
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しかし光は止まらなかった。
さらに強く。
さらに広く。
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兵士の目が見開かれる。
— 体が……軽い……
— 最高だ……
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そして突然走り出した。
異常な速度で。
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— 俺は生きている!!
— 大陸の果てまで走れる!!
— 色が速く見える!!
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私はルシアンを見る。
— これ何?
— 分からん。
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彼は冷静にメモを取った。
『戦闘兵器化の可能性あり』
— 書くな!
— 記録だ。
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正午。
草原に座り、ようやく静寂が訪れる。
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私はルシアンを見る。
— なんでそこまで頑張るの?
— それが義務だからだ。
— それだけ?
— そうだ。
— つまんない人生だね。
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ルシアンは黙った。
そしてこちらを見る。
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— ではお前は?
— 僕?
— なぜ他人を助ける?
— 疑われても。
— 怪物扱いされても。
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少し考える。
そして笑った。
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— 楽しいから。
— それだけ?
— それだけ。
— 十分だな。
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静かな時間が流れる。
ルシアンは視線をそらした。
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— お前は……一部の人間よりよほど人間らしいかもしれないな。
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固まった。
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— え、それって褒めてる?
— 違う。
— 嘘つき。
— 黙れ。
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そのときだった。
空を裂く光。
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BOOOOOOOOM!!
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大地が揺れる。
窓が震える。
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ルシアンの表情が消える。
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兵士が駆け込む。
顔面蒼白。
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— ルシアン様!
— 事件です!
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— 何があった。
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— 東の都市が襲撃されました。
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沈黙。
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— 誰にだ?
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兵士は唇を噛んだ。
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— 我々は……
— 七つの大罪の一柱だと考えています。
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背筋に寒気が走る。
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それはもう、伝説ではなかった。
昔話でもなかった。
ついに“現実”が動き出したのだ。
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第7章 終わり




