第31章:それぞれの落とし前
「アハハハ! 美味しいかい? これが俺の食事だ! うめぇ! アハハ!」
ルシアンの血が凍りついた。炎の只中から響くその嗄れた声に、全員が振り返る。
「だ、誰だ貴様は!?」騎士が叫んだ。
「おっと、アハハハ。失礼したね。俺はゴーラ。七つの大罪が一人、『暴食』の罪さ。よろしく!」
「なんだと……『暴食』の罪だと!?」
一行が声のした方を見ると、ドヴ王国の隊長がそこにいた。悲しみと怒りに顔を歪ませている。
「よくも……! よくもやってくれたな!」涙を流しながら彼は吠えた。「俺の弟を食ったな!!」
「え? そうだったか? ん……ンンン……」ゴーラは口元に付いた血まみれの肉片を拭いながら、顎を撫でた。「思い出そうとしても記憶にないな。本当に俺が食ったのか?」
彼は唇をベロリと舐め、邪悪な笑みを浮かべた。
「貴様ぁああ! 氷の檻!!」
ドヴの隊長が地面を叩きつけると、巨大な氷の牢獄がせり上がり、怪物を閉じ込めた。
「おっ、氷か? 悪くない。シャーベットにしてやろうか?」ゴーラはあざ笑う。
「ふざけるな!」ゴウが咆哮した。
猛々しい姿で前に出る。
「雷の精霊よ、我が身に宿れ!」
パチパチと弾けるようなオーラが彼を包み込む。瞬時に耳が尖り、豹のような長い尻尾と鋭い爪が生え、純粋な電気の外套を纏う――ゴウの『精霊融合』だ。
「銀河の雷撃!!」
空を引き裂くような十数条の稲妻が混ざり合い、破壊的な威力を秘めた多色の光線となって氷の牢獄を直撃した。
「うわああああああ!!」
轟音とともに爆風が巻き起こり、濃い煙が立ち込める。
「仕留めたか?」タルが荒い息で尋ねた。
「いや」テツヤが冷たく答える。
煙が晴れると、そこには醜悪な笑い声が響いていた。
「アハハハハ! 焼いてくれて助かったよ。温かい方が断然美味いからな! ごちそうさん!」
彼らの目の前で、『暴食』の罪は炭化した肉をむさぼり食い始めた。その悪夢のような光景に、誰もが凍りつき、身動きが取れない。
「ああ、彼の無作法は許してやってください。腹さえ満たされれば、案外お行儀はいいんですよ」
全員の視線が、ゴーラの隣に現れたもう一人の人物へと移る。
「……貴様は誰だ?」ゴウが低く唸る。
「まさか……お前も七つの大罪の一人か?」タルが推測した。
「その通り。私は『嫉妬』の罪です」男は作り笑いを浮かべ、軽く会釈した。「……実を言うと、私は皆さんが羨ましくて仕方がない。こうして仲間と集まって……私ときたら、あんな奴と一緒にいなきゃならないんですから」
「き、貴様が『嫉妬』だと!?」ゴウの怒りが表情を歪めた。
「ああ、ゴウ……愛しい息子よ。一緒にドッジボールをしたのを覚えているかい?」
「やめろ! 父さんの記憶を返せ!」
『嫉妬』の顔が崩れ、芝居がかった泣き声を上げた。
「ああ、なんてことだ……私はお前の父親ですよ? もう父親とも思ってくれないのですか? 悲しくてたまりません……」
「いい加減に黙れ」テツヤの重々しい声が場を断ち切った。
伝説の戦士が、射抜くような眼差しで前に出る。
「目障りだ。傲慢だろうが嫉妬だろうが暴食だろうが、知ったことか。お前たちの存在は、ここで終わらせる」
「ほう、どうやって?」『嫉妬』はニヤリと嘲笑を浮かべた。「今は一人でしょう? 一度に二人の『大罪』を倒すなんて不可能だ」
「アハハハ!」ルシアンが武器を抜いて笑い飛ばす。「彼がかつて、その七人全員を同時に屠ったことを忘れたのか!」
『嫉妬』は肩をすくめた。
「ええ、確かにね。あの頃は七つの『聖獣』をその身に宿していたからだ。だが今の彼を見ろ……『牡牛』しか残っていない。せいぜい一人倒すのが限界だ」
「なんだと……?」ルシアンが目を見開く。
「……やれやれ、その通りだ」テツヤが苦渋の表情で溜息をついた。「かつて、聖獣の担い手たちが力を貸してくれたからこそ、魔を討てた。だが今は無理だ。すべての獣は新たな宿主を見つけている。担い手が死なない限り、その力は戻らない」
「……なるほど」騎士は短く呟いた。
「ゲップ! 満足、満足。何かあったか?」ゴーラが袖で口を拭いながら尋ねる。
「いや、大したことじゃない」『嫉妬』が答えた。
「なら、さっさと殺し合いといこうぜ!」暴食の怪物が興奮する。「なら、俺は……お前と、お前と、お前を食う!」
ゴーラが太い指で、タル、ゴウ、テンコを指し示した。
「いい度胸だね!」タルが槍を回す。「ルル、必ず生きてて。結婚式を挙げなきゃならないから」
ルシアンは自信に満ちた笑みを浮かべた。
「アハハハ! あの女、気に入ったぜ!」テンコが笑う。「ルシアン、お前は果報者だな!」
ステラ王国の隊長もまた、刃を掲げて『暴食』へと歩み寄る。
ゴウが歯を食いしばる。
「くそ、俺は『嫉妬』をやりたかったのに!」
「なら、俺と代わろうか!!」
空から声が降ってきた。全員が顔を上げる。
「あれは……ホーネギョ!?」ルシアンが息を呑む。「なんでお前がここに!? 船に乗ってたはずだろ!」
水の精霊がドスンと着地し、満面の笑みを浮かべた。
「プッ! 水の中なら船より速いっての! 親父さんに先に行って助けてやれって言われたんだよ、アハハ! さあゴウ、行ってこい! 『暴食』は俺が引き受ける。お前は『嫉妬』をボコれ!」
「ああ、助かる! 恩に着るぞ!」ゴウが標的を切り替える。
「……待て、親父って……まさかツバサのことか?」ルシアンが呆然とする。
「当たり前だろ、他に誰がいるんだよ」
「おや、ホーネギョ! 四百年ぶりだね!」ゴーラが嬉しそうに言う。
「ああ、黙れよ!」精霊は戦闘態勢に入った。
ドヴの隊長も氷の剣を手に、テンコとタルの横に立つ。
「俺も『暴食』を叩く。名はジオという。くだらない戦争は一旦忘れるぞ。今は、ただの同盟だ」
陣形は整った。緊張が極限まで高まる。
一方にはタル、テンコ、ホーネギョ、ジオが、貪欲なる『暴食』の罪に立ち向かう。
もう一方にはゴウ、ルシアン、テツヤが、狡猾なる『嫉妬』の罪に引導を渡そうとしていた。
真の戦いが、今まさに幕を開ける。




