第3章 ― ちょ、待て!なんで俺が悪役扱いなんだ?俺はただの鶏だって言ってるだろ!
この世界に来てから、すでに一ヶ月が経っていた。
正直なところ、生活はそこまで悪くない。
まぁ、魔法はまだあまりうまく扱えないが。
そもそも魔法を使うのは人生で初めてだ。
それでも、状況は順調だった。
村の住民たちは俺のことを気に入っていた。
彼らにとって俺は「祝福された鶏」らしい。
中には幸運を運ぶ存在だと言う者までいる。
さすがに大げさだと思う。
確かに、病人を治したりすることはある。
誰かが困っていれば手を貸すこともあった。
だが、それだけだ。
少なくとも俺の感覚では。
――――
その日の朝、太陽はすでに高く昇っていた。
暑さは息苦しいほどだ。
のんびりと種をついばんでいると、異変に気づいた。
蹄の音。
それも、かなりの数だ。
顔を上げる。
遠くから騎馬の一団が村へ近づいていた。
村人たちは慌てて家から出てくる。
そしてその表情はすぐに変わった。
明らかに緊張している。
不安の色が濃い。
騎士たちの鎧には、太陽の紋章が刻まれていた。
それが何かの意味を持つことはすぐに分かる。
――――
一団は村の中心で止まった。
一人の男が馬から降りる。
紫がかった長い髪。
洗練された鎧。
そして鋭い眼差し。
兜を外し、静かに口を開いた。
— 我々はある噂について調査に来た。
村が一斉に息を呑む。
— “異常な力を持つ聖なる鶏”についての噂だ。
間を置く。
— 既に察していると思うが、我々は王国の騎士だ。
ざわめきが広がる。
村人の一人が恐る恐る手を上げた。
— は、はい…確かに魔法を使う鶏がいます。
ルシアンはその人物を見る。
— なぜその存在を探している?
— ただ質問したいだけだ。
――――
翼を一度動かす。
そして前へ出る。
どうせ話題は自分だ。
— こんにちは。
全員の視線がこちらに集まる。
— 俺がその鶏だ。
沈黙。
この世界には喋る動物もいるが、それでも騎士たちは驚いている様子だった。
続ける。
— 質問は何だ?
ルシアンは数秒間、俺を見つめた。
まるで目の前の存在を理解しようとしているかのように。
そして言った。
— 七つの大罪と関係があるか?
――――
村が一瞬で凍りつく。
空気が変わる。
視線。
ざわめき。
不安。
さっきまで笑っていた者たちまで、表情を曇らせていた。
俺はわずかに視線を落とす。
七つの大罪?
そもそも何だそれは。
だが、この反応を見る限り――
ろくなものじゃないのは分かる。
――――
— あるわけないだろ!
即答する。
— なんで俺がそんな組織に入るんだ?
家を指す。
— 村を壊したこともない。
— 人を襲ったこともない。
— ケガ人は治してきた。
そして胸を張る。
— それに俺は鶏だぞ!
――――
数人の村人が目を伏せる。
何かを思い出したように。
俺は多くの人を助けてきた。
――――
ルシアンは黙っていた。
やがて静かに頷く。
— 分かった。
その声は真剣だった。
— 現時点で、君を疑う証拠はない。
少し安心する。
— だが…
やっぱり来た。
— 噂は消えていない。
腕を組む。
— 王国へ来てもらう必要がある。
— 確認するためだ。
— 確認?
— 嘘を見抜く神器がある。
少し考える。
そして肩をすくめる。
— いいぞ。
隠すことは何もない。
――――
ゆっくりと前へ進む。
ルシアンはその様子を見ていた。
そしてわずかに表情が変わる。
決断したような顔だ。
— 待て。
— ん?
— その前に…
剣の柄に手をかける。
村が息を呑む。
— 力を試したい。
— 力?
— ああ。
視線は外さない。
— 正体不明の存在。
— 特殊な力。
— そして危険視される噂。
剣を抜き始める。
— 君が何者なのか知りたい。
――――
剣を見る。
ルシアンを見る。
また剣を見る。
またルシアンを見る。
――――
{いや、俺何した?}
――――
— 分かった。
ため息をつく。
— それで終わるならな。
構える。
鶏なりの戦闘姿勢で。
――――
ルシアンが剣を掲げる。
俺は翼を広げる。
風が吹く。
村は静かに見守る。
こうして――
初めての戦いが始まった。




